鬼のいる間に平穏を   作:秋一文字

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はい外伝本編です。もう何言ってっか分かんねぇな。


外伝 三話

ーーーーーー 

 

 

とほほ…。まさか、マジで全員せがみに来るとは思ってなかった。今吸ってる分どころか、予備まで空になったタバコの箱を振りながら、後ろを振り返る。そこには楽しそうに紫煙を辺りに吐き出すアダクリス人が映った。

側から見てると、不良の溜まり場みたいだな。

…まぁ、信頼を得られたなら良しとするか。タバコ程度で満足ならもう何も言えねぇよ。

 

「待てレユニオン!ドクターを連れてくなー!」

「?」

 

ふと聞き覚えのある声に振り向いてみると、ドクターと一緒にいるはずのケー坊がそこそこ先の草むらから飛び出して来た。

 

「ーーーー!ーーーーーー!」

「おーいケー坊!こんなとこでどうしたー!ドクター達と逸れたかー!?」

「ーーー!!」

 

あ、ダメだなコレ全く聞こえてねぇわ。つかアイツ、何してんだ?武器振り回してなんか叫んでっし、最初のも微妙にしか聞こえなかったんだけど。まぁ近付けば分かるか。

 

「おーい!聞こえてっかー?」

「ーーーー!?ー、ーーなーー!絶対ードクターをーーーぞー!」

「??」

「お前らなんか、オイラがやっつけてやるー!」

「???」

 

声を掛けながら近づいて行くが、ケー坊が叫んでいる内容はなんとも支離滅裂だった。

やれドクターを連れて行くなだのやっつけるだの、辺りを見回したところで、ケー坊の言うそんな影は見当たらない。

 

「おいケー坊。」

 

取り敢えず話を聞こうと、暴れ回るケー坊の肩を叩く。思えば迂闊だった、と言わざるを得ないだろう。もっと熟考してからこの判断をしていれば。

 

「……。」

「お前、さっきから何してんだ?ドクターと一緒だった筈だろ?何だってこんな場所にい」

「お前がレユニオンのボスかぁー!」

「んなっ?!」

 

一瞬光が煌めき、手のひらほどのナイフが俺の顔を掠めた。あと一瞬避けるのが遅れていたら、間違いなく俺の頭はスイカよろしく真っ二つになっていただろう。普通のナイフなら兎も角、ケー坊のアーツ付きなら話が変わってくる。

他のやつのアーツとは違い、ケー坊のはある程度の装甲を貫通する。いくら俺でも対策無しに受ければ大怪我必至だ。

尚も暴れるケー坊から手を離し、接続したまま背負っていた盾を片腕に通す。

 

「おいらにそんな盾なんて無意味だ!かんねんして、ドクターを返せ!」

「何だってんだ…!アイツの居場所が知りてぇのはこっちなんだよ…!」

 

二歩ほど下がってもう片腕を盾に通し、接続を外す。遠距離メインの術師に間合いを広げるのは愚策だが、今はそうは言ってられない状況。

しかも戦力にもなる相手である以上、大きな怪我をさせる訳にもいかないと来た。さぁて、どう動くか…。

 

「ーーーー、ーー!(族長、加勢します!)」

「お前も仲間かぁ!」

「ー、ーーーー?!(えっ、うわぁっ?!)」

 

元族長のアダクリス人が隣に並んできた。と、同時にケー坊が元族長に向かってナイフを投げつけてくる。まだ反応しきれていない元族長を突き飛ばし、茂みに突っ込ませた。

 

「ダダダダダァ!」

 

流石は元野生児。隙とあらば見逃さない。続けて飛んでくる無数のナイフを弾きつつ、後ろに目を向ける。

どうやら元族長以外は初めてのタバコでヤニクラを起こしているようで、槍とか構えようとしてコケていた。頼りになるんだかならないんだか。

それはそれとして、尚も続くナイフの連投。捌き切ってはいるが、全くの無傷とはいかない。ケー坊のアーツの影響で、既に盾の塗装が剥がれ始めている。素体の表面や内部に届くまでそうは持たないだろう。アーツが中に達してしまう前に、何とか決着を着けなくてはならない。

どうしようか悩んでいると、ふと自分やケー坊が今どこに立っているのかを思い出した。

そうだった。此処熱帯雨林だったな。

 

「!?」

 

ナイフの猛攻を凌ぎつつ盾の頂部から糸状のアーツを発射させ、ケー坊の近くの細枝にぶつけて折る。

何が来るかとナイフの手を止めて身構えたケー坊と反対側の太い樹に伸縮性を高めた糸を貼り付かせ、バンジーの要領でぬかるんだ地面を蹴った。幹の高い所に足を着け、跳んだ勢いが死にきる前に糸を切り、今度は樹の幹を思いっきり蹴り飛ばす。

 

「ッラァ!」

「うひゃあっ?!」

 

そのまま左腕を突き出し、ケー坊の目の前の地面を殴り付ける。

左手の中程までが地面に埋まり、多量の水分を含んだ土が彼女に向かって巻き上がった。それをモロに引っ被ったケー坊が怯んでる内に立ち上がり、右腕を振り上げる。

 

「ペッ、ペッ!うえー…よくもやっ」

「ちっ…たぁ…落ち着けおてんば娘!」

「ぎゃん!!」

 

手のひらをグッと固め、ゲンコツ一閃。鈍くも小気味の良い音と感触が、拳と付近に響いた。アーツで硬化させたりはしてないとは言え40kgはある盾を装着したままで、しかも装甲手袋を付けての拳骨は中々に効くと思う。事実ケー坊は一声鳴いた後、声にならない声を上げながら服が汚れるのも厭わずに俺の脚元をもんどり打って転げ回っていた。

 

「頭は冷えたかケー坊?」

「ーーーーッ!ーーッ!!」

 

……やり過ぎたか?

…いやしかし、何でまたレユニオンなんかと俺たちを間違えたんだ?後ろのアダクリスの奴らはまだ分からんでもないが、知らぬ仲じゃなし。

…まさか、まさかな。

 

「おいケー坊。」

「ーーーーッ!なんだレユニオン!ったー…!」

「お前、何か食ったか?」

「お前なんかに答えないぞ!早くドクターを返せ!」

 

頭を押さえて涙目になりながらも、勇ましい言葉を吐くケー坊。槍やら斧やらが入っている彼女の背中のホルダーに目を向けてみると、いつも見る武器の束の中に薄ぼんやりと光るキノコが入っているのが見えた。

 

「んだこれ?」

「あっ、返せ!それはおいらのキノコだぞ!」

「お前、まさかこれ食ったのか?」

「美味しかったから持ち歩いてたんだ!とにかく返せぇ!」

 

たまに痛みで顔を歪めながらも、ケー坊は俺からキノコを引ったくった。

…読めた分かった。こいつコレ食って一種の錯乱状態に陥った訳だ。そうなればさっきまでの行動にも合点がいく。つーかこんな光ってるようなキノコなんか食うなよな…。

 

「…ハァ。ヴァルカン嬢ちゃんも、もう少しキツ目に拾い食いすんなって言っとけよ…。」

「ゔー…!」

 

まだ錯乱状態が解けてないケー坊が此方を睨み付けて威嚇してくる。…こりゃ毒が抜けるまで、まだ暫く掛かりそうだな。

 

「ーーーー!ーー、ーーーー?(やりましたね族長!こいつ、どうします?)」

 

またいつの間にか、元族長のアダクリスが槍を構えて俺の横に立つ。言葉は分からんが、恐らくケー坊の処遇を聞いているのだろう。…通じるかどうかは微妙だが、まぁ賭けてみよう。

 

「取り敢えず連行だ。近くに人が集まる場所はあるか?」

「…?ーーーー、ーーーーーー。(祭典の会場なら、近くにありますが。)」

 

ジェスチャーを幾つか交えながら龍門語で話してみると、元族長は少し考えて道の先を指さした。

なんだ、話通じんじゃん。最初のアレは何だったんだよ。とまぁ誰に言うわけでもなく愚痴っても仕方ないので、取り敢えず頷いて歩を進める。

 

「なっ、こら離せ!」

「ーーーー!ーーーーーーーー!(暴れるな!族長の決定だ!)」

 

ケー坊の声で振り返ると、アダクリス人達はケー坊をぐるぐる巻きにふん縛っていた。

そこまでしなくても良いんだけどなぁ…。




今回はツチグモさんが勝ちましたが遠距離なら勿論ケーちゃんに軍配が上がります。

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