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「ーー以上が今日の情報だ。」
「成る程。」
「こりゃまた…。」
龍門近衛局の会議室の一つ。チェン隊長、ホシグマ、俺の三人以外おらず、がらんとした部屋の中。
チェン隊長が総督室で公開された情報をまとめた紙に目を通していく。
チェルノボーグの暴動の概要。ロドスの内部調査書。そして、『レユニオン・ムーブメント』と呼ばれる感染者の群の事について。
ざっと読んだだけでもその情報の異常性、特に最後の項目が目を引く。
感染者が結託し、自身等の立場のためと各国に攻撃する。謂わば次代の為の死兵の軍という訳だ。
情報として知ってはいたが、これ程とは…。
「…こいつ等、放っときゃ自壊すんじゃねぇのか?」
「そうも言えん。既にチェルノボーグが落とされた事を踏まえ、決して静観できるものではないだろう。」
「小官もそのように思います。ただの感染者の群ではなく、国土を持たない一国の軍団であると見なした方が自然かと。」
「…所詮は感染者だろう?国境に今以上の戒厳令敷いときゃ、奴等は勝手に死ぬだろ。」
「これ以上のものとなれば、そう何年も続けられるものでもない。それに、そういう奴等こそ小さな穴から入って食い潰してくるものだ。」
「……。」
そりゃま、そうだが…。
椅子の背もたれに寄りかかりつつ、無機質な天井を仰ぐ。…だとするなら、出来る事は二つに一つ。律儀に穴を虱潰しに一つ一つ探すか、頭を一息に叩くか。
「っても、コイツ等に回せる人員なんざそうはいねぇだろ。軍隊並みなら、それこそ中級以上のオペレーターでも居なきゃ話にならん。」
「…そうですね。近衛局だけでなく炎国の各機関に協力を仰いだとしても、回して貰える戦力は数える程になるでしょう。」
「それに関しては問題ない。」
「え?」
「あ?」
チェン隊長の意外な言葉に、俺達二人は素っ頓狂な声を上げた。
「どこにそんな余裕があんだよ。よしんば俺達が指揮したって、穴は埋まらんぞ?」
「ロドスが協力を申し出て来た。」
…おいおい、ただの製薬会社にどんな軍事力があんだよ。チェルノボーグから逃げて来たのだって奇跡に近いだろうに。つか、あんな場所に何しに行ったんだか。ウルサスにセールスついでに観光か?
「ロドスの戦力は一企業のそれを遥かに超えて高水準だ。龍門での作戦行動に充分ついて来れる域だと、私は踏んでいる。」
「…チェン隊長がそう仰るのは珍しいですね。何か根拠でも?」
「今朝方、共に戦場へ出た。その時の判断だ。」
ほほーん。何に付けてもクソ真面目なチェン坊にここまで言わせるなら、そこは期待しても大丈夫だろうな。
「なら、人員はそれで足らそう。で、当面の各自の配置は?」
「ああ。ホシグマ、お前は通常通りの業務を続けてくれ。だが、無線機は常にオンに。」
「了解しました。」
「私はスラムの『巡回』を兼ねて、龍門にレユニオンが既に入り込んでいるかどうかを探る。」
「俺は?」
「ツチグモはロドスに同行して欲しい。向こうの指示に協力する形で監視しろ。」
「…あいよ。」
気がかりは残ってるが、異論はない。二人に比べれば、俺の立場が一番動きやすい。それに、下手な警官を付けるより多少なりとも内情を知ってる人間がいた方が効率も良いだろう。
「では、各自今日の情報を頭に入れ、明日からの任務に臨もう。」
「「了解。」」
資料を持って、先んじて立ち上がったホシグマを見送る。チェン隊長と俺だけになった会議室に、静寂が辺りを包む。
「……ツチグモ。まだ何か用か?」
「チェン坊、ロドスの実状はどうなんだ?」
「話した通りだ。」
「嘘付け。まぁ戦力云々はお前の見立てだし、凡そその通りなんだろうが。他は?」
「……。」
チェン坊が黙る。詮索は無駄だと視線が語っているが、敢えて無視して睨み返す。やがて、観念したのか小さく溜め息を吐くと、手に持っていた資料を机の上に置いた。
「詳しい内部調査がまだな以上、憶測にしかならないが…。彼女達に、今以上の協力を求めるのは困難だろう。アーミヤ代表や他の者が踏ん張ってるとは言え、維持が手一杯だと思う。…様々な意味でな。」
「だろうな。経験も知識も未熟な子供をマジの頭に据える企業なんざ、ついぞ聞いた事ねぇ。」
「…私もだ。」
「それにあのヘルメットの野郎、ありゃなんだ?」
「ロドスの顧問博士。それ以上は、私にも現状分からん。アーミヤ代表は随分懐いているようだが…。」
「…ハァ、分かった。」
「?」
頭に突然話を切り上げた俺への疑問符を浮かべるチェン坊を尻目に、立ち上がって扉へと向かう。
「兎も角ロドスに合流次第、一度連絡入れる。」
「…あ、ああ、頼む。」
「それとついでだ。明日、お前が今持ってる俺でも見れる範囲の仕事幾つか回せ。いいな?」
「…何を言って」
「お前最近鏡見たか?疲れてんならそう言え。」
返答を聞かずに、扉を閉める。
まぁ正直、後輩上司が先輩部下差し置いてクマ作ってんのは見てられんってだけのお話なんだが。
ふと廊下の時計を見てみれば、まだ夜は始まったばかり。街に繰り出すか、それとも明日以降の事を『彼』に伝えに行くか…。
さて、どうしようかな。
「おお、ツチグモか。丁度良かった。」
掛けられた声の方へ向くと、ウェイ長官が年老いた鼠を供に連れていた。灰色の林ーーまたの名を『貧民窟の鼠王』。言わずと知れた、ウェイ長官やエンペラーのクソペンギンと肩を並べる龍門のボス格。
そんな彼が、事もなげに近衛局の廊下を歩いている異常事態に、一瞬身体が固まった。
「ツチグモ?」
「ああいえ、失礼致しました長官。何か御用ですか?」
「ワシがおるのが、そんなにも意外だったかね?」
「…いえ。大方、ウェイ長官に呼び立てられたのでしょう?」
「ホッホ、お前は相変わらず勘がええのう。」
カラカラと笑う鼠王。人の出入りがほぼ無い重要施設じゃなきゃ、今頃上へ下への大騒ぎになってるって自覚あるんだろうか。この爺さん。
「明日からの任務についてだが、恐らく君がロドスにつく事になると踏んでいてな。違ったか?」
「いえ、その通りです。」
「では問題ない。…リン、申し訳ないが…。」
「安心せい、最近耳が遠くての。余程の大声でもなければ聞こえんようになってきたわ。」
よく言うぜタヌキ爺。ネズミだけど。
「…この者を探し出して欲しい。情報に不備が無ければ、恐らく…。」
「分かりました。」
そう答え、ウェイ長官が差し出して来た紙を受け取る。
「…この任務は、ロドスには悟られないように。必要があればこちらから伝える。」
「はっ。」
そう言って、ウェイ長官は会議室の方を見た。
「…ツチグモ。チェンは中に?」
「ええ、窓から出て行かない限り、まだ居るかと。」
「フォッフォ!確かに、あの娘御ならやりかねん!」
バッチリガッツリ聞こえてんじゃねぇかリン爺さん。嘘吐くなら最後まで通せよな。
「ツチグモ、君はこのままリン老人を御自宅までお送りしろ。くれぐれも丁重にな。」
「はい。」
「ではリン、私はこれで。」
「うむ、またいつかな。ウェイ長官。」
鼠王に軽く会釈すると、ウェイ長官はチェン隊長の居る会議室へと入って行った。
…仕事、全部肩代わりしてやるか。
「ではツチグモ君、よろしく頼むよ。老人の一人歩きは危ないからのう。」
「吐かせリン爺さん。そこらの暴漢より、アンタの方がよっぽど恐ろしいだろが。」
鼠王しゅきぃ…。おっと、いかんいかん。
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次回もまだ2-3には入りません(多分)。
ではでは、また次回。