おっさんin幼女はロックベアを守った   作:親友気取り。

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#3 異世界

 最近よく同じ夢を見る。

 バンガーを失ったログベルのいる世界で戦う夢だ。

 

 正確には同じ夢と言うよりかは夢の続きを見ているようなものだし、感覚としてはこっちの世界とあっちの世界を交互に行き来しているのに近い。

 どちらが夢で、どちらが現実か曖昧になる程のリアリティ。

 バンガーの死の光景からその後の戦い、感じた全てが頭を離れない。

 

 

「最近なんか疲れとらん?」

「……気のせいだ」

 

 家の主であるはやてが、リビングの椅子でぐでっとしている俺の目の前にお茶を置いてくれる。

 

「無理せんと相談してくれてええんやで」

「あんがと」

「らしくないなぁ」

 

 低身長スタイルから変わらない俺より背の高くなったはやてが頭を撫でる。

 いつものようにムードメーカーとして振舞えてたつもりだけど、どうやら少し無理しているのはバレバレらしい。

 誰にも気が付かれないようにとは思ったんだけどな。

 

 ただ、相談するにしてもどういえば?

 俺のせいで誰かが死んだなんて言っても、夢での出来事だなんて言っても、何言ったってよく分からないだろう。

 

「……昔の事、思い出して」

 

 殆ど無意識に出たのは、嘘だった。

 いいや、現在より前を昔と言うのなら間違ってはないけれど、でも嘘に近い。

 

「昔の?」

「助けるって約束したのに、助けらんなかった。それを最近、夢で見て」

「……アークスって戦い続きやからなぁ……」

 

 その時代の話ではないとは訂正できなかった。それ以来夢の中で暴れているとも。

 

 本当ならはやてにも全部白状して、嫌われればいいのだろう。

 家族に、はやてに嫌われる事を恐れてそこまで踏み切れない。結局自分勝手だ。

 何かもう全てが嫌だ。

 

「ちゃんと反省しとるならって私は思うけど、そういう話でもないんやろなぁ」

 

 綺麗事で殴っても通用しないと深くは切り込まず、軽くぺしっと叩くだけで終わらせる。

 流石ははやてだ。俺に対する言葉の選び方が分かってるな。

 ただ、今はあまり優しくされたくはないんだけど……。

 

 用意されたものを無下にするのは気が引けるのでとりあえずお茶を飲んでいると、メッセージが届いた。

 送信元は……カノンだ。向こうから連絡するなんて珍しい。

 いつも肝心な時にいなかったり酷いときにはラスベガスに旅行行ってたり、今日はどうした?

 

 えーっと、“ヤバイなら一緒にいてあげようか? なんなら少し力貸すよ”……とな?

 

 どうやら心配してくれているようだ。

 あまり会う機会のないカノンはもはやメル友みたいなものだけれど、どこから俺がこんな状態だってことを知ったんだ? はやては言い触らしたりしないと思うし。

 

 まぁどうせカノンだ。

 夢の中まで来られるなら来てみろと適当に返事をして席を立ち、いつものソファへ。

 

 

「また寝るん?」

「ああ」

 

 眠るのは正直、この世界から一時的にだけでもいいから消えたいからだ。

 ここからいなくなった所で、あの殺伐とした世界へ行くだけだろうけど。

 

 あっちが夢だとしても、そこで味わった傷の痛みは本物のように苦しめる。

 なら、それはそれでいい。

 平和な世界でのうのうとしているよりは──。

 

 

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 

 

 アーツの集中砲火によって爆炎に包まれる。

 その先の相手は避ける気もなかった。

 

 しかしレユニオン兵士達は気を緩めない。

 今までの経験と情報からその程度で沈むとは思えないからだ。

 

 一瞬の後、その判断は正しく人間を軽々と飲み込める巨大な斬撃が煙の中から飛び、盾を構えていた重装兵をなぎ倒した。

 再び兵士達の攻撃が開始されるが、もう通用しない。

 ブーメランのように戦場を飛び交う風属性テクニック・ザンが軽装備の射撃兵を吹き飛ばし、接近していた者も雑に振るわれたPA(フォトンアーツ)のヘヴィーハンマーでやはり吹き飛ばされる。

 戦闘不能にさせるだけの手加減が丸わかりな、遊んでいるような攻撃。

 

 見た目はただの幼い少女。

 ただその容姿に似合わず戦闘能力は群を抜いており、特にいつからか使い始めた紫色に光る刃を持つ剣のような武器は、そう扱わないだけで容易に相手の命を消せる威力を持っているのは明らかだった。

 

 何も知らないレユニオン側からすればその存在は突如として戦場に現れ、嵐のように荒らして回る厄介な敵。

 なぜ戦うのか、なぜ本気を出さないのか。 

 誰もそれを知らないが、被害は大きく、野放しにするわけにもいかずで出現を確認すれば撃退するようにはしていた。

 

 

 

 

「……んにぃー……」

 

 偵察用のドローンで撮影されていたその闘争の様子を見てログベルが呟く。

 相手からの攻撃は基本避けない。正面からぶつかっていく。

 そして少しずつその戦闘能力を出していき最終的には圧倒する。

 最後は肩を落とし、やりきれない感情が丸分かりの八つ当たりで近くの壁を壊して回ったり、いつもの赤い輪のマーキングを残してどこかへ消えていく。

 

 端からすれば遊んでいるようにも見えるだろう。

 事情を知っているログベルからすれば、自分を倒せる相手を探してさ迷っているとしか思えなかった。

 

 こうして映像を見てみると早く止めてあげないとという気持ちが高ぶるが、出現を予期して出撃もまだできない以上手が出せない。

 それが悔しくて、唸る。

 

「せめて力比べなら勝てる、勝てればいいなぁ」

 

 アーツとは違う正しく魔法と言えるものを操り、手にしてる剣も何もかもこちらの世界では見ない技術を用いているが明らかだ。

 相対したショウやベーグルの話によれば、そこから更に自己強化や空中での姿勢制御も行えるという情報もあるからログベルは更に頭を抱える。

 

 どんな世界で生きてきたのかと。

 ここに来てようやく、ログベルもバンガーと同じくリコは本当に宇宙崩壊レベルと戦っていたんじゃないかという結論に思い至った。

 

 そんなの相手に勝ち目なくね?

 とまで思えるけれどリコは大事な妹分。

 苦しんでいるのなら止めなければというのに代わりはない。

 

 

 相対したときにどう対処し取り押さえ、どう話をするかを視聴覚室でリコの戦闘映像を観ながら考えていたところ、不意に誰かが部屋を訪れた。

 ぱちん、と音がして暗い部屋に明かりが灯る。

 

「また起きてたんですか?」

 

 ログベルが振り向くと、そこにいたのは呆れ顔のアンセルだ。

 

「いいじゃん! 許可取ってるし!」

「許可するドクターもドクターです。全く、健康に悪いですよ」

「ぶー。アンセルだっていっつも夜勤ばっかりじゃん」

「私はそういう種族だから平気なんです。ウルサスは違うでしょう?」

「気合いで何とかなるから平気だもーん!」

「それを平気とは言わないんですよ……」

 

 言われつつもログベルは時計を見て、だいぶいい時間だと席を立つ。

 もしかしたら明日にもリコレーダーが完成し、即出撃もあり得るかもという微かな希望もあるので。

 

「もしかしてわたしのこと心配で見に来たの?」

「どうせまた、と思いましたから」

「信用されてるねー」

「悪い方に」

 

 明かりを消し、扉に鍵を閉める。

 ログベルは宿直室まで鍵を返そうと廊下を歩き、その横をアンセルが並んだ。向かう先は同じな様だ。

 折角だし話でもしようと歩幅をアンセルに合わせる。

 

「ねえアンセル」

「なんでしょうか?」

「アンセルはその、リコのことをどう思う?」

「リコって、レッドリング? どうと言われても……」

 

 聞きたいのはもう少し曖昧な事だと気がついて訂正する。

 正確に言えば──

 

「──異世界が存在するか……?」

 

 ログベルが真に聞きたいのは、そういう話。

 リコが別の世界から来ているとしているのはログベルの考えのみだし、それもラヴァの占いと天災的に突如として出現するという情報を合わせただけのもの。

 全く根拠がないとは言い切れないが、説得力には欠ける。

 

 天災によって何かが別世界から漂流してくる、あるいはそうでなくても別世界を観測できている、という話があれば興味があった。

 リコの出身を探ってどうこうするつもりはない。ただ本当に、話題半分の興味本位。

 

「難しいですね。蓋を開けなければ無いとは言い切れないし有るとも言えない」

「だよねー」

「……レッドリングが異界からの訪問者、という話ですか?」

「えっ」

 

 意外にも話が早くて変な声が出た。

 

「ケルシー先生もドクターも、レッドリングの事をそう思ってるみたいなんですよ」

「そうだったんだ……」

 

 そう検討を付けなければ天災探知の機械を弄って暴走龍レッドリングもといリコの出現予測をするという発想に至らないが、内部事情にそこまで詳しくないログベルは知らなかった。

 当事者のログベルにも話しておけ聞いておけとはなるが、相手はケルシーとドクター。秘書のアーミヤ辺りが苦労しないと伝わらない。

 というよりも。

 

「突飛な話だからって言わなかったみたいです。私は、たまたま聞いてしまいましたけど」

 

 あえて言わなかったらしい。

 もう少し報連相を円滑にした方がいいと思う。

 というかドクターは喋って欲しい。

 

「ですけど、ロックベアさんもそう思ってるということは……」

「多分合ってるんじゃないかなぁって位には。だってさ、リコっていっつも変なこと言ってたからどれが本当なのか分からないんだもんっ」

 

 自称6歳に始まり、宇宙人だの丸数年前に貰ったチョコだの宇宙人や宇宙の危機等々……。

 戦闘経験豊富な6歳は流石に冗談──とは思いたいけれど、リコの場合あり得てしまうかもなのがログベルの悩み。

 実際は多少盛ったりぼかしたりがあるものの、リコの話は殆ど事実なのだけれど。

 唯一嘘というか、真実が不明なのは年齢だけだ。それだけは精神年齢や肉体年齢が全てばらばら過ぎて本人すらどれが正規なのか分かっていない。

 

「もし異世界やそれに準ずる物が本当なら……」

 

 アンセルもログベルも、考えは一致した。

 今この惑星テラを苦しめている鉱石病を解消する方法や、天災の驚異がない世界もあるかも知れない。

 もしそこへ移住できるのならば──

 

「──いや、やっぱ移住はやめといた方がいいかも」

「ああ。先住民が」

「いやいやいや」

 

 リコの身体能力。戦闘技能。

 宇宙崩壊の危機を何度も乗り越えている。

 そんな所に行って、生きていけるの?

 リコ一人に大苦戦している私たちが?

 

「無理そう、ですね」

「テラが一番だよ……」

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