おっさんin幼女はロックベアを守った   作:親友気取り。

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#5 禍王と暴龍と魔杖

 瓦礫の街を背景にヒュロロという音が鳴り響く。

 それが何の音かは分からない。笛を使った音楽のようにも聞こえるし、あるいは風切り音にも思える。

 もう一度、今度は先ほどよりはっきりとまた鳴った。

 

「来るんだね」

 

 レッドリング出現予測を元に現場へ急行したログベルが装甲車から降りて呟く。

 誰もいない所で助かったと胸を撫でおろすと同時に緊張感が高まり、こほんと一つ咳払い。

 

「今日こそ、止めるんだ」

 

 グローブの位置、ブーツのかかとを直してよし。

 装備はなるべく軽量。胸部をカバーする最低限のプロテクターだけを装備した、ゼロにも等しい防御力。

 どうせ何を装備したってリコが相手だ。意味はない。

 重装備も盾も、何ならいつものナックルも重しになるだけ。

 

 自分の仕事は彼女が現れたらすぐさま全力で駆けて、とりあえず殴る事。

 拳を握りしめたログベルの硬い肩を、ホシグマが軽く叩いた。

 

「ホシグマさん、すみません」

「謝る事はありませんよ。隊長は隊長の為すべき事をしてください」

「はいっ」

 

 

 

 ──大気が揺れ、一筋の光が地上に落ちる。

 光の中から小さな影が立ち上がった。

 

 頭のてっぺんから先まで一色のまま変わりない金色の短い髪。

 赤が基調のジャンパーを羽織ったボーイッシュなファッション。

 最後に会ったあの時と変わりない姿。

 

 一つ変わった事といえば、右手に持つ武器のみだ。

 真っ白い柄とそこから伸びる薄紫色の美しい光の刃が特徴的な武器、ラヴィス=カノン。

 映像資料によれば、一部隊程度軽々と捻りつぶせる威力の衝撃波を発生させる武器。

 

 

 天災、暴走龍。

 レッドリングが……リコがそこに出現した。予測の通りに。

 

 

 

「こんにちは、リコ」

「んあ、ログベルか? 久しぶり」

「ロドスに戦闘員として雇われたんだ。リコのお陰で、拾ってくれたの」

「……戦いからは離れて欲しいけどな」

「わたしが決めた事だよ」

「そっか」

 

 

 歩み寄る。

 全力で走る予定だったのに、泣きそうな顔を見て戸惑ってしまった。

 

 ログベルの目の前にいるリコは、構えもせず立ったまま。

 一部隊程度容易に蹴散らせる剣を構える気もない。

 わざわざ部隊なんて編成する意味もなかったと思えるほどに、無抵抗だ。

 

「ねえリコ」

 

 だけど、容赦をしてはいけない。

 それではリコを止められない。

 

 

「歯を──食いしばれぇーいっ!」

「んぐっ」

 

 

 超全力で振り上げられたログベルの拳は顔面を捉え、何十メートルと容易に吹き飛ばした! 

 

 

「あらよっと」

 

 二転三転と小さな影が転がる先で声がして、それ以上の転がりを止めた。

 姿を消していたイーサンだ。

 コンクリートに足跡が残るほどの踏み込みで追いかけたログベルは、立ち上がったリコに再び拳を振り上げる。

 

 今度は逃がさないようにと打ち下ろす。

 本来であれば地面をも砕く少し威力のおかしい物であるが、リコの方はマッシブハンターを使いその場で耐えた。

 ダメージを抑える為じゃない。動かない方が殴りやすいだろうと。

 

 しかし、三発目はなかった。

 代わりに差し出されたのはログベルの開いた手だ。

 

「これで終わり!」

 

 泣きそうな妹分をぼこぼこにするなんてやっぱりできないから。

 二発も殴ったのだし、もう十分だと。

 

「それじゃバンガーも喜ばないよ」

「……そうだろうな」

 

 しかし、差し出された手は無視されリコは去ろうとする。

 言葉が違う。これではダメだ。

 

 ──リコにとっての今は、バンガーへの懺悔。

 そのバンガーが喜ばないと告げられれば、ではどうすればと去ろうともする。

 ウルクを失ったテオドールやメルフォンシーナを失ったゲッテムハルトは、ダーカー殲滅という分かりやすい答えがあったからまだいい。明確な敵がいたのだから。

 

 しかしリコにとってはそうも簡単な話ではない。

 確かに殴られればある程度の満足に繋がるとはいえ、それでもなおバンガーが浮かばれないとすれば。

 

「……!」

 

 左手を上げたログベルの合図でイーサンとオーキッドによって鈍足のアーツが発動する。

 足が思ったように動かない事に気が付いたリコは状態異常を治すアンティを発動し逃れようとするも、それで治せる状態異常とは意味が違うし、手を変えて治せたとしても何度も重ねられればキリがない。

 

「捕まえた!」

「なっ」

 

 跳びついたログベルがリコの小さな体を抱きとめる。

 

「どうすればバンガーに報いる事ができるんだよ!」

「うわっ!?」

 

 しかし、予想外な事に「拘束技に弱い」という弱点を無視してログベルの身体が投げ飛ばされた。

 あくまで弱点なだけで抵抗力が無いわけではない。抜け出す方法はある。

 というよりもむしろ、現在がゲームではなく現実である以上は気合でも抜け出せる。

 

「誰も俺を殺せないというのなら……ッ!」

 

 そして現実である以上、手にしている武器を自分に向ける事も──

 

 

「それはダメ!」

 

 

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 

 

「…………なぜだ……」

 

 最近使っていなかったとはいえ、長く連れ添った武器の扱いを間違える訳がない。

 身体が覚えている扱いを忘れるはずがない。

 ラヴィス=カノンは俺を貫くはずだった。

 なのにどうして、刃が消えた? 

 なぜ、柄と芯だけの待機状態になっている? 

 こんな物じゃ、デューマンといえど頑丈な俺の身体を壊せない! 

 

 

 ──危ないな―。そんなことに力は貸せないよ? 

 

 

 この声は……? どこだ。どこからした。

 どこにいる! ラヴィス=カノンに何をした! 

 

「リコ!」

 

 ログベルの声が聞こえたけれど、それどころじゃない。

 身体の動きを妨害する絡みつくような感覚を振り払って声のありかを探す。

 誰が、誰がラヴィス=カノンの機能を止めた! 

 

「もう逃がさないよ!」

 

 大きな体が俺を止める。

 邪魔だ! 止めたいのなら殺す気でこい! 

 

「離れろ、ログベル……!」

「やだ! リコを助けるって決めた!」

 

 俺を……助ける……? 

 

 

 ──そう! それがしたいの! 

 

 

 またこの声だ、何を言っている!? 

 

 

 ──リコには笑顔でいて欲しいからねー。

 

 

「バンガーを殺した俺が、笑う必要はない!」

「ある!」

 

 

 ──それが心残りなら、手伝うよ? 

 

 

 そんな事……!? 

 

「な、何これ?」

「まさか!」

 

 時空が歪む感覚。この世界へ来る時とは違う感覚だが、エフィクトから自然と予測がつく。

 右手に持つラヴィス=カノンを中心に、身体と意識はこの場から遠のき別の場へと進むこの感覚は……。

 

 いいや、進むんじゃない。

 戻り行く。

 

 こんなの無茶苦茶だ。

 確定している過去を変えるなんて事、できる訳がない! 

 それにその能力は、俺にはないぞ! 

 

 

 ──私はできる! 

 

 

「どうやって……!」

「何この感覚っていうか、リコはさっきから何言ってるのさぁ!」

 

 

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 

 

 ログベルとリコ双方の姿が光に包まれ消えた。

 予想外の出来事に、それを見ていたホシグマも焦る。

 

「隊長が……」

 

 代わりに、その場には大量のオリジムシが出現した。

 何の前兆もなく突然に。

 

「作戦の通りに展開!」

 

 レッドリング対策部隊の隊員は、ただリコの妨害だけに特化している訳ではない。

 ログベルがリコを殴ると決まった時点で部隊の目的は殴り合いをする二人の護衛に傾いている。

 そして事前に決めておいた作戦に従い、ホシグマは副隊長として指揮を出してオリジムシの対処を行う。

 

「レッドリングも隊長も、どこへ消えた……?」

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