──私は謝罪しないよ。
光の道を、硬く目を瞑ったままのログベルを離さないように落ちていく。
戻っている。
時間を、遡っている。
ありえない。
──ここまでしないといけないのが悪いんだからねー。
アークスの活躍する世界、オラクルには全知なる存在がいた。
その存在は超高度な演算によって未来予測を行い、そして進む先が最良でないと知れば過去を変え至る道筋を変え、未来を変える。
時間遡行、歴史改変。
実質的な死者蘇生すらをも可能とする行為。
今過去に向かっているのは、全てが狂った元凶を無くせという事だろう。
バンガーの死を無かった事にしろと。
だが、今起こそうとしている改変は矛盾をはらむ行為だ。
何故なら俺とログベルはバンガーの死を完全に確認してしまっている。
もうその事象は確定した。
オラクルで起こした歴史改変は、未来で過去に向かったという歴史が残っている。
ゼノが新米アークスの主人公を師匠に似てると言ったり、マトイが記憶を失い現れた事。
歴史的必然、結果は残る。
バンガーが死んだという歴史が全員の記憶に残っているという事は、つまりもうどうやっても……。
──そこでリコの能力なのですよ。
俺の能力?
──闇の書事件からリインさんとリコを救ったそれは、原作改変能力!
・・・・・
「……ここは……?」
「な、なに、何が起こったの……?」
二人して地面に倒れている。
てかログベル重い、どいてくれ。
「あ、ご、ごめんなさい」
んでだ。
ここどこだ?
景色が変わった感じはしないし同じ街には違いないけど、場所が違う。
「ここ、テラだよね? リコの世界に連れてかれたとかじゃなくて」
とりあえず立ち上がり、右手の武器を確かめる。
さっきからする声が何なのか分からないけれど、このラヴィス=カノンがキーなのには違いない。
お前喋れたんか?
まぁそこはおいおいにしておこう。
今いるのは多分、バンガーが死ぬ直前位の時間軸。
なんでラヴィス=カノンが時間遡行を行えるのか、俺の持つ原作改変能力が何なのかとか、色々疑問だけれど考えてる暇はない。
「バンガーの死んだ場所へ行こう」
「え?」
「道を教えてくれ。時間がない」
「えぇー……。ていうかいきなりなんなの……?」
俺も説明に困るんだっつの!
時間遡行だとか今いるのが過去だとか、説明したってだし。
バンガーを助ける事ができるにしろ、現在地が不明なら間に合わんかも知れんぞ!
ここでの些細な行動が未来にどんな影響が出るのか分からないし、やる事は最低限にしなきゃだから派手に動くのも都合が悪い。
オラクルでの歴史改変は、全知のサポートがあっても予想外の事ばかりだったのだから。
あーもう、色々考える事が多すぎる!
ひとまずログベルか俺が知ってる道を探さないと……!
「じゃあさ、とりあえずまた上いく?」
上……? って、ああー。
ビルにか。
「道は思い出すからっ」
「……やってみる価値ありそうだな!」
そうと決まれば行くか。
とうっ!
「って、そのマンションでいいの? うわキモ」
あの時キモって言ってたのお前かよ!
そうも言ってる場合じゃないが。
というかログベルを置いていく訳にいかないな。また間違いをする所だった。
やっぱり階段で──
「気合壁走り!」
僅かなとっかかりを足場に垂直へ跳ぶ俺とは違い、ログベルは壁に足をめり込ませて垂直に走っていた。
うわキモ。
「上に行くんでしょっ」
だからって、そのやり方はなんなんだよ……。
「よくわかんないけど、時間無いなら急がないと」
「……だな、うん」
もしかしてログベルって、身体能力お化け?
熊耳生えた獣人程度と思ってたけど、この調子だとバトルモードバンガーも恐ろしくなりそうだ。
ビル……というか手近なマンションの屋上に到着して、今がまだ朝方の時刻だと知る。
事件が起きたのは昼頃。まだ間に合うが、距離が離れていたりしたら急がないといけない。
「良い顔してるよリコ」
隣からログベルが手を伸ばして俺の髪をぐしゃぐしゃにしてきた。
「急に何すんだてめっ」
「うんうん。げそっとした顔は似合わない!」
「やめろって」
てか編み込むな!
「昔はよくバンガーの髪整えたりしたなぁ」
無駄に器用だなおい。
なんで最初に会った時はアホっぽかったんだ……。
「ねえリコ。わたしがどうして戦ってるのか知ってる?」
今度は何だよ。
「ひとりでも次のバンガーをなくすの。バンガーがわたしを助けようとしたように、わたしも誰かを助ける」
「……その考えはやめておけ」
「やめないよ」
サイドで一つ編み込みを作ったログベルは満足して離れる。
その救うと誓う道は、知らなければいい現実を見る事。
知らなければ数字と文字で済む話が、ひとつひとつの重い命になる。
やめておいた方がいい。
「力があるのに立ち止まって見過ごすよりいいじゃん。どっかの誰かみたいにさ、自分勝手に暴れるだけよりかバンガーも納得してくれるよ」
……そうか。
いやそうだよな。
あんな暴れてる暇があったら一人でも助けようとすれば……。
「オレ、馬鹿だなぁ……」
「え、今さら?」
んだとおら!
「そんな事よりほら、あそこの建物見覚えある!」
「どれ?」
「あのセンタービル!」
と言われても分からんのだが。
「って、事は……」
ログベルは大ジャンプで次の建物に移る。
地元民にしか分からない道は地元民に託すのが良し。
今の会話でも時間は消費しているし、急がせたいがここで間違えても結果が付いてこない。
一生懸命地理を推理しながら進むログベルの背中を追う。
ここでまた地雷なんてと思うが、俺よりもログベルの方が早い。
──あれ、これ別に時間遡行いらなかった?
必要さ。
それとこれとは話は別。助けられる命は助けるに限るし、やっぱりバンガーを救えなかった後悔は拭えない。
せめて全てを狂わせた地雷を撤去するまで待ってくれ。頼む。
──そ。まぁリコのお願いなら。……にしても強いねー。あの子。
地面砕いて衝撃波出せるようなのが一般人やってんだから、フォトン適性だとか何だとか色々あるアークスよか強いんぢゃね?
知ってるか? さっき殴られた時、あの調子で4発目まで食らったらワンチャン死んでたぞ。向こうはそんな気ないというか、俺の事を過信し過ぎてる。
──そういう意味じゃなくてさ……。
ログベルの足が止まる。
今いる建物の下からロドスの面々とレユニオンがどんぱち派手にやっている音が聞こえるし、多分例の場所だ。
「ここまで来たけど、ここからどうするの?」
「バンガーを殺った地雷を撤去する。それで未来が変わる筈だ」
「未来?」
ふちから顔を出して、こっそりと戦況を確認していた首根っこを掴んで引き戻す。
流れ弾でも当たったらどうするんだと言おうとして、ログベルの顔が真っ青になっているのに気が付いた。
「ねえ……今下にわ、わたしと……バンガーがいた……!」
「な、オレは!?」
「いなかったけど、え、ナニコレ、どうなって、どういう──」
「時間がない!」
事情を知らない、というか今いるのが過去だという事を知らないログベルに説明している場合ではない。
俺がふたりから離れているという事は、いつバンガーが動いてしまうか分からない!
ほっとけばついてきそうなログベルの背後にゾンディールを発動させて動けないようにし、跳ぶ。
「この路地の筈! デバンド!」
見間違えるはずのない見覚えのある道。
地面に着地した瞬間、横殴りの衝撃が爆音と共に俺を襲った。
恐ろしいくらいにドンピシャ。十中八九、バンガーを殺した地雷の物。
一応デバンドで防御力を上げていたけれど、勘で反射的に零式ナ・バータのガード出せて防げちゃった。
え、氷属性テクニックで爆弾を凍らせて解除?
そんなMGS2じゃないんだからさ。
いいかい。アークスの地雷除去っていうのは筋肉式なんだよ。
「リコ、大丈夫!?」
「おう。無事だ」
屋上からログベルが身を乗り出して叫ぶ。
急いでて忘れたけど、そっか。あの時、ログベルはバンガーが吹き飛ぶ瞬間を目の前で見たんだよな。
悪い事した。
誰かに見つかる前に屋上へ戻ると、最初に見えたのは拳だった。
あれ待て、それはアカン。
「──馬鹿っ!」
死ぬゥ!?
「……って、あら?」
「えへへ、殴らないよ……」
「せんきゅー」
よ、良かった、命拾いした。
今までレユニオンに集中砲火されたりでこの世界の火力については知ってたし、地雷程度耐えられると思ってたけど、お前の拳だけは例外なんだよ。
「でもこれ、何が起きてるの? 今日は非番のハイビスが向こうにいるし……」
「気のせいだろ。つか誰よハイビス」
「じゃあ、あそこで崖に落ちかけてるリコは?」
「気のせいだろ」
「あ、放水された」
こっから歴史通りに進めば大丈夫かな。
「ねえリコ」
「ん?」
「今リコが自分で引っかかったの、もしかしてバンガーが……」
「そ。未来が楽しみだな」
光に包まれる。
これでバンガーの生存する未来に変わった。もう元の時間軸に戻るんだろう。
結局あの声も詳しい事を説明してくれないし、原作改変能力の“原作”ってなんだっていう。
心当たりがあるとすれば、ここがアークナイツってゲームの世界でそこを原作とするならって話なんだけど。
──ほぼ答えじゃん。馬鹿リコ。
んだとおらぁ!