おっさんin幼女はロックベアを守った   作:親友気取り。

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バンガー視点です。


#4 びっくり箱

 源石(オリジニウム)は私達の生活を支える膨大なエネルギーを供給し、使い方によっては源石術(オリジニウムアーツ)と呼ばれる、比喩ではなく本当に魔法のような現象すら起こす。

 ただしその便利な源石に接触し過ぎれば冒され、文字通り石に侵食される。

 それが治療不可、致死率100%。同化しきり物言わぬ源石と化した亡骸は新たな感染源となる厄介な奇病・鉱石病(オリパシー)だ。

 

 源石に大いに助けられ、源石に苦しめられる皮肉な生活なため感染を抑える事は出来ず、亡骸の厄介さ故に感染者は迫害され、隔離され、このウルサス帝国では極端に虐げられる。

 感染者にもはや人権すらないと言っていい。やり過ぎだ。

 だから感染者で身を寄せ合ったレユニオンが武装蜂起し、チェルノボーグを起点に市民の虐殺に近い反逆を開始したんだろう。

 

 

 私がいつ感染してしまったのか、そしてどれほど進行してしまっているのかなんて具体的には分からない。

 ただ一つ言えるのは、私が鉱石病(オリパシー)になってしまったのは定期診断を受けた直後だろう。

 でなければ、誰にも気が付かれず小道具を使わない生身のままアーツを撃てる程進行していない。

 

 

 感染を自覚したのは食料の奪い合いで地獄と化した学校の中で、自身を守る為に勢いでアーツを使えてしまった時だ。

 食糧庫が焼け落ちて飢餓が蔓延し、残った僅かな食料を求めて生きる為に殺し合いすら始まっていたあの時。

 

 運悪く真っ直ぐに人へ向かって放ってしまった攻撃の感覚を忘れられず、しかしそれは助けにもなった。

 

 ──アーツを自在に操れるのであれば、ログベルを連れて学校から脱出できる。

 決意はすぐに固まった。こんな地獄にはもういられない。

 

 

 その頃もう既に全員が精神に支障をきたしていたし、ラーダに至っては()()()()()血生臭い肉を調達し料理を始めている。アレが何の肉だったか、なんて想像もしたくない。

 空腹だったログベルは、それでも食べる為に味覚と嗅覚を失ってしまった。元々支障をきたしていたのに、追い打ちをかけるように壊れてしまった。

 私だってもう既に正気じゃなかったかも知れない。

 精神の壊れた姉の介護をする憐れな妹という役割(ロール)に酔って、姉を見下して穢れた自尊心でようやく精神を保っていたと言われて否定はできない。

 

 

 感染者であると知られれば最悪、事態を引き起こした元凶のレユニオンの仲間だと勘違いされる。

 誰の物とも知れない欺瞞の杖を拾って持ち、でもアーツを放つ源は自分の石だ。

 体内の源石を使ってアーツを放てば侵食はより進むと言うけれど、早かれ遅かれの違いだし、そもそも明日を生きられるかすら怪しいのに気にしてられない。

 

 

 私はあと幾ら生きられるだろう? 

 ログベルの手を引いて街を宛てなくさ迷う。

 

 私の目的はただ一つ。

 唯一の肉親、唯一の家族、大好きなお姉ちゃん──ログベルだけでも守り抜く。

 守り抜いて、生き長らえさせて、ログベルが幸せになってくれれば後はどうでもいい。

 それが、私がこの世界に生きたという証拠と誇りになる。

 

 

 

「──美少女のヤガミリコだ。よろしく」

 

 

 

 彼女と出会ったのは偶然だろうか? それとも何かの運命? 

 

 私達よりも数段低い、ドゥリンのような低い背をしたオニのリコはこんな世界になってから、始めて会ったまともな人間かも知れない。

 いや、平常時で見ればあからさまに狂人の類ではあるんだろうけど……。

 

 ま、まぁとにかくユニークで、そして根幹は善意に寄った少なくても良い人に分類はされる人間だ。

 ともかく面白い人。本能的に行動するログベルが懐く位に悪意は感じられない。

 

 常識がないし常識の通じない人ではあるけれど、味方で助かる。

 出会った当初は鉱石病(オリパシー)ではないと言っていたけど、隠そうという気はそんなにないのか、それともこっちを信用してくれたのか夜には道具を使わずアーツを使い感染者であると暗に教えてくれた。

 ……まあ、床から肉やクッキーを掘り出すのは意味が分からないけど。ナニアレ。

 

 殺伐とした明日の見えない暗い世界に見えた光。

 夜明けの光のように底抜けに明るい姿は、ログベルだけでなく差別され見捨てられるのかもと怯えていた私の心を救ってくれた。

 

 

 

「ガキ共はさっさと寝た寝た。警戒はオレがしとくさ」

 

 

 

 子供のような容姿に関わらず、そこにいるだけで大丈夫と思えるような小さいけれど大きな存在感。

 眠る前に少し話をして、そこでリコの事を少し知れた。彼女も私と同じように、自分の命を対価に誰かを救おうとした事があるのだろうか? 

 過去に何があったのかは分からないけれど、親近感を覚えて、そしたらなんだか安心できてすぐに眠る事が出来た。

 こんなにぐっすりと眠れたのはいつぶりだろう。

 

 

 暗い夜に光が差し朝が来る。

 起きて目を開けて、最初に見たのは朝日に照らされ神秘的にすら映るリコの横顔だった。

 彼女が今日の夜明けを連れてきてくれた、と言うのは少し詩的だし照れ臭いしで黙ってる。

 多分というか確実に、調子に乗って美少女だからなって言うから。

 

 

「リコ、おはよ」

「おはようリコ」

「ん? よう、起きたか」

 

 よし待ってろと早速どこからか取り出したツルハシで床を叩いて、昨日と同じように食料を掘り出す。

 相変わらず原理はよくわからないけど、助かっているのは事実だ。

 

「もしかして肉、ダメだったか?」

 

 手元のソーセージを睨んでいると声をかけられた。

 ……そういう訳じゃない。ただ、飢餓を何とかしようと気の狂ったラーダが作った肉料理を思い出しただけ。

 見た目は似ているけど床から掘り出されたものだし、血生臭いアレがそのままここに来たわけじゃない。

 

「ありがとうね、リコっ!」

 

 食べ終えたログベルが礼を言って、自分より小さいリコにおぶさる様に抱き着く。

 ログベルがあそこまで懐くなんて少し嫉妬しちゃうかも。

 

 

 

 渋い顔で焦げた食料を食べ終えたリコの提案に乗って、今日はまず高所から街を見下ろそうとビルまで移動した。

 したのはいいけれど、階段は吹き飛んでるしここはダメそうかな。

 隣でログベルは文句を言うけれど、屋上までいけないのなら仕方ないでしょ。

 って思ったんだけど……。

 

 

「とうっ!」

 

 うわっ。

 

「キモ」

「誰だキモいっつったやつぁ! しばくぞ!」

 

 よしと一息にリコは垂直へ何メートルと軽々跳び、見間違いでなければ空気を蹴って空中で跳ねていた。

 ログベルがキモって言うのも納得だ。

 

「バンガーが言ったー!」

「ちょ」

 

 妹を売るな! 

 ……聞こえてなかったのか、返事はなく変わりに遠くで足音だけがする。良かった、しばかれずに済む。

 あんなバケモノにしばかれたら命がいくつあっても足りない。この命はログベルの為にあるというのに。

 まったく。

 

 

「ねえバンガー。一緒に生きようね」

 

 ──リコが戻ってくるまでの間、唐突にログベルが呟いた。

 その目は、久方ぶりに見る昔のような、優しく聡明な姉の物。

 私が長生きしない事は知っていても、それでも一緒に生きようと言ってくれている。

 

 私だって自殺願望を持ってるわけじゃない。

 ただ……。

 いや、そうかもね。

 

「皆で一緒に生き抜こうよ! やはーっ!」

「わ、こら、抱き着くな!」

 

 スキンシップが激しいぞ、こら。

 引きはがすと一転して今度は拗ねる。まともになったのは一瞬だけか。

 

「ぶう。お姉ちゃんさみしいぞ」

「だったら姉らしくしなさいよ……」

 

 床から拾い上げたワイヤーをひゅんひゅんと回して遊んでいる。そういうところが子供っぽいというか……。

 

「たっだいまー」

 

 外にリコが落ちてきた。

 二階からショートカットで跳んだとかじゃなくて、明らかに屋上から直で落ちてきてる。

 しかも、それでいて膝も大して曲げずに何気なくすたっと着地してるし。

 うわぁ……。

 

「キモ」

「しばかれたいんだってなぁ……」

「バンガーが言いました!」

 

 だから妹を売るな! 

 

 

 

 

 

 その後もあれやこれやと談笑は続いた。

 リコの理不尽さやボケに振り回されたり、ウルサス種の中でも怪力なログベルの抱擁に危うくリコが潰されかけたり……。

 格闘系のスポーツのスカウトが多数、それもヘビー級で誘われていたログベルの全力でぎゅってされて、それでも耐えきるリコはやはり色々おかしい。

 

 

 その際に品種改良だの少し暗い話が出たけど、本人はそれでも序の口と言っていたし、気になるけど深く詮索はしなかった。

 様々な種族の長所を取り込んだ究極のキメラ。そういったものの研究でもしてたのだろうか? 

 こんな身体能力を持つリコを生み出し、兵士として活用していた国の戦力事情がしれない。

 あるいは、冗談交じりに本人が言う通り実は本当に宇宙人で、宇宙の危機と戦っていたのかも。

 なんてね。

 

「こっからおふざけは無しだぞ」

「……」

「ええ、そうね」

 

 リコの声が真剣なものに変わる。

 その雰囲気を機敏に感じ取り、ログベルも息を潜めた。

 

「目的はロドスを発見して接触、保護される事」

 

 問題は、この戦火を突っ切るか否か。

 期を見計らいすぎて見逃しても、あるいは先にレユニオンに見つかってもダメ。

 目と鼻の先まで戦場が近づいた建物の影に身を潜めながら、こっそりと作戦会議。

 こんな事なら歩きながら話せとも思うけれど、それはそれで精神が持たなかったかも。

 作戦に大事なのは心の余裕。心に余裕がなければどうなるか、学校で散々見せつけられた。

 

「オレの提案いいか?」

「どうぞ」

 

 そう言ってリコが示したのはなんとも、リコらしいというか。

 私達二人はこの場、安全な所で待機。人一倍体が丈夫で、戦闘にこなれているリコがまずは突っ切りロドスと接触して救援を呼ぶというものだ。

 

 それは確かに合理的で、確実で、そして私達は安全だ。

 

 ただし、その分リコの危険が大きい。

 いくら屋上から飛び降りたりログベルに抱き締められて無事で回復も使えるとはいえ、一応は人の子。万が一もある。

 

「他に良い案あるか?」

 

 今まで相手にしたことのある略奪者とは違って相手は戦争屋だ。

 戦えると言ってもそれらに比べたら一般人で素人に違いない私達が着いていった所で、絶対に足手まといにしかならない。

 この場はリコに任せるのが正解だろう。

 ログベルも口を出さず黙って頷いた。

 

「……すまん。本当に、これで大丈夫か?」

 

 どうして謝るんだろう?

 私もログベルもこれでいいと思っているのに。

 

「昔さ、自分でこれが一番! って決めて行動したのが最悪の結果になった事があって……」

 

 それはたぶん、リコが命を賭けて人を救おうとした時の事だろう。

 そう言うって事は、守りたかった人は……。

 

「大丈夫。リコ。私達はここで待ってるわ」

「うん。信じて待ってる!」

「……そか。じゃ、行ってくるぜ! 待ってろよ!」

 

 言うが早いか時間も惜しいと立ち上がり、ステップを踏んでから一度軽くジャンプすると全速力で駆け抜けていった。

 なんだあの足の速さは。車並みに早かったぞ。

 

「……すごいね」

「気にしたら負けよ」

 

 今はそれどころじゃない。

 不安なようで私の手を握ったログベルの手は柔らかく、そして温かい。

 私と違ってまだ源石に冒されていない、私の守るべきお姉ちゃんの綺麗な手。

 この手が汚れず、そして私のように醜い石に染まらない事を祈るばかりだ。

 

 たたんたたたん。

 どこか遠くで銃声や爆発音が響く中、緊張は解けない。

 

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

 リコが走って何分が経っただろうか? 

 戦場の中心から離れているとはいえ、いつ巻き込まれるか分からない。

 だからと言って、もうここから下手に動くわけにはいかない。

 

「いたいよ」

 

 不安のあまりいつの間にか手を握り過ぎてしまっていたらしく、ログベルが泣きそうに呟いた。

 そうだ。ログベルも限界なんだ。私がしっかりしなければ。

 あと少しの辛抱で、助かるんだ。

 

「ごめん」

「ううん、平気」

 

 手を離し少し離れて、近くの路地から少し顔を出して戦場を覗く。

 警戒はしておくに越したことはないし、それにじっとしていられなくなってきた。

 待っているだけなのがとても不安でたまらなく、怖くて、だから少しでも何かしたい。

 

 

「……あれって、ロドスのマーク?」

「え?」

 

 視線の先に見えたのは、間違いなくロドス・アイランド製薬のロゴ。

 運のいい事に、目線の先にロドスのマークを着けた人間が二人歩いているのが見えた。

 戦っている様子はなく、手元の資料を見る方と、それの護衛のように警戒をしているもう片方。

 いつの間にか聞こえていたはずの銃声も聞こえなくなっているし、もう大丈夫なんだろうか?

 

 

「……リコを待つより、早いかしら」

 

 リコがどういった経路で接触しているのかは分からない。

 もしかしたらやられているのかも……と、まさかが頭をよぎって首を振る。きっと周囲の安全を確保したり、話を通したりですぐに来られないんだ。

 私達を連れて歩くのは難しいと話していたしそうに違いない。

 

「行こう」

「え?」

 

 あの二人を見るに戦闘は終わっている。

 だったら、先にすぐそこにいるロドスに助けてもらえば。

 

 そうと決まれば早い。

 

「置いてくわよ」

「待って、ダメだよバンガー……」

 

 リコとの約束があってか弱気に止めようとするけど、そうも言ってられない。

 一刻も早く、助かりたい。

 

「──? ──!」

 

 私達に気が付いたロドス陣営から何か声を掛けられてる。

 遠くて何を言ってるのかはよくわからないけど、少なくても銃口を向けるような事はしてないし、私達が敵対していないただの一般人だと分かってくれての事だろう。

 たぶんだけど、あれは危ないからこっちへ来いと言ってくれてるんだ。

 

 

 これで助かる。

 

 

「行こう、ログベル!」

 

 これで助かったという気持ちのゆるみもあるけど、でももう敵はいないんでしょ?

 

 だから駆けた。

 

 着いてこないログベルを置いていくまいと声を掛けようとして、振り返って。

 

 

 

 見えたのは、手を伸ばして、驚いたような、何故かそんな顔をしたログベルだった。

 

 

 

 

「こっちへきちゃ駄目っ!」

「バンガー駄目っ!」

 

 

 

 

 

 前と後ろから掛かる二重の声。

 同時に足へ何かが絡みつく嫌な感触は、ふと昔イタズラで男子に足を引っかけられたのを思い出させた。

 どうして今その記憶が?

 

 疑問が頭を流れて、世界がゆっくり流れるような感覚に陥る。

 

 こんな何もない所で、何が足に引っかかったって言うんだろう? 

 

 視界の隅、地面の端っこに何か箱のような物が纏まって置いてあるのが見えた。

 あんな物どこにでもあるような、ただのごみの類。粗大ごみ。

 でも何故か目について、あれは何だろうと止まったかのような短くも長い時間の中で思考してしまう。

 

 

 

 箱からは赤い線が伸びていて、そこでようやく私の足に触れているのがその線だという事に気が付いた。

 一言に線、と言っても物理的な紐じゃない。赤いレーザー状の光。

 足が物に引っかかったと言うより、第六感が悪さをして足がもつれたというか。

 

 

 突然、横殴りの衝

 

 

 

 

 

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