おっさんin幼女はロックベアを守った   作:親友気取り。

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#5 禍王暴君

 ステルスミッションはなし。

 というのも戦況はどちらかというと何だか終わりかけならしい。俺を殴った連中と同じ格好をした奴が撤退してたり、あるいは回収も治療もされずまばらに倒れていた。

 死んでる……のかは詳しく調べてる時間もないし、かわいそうに思えるが兵士となった以上は戦場で死ぬ覚悟もしてる筈だ。……死人が少ない方を祈るが……。

 

 心を痛ませながら進み、ようやく前線へたどり着いた。

 人数は少ないが小競り合いしていることに変わりはない。

 レユニオンの兵士を踏んで飛び越え、大盾を構えたオレンジ髪眼鏡っ子の前に着地する。

 突如として戦場に現れた俺に驚き、そして攻撃を加えない事に再度驚いたようだ。

 少なくても理性的ではある。昨日の奴らは寝てるやつぶん殴ってたからな。

 

「ちょいとあんたらに話があるんだが──」

「どいたどいた!」

「──ドワァオ!?」

 

 なんか横にいた消防士っぽい奴にいきなり放水されたんだけど! 

 いいグッバイファイアだ! 水圧すげぇなおい! 

 そして吹っ飛ばされた先は都合よく崩れて崖みたいになってるぅ! 

 

「うわぁー!」

 

 ほら、兵士くん達も落ちてったよ! 

 複数人同時に吹っ飛ばすなんて、とんでもねぇバーニングレンジャーがいたもんだ。

 

「小官は今何か敵とは違う者を吹き飛ばしてしまいましたか?」

「……そんな気もしますけど……」

 

 といって帰ろうとしてるけど、ちょっと待ってくれないか。

 ほら、君たち下みて下。かわいい子が崖に掴まってるよー。

 崩落して底の見えない穴へ落ちないように必死になってるかわいい子がいるよー。

 たしけて! 

 

「ビーグルさん待ってくださいやっぱり誰か落ちかけてます! ここに救護者が! 落ちないでください頑張って!」

 

 助けてくれるのかいシマリスくん! 

 

「なんでしょうこの方は別にほっといてもいい気がします」

 

 ごめんよシマリスくん! 

 

「いや助けましょうよ!?」

 

 お願いしまーす! 

 ぐいぐい。ぐえー。

 ……センキュー助かったぜ……バーニングレンジャー……! 

 

「あのぅ、もしかして、あなたはさっき急に飛び込んできた……」

「ですです。そして急に吹っ飛ばされたけど」

 

 アークスの弱点その二。武器のない状態での空中制御がクソ。

 仮に武器を持ってたとしても、空を飛ぶというより空中で留まるのが精一杯だし。

 今の俺が空中に投げ出されて何とかする方法は、回避アクションをめっちゃ連打して空中でぐちゃぐちゃする位だろう。

 そこまでしてできるのは緩やかな落下だけど。

 

「てかなんでシマリスくんはオレを見捨てようとしたし」

「シマリスくんではありませんショウです」

 

 でもなんかこう、リスっぽいじゃん? その尻尾とか。

 

「消火器噴射します!」

「マッシブハンター!」

 

 説明! マッシブハンターは40秒間ノックバックや吹き飛ばしを防ぎ、ついでに防御力も上がるハンターのスキルなのだ! 

 俺がびっちゃびちゃになるのは避けられなかったけど。

 ごめんょ。でもぼく、その耳の形付いたヘルメットはかわいくて好きだにょ! 

 

「って、そうじゃねぇ! オレはロドスに助けを求めてきたんだ、助けてくれ!」

「じゃあ、民間人!」

「分かりましたではひとまずこちらへ──」

 

 ちっがーう! 

 ちょっと離れた所に二人待たせてんの! そっち助けて欲しいの! 

 

「民間人三名……こんな所にまだいたなんて……」

「では上官と医療班へ繋げますベーグルさんは警護をお願いします」

「はい!」

 

 早口なショウは言うが早いか足も速い。色々早い。てか向こうの方が子供っぽく見えるけど上なんかね。

 大きなリスの尻尾を振りながら走っていくのを見届ける暇もなく、さっきからベーグルと呼ばれてるオレンジ髪眼鏡っ子メイン盾ネキを連れて走る。

 

 ここまで最短で駆け抜けてまだ数分と経っていないが、いつ向こうが巻き込まれるか分からない。

 あの場を動くなとは言ったがログベルが何かの匂いにつられたり、あるいはバンガーが何か勇気を出して動かないか、ともかく心配でたまらない。

 

 

 

 

 

 ──ぼん。

 

 

 

 進行方向から爆発音がひとつ。

 聞こえたのは、あいつらの隠れている場所の近くだ。

 あまり大きな爆発じゃない単発の物で、戦闘が起こったというよりトラップが起動したような……。

 ……トラップ? 

 

「今のって?」

「まさか」

 

 ここに至るまで俺の目に“トラップ”の類は見えなかったが、俺が見て判別し見抜けるトラップというのはアークス時代の物だ。

 もし仮に、リアルな戦場らしく地雷とかセンサーとかそういう俺の目に映らない見落とした罠があったとしたら。

 

 続いてばごんという破壊音が響き渡る。

 これは火薬を使った音じゃない。何かが思いっきり地面に叩きつけられた物だ。

 

「うわぁ!?」

「きゃあ!」

 

 

 同時に、進行方向から二人の人影が纏まって転がってくる。

 何が起こったのかは巻き上がった煙で見えないが、なんだ、何が起こってるんだ? 

 ログベルは、バンガーは無事なのか? 

 

「フェン隊長!」

 

 ビーグルが盾を見えない相手側へ構えて守りの姿勢に入りながら声を掛ける。

 俺もそれに続いて駆け寄り、レスタで回復してやる。どうしたんだってんだ一体。

 

「ビーグル、アーミヤさんを連れて撤退し皆と合流! あれは全員でかからないとまずい!」

 

 そんな敵が出たのかと言いかけて、煙幕の向こうから歩いてくるシルエットに息を飲む。

 

「ログベルが……なんでだ……?」

 

 大柄で威圧感のあるシルエットの端々からはスパークのようにオーラが弾け、怒りしか感じられない目がただ事じゃないのを容易に想像させる。

 特に目を引くのはその両拳だ。

 確かにバンガーからログベルは拳で戦うと聞いていたけれど、黒いもやのようなものに包まれたりあんなに禍々しくなるものなのか? 

 

「うわぁああああああああ!」

「まずいっ!」

 

 ログベルが雄たけびを上げる。

 距離が離れているというのに大きく振りかぶった拳を見て、立ち上がったフェンと呼ばれた少女が危機を知らせた。

 

「逃げろ!」

 

 普段のログベルを知っているから一瞬判断が遅れ、その瞬間に吹っ飛ばされる。

 地面を殴っただけで、遠距離なのに? 

 まさか! 

 

「ショックウェーブ!?」

 

 空中で姿勢を整えて着地して後方を確認し、地面を抉りながら波のように突き進んでいく衝撃波に見覚えがあった。

 あれはかつてのアークス時代、散々戦ったファルス・ヒューナルの使っていた技と瓜二つの攻撃だったからだ。

 それを、なんで今ログベルが!?

 

「お前ら無事か!?」

「は、はい……!」

 

 流石に本家ダークファルス程の力はないのか、ぎりぎり盾を持ったビーグルが耐えきれたらしい。

 ログベルは名前からしてロックベアみたいな戦い方をすると勝手に思っていたけれど、まさかここにきてヒューナルは予想が付かないぞ! 

 そして何より、ログベルは魔法というかアーツというか、そういうの使えないんじゃなかったのか!? 

 

「何だってんだよ一体……!」

 

 バンガーに何が起こった? さっきの、最初の爆発は?

 どうしたらあのログベルが、ここまで怒り狂う? 

 

「がぁああああ!」

 

 ログベルの巨体が高く跳び上がり、赤黒い光と共に蹴りが迫る。

 こんな所までヒューナルに似せなくても! 

 

 タイミングを合わせてステップを踏みすれ違うように攻撃をすり抜け、背後に回った俺に反応して放たれた振り向きの後ろ蹴りを腕を犠牲に防ぐ。

 想像を超えるあまりの重さに折れたかのように痛むが、泣き言は言ってられない。

 続いて繰り出された両腕の殴りかかりを気合で見切り避けて掻い潜り、ビーグル達が立ち直ったのを確認して地面にイル・ザンを放ち砂埃を巻き上げて視界を塞ぐ。

 

 半透明の球体のようなバリアにログベルの身が包まれるが問題ない。攻撃目的ではない。無視して横を走り抜ける。

 ログベルがどうして暴れているのか。姿を見せないバンガーの身は無事なのか。

 

 バリアを解いた瞬間にゾンディールを発動し、巨体とはいえ人の身に変わりないログベルの体は簡単に吸い込まれた。

 

 シャトルランのように再び走り、最初にログベルが出てきた路地へ向かって走る。

 

 背後で戦闘音が続く。ベーグル達にターゲットを擦り付けた形になったのは本当に申し訳ないが、ちょっとの間でいい。何とか耐えてくれ、頼む。バンガーの身を確認したらすぐに行く。

 こうなったのは恐らく、最初の爆発を食らったか何かだ。

 早く回復しないと手遅れになる。

 

「バンガー!」

 

 形容し難い臭いのする場へ踏み入る。

 そこにいたのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 姉らしくもっとしっかり声を上げて止めれば良かったのだろうか? 

 それとも、痛いと苦言を申し立てずじっと手を握ったままだったほうが? 

 

 

 後悔は遅く、伸ばした手は虚しく虚空を切り、止める叫び声は爆発音にかき消された。

 クレイモア地雷。センサーに触れれば爆発する、単純でありながらも不意を突かれれば簡単に引っかかってしまうもの。

 

 バンガーは気が付かなかった。

 目先の未来に気が緩み、誰かが作って設置し放置したそれにあっさり引っかかってしまった。

 

「あ、ぁあ……」

 

 ログベルは気が付いた。

 しかしそれが足元にあると分かり止めようとした時にはもう遅かった。

 一瞬光って、次に見た時そこに誰も立っていない。

 変わりに人の形だった物がひとつ、路地の隅っこで無造作に転がっていた。

 

「ねえ……バンガー……? ……ねえ……?」

 

 硝煙や鉄の臭いが混じり局所的に充満する空間へお構いなしにふらふらと歩み入り、ログベルは地面に横たわるそれを抱きかかえる。

 今でも微かに痛みが残るほど強く握り締めてくれていた左手は肘からなくなり、つい一瞬前まで自分のために明日のためにと色々考えてくれていた頭は真っ赤に染まり。

 何かを言いたげな表情で固まったその顔は、その目は、最期に何を見たのだろう。

 

 

 もう生気は感じられない。

 せめて苦しみを知らなかったのがせめてもの救いだろうか。

 

 救い? 

 もう少しで助かると希望に満ちていたのにも関わらず、無慈悲にそれが覆されたというのに? 

 

 

「ぅう……」

 

 

 足音を聞いてログベルが顔を上げる。

 そこにいるのは誰だ。

 バンガーを殺したのは誰だ。

 お前か? 

 

「ぅぁああああああああ! がぁあああ!」

 

 立ち上がり、拳を握りしめ、見えた人影に向かって走る。

 

 誰でもいい。

 この怒りを、悲しみを、バンガーの仇を。

 誰よりも愛おしく、自身の分身のようにかわいかった妹の仇を。

 

「お、落ち着いてください!」

「アーミアさん下がって!」

 

 振り上げた拳を振り下ろす先はどこだっていい。

 ただ何か、眼前の敵を壊せれば、それが八つ当たりだとしても。

 

 

 そうしてログベルは、眼前の人間へ襲い掛かった。

 

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