おっさんin幼女はロックベアを守った   作:親友気取り。

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#6 どうせ何も救えやしない

 バンガーは確かにログベルの為に命は捨てられるとは言った。

 そうは言ったが、それはこの結末は望んでのものとは違うだろう? 

 

 

 

 あの時、二人を連れて進むのが正解だった。

 俺がすぐそばにいて、目の届く所で、何かあってもすぐに守れる位置にいる。護衛とはそういうものなんじゃないのか? 

 けれどそうせずに助けを呼んでくるからそこで待ってろと言ったのは、もし守り切れなかった時に自分のせいでという責任から少しでも目を逸らしたかったからなのかも知れない。

 

 つまりは何があっても守りきろうという覚悟ができてなかった。

 何が力無き者の剣となり盾となる、だ。

 盾が逃げて守る対象が死んだだけじゃないか。

 

 

 

 昨日会ったばかりとはいえ、何度も会話を交わして言葉で遊んで、抱き締められて。

 ほんの数分、ほんのついさっきまで仲良くして明日を信じていたバンガーが、今日の夕暮れすら迎えられず目の前に転がっている。

 左側から爆発をもろに食らったであろう半身の皮膚と肉は無惨に剥がれ、じわりと血の滲んだ姿でそこにいる。

 体の出血が少ないように見えるのは、心臓が動かないせいで血が輸送されず吹き出ないからか。

 ただし千切れ飛んだ腕の断面からは例外に、ぼたぼたと少しずつ液体が垂れ小さな水溜まりを作っている。

 

 

 見開いたままの目には光はなく、開いたままの口は悪態の一つも言ってくれない。

 その表情はぴくりとも動かない。

 

 ──目の前には一つの死体が落ちている。

 様々な臭いの混じった、唾液が喉の奥に引っ掛かり染み付く嫌な感覚の空間の中心に、一つの死体が転がっている。

 

 

 

 これは、誰のせいだ? 

 

 

 

 俺は頑丈で、弾丸を浴びせられようが爆発しようが海に沈められようが、そう簡単に死にやしないし傷はすぐ治せる。

 だけど、そんな元がアークスだった故なのかギャグ補正なのかわからんが不死身と言えるほど頑丈な俺と違い、種族値があるとはいえバンガーとログベルは生身だ。

 

 もし万が一、目の前で敵から攻撃を食らえば。

 もしあいつらが何か一発でも食らったりすれば。

 そうなった瞬間を見たくない。

 

 口から出たのは、二人を置いて走ると言うものだった。

 

 それは安っぽい保険の、守ると誓いながらも死から目を背けたいだけの提案。

 自分で提案した物をこれでいいかと確認したのは過去の経験もあるが、大部分は目を自分都合の入り交じった偽善的な策を容認してくれと頼み込んだに変わりない。

 俺は確かめた。しかしそれは、最善を尽くすためでなく、何かあっても勝手に動いたお前らが悪いんだからなと言い訳するために。

 

 

 自分が嫌いになる。

 子供達や仲間には笑顔でいて欲しい、平和の為なら俺はいくら傷付いたって構わないから──なんて軽々しく考えているのに、覚悟なんざこれっぽっちもできず、隙あらばそうして誰かに責任を擦り付けようとする。

 

 前の経験で俺一人では何も救えないと散々思い知ったはずなのに、何の学習もせずまた安易に人を助けようとして、そして今度は取り返しのつかないこれだ。

 最低最悪の結果。

 

 

「リバーサーフィールド……」

 

 

 当然、死人が都合よく蘇るはずもない。

 戦闘不能とは違う。完全なる死。

 

 

 心の中で自分に問いかける。

 言い訳を用意したんだろう? じゃあ誰のせいだ? 

 その答えは決まっている。

 何の事はない、全て俺のせいだ。

 

 

 薄っぺらい言い訳が通用するべくもなく、戦場で二人から離れた時点で全てが悪い。

 護衛中に護衛対象から遠く離れる奴がいるか? 

 

 それに俺が提案したところで最悪な結果になると自覚しておきながら、素人に判断を求め反対がなければじゃあ良しとした俺の責任だ。

 後悔しかない。

 俺自身の死をもって償いとしても、それは俺の自己満足だろう。

 

 俺はどうすればいい。

 どうすればこの罪を償える? 

 そもそも償える物だと思っているのか? 

 

 破壊音が鼓膜を揺らし、ぱらぱらと飛んできた小石が頭にぶつかる。

 

 後ろを振り向けば、そこでは我を失ったログベルが暴れ続けていた。

 愛する妹を奪われた怒りをぶつける先の分からないログベルが、ずっと暴れ続けていた。

 

 

「……オレのせいだ……」

 

 

 憎悪に支配されたログベルが、妹の仇を求めて拳を振り下ろす先を探している。

 バンガーを殺したやつを探している。

 バンガーを殺したのは誰だ? 

 

「……オレが殺した」

 

 間違いない。俺が殺したんだ。

 だから俺の事を気の済むまで殴ればいい。それは八つ当たりじゃない。

 正気の無い目をしたログベルが言葉に反応し、ぐるりと首を回して真っ直ぐにこちらを見つめる。

 それでいい。俺は簡単に死ねやしない。

 

 

 まずは気の済むまで殴れ。

 

 罵倒も乗せたっていい。

 

 それは正当な事だ。

 

 

「う、ぅう……ああ!」

「……」

「──ッ!」

 

 だが、ログベルの拳は、止まった。

 俺の目の前で震えながら止まっている。

 風圧だけが前髪を揺らした。

 

 俺を見て、はっとしたかのように涙を浮かべて拳を止めた。

 

 なぜ止める。

 

 俺がバンガーを殺したんだぞ! 

 馬鹿な俺の判断ミスが、お前らを置いて走った俺が! 

 憎んで殴れよ愚かな俺を! 

 

「……できないよ……」

「なんでだよ……!」

「リコは……悪くないから……」

 

 涙を流し項垂れたログベルが、その大きな体よりも小さな俺を包み込むように抱き締めようとする。

 

「やめろ!」

 

 払いのける。

 俺はお前に優しくされてもいいような、そんな人間じゃない! 

 

「……お前がそうしないのなら……オレは……」

 

 痛めつけられて満足に近づくのは、どちらかといえば俺か。

 ログベルが俺を傷付けまいとし許そうとする程に優しいのであれ、しかしそれを受け入れる事は出来ない。

 

 だが、だからといって俺はどうすればいい? 

 俺はどうすれば、バンガーの死に報いる事ができる。

 どう責任を取れと言われて取り返しのつかないものを。じゃあどうしろっていうんだ。

 

「あの……」

 

 バンガーの亡骸を囲んだ暗い沈黙に不釣り合いな少女の声が届く。

 ウサギのように長い耳をした、ログベルと並べば小さいが俺よりも背丈は少しある少女だ。

 背後には俺と話したベーグルやショウの他にも武器を持った連中を従えている。

 ロドスの中でも発言力を持つ人間という事か。

 

「……ログベルの保護と、バンガーの弔いをしてやってくれ」

 

 俺は、いい。

 ログベルの傍にいられるような、あるいはロドスに保護されるような、甘えた事は出来ない。

 確かに本心で言えばもう戦場に関わらず引きこもり、誰の死のきっかけにもならないように閉ざされていたい。

 

 

 だが、そんな事はしてはいけない。

 何の罰にもならず、むしろのうのうと生き伸びている事に他ならないから。

 

 

 俺は苦しまなければならない。

 死よりも重く、死よりも辛く、死すら生温く。

 それしかバンガーに報いれられない。

 

 その選択も自己満足か? 

 何もしないよりはいい。

 

 

「待ってください!」

「リコ!」

 

 

 その場を走って逃げだす。誰も追いつけない程の全速力だ。

 ただの人間程度あっという間に置いてけぼりにできる。

 

 

 剣を持ちたくない? 戦いたくない? そんなもん我儘だ。

 ならば今はむしろ自身が否定をする、その戦いを繰り返せばより苦しめる。

 敵はレユニオンだって、あるいはロドスでも構わない。

 重罪人と化し世界全てを敵に回せば、俺が望み世界も望む最悪で最高の結末を迎えられるだろう。

 

 

 震える手で床を転がる鉄パイプを拾って握り、見つけたレユニオンの兵士に殴りかかる。

 嫌悪感がすっからかんの胃から酸を巻き上げ息が詰まり視界も歪むが、それでいい。

 

 殴り、殴られる。

 そんな程度で俺は死なないし、そして俺は敵も殺さない。

 殺さない程度に暴れて、回復させ、顔を覚えさせ、次の戦いへ。

 

 こうして戦いを続けよう。

 そうすればいつか。いつか。いつか──。

 

 

 

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