おっさんin幼女はロックベアを守った   作:親友気取り。

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#7 ロックベア

 ロドス・アイランド製薬。

 製薬会社の名の通り表向きは本当に製薬会社として経営や鉱石病(オリパシー)患者の収容を、そして裏では私兵部隊を率いてレユニオンと戦闘を繰り広げている。

 なぜ私兵部隊を所持しているのか。それには様々な理由があり一応はログベルもその説明を受けたが、自分に関係のない事だと頭には入れなかった。

 

 少なくてもここで戦って敵を蹴散らして、そうすれば居場所はある。

 衣食住が保証されているのなら問題はない。

 

 一応戦っているのは製薬会社の裏の側面であり表沙汰にはできない。

 それゆえに戦闘員にはコードネームというものが与えられる。

 

 

 “ロックベア”

 

 

 ──それが、ログベルに与えられた新たな名前だった。

 

 

 

「……」

 

 誰かのお下がりで与えられた機械仕掛けのナックルに力を込め、地面を殴れば衝撃波(ショックウェーブ)が敵を襲い、それを乗り越えてきた相手には恵まれた体格から繰り出される体術と言う名の暴力を見舞う。

 野性味溢れる防御をかなぐり捨てた接近戦闘は危なっかしい事この上ないが、今のところは目立って大きな怪我も見られない。

 命を投げ出すような戦法をやめろと医療班だけでなく、現在所属している部隊の隊長にも言われてるが。

 

 

 そう。ログベルは誰にも見せなかっただけで道具を使わずに、それも自分で完璧にコントロールできる程にアーツを使える。

 バンガーと同じく源石病(オリパシー)感染者なのだ。

 リコが評したように衝撃波もバリアも張れるその攻撃パターンはファルス・ヒューナルと同様の物だが、オラクルの戦いを知らないログベルにとっては偶然なだけで知った事ではない。

 

 

 

 源石病(オリパシー)となってしまったのは、時期的には妹であるバンガーと同じだろう。

 味覚も嗅覚もなくなったのをきっかけとして自覚してしまった。

 ただあの状況下で、これ以上バンガーを疲弊させるような事はしたくなく黙って隠してしまった。

 

 自分は守られる対象の、手間のかかる馬鹿でアホな姉だから。

 それで妹の精神が保たれているのならそれでいい。とことん馬鹿でいよう。……そう思って。

 狙い通りバンガーは自分を病に冒されていないと思い込み、自分の代わりに生きて欲しいとまで言ってくれていた。

 そこまで想ってくれているのはうれしい事だ。だけれども、嘘をつく事に心を締め付けられる。

 いつかはバレる嘘。だけど、落ち着くまでは……。そう思っていたのに……。

 

 

「やっぱりアタシが見込んだ通り、ログベルはガタイもいいし拳もいいじゃねぇか!」

 

 

 味の分からない舌で食事を終えて、部屋へ戻ろうとした時に声を掛けられる。

 昔の知り合いの、ここではビーハンターと呼ばれている人物だ。ログベルとは違う道を辿ってロドスへ来たらしい。

 コードネームを思いっきり無視して本名で呼んでいるが突っ込む気にもならない。

 

 引き止められるがままに席に引き戻され、座らされた。

 今日は休んで明日も戦いたい。

 それに何より──。

 

「──聞いたぜ。レッドリングを探してるんだろ?」

 

 そう。あの時、あの場から消えてしまったリコを探したい。

 今やロドスとレユニオン双方からレッドリングと呼ばれ、恐れられている妹分を。

 

 あれ以来リコは戦場のあちこちで永遠と闘争を続けているらしく、時折どこかで壊滅したレユニオンの部隊が見つかったり、あるいは味方であるロドスの部隊にも問答無用で襲い掛かったという話も聞く。

 暴れた後には決まって血か何かで赤い円のシンプルな痕跡を残すため、赤い輪(レッドリング)と二つ名が付くのにそう時間は掛からなかった。

 

 それはまるで“オレを探せ”とも“オレと戦え”とも、はたまた“早く殺せ”とも言っているようで……。

 

 リコは自身を許せないあまりもう敵はなんだって構わず暴れ続けているのだろう。

 誰も悪くないというのに。

 だからログベルは姉として、妹分を止めないといけないと駆られていた。

 もう二度と、妹を失いたくないから。

 

 

「そんな顔すんなってほら、センパイから奢るからよ」

「いらない」

「あー……食べても味が分かんないんだっけか。でもほら、な? ……食えよ!」

 

 ぐいっと口に何かを突っ込まれた。

 抵抗もなくそのまま食べる。感触からして魚だろうか? よくわからない。

 もう食事に対し笑顔でおいしいと答える事はしなかった。

 伝える相手も、馬鹿を演じる必要もないから。

 

「わたしは、リコを止めないといけない。だから、明日も──」

「そんな状態じゃ会っても勝負にもなんねぇぜ? ……てかさぁ……」

 

 言いにくそうにビーハンターが視線を食堂の入り口に向けると、そこにはかつてはラーダと呼ばれ今はグムと言う、ロドスに保護された学校の友人がいる。

 ビーハンターはグムに頼まれて、何とか休んでくれるように説得をしにきたのだ。

 バンガーの件もリコの件も聞いているし、ログベルまで無理をして死んではいけない。

 

 言葉に詰まったのを会話も終わりとしてログベルは席を立つ。

 早く、リコを見つけないと……。

 

「ともかく、ちゃんと休めよ! 喧嘩相手がいなくなるのは嫌だからな!」

 

 

 

 

 

 ――数日が経った。

 最終的に無理を続けようとした結果、倒れこそしなかったが過労につきという理由で前線から強制的に外されてしまった。

 実際の理由は違うのだろうが、戦いに赴けない事に違いはない。

 納得のいかない暗い顔で裏方作業として回された仕事に一段落着け、言われるがまま休憩室へ足を運ぶ。

 

 手近な一人用のソファに座ろうとして、そこに誰かが眠っているのを見てやめた。

 小さな背丈の、自身の種族名がそのままコードネームとなりドゥリンと呼ばれている少女だ。よく寝ているのを見かける。

 

「あ……」

「ん?」

 

 どうしようかと視線を巡らせると、どこかで声がした。

 小さな声を探して下を向くと、二人掛けのソファにフードを被りぬいぐるみを抱えた子供がいた。

 

「あの、座りますか……?」

 

 ログベルと目が合うとおずおずといった様子でソファを詰め場所を開けてくれる。

 ──確か、ポプカルって名前だったっけ?

 きちんとした挨拶をした覚えはないものの、たまに見かける。

 

「ありがとう」

「ううん、疲れてるみたいだから……」

 

 とりあえずお礼を言って空いた席に座って、沈黙が流れた。

 近くではドゥリンが寝て、横ではポプカルが勉強をしている、のんびりとした空間。

 もしバンガーが生きていて、リコがここにいて、そうだったらもう少し騒がしくなったんだろうか? 

 もし、もしそうだったら……。

 

「……そこの計算、間違えてるよ」

「あ。ほんとだ」

 

 なんとなく目に入ったので教える。

 ログベルは普段から馬鹿なふりをしていただけで地頭が悪いわけではない。むしろバンガーも分かっていたように、記憶力はとても良い。

 事件が起こる前の学校では、怠けて成績を落とすことはよくあったが。

 

 

 ふうと息を漏らして、落ち着いた精神で今自分が何をするか考える。

 今生きている自分のすべき事。

 自分は焦り過ぎていた。その反省も含めて思案。

 

 バンガーは救えなかった。リコも失踪した。

 ここには子供がいて、自分には力がある。

 

 今、自分に何ができる?

 

「……」

「わっ」

 

 無意識にポプカルの頭を撫でてしまった。

 慌てて手をどけて、なんでもない風を装う。

 

 ――戦いを続けよう。

 ただし今までのように、そしてリコのように、自分を追い詰め過ぎるのは駄目。

 生き残った自分を、誰かの為に生かし繋げよう。

 バンガーが命を繋げようと、そうしたように。

 

「あの、あれなんで傾いて、お、重い!」

 

 ログベルもといロックベアの身長、なんと驚異の178cm。

 144cmのプポカルはなすすべもなく押しつぶされ──

 

「えいっ!」

 

 ──る事はなく、意外と怪力なポプカルに引きはがされ床に落ちた。

 どすんと大きな音がして地面が揺れ、寝ていたドゥリンが滑り落ちて上に乗る。

 

「ははははは! わっはははっ!」

「えぇ……」

 

 何が楽しいのかログベルは笑う。

 その光景を見て、ポプカルはただ困惑するしかないのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「……ん……?」

 

 柔らかいソファの感覚と、かけられた毛布の温かみを感じながら目覚める。

 いつの間にか眠てた……。

 

「ここ、どこだ……?」

 

 荒れ果てていない近代的な家。遠くから聞こえるとんとんという料理の音。

 なんてことはない。

 こんなに平和な場所は八神家以外に……。

 

「――寝ぼけてるのか?」

 

 頭上から声を掛けられた。

 そちらへ視線を向ければ、呆れたような顔でシグナムが覗き込んでいた。

 

「ここ、家だよな? 日本の」

「昼からずっとそこで寝ていたぞ。うなされていたし体調でも悪いのか?」

「……かもな。まだちょっと休むわ」

「水でも持ってこよう」

「ごめん」

「弱ったリコも珍しいな。ゆっくり休め」

 

 頭がふらふらする。

 

 …………。

 ……どんな夢見てたっけ? 

 なんだか、とても嫌な感じだったのは覚えてるんだけど。

 

 のそのそと手を出していつもの空中ディスプレイを何となく表示させれば、ゲーム画面がすぐに表示された。

 スマホどころかケータイも普及し始めな2000年代前半にはおかしい所謂ソシャゲだけれど、他にすることもないしでやっていた“アークナイツ”というタイトル。

 ちなみに最初の名前設定をミスって登場キャラからはDr.聖戦士と呼ばれている。ドクターなのか聖戦士なのか意味が分からない。

 

 しかし、寝落ちするまでしてたんかね?

 直前の記憶がないのであれだけど。

 

「……いるかな」

 

 何となく何かが気になって、手持ちのキャラクターの一覧を表示。

 けれどその中には、バンガーもログベルも名前はない。

 

 ──いや、なんでそんなロックベアの派生とレア種みたいな名前の奴らを探してたんだ? 

 

「ぬーん……」

「起きたのか?」

「ようヴィータ」

 

 なんだか燃え尽きたように無性にやる気が起きないので、シグナムの置いてくれた水を眺めながらぼーっとしていたらヴィータがやってきた。

 横に座って、何かを差し出してくれる。

 

「なにこれ」

「リコの横に落ちてた」

 

 細長い棒状の、てかタクトやんけ。

 真ん中から折れてら。

 

「んー、出した覚えないんだけどな」

 

 受け取った瞬間。

 頭の中で霧が晴れるようにはっきりと、ひとつの情景が映る。

 二人の少女が助かろうと、殺伐とした世界を生き抜こうと必死に足掻く光景。

 このタクトを手に戦うもしかし散り、残された少女は嘆き、すぐその後を追い──。

 

 

 いや、そんなはずはない。おかしい。

 だってバンガーは死んでしまったのに違いはないけれど、ログベルは生き残ったはずだ。

 それがなんで、二人とも、この記憶では死んでいる?

 

 ふと出しっぱなしだったディスプレイに視線が向く。

 そこのキャラ一覧は変わらず、バンガーもログベルも映していない。

 

「リコ? おーい?」

「ヴィータ、リコは少し調子が悪いらしい」

「そっか。ごめんな」

「……ああ」

 

 空返事しか出ず、その二人の事を思案する。

 思い出せた俺の知りうる限りでは、ログベルは残ってバンガーは死んでいた。

 けれど今、この折れたタクトを通して見た光景は、二人とも死んでいる。

 

 二つの矛盾する歴史がある。

 ……このアークナイツのゲーム中に、二人がいないのは、ロドスに加入できず死亡したから? 

 

 二人が死亡するのが本来の流れなんだろうか。

 俺が干渉した結果が反映されていないのは、結局夢だから? 

 

 夢は夢、で片付けるには濃い内容だったけど。

 IFの世界、時間遡行、並行世界……。ダメだ、分からん。

 

「ごはんできたでー」

 

 夕食を知らせる声が届く。

 ディスプレイを閉じて立ち上がり、伸びを一つ。

 もやもやとした気持ちを抱えたままふと窓を見ると、反射して映った鏡の世界の中に全く別の光景が見える。

 

 ソファの真下の床で、ログベルが子供に囲まれて笑っている姿だ。

 

 急いで振り返る。

 誰もいない。

 いいや、正確には夕食と聞いてわらわらと集まり出した家族がいるけど、ログベルの姿はどこにもない。

 やっぱり幻覚? いや、だけどそれにしたって……。

 

 

「リコちゃーん、食べれるー?」

 

 

 向こうの世界がどうなってるのかは分からない。本当に幻なのか、あるいは並行世界なのか。

 分からないが、俺は俺の日常に戻るしかない。

 

 バンガーの死への感情は変わらないけれど、ここで暴れる訳にはいかない。

 俺は俺の日常を守る。

 

 日常を守る為に、いつもの馬鹿リコとして元気に振舞おう。

 俺に求められているのは、馬鹿で騒がしいムードメーカーの姿なのだから。

 

 

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