初投稿です。
この物語をお読みになる前に、
お願いがあります。
これから、夜がやってきます。
どんなに不安でも、心細くても、
夜から逃げないでください。
よろしいですか?
あなたは、ひとりじゃありません。
その手を握ってくれる、あなたにとって大切な手を、
ぜったいに、はなさないでください。
約束できますか?
本当ですか?
黄昏時、この町の夕焼けはあまりにも赤い。
まるで太陽の光が血の海を透き通り、それから地上を照り付けている様だ。この赤い光に満たされた道を歩くと、自分が血管の中にいる様な錯覚さえ覚える。
この染みつくような赤色の空の下、町の北にある裏山の山道で、一人の少女と一匹の子犬が電柱の明かりの下で佇んでいた。
「……」
珍しい、小麦色の髪をした小学生程の少女だ。前髪を左右に分け後ろで三つ編みにまとめた髪を首筋に垂らし、少女の頭に結ばれた大きな青いリボンが、少女の幼さを際立させている。
上には薄藤色のシャツを着、下には藍色のスカートを靡かせ、背中には可愛らしい兎のナップサックを背負う。首元には、紐で結ばれた懐中電灯がぶら下がっていた。
じぃ、じぃ…
電灯が、息を立てる。
ばちっ。
虫が飛び込む。
それを払うようにパチリ、パチリと、明かりが瞬きをするが、少女は気にも留めない。
少女は俯いたまま、何かを考えている様だった。
少女の左半分は、電柱の明かりから外れ、
よく、見えない。
「……」
もうすぐ夜が来る。
少女と子犬が電柱の明かりから切り抜いて生まれた影は、日の当たらぬ外側の陰に同化しつつある。陽の酸漿色に少しずつ、黒色が混じり始める。
血液が酸素を失って黒く染まっていく様に、
空の赤色は光を失い漆黒に染まって行く。
パチリ、パチリ、とまた明かりが瞬きを始めた。
「……」
少女は、動かない。
闇が、満ちて行く。
「……」
じぃ……じじ…
「………」
じぃ……
「……………」
ばちッ!!
「アンッ!」
「うわあっ!」
少女は突然発せられた子犬の鳴声に驚き、あどけない声を上げた。少女は眠気を覚ますように頭を数回横に振り、子犬の方へ向くと、子犬が、少女を気つかせるような顔をしていた。
子犬は急かす様に尻尾を忙しなく振っている。
「そうだよね…」
「急がないとね…」
「アン」
少女は首からぶら下げてあった懐中電灯をつけた。夕焼けに沈む山道を進む準備を整え、電柱の明かりから飛び出した。子犬も少女の後に続く。
ざくざくざくざく。
ちゃかちゃかちゃかちゃか。
二人の足音が、山道を駆ける。
少女と子犬は蛇の様に曲がりくねった道を歩く。
今にも抜けそうな木板の橋を踏みしめる。
前へ、前へ、
ざくざくざくざく。
ちゃかちゃかちゃかちゃか。
少女と子犬は、ぎしりと鳴った古い木箱を踏みつけて坂を上る。
もっと、もっと。
ざくざくざくざく。
ちゃかちゃかちゃかちゃか。
少女と子犬は、鬱蒼とした竹藪の中を突き進む。
先へ、先へ、
まだ先だ。
竹藪を抜けると、少女は大きく開いた場所に出た。この町を一望できる頂上。真っ赤に染まる町とそれを染める太陽が一斉に顔を出す。四角く縁どられた町の陰と、ぎらぎら、生臭く輝く夕日の対比が目に悪い。
ひゅるり、と一条の風が少女の頬を撫で、小麦色の前髪がふわりと浮き上がった。
少女は立ち止まり、目を閉じて耳を澄ませる。
遠くで烏の声が聞こえる。
夏の頃、あれ程うるさかった蝉の声は風の音が聞こえる程疎らになり、うとおしい程の熱さと湿気は、いつの間にかからりとした心地よいものに変わり、生き物が作る独特な山の生臭さは、その生き物たちの命と共に、世から去り始めていた。
もうすぐ夏が終わる。
「もうすぐだね」
「アンっ」
目的地はすぐそこだ。
少女は子犬に目配せをした後、一斉に走り出した。
ざくざくざくざく。
ちゃかちゃかちゃかちゃか。
落葉を踏みつける二つの足音が駆ける。
背景の夕日が、走る少女の姿を緋色の空に焼き付ける。
黄昏に焼かれる町の背影も相まって、絵本の一幕の様な幻想的な風景が流れてゆく。夕日のオレンジ色と焦げ付いた黒色の風景の中で、少女の胸元の懐中電灯の丸い明かりが少女の歩みに合わせてゆらゆらと踊った。
後ろの眩い夕日と対比されて、
まるでそれは小さな月の様に見えた。
走って、走って、走って。
そして、辿り着いた。
「…来たよ、ユイ」
少女は山道の端に咲く、白い花を蓄えた枝の横で立ち止まった。背負った桃色のナップサックを開き、赤い花を取り出し地面に置く。
夕日に照らされて、その花はより赤く、鮮やかに見えた。
「はい、これ……きれいでしょ?こともせんぱいからいい場所をおしえてもらったんだ」
少女はそこに誰かがいる様に、頭一つ高い、枝に向けて話しかける。
表情は柔らかい笑顔。しかしそれはどこか取り繕ったものである様に見えた。足元の子犬が、少女を心配そうな顔で見守っている。
「それで、それでね、」
少女は次の言葉を紡ごうとするが、中々それが出てこない。
「…今日は、」
もう一度、少女は試みるが、やはり言葉が出てこない。少女の笑顔が崩れ、泣きそうな顔に崩れて行く。少女の喉の奥から、熱いものがこみあげてきた。
「……今日は」
言葉を出そうとしても、震える喉が、熱さがそれを許さない。何故だろう、少女は今日の為に決心した筈なのに。少女の、自分の決意はこの程度のものだったのか。
やはり自分には、友が一緒にいなければ駄目なのだろうか。
少女の目尻に涙がにじんできた時、
「アンっ!」
…子犬が、少女を気つかせた。
「……くぅん」
「…そうだよね……こんなのじゃだめだよね…」
少女は右の手で涙を拭きとり、きりとした目で再び枝と向き合った。
一度こみあげた喉の熱さは中々引かない。しかし少女に、先ほどの様な迷いはもうなかった。
少女が語りかけるは、
「ユイ」
「今日はね、」
「さよならを言いに来たんだ。」
この場所で命を絶った、親友へ向けて。
もうすぐ夏が終わる。
今日が夏休み最後の日。
少女、ハルがこの町にいる最後の日だった。
「ユイ、わたしたちは確かに友達だったよ」
少女は真っすぐとした声で告げる。
「でもね、わたしとユイの関係はいい友達の関係とは言えなかったと思うんだ。
わたしはいつもユイに守ってもらうばっかりだった。少しのつらいことでもわたしは泣いちゃって……でもそのたびにユイがなぐさめてくれた」
「…でも、これってひどいよね。
ユイにもわたしと同じくらい、泣きたいくらい、つらいことがたくさんあったはずなのに。わたしはユイを助けてあげられなかった。つらいこと、悲しいこと……わたしも気づこうと思ったら、気づけたはずだったのに……」
少女が俯き、幼い顔に影が差す。
「…後になって気づいたよ、でも、」
「遅すぎたんだ」
それは少女が犯した罪に対する懺悔だった。
もう取返しのつかない、重い重い罪。
俯く少女と樹の間に、生暖かい風が通った。花がはためき、少女を責めるように不気味にさざめく。足元の草が波を打ち、枯葉が舞った。秋雲が夕日に被さって、あたりのオレンジ色が瞼を閉じるように消えてゆく。
光は去り、残るのは闇。
少女は堪らなくなって枝から目線を逸らし、顔を沈めたままこちらへ振り向いた。
こちらへ振り向いた少女には、本来あるはずのものが、ない。
少女の左手は、何かで断ち切られた様に手首から先がなかった。
それは少女が犯した罪に対する罰だった。
友を裏切った事への、重い重い罰。
しかし今の少女の瞳には、その罪の意識を上回る程の強い決意の光が宿っていた。
それにこたえる様に、夕日に被さった雲が消え、オレンジ色の光が満ちて行く。
「でもね、ユイ、わたし思ったの。わたし、ユイみたいになりたいって。
わたしもつらくて泣きたいような友達を、ユイがやったみたいに助けてあげたい!
もちろんわたしだけが助けるのも、だめ。わたしもつらい時は助けてもらう。それが友達同士で支えあうってことでしょ?
あと友達の友達が『そういうこと』をやっていたら、取り返しの付かなくなる前に、止める。もうこんなことは見たくないから…」
少女はそこで顔を上げる。
少女は笑顔だった。涙袋が腫れ、顔が真っ赤に染まり、喉が痙攣している。
それでも、少女はどうしようもないほど笑顔だった。
「……どう?ユイ?わたし強くなったんだ。わたし、今度は守ってあげる側になったの」
「だから、安心して」
「ユイがいなくなっても大丈夫」
「いままで、ありがとう。」
そして告げた。
「さよなら」
「またね」
少女はあの日、言えなかったさよならを今、告げた。
少女は強くなった。
「アンっ!」
「ははっチャコ、大げさだよ」
茶色の子犬が少女の周りをぐるぐる回る。まるで少女を褒めている様に。
少女はそれに、恥ずかしそうに笑ってかえした後、ナップサックから赤いリードを取り出した。
後は子犬にリードを付けて、家へ帰るだけ。
それだけのはずだった。
「アンっ!」
「チャコ!?」
少女の赤いリードから逃れ、何かを思い出した様に子犬が元来た道へ突然走り始めた。少女はそれに驚きながらもナップサックにリードを押し込んで、子犬の後へ続く。
「…チャコっ」
「………」
「どうしたの!?」
「………」
少女の問いかけに子犬は何も返さず、ただ先を目指して走り続ける。
ちゃかちゃかちゃかちゃか。
ざくざくざくざく。
落葉を踏む足跡が、無機質に山に木霊する。先ほどとはあべこべの順番だ。子犬が先へ行き、少女がそれを追う。
後ろの夕日が、山の辺に差しかかった。町を焼くオレンジ色の光が引いていき、角ばったコンクリートが本来の冷たさを取り戻し、町が、闇に沈んでゆく。
隣を通り過ぎる頬を撫でる風がますます冷たくなっていく。
懐中電灯の照らす先以外、ほとんど何も見えない。少女の後ろに舞う、落葉の音すら不気味に聞こえる。
光が去って、闇が残る。
昼が去ってゆく。残光の中の暗がりの追いかけっこは夕焼けの幻想は消え、ただ不気味に見えた。
少女の首元の明かりだけが、楽し気に揺れている。
──もうすぐ夜が来る。
「…」
不意に子犬が、道を半ば程まで進んだ所で足を止めた。その脇にあるものを見て少女は息を止める。少女の視線の先には四角く、白い石に縁どられた洞穴へ続く入口があった。
照らす懐中電灯の丸い光が、その内に溜まる闇を削ろうとする。だがそれは能わず、逆に闇が吹き出てくるような錯覚さえ覚える。
周りに転がる、鋭い刃物で切断された様な不自然な石片がその存在をより異様に引き立たせていた。
「チャコ……、どうしたの?」
「………」
少女はそれから少し離れた場所から問いかけるが、子犬からの返事はない。しかしその代わりに、ゆっくりと、子犬が少女へ振り向いた。
普段と変わらない、かわいらしい子犬の顔だ。
しかし、少女は何かを感じ取っていた。夜に潜む、ナニカの気配を。
「………チャコ?」
「………」
少女は再び問いかけるが、子犬からの返答はやはりない。少女が見つめる子犬の顔も、山に沈んだ太陽の光がますます弱まって、闇に塗りつぶされてゆく。
闇に塗りつぶされた子犬の顔は、真っ黒なのっぺらぼうの様にも見えた。のっぺりした顔に見つめられて、少女は背筋が冷たくなるのを感じる。
「…」
「…」
少女が沈黙に耐えかね子犬の傍に行こうとした瞬間、突然子犬が洞穴の中へ飛び込んだ。
「どこ行くの!?」
洞穴の闇に消えていった子犬。しかし少女は、子犬を追って中に入ろうとはせず、ただその場に立ち尽くす。
しない、のではなく、
出来なかった。
少女の首筋に、冷や汗が伝う。
体は震え、顔は青い。
懐中電灯を持つ手が震える。
「………」
少女はこの場所に嫌な思い出があるようだった。
嫌な、嫌な思い出が。
「………」
───もうすぐ夜が来る。
───あなたをさらいに。
突然、辺りがスイッチを切った様に暗くなった。
少女ははっとして辺りを見回す。原因はすぐにわかった。
太陽が、完全に地平線に沈んだのだ。
懐中電灯の光以外の、微かな光さえ消え失せる。しかしそれは元々微かな光だ。消えても、それほど消える前と変わらなかった。
だが、それだけのはずなのに、
草木は不気味を纏い始める。
周りの木々の間に、誰かが潜んでいそうで、
草むらから、誰かが此方を覗いていそうで、
下から誰かが、足をつかんできそうで、
あとを吹く、
風の音すらおそろしい。
「……っ!」
少女は堪らなくなった様に、洞穴の中へ飛び込んだ。
闇をかき分け中を照らすと、
少女がここへ帰ってきたことを喜ぶ様に、闇が沸き立つ。
ざあざあ波打つ花々は、人が手を振っている様だった。
──おかえり。
──おかえり。
──おかえり。
おかえり。
そう言っている様だった。
少女は脇に立つ人々から顔を背けて、ひたすら先へ進み始める。少女の振り回す懐中電灯の光が、がむしゃらに暗闇を彫り進めて行く。逸る足音と共に闇が削れる。
右へ、左へ。
左へ、右へ。
だが、いくら探しても子犬は見つからない。少女の顔がますます青ざめ、息が乱れていく。
少女の中身のない左袖がぱたぱた虚ろにはためく。
首元に揺れる懐中電灯の丸い光も、どこか不安げに見えた。
この追いかけっこが、永遠に続くのではないかと。
もう一度、友を失ってしまうのかと。
──約束を、また破ってしまうのかと。
しかし、終わりは突然やってきた。
行き止まりだ。
真っ白な巨大な壁が、少女の前に立ちふさがった。少女はその壁の周りをぐるりと照らすも、子犬の姿は見えない。ただ白い地面が、無機質に見つめ返してくるだけだった。
──そもそもこの場所に壁は存在していないはずだった。
「チャコ…チャコ……?」
少女の表情にますます焦りが満ちて行く。懐中電灯の光を振り回し、でたらめに暗闇を押しのけ削り取るが、結果は変わらなかった。
「どこ、いっちゃったの………」
少女は懐中電灯から手を放しべっとりと座り込んで、目を閉じた。
そしてあの夜と同じ様に呟く。
「…なんで、みんな」
「わたしを置いて、いなくなっちゃうの………?」
その悲壮な声を聞くものは、ほとんどいなかった。
そう、
『アンっ』
「チャコ!?」
少女の近くで、くぐもったような子犬の鳴き声が聞こえた。少女は立ちあがり再び懐中電灯を振り回し、その声の元を探し始める。そして、それは直ぐに見つかった。
少女の目の前に、大きな机があった。天板の両端が持ち上がった、黒くて、大きいどっしりとした高そうな机。その上には楕円形をした鏡が置いてある。その近くから子犬の声が聞こえてくる。
一体いつから現れたのだろうか。それとも少女が気づかなかっただけで初めからあったのだろうか。
『アン!』
「どこにいるの!?」
少女は子犬の声に導かれるまま机に身を乗り出し、鏡を覗く。その鏡に映っているのは、焦りに染まる少女の顔ではなく、古ぼけた見知らぬ回廊に佇む子犬の姿だった。子犬の声は、この鏡の中から聞こえてきていた。少女が鏡を覗きこむのと直ぐに、鏡の中の子犬が少女に目線を合わせる。二人は鏡越しに向かい合った。
『アンっ!』
「チャコ!そこにいるの!?」
少女が鏡に触れた瞬間、
視界が、光に包まれる────
===========
「………うん?」
────眠っていた意識が、少しずつ浮かび上がってくる。
ハルは埃だらけの畳から体を起こして目を開いた。何十年も眠っていたみたいにからだが重い。まるで海の底に眠っていたみたいだ。
軽く腕を伸ばしてからだをほぐしたあと、目をこすりながらハルは立ちあがる。
手のひらをなんとなくみてみると埃がたくさんついていたのでハルは手をはたいて埃を落とした。ここはずいぶんほこりっぽい。
どこか懐かしい橙色の光がハルの顔を照らす。
それにハルは顔をしかめながらも、周りを見渡した。じぶんがどんな場所にいるかわかって、ハルはちょっと困った顔をしてしまった。
「ここはどこだろう………」
埃の積もった古ぼけた畳。
ひびの入った砂色の土の壁。
どれくらい昔かもわからないくらい古い家具。
木目の入った古い木の天井。
窓から部屋に入る橙色のひかり。
それといっしょに流れ込むヒグラシの声。
ハルは古いお屋敷の部屋にいるようだった。
でも、どうしてじぶんはこんな所にいるんだろう……?
ハルはわからなくて頭をひねる。
でもそうしていると少しずつ、忘れていた記憶がもどってきた。
そうだ、わたしは山でチャコとはぐれたんだ。
ハルは急いで周りを見渡したが、もちろんチャコはいなかった。畳に積もる埃を見ても、誰かが動いたあとはない。ハル以外はこの部屋にはいないみたいだった。
──じゃあわたしはどうやってここに来たんだろう?
ハルの頭に単純な疑問が浮かんだ。誰も動いた形跡がないのならわたしはどこからこの部屋に入ったんだろう?今ハルが起き上がったあと以外、畳の埃は平たんに積もったままだ。
まるで突然ハルが部屋の中心に現れたみたいだ。
ハルはそのことに気づくと急に怖くなった。
自分が、どこか見知らぬ場所で迷子になってしまったような感じがして。
心地よく耳に入るヒグラシの声が突然不気味に聞こえてくる。
知らない人が語り掛けてくるみたいだ。
ぱちっ。
そうしているとハルの真後ろでなにかスイッチが入ったような音がした。
振り向くと首下げ式の懐中電灯が、ハルの背中を照らしていた。ハルの懐中電灯だ。少し離れた所にウサギのナップサックも落ちている。
どれもハルと同じで突然現れたみたいに落ちていた。
ハルは懐中電灯を首から下げて、スイッチのオンオフを試してみると問題なく明かりは消えたりついたりを繰り返す。
大丈夫。壊れてはなさそうだ。
次にハルはナップサックを拾うついでに、軽く中身を確かめてみる。
小石、
十円玉、
紙飛行機、
清めの塩、
ワラ人形、
その他、ハルが集めたものがそのまま入っていた。
何かがなくなったりはしていないみたい。
ハルはちょっと安心した。
ハルはナップサックを拾って背負い、そのままぴょんと軽く跳ねてみる。
ウサギのナップサックがいっしょにはねて、ハルの背中にぽんと着地した。問題はなさそうだ。
これが夜を廻った、ハルの勝負服。
これを着ているとなんだか勇気がわいてくる。
………きぃ。
と、後ろで木がきしむような音がした。
ハルがおどろいて振り返ってみると、部屋の奥にある木の扉が一人でに開いていた。
見えない誰かが扉を開けたみたいだ。
その嫌に軽い動きはまるで、ハルに手招きをしているようだった。
───ざく、
とハルは扉へ踏み出した。
──前のわたしだったら、きっと怖くて泣いていたと思う
でも、今のわたしはちがうんだ
ユイと、約束したから
友だちを守るって
だから友だちを、チャコを助けなくちゃ
ハルは扉を通って、勢いよく部屋の外に飛び出した。
部屋の外は中と同じような古いお屋敷みたいな廊下だった。奥が見えないくらい、とても長い廊下。分かれ道を覗いてみると橙色の光が届かない奥は、墨みたいに黒い暗闇に塗りつぶされている。
ハルはちょっとそれにひるみながらも、頭を振ってすぐにまた歩き始めた。
闇が溜まった、廊下の奥へと。
──こんなくらいじゃ負けていられない
─約束したから
ハルが踏み出した扉の先、
そこには影の支配する無間の回廊が広がっていた。
ちょっと強化されたハルが主人公です。
読者アンケート
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夜廻シリーズだけ知っている
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影廊だけ知っている
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