影廊廻   作:とろとろ 106106

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骸流しの渓谷


宵の口

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ぜんぶ、真っ白だ。

 

 

 

わたしは気がつくと、全てが枯れてしまったような白黒の河原に立っていた。

 

 

 

足を動かすことも、まわりを見わたすことも、何かを言うことも、息をすることすらできない。

 

 

 

ただ、そこにいるだけ。

 

 

 

まるで、魂だけがモノクロのテレビの中に迷い込んでしまったみたいだ。

 

 

 

たしか、わたしは黒猫をおいかけて穴に落ちたんだ。でも、それから先の記憶が、霧がかかったようにおぼつかない。

 

 

 

わたしは、あれからどうなったんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

ちょろちょろちょろ…

 

 

 

わたしの口からは出せないけど、白黒の世界には正常に音があった。川の水が流れる音、風が葉っぱを揺らす音、鳥と虫の声…たくさんの音がここにはある。

 

 

 

でも、どうしても何か言いようのない違和感があった。

 

()()()()()()()()()()()()()()とは違う気がする。わたしの知っているものとはちがう───

 

 

 

────なにかが、ちがうんだ。

 

なにかが、その白黒色が表すように昔の世界の音。

 

そんな感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、それだけ。

 

相変わらず、わたしは動けないし、息もできない。

 

 

 

わたしは死んでしまったのかな?

 

 

 

あの穴に食べられて。

 

 

 

あの夜にも、自分が死んでしまったのではないかと思ったことがある。

 

あの鉄くさい廃工場。

 

でも、あのときは息もできた。何より、自分の心臓の鼓動が生きている証拠だった。

 

 

 

でも、今はどちらもできないし、感じない。

 

目の位置も変えられないから、体がどうなっているのかわからない。

 

 

 

わたしに何か起こったのか、なにもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───でも、死ぬのってこういうことなのかもしれない。

 

 

あの雨の女の人も気がついたらああなっていたんだと思う。死んで、気がついたら、目も鼻も口も…顔が、なくなっていたのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしもきっとそうだ。

 

いっしょ。

 

だから息ができないのだろう。

 

 

 

ちょろちょろちょろ…

 

 

 

川の流れる音が響く。

 

 

 

と、すると目の前の川は三途の川、なのかな。

 

 

 

おばあちゃんがいっていた。その川は死んだ人がこの世とお別れをするときに渡る川だだって。そして、渡ってしまったら、あるとき以外は戻ってこれなくなるんだって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしは死んでしまった。

 

だから、わたしは川を渡るべきなんだ。

 

 

 

でも、嫌だった。

 

渡ってしまったら、もうこっちには戻ってこれない。

 

 

 

おいしいごはんも食べられないし、温かいお風呂にも入れない。

 

お父さんとお母さんにも会えなくなる。

 

 

学校の友達とも遊ぶこともできない。

 

 

チャコにも会えなくなってしまう。 

 

 

 

それだけは、いやだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやだ!』

 

 

 

そのとき、彼岸から悲鳴が聞こえた。

 

はっとして声の元を見てみると、わたしと同じくらいの黒い着物を着た女の子が、3人くらいの男の子に囲まれて乱暴を受けていた。

 

 

 

腰まで届く長い髪の毛を引っぱられて、とても痛そうだ。

 

 

 

『違うの!』 

 

 

 

男の子たちは何かを言っているようだけど、その部分だけが切り取られているように、女の子の声だけがわたしの耳に届く。 

 

 

 

『わたしの話を聞いて!』

 

 

 

わたしは止めに行きたかったけど、今のわたしは動くことも、声を出すこともできない。

 

 

 

触れることも、声をかけることもできない。

 

 

 

撮影された映像に向って声をかけてるみたいに手応えがない。

 

 

 

本当に、白黒の映画の中みたい─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───そうかもしれない。

 

 

 

わたしは白黒の映像を、あの夜見たことがある。

それは昔起こった出来事の残像だった。昔の出来事を映してるだけの映像。

 

だから未来のわたしはそれに触れることも、その結末を変えることもできない。

 

 

 

ただ、見ることしかできない。

 

 

 

 

 

 

これも、同じなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

『なんでわかってくれないの………』

 

 

 

女の子が、今までしていた僅かな抵抗すらもやめた。

女の子の細い手足が、だらりと下がる。

 

 

 

『もう間に合わない…』

 

 

 

そう女の子がつぶやくと、大きな地響きがなり始めた。

 

男の子たちも、慌てた様子で周りを見渡す───

 

 

 

───何が、起きようとしているのかな。

 

 

 

そう思った瞬間、川の上流の方からわたし数人ほどはある高さの濁流が、迫ってきているのが見えた。

 

 

 

男の子たちは逃げようとしたけど、無駄だった。

 

男の子たちも、黒い着物を着た女の子も、動けないわたしもまばたきをするくらいの時間で、

 

 

 

押し寄せる、白黒の濁流にみこまれた。

 

 

 

濁流の中でも、不思議と耳はすんでいて、

 

 

 

『なんで…なんで……』

 

 

 

あの女の子の、悲しそうな声だけが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

その声もだんだん聞こえなくなっていって───

 

 

 

 

 

────なにもわからなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=====

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こっちか?

 

「アン!」

 

さっきそれでひどい目にあったんだけどな…

 

「くぅん…」

 

大丈夫だ。気にしていない

 

私は彼と別れた後、茶白の子犬に導かれるまま光なき朱色に塗られた回廊の探索を進めていた

 

この子犬は何かへ私を案内するように、回廊を先に立って進んでいく

また、徘徊者の気配にも敏感なようでついていけば、不思議と徘徊者に遭遇することもなく、先程の出来事を除けば極めて安定して探索が進んでいた

 

今、一つ目の勾玉も見つかった

 

「アンッ!」

 

が、案内する何かはこれではないらしい。私は能面で溢れる引き出しの中から勾玉を掘り出すと、可愛らしく尻尾を振る子犬について行く

 

私をどこへ導こうとしているのだろうか?

 

「アンっ」

 

子犬はある部屋の中に入って行くと、その中央で止まり、ちょこん、と座ってこちらを見て短く鳴いた。どうやらここが目的地らしい

 

何がここにあるのだろうか?

 

重々しい石の扉を抜け、部屋の中に入ると壁の上部に飾られた、朱色の般若面が私を睨みつけた

その般若面が見つめる先には三方の乗る、私の腰ほどの高さの机がある。よく見てみるとその三方の上に狐色に輝く何かがあった

 

 

見覚えのない、不思議な光だ

 

 

徘徊者の嫌な気配もないので、

近づき、それを手に取ってみることにした

 

 

 

恐る恐る、それに近づく──────

 

 

 

 

 

 

───大きな勾玉だ。私が今までこの回廊で集めてきた、緑色の勾玉とは違うものだ。緑色の勾玉の何倍も大きい。そして、その勾玉にはまるで木目のような、深い影が埋め込まれた年輪が美しく刻まれていた

 

放つ狐色の光と、刻まれた深い影の対比が美しい

手に持ってみるとほんのりと温かい

 

この大きな勾玉はこの回廊では大きな意味を持つ──

 

 

そう、直感した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=====

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょろちょろ………

 

流れる水の音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………うん?」

 

 

────眠っていた意識が、少しずつ浮かび上がってくる。

 

もう、これで何度目だろうか?

 

ハルもこのパターンには少しうんざりしてきた。

 

 

───あと、わたしは何回こうなればいいんだろう?

 

 

そう言いたくもなったが、それにこたえてくれるものはいないし、もしいたとしてもそれはどうせ()()()()()()()()だ。イモムシみたいに転がっていたハルは、ゆっくりと動き始める。

 

うでを立てると、手のひらからやたらとごつごつとした地面の感触が伝わってきた。どうやら下は石がしきつめられているみたいだ。

 

足をのせると、白い小石がからからと不思議な音を立てて転がった。中身のスカスカな、サンゴみたいな不思議な小石だ。

 

立ちあがるとからだから、黒いナニカがしたり落ちてハルの足元に血痕のような影をぼとぼと落ちていく。

 

一瞬ハルはぎょっとしたが、それが水だとわかって────ようやく自分が水びたしであると知った。

 

小麦色の髪の毛がぺたんこに潰れていて、シャツがからだにはりついている。

 

ちょっと試しに左手の空いた袖を握ってみると、ぞうきんをしぼったみたいな勢いで水が染み出した。

落ちた水滴はハルの足元に新たな影を次々と生み出す。

 

もう、下着の中まで水浸しだ。

 

 

「うぅ…きもちわるいよぉ……」

 

 

体中に服がはりつく独特の不快感にハルはもだえる。

でも、服の替えなんかあるわけないのでハルは我慢するしかない。背中のナップサックも見事に浸水していて、その中身のことは言うまでもなかった。ハルはちょっと泣きたくなる。

 

まだぼんやりとしている目をまわりに向けてみると、白い小石がたくさん視界に映った。その白い小石は地面いっぱいに広がっていて─────近くを流れる川のまわりを覆っている。

 

 

ここは、どこかの川の近くなのかな?

 

と、ハルは思った。

 

 

しかし、ふと上をみたハルはその認識を改める。ハルの視界に広がっていたのは、影。

 

 

塞ぎこむような暗黒が、河原の上空を覆っていた。

湿り気のある、こちらを飲み込んできそうな不気味な暗闇。

 

遠くを見れば、あのヒグラシの回廊で見かけた燭台が点々と立ち並び、影に沈む回廊を煌々と照らしていた。そのほかにも、棚やタンスなど見覚えのあるものが、そこかしこにちらばっている。

 

 

しかし、家具たちとハルがおかれていた環境は、ヒグラシの回廊とは全く異なっていた。

 

古臭い土の壁はごつごつとした岩肌にかわり、踏むたびにきしんだ音をだした木の床は湿った土になっている。上を見れば板天井は消失し、粗い岩肌が顔を覗かせていた。

 

 

柱の構造も柱で岩壁を支える、というよりかは柱を岩の中に埋め込んでいるような印象を受ける。そんな武骨な廊下に沿うように、ハルを流してきたであろう川がざあざあと音を立てて流れていた。

 

 

整備されたところよりも、ひとの手が加わっていない自然のほうが多い。

 

建物というよりは、天然の洞窟を削り取って回廊をねじ込んだような構造をしていた。

 

 

───お屋敷の廊下、というよりかは洞窟の中なのかな

 

 

ハルはそう思った。

 

 

───そして感じる、徘徊者たちの気配。

 

どうやらまだ、影の回廊を脱したわけではないらしい。

 

 

 

 

でも、ハルはそれでよかった。

 

だってハルはここに迷い込んだチャコを探しにこの回廊にきたのだから。

チャコを置いて、ハルだけ帰るだけにはいかない。

 

 

どれだけ危険でも、

どれだけこわい目にあっても、それだけは曲げられない。

 

 

ユイとの、約束だからだ。

 

 

 

───わたしはチャコといっしょに帰るんだ

 

 

ハルは決意を新たにして、再び影の回廊と向かい合う。

 

とたんに、ハルは服が急に重くなったように感じた。回廊に淀む影が、水とともに服に染みついてきたようだった。水とは別の冷たさが、肌に走るのをハルは感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、もうそんなことでハルは折れなかった。

 

 

こわいかと聞かれれば、もちろんこわい。

真っ暗な廊下を歩くのはもちろん嫌だし、その暗闇になにが潜んでいるか───考えるだけでもおそろしい。

 

でも、それはハルにとって歩みを止める理由にはならなかった。

 

 

───友だちを助けなくちゃ

 

───ユイと、約束したから

 

 

ハルの心のなかにあったのは、どこまでもユイとの約束。

 

それを燃料に、ちっぽけな胸のなかで決意がメラメラと燃え上がる。肌を走った冷たさがそれに驚き、次々と蒸発していく。

小さな太陽がハルの心のなかで燃えていた。

 

後ろを見ると、岩壁にロウソクの明かりが漏れる穴の開いているのを見つけた。あそこを通れば他の場所にも行けるだろう。

 

 

───いかなくちゃ

 

 

ハルは懐中電灯のスイッチを入れた。水にぬれていたけど、壊れなかったみたいで問題なく明かりはついた。丸いひかりがハルの行く手を照らし、影を散らしていく。

 

 

まんまるの明かりが暗闇を切り取って、

 

まるでそれは、お月さまみたいにみえた。

 

 

ハルが川に背中を向けると、不気味な音が首筋をなでた。

 

空洞音だ。風と洞窟が生み出す、怪物の腹の音みたいなおそろしい音。それが影と共にこの回廊には満ちている。

 

ハルは耳を澄ます。

 

黄昏に焼かれる、ヒグラシの声はもう聞こえなかった。

聞こえるのは怪物の腹の音だけ。それほどハルは()()()()()にきてしまったのだろう。

 

闇が深まっていくのを感じる。

 

それでもハルは止まろうとは思わなかった。

 

 

 

 

 

───チャコ、チャコ

 

───どこにいるの?わたしが迎えにいくよ

 

 

立ちふさがる闇をにらみつけ、ハルは新たな回廊に足を踏み出した。

 

 

 




やっぱり登場人物一人で回すのきつい…

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