「はーい、バトルオールオーバー、バトルオールオーバー。
ウィナー、C組~……ってか、」
目の前にいるのは、つやつやした表情で立ち並ぶC組の面々と、
血涙が出そうなほどの悔しさあふれる表情、あるいは恐怖による放心状態の顔だけがあるA組の面々しかいなかった。
「なんだよ、このバトルの結果!?
これ、そういうゲームじゃねーから! ルール上はありだけど、だけどさぁ!?」
A組担任、ミドリノ先生は、そうテンション高く突っ込む。
「いやはや、お見苦しい戦いをしました、ミドリノ先生。
私以下、性悪クソ生徒共がもっと適切な配置取り、展開をしていれば、もっとすんなりと勝って精神的にダメージを与えないで済んだ物を」
「いや、フィリア先生。それはおかしい」
本当に申し訳なさそうなあたりに、やっぱ怖い、とミドリノ先生は思った。
「あーもう……で、両者ー、勝敗に関して物申すところはー?」
「先生! 私は彼女らに問い詰めたいと思いますわ!?
あんなの、あんなもの、ゾイドバトルとは言いません!!」
アリシアが、とうとう我慢できない、と言った様子で、そうわざわざC組を指差して叫ぶ。
「あなた達、恥ずかしくありませんの!?
あんな勝ち方をして、恥ずかしくないのですか!?
ゾイド乗りならゾイドの手足で攻撃しての物でしょう!?!
火力と数に物を言わせて、平気で人を貶めて!
恥ずかしくはありませんの!?」
と、しごくごもっとな事を言い放つアリシア。
「……だー、そうだけど、C組の生徒たちー。何かそっちからはー?」
「あるなら、だれか率先して手をあげなさい!
あるいは、胸を張って前に出てここにいるA組を言いふせられる自信がある人は前に出なさい!」
と、ミドリノ先生に続き、メルヴィンがそうクラス全体に言い放つ。
「…ふふ♪」
と、そこで、文字通り胸を張って出てきたのは、メルヴィンや他のみんなも予想通りと言うか、なんというか……
リナだった。C組副委員長、リナソレーネ・アシュワースその人だった。
「……あなたは、昼間の…!」
「まずは名乗りが遅れて、淑女として申し訳ありません。
私が、本戦闘の作戦立案者であり、参謀のクラス副委員長のリナソレーネ・アシュワースです」
「ご、ご丁寧にどうも……って、あなたがこの卑劣極まりない作戦の立案者ぁ!?」
「でもその作戦に完全敗北したのはそちらですよね?
ええ、まごう事なきそちらです。そちらの負け♪」
なっ、と驚くアリシアに向かい、リナは平然と続ける。
「負けた方がキャンキャン吼えようが、何しようがこちらには痛くもかゆくもないんですよ~♪
卑劣? 卑怯?
敗戦国の伝統と格式のある『負け犬の遠吠え』じゃないですか~♪
いい加減それ以外に言う言葉を見つけてほしいですよね~?」
「これは戦争じゃないですわ!」
「ええ、だからこちらは最大限ルールを守って、その上で、そうその上で! 勝った。
なのに卑劣? 卑怯?
貴女、ちゃんと最近辞書引いてます?」
顔を真っ赤に染めるアリシアに対し、リナの攻撃はやまない。
「だからあなた方はアホなんですよ。なんで我々みたいな『流儀も道義もなく勝つべく行動する相手に対する対処』を考えないんですか?
敵を信じて作戦立てる馬鹿はこの世からとっくに消えてますよ?
あなた達はむしろ幸運ですよねぇ? 実戦とか戦場とかじゃない、ただのゾイドバトル。
そう、命の危険が相当少ない所で知ることができたんですから。
むしろ、感謝してほしいぐらいですよぉ?」
というか、と言葉を続ける。
「私としてはあなたみたいなとっさに卑怯な事するような人間に、ゾイドバトルの教示は語ってもらいたくないですね?」
「なっ!? 私を侮辱する気!?」
「されても仕方ないでしょう?
あそこにいるクレーエさんのコックピット、狙ったんですから」
「っ!」
と、自覚はあるようで、静かにこちらを見るクレーエを一瞥して、黙り込む。
「ああ、でもクレーエさんも『わざとじゃない』とは言ってくれているようですし、私はあなたの事を卑怯だなんて言いませんよ?
で・も、とっさとはいえ、デスザウラーを貫通するとかほざけるほどのセブンブレードアタックを、あなた達の乗る機体より古くて性能のひっく~い、レッドホーンに、真正面から当てようとは、私思いませんけどねぇ?」
クスクス、笑うリナに、涙をにじませて悔しそうに震えるアリシア。
こうなると、どっちが悪人なのかわからない。
いやC組が悪人だ。
「まぁ、まず次に戦うのなら、性能をちゃんとした意味で理解して行動してほしいですよねぇ?
ま、それはともかく、最後にこれだけ言っておきますよ」
と、言って、リナは何の嫌みを言うのかと身構えるアリシアに、こう言い放つ。
「この学校の図書室、昼にちょっと見た時に見つけた……えっと、日本系地球移民の方が持ち込んだと思われる本『戦術と指揮』って言うのがあるんですけど、
多分、それ読めば私達みたいな烏合の衆なんて、勝てますよ?
おススメです。ぜひ読んでください」
へ、と一瞬アリシアは間抜けそうな面をする。
「私も色々とあなた達には学ばせてもらう所もありますしね。
そのお礼です」
「……嫌みのつもり?」
「私としては、本当にフィリア先生の言うとおりの動きが出来るはずだったのを、案外立て直しが早かったのは本当に称賛できます。
追撃に移るまでの展開の速度が速すぎて、事実ヴォルケーノ隊と共に砲撃できるはずのアーチャー隊が遅れを取りました。
予想外の中の予想の半中とはいえ、それでも予想外には変わりませんしね」
「……ずいぶんと私達のことを舐めていたようですわね……!!」
ギリッ、とアリシアは心底悔しそうな顔でこちらを見つめる。
というか、さっきまで意気消沈していたような人間まで、なんだかこちらをかすかに睨み付け始めている。
「舐めてなんていませんよ。そもそもなめてかかれるほど弱い相手でもないでしょう?」
「フン……言葉通り受け取って差し上げますわ、リナソレーネ・アシュワース」
でも、と鋭くリナを、さらにその後ろのC組を指差す。
「この次は、その小賢しい作戦ごと撃ち破って見せますッ!」
「とりあえず、勇敢に正々堂々戦えばー、性能でゴリ押しすればー、自分の感覚を信じてー、仲間の力に後押しされてー、とかいう主人公気質な思考を全て捨てて、格闘戦の本当の長所、ゾイドの本当の長所を理解したうえで戦えば勝てると思いますよー?
まだまだそこまで強いわけじゃないですし、我がクラス」
「助言だけは受け付けますわ!! 以上!」
と、心がへし折れたのかな、とも思っていたA組は、なんとこれだけで再び闘志に火がついたようだ。
(うわ、単純)
「覚悟しなさい! 今でこそあなた達が実力的に上回ろうとも、最後に勝つのは誇りあるわたくしたちですわ!」
(しかも似たようなことしか言ってない)
瞳の奥に真っ赤な闘志を燃やすアリシアとA組を、リナはしらー、とした目で、C組は同じかあるいはコントでも見ているかのような目で見ていた。
「ですが!
それでも一つ、あなた達には頭を下げるべきことがあります!」
と、突然、後ろで笑っていたクレーエに向くアリシア。
「クレーエ……えっと名字は……」
「名前でいい、気にすんな!」
「ではクレーエ! 貴女に対しての攻撃は、こちらに非があります!
……申し訳ありませんわ、本当」
と、言って本当に頭を下げ、謝罪するアリシア。
「……やけに殊勝だな!」
「フン……当然ですわ」
「じゃあ、後2回頭を下げてもらおうじゃねーか!」
と、言ってクレーエは、自信の乗るレッドホーン、ことフォートを指差す。
「あなたのレッドホーン…?」
「こいつだって恐怖は感じるんだ。あの時ビビらなかったわけじゃねぇ」
そして、と言って、クレーエは口笛を吹く。
「?」
カシュン、とフォート背後、レッドホーンの砲座兼第2コックピットが開く。
「クゥ?」
そこから、なんだか頭の硬そうな形の、黒い体表から見える発行しそうな緑の内側、と言うどこか毒々しい体表の小さな恐竜型ゾイドが出てきた。
「野生体ゾイドの子供…?」
なんとなく、あまり機械に置換された部分が見えないところから、そんなイメージがあった。
「な、なんですの、それ…!?」
「ああ、あそこにいるのはオレの舎弟1号のカースだ。
お前、後少しで1人と2体の命を奪う所だったんだよ」
適当な説明だった。何人か知ってそうな顔をしていたが、とりあえずリナは知らず、なんのゾイドなのかを教えてほしかった。
「……それは、本当に申し訳ありませんでしたわ」
と、それでも改めて2体のゾイドに頭を下げる。
「わたくしだって、ゾイドが生き物だと言う事を忘れたつもりはありませんわ」
「嘘付け。道具とか言っていたくせに」
「ゾイドを道具のごとくあつかえてこそのゾイド乗り。
愛情とはまた別の問題ですわ!」
「なわけねぇだろ、ちょっとはゾイド頼れよ。
一番いいのはセミオートじゃねぇの? ゾイドの感覚は人間様なんざかなう訳でもねぇだろ?」
なんですって、とアリシアがいい、続きをやるか、とクレーエが自分の袖をめくり腕を振り上げる。
「―――お前ら、そんなに体力が余っているのか」
今にも、という所で、フィリアがその二人の間に割って入る。
「だったらちょうどいい、片方は図書委員だ。
放課後二人とも、図書室の整理を行ってもらう」
い、と二人が本当に嫌そうな顔をし、がっくりと肩を落とした。
「ふぅ……
さて、全員本日の授業は終了だ!!
明日から、双方座学、実技、共に精進していくように!!
以上、解散! 全員戻って着替えて帰りのホームルームへ向けてすぐに用意しろ!!」
と、フィリアの一言により、全員がアリシアとメルヴィンの二人のクラス委員長の号令と共に礼をし、解散する。
こうして、長かった1日が終わる。