その1
オティーリエ・V・カリウスの朝は遅い。
「お嬢様、お目覚めの時間です」
「ん~……後、開戦するまで寝かせて~でありますぅ……」
かなり裕福な方の家の生まれである彼女は、今日もベッドの中で芋虫かサナギかと言う状態で寝ている所を、メイドに起こされる。
「もう、そう言っていつも遅刻するのですか、らっ!」
「おあ~」
布団を引っぺがされ、こまのようにくるくると子供っぽいパジャマ姿で回転するところを、さらに別のメイドに掴まれ、パジャマをエビ剥きか何かのようにひっぺがされ、椅子に座らされそのまま鏡へ。
「あー、結構ギリギリな時間でありますな~」
「だから夜は早くするように、と奥様も旦那様も言われておりますでしょうに…」
まだ寝ぼけた様子の彼女の頭が、別にいいと言っているのに周りのメイドに櫛ですかれ、もじゃもじゃで無造作そのものの髪が、くせっけを生かしたおしゃれなゆるふわストレートに変えられる。
「あー、制服だけは自分で着るでありますよー?」
と、言ってすぐにオティーリエは、自分で制服に着替え始める。
Yシャツのボタンをほぼ留めたまま、すぽっとYシャツを着る。
「できればその要領で自分で朝起きられるようになっていただければと」
「あ、では言ってくるでありますよー。朝ごはんは自分で何とかするでありますー」
小言は聞きたくなかったので、着替え終わるやいなやすぐに祖父の代よりも前からこの家にある帽子をかぶり、自分の部屋のテラスへと出ていく。
「フェルディ~! フェルディナント~!」
ぱおーん、という声を震わせ、のそのそとオティーリエの駆るエレファンダー、『フェルディナンド』がやってくる。
ドスン、と地に響く足音に似合わない軽やかさで照らすまで近づき、長い鼻を伸ばす。
「よっと!」
鼻に乗り、そのままコックピットへといざなわれる。
「今日もいい子であります」
などと言って、オティーリエは素早くコックピットへと潜り込んだ。
『じゃ、行ってくるでありますよー!』
そんな言葉と、フェルディナントの声を残し、彼女はミューズ学園へと向かって言った。
「いくでありますよぉ、フェルディ!!
こんな図体で出せる130キロの本気を見せるのであります!!」
***
大体の場合、遅刻する人間は的が絞られているのだろうか、
「……まさか、湯浴みに時間を割きすぎるとは」
最高時速で走るライジャーをゾイドその物の動きに任せ、ヒルダは髪をタオルでまだふきながら走っていた。
「全く、我ながら湯浴み好きを自重せねばいけんな……む?」
と、前方を見ると、見知ったゾイドがいる。
重い体を、予想以上の速さで突き進めさせるそれは、背部に巨大な荷電粒子ビーム砲を取り付けた、コマンダータイプ頭部のエレファンダー。
「あれは、まさかオティーリエ殿か?」
『―――む! 後ろにいるのは、ライジャー!?』
と、そこで、聴きなじみ始めた声が、通信装置から聞こえる。
「やはりオティーリエ殿か。私と同じか?」
『ええ、遅刻すれすれでありますよ~』
「ふぅ、どういう訳か学生の朝の時間は想像以上に短いようだ」
『それもゆっくりしたい時に限って、でありますな~』
はっはっは、と笑う二人。
「その上昨日はフィリア女史のレポートが、かなり分厚かったものだからな、風呂に入れず朝ぶろで遅れたのだ」
『楽しかったけど、分厚いですよね~、あれ』
「好きな物には天国だが、私はこれで勉強が嫌いでな」
談笑をしつつ、エレファンダーの最高速度でミューズ学園に向かう二人。
この速度なら間に合うはずだ。
「――――む?」
が、そこで二人は、変わった光景を見ることになる。
『あれは…!』
道の先、そこには珍しいと言えば珍しいゾイドが、へたり込んでいた。
背中のパックにあるのは、2本のクロー、あるいはドリルとも呼ばれる武装『バスタークロー』。
薄く紫がかった真珠色の装甲の体は、素体がゴジュラス以上にティラノサウルスだと示している。
このゾイド、名前を『EZ‐49 バーサークフューラー』と呼ぶ。
ライガーゼロと並ぶ『完全野生体ゾイド』の一機であり、ジェノザウラーの系譜に位置するティラノサウルス型ゾイドだ。
「なんだか、随分大人しいな……完全野生体だろう?」
『ゾイドコアが別物のまがい物か、あるいは……』
チラリ、と、その横たわったバーサークフューラーの足元を見る。
何か、4人ほどの人間、内一名は自分たちと同じ制服の少女だ。
それが、何やらバーサークヒューラーの足元で何か騒いでいる。
「ふむ、何かありそうだな。
おもしろそうだ、どうせなら関わって遅刻しようかと思うが?」
『意見が合うでありますな~』
と、言って二人は、そのバーサークフューラーの前で自分たちのゾイドを止めた。