ミューズ学園へ至る道の途中、ミューズ森林地帯に存在するゾイド用バイパス道路。
「う~ん、車と違って全然何が何だかわからねぇな~、こりゃ~」
一番背が低い、なんだか胡散臭そうなサングラスの男が、バーサークフューラーの足の開いたCAS装甲の内側基盤を見ながら、そう情けなくつぶやく。
「兄貴ぃ、それまずい気がするんだなぁ」
その横で工具箱を持つ大柄だが気の弱そうな雰囲気の男が、その言葉に対して至極ごもっともな意見を出す。
「いや~、こりゃ参ったっすね~」
そして、出っ歯が特徴的な細長の男も、二人の横でお手上げの様子で、なぜかカメラを構えてそうつぶやく。
何というかこの3人の人相、
すごく胡散臭い。
「……あの、みんな?」
そして何よりも問題なのが、その胡散臭い3人に話しかけたこの人物である。
小柄な少女だった。
左右にちょん、とリボンで結ばれた髪型がとてもしっくりくる、小動物らしい可愛らしさを自然に出しているような。
顔立ちと黒い髪の色から、おそらくは日本系地球移民の人間だろう。
制服は、ミューズ学園のシルバーのブレザーだ。確実に学園の生徒ではある。
ただ、なぜかどことなく普通の生徒とは一線を画すような雰囲気がある。
近寄りがたいと言う訳ではないが、どことなくだ。
「お嬢、どうしたんですかい?」
と、その女子生徒をお嬢と呼んで、背の低いサングラスの男が訪ねる。
「やっぱり、この子の修理は難しいですか…?」
「難しいっすね~」
「難しいんだな」
「難しいからこうしているんだよなぁ、俺達」
うんうん、と3人がうなずくのに合わせ、シュン、としおらしく少女は顔をうつむかせる。
「……ごめんなさい、迷惑かけちゃって」
「い、いやいや! こっちとしては良いハプニングだと思ってるし、あ痛ッ!?」
「バッカ野郎! ゾイドだって怪我してりゃ痛いんだぞ、考えろ!!」
出っ歯の男の失言に、小柄な男がすぐに頭を叩いた上でそう言う。
「こいつ、さっきまで動き回っていたから……動けないのがつらいのかもしれないんだな…」
うーん、と3人は唸る。
「……でぇぇぇい、大の男が3人うなだれてどうすんだ!!
お嬢の為にも、『番組』の為にも、
何より大人しくいじらせてくれてるこいつのためにも、俺達が何とかしなきゃいけねぇ!!」
「「そうだそうだ!」」
バッ、と3人は再びバーサークフューラーの足元で、急いで外したりつけたりの修理作業を始める。
「まってろよ、お前! 生意気な奴だが、恨んじゃいねぇ!」
「絶対直してやるんだな!!」
「そうっす!」
「あー、でも、それだと治らないでありますなー」
「マジかよ!?
どうすりゃいいんだ!?」
「ほらそこだ。そこにあるプラグはバーサークフューラー脚部基盤のパーツの中でも得に長い奴で、よく長さのせいで引っかかってプラグが抜けるのだ。
だから5センチほど切り詰めて刺せば、もう抜ける心配はない」
「おー、ありがとう!
……って、」
そこでようやく、3人は謎の金髪少女と褐色オレンジ髪少女が隣にいることに気付いた。
「ど、どちら様で?」
「通りすがりのミューズ学園女子生徒でありますよ~?」
「覚えていただければ嬉しい、なんてな」
***
「本当にありがとうございます!!」
ば、とその日本系地球移民の少女を先頭に、3人の胡散臭そうな男たちも含め、全員がヒルダとオティーリエに頭を下げる。
「いや気にすることでもないでありますよ~」
「バーサークフューラーは繊細な部分も多いと聞いていたのでな」
まさか我がクラスの参謀の知識が生かされるとは、とひそかにヒルダは思っていた。
「でもすごいですね! ミューズ学園のみんなって、こんな風に自分で整備が出来るんですか!?」
「……まぁ、授業の一環でやらされたであります……」
「う、うむ………」
二人は、その質問にお茶を濁すような答えを返す。
入学式から2週間、フィリアの授業は熾烈を極めた。
体育が遊びのレベルの身体訓練。
『ゼネバス時代の戦力で共和国に勝つ』を考えさせられる座学。
緊急時用のゾイド整備訓練。20分以内に解体状態から組み立てをやらされる。
ハンドサインを覚えさせられる。モールス信号を覚えさせられる……
「どうしたんですか?」
「いや、ただ配属されるクラスを間違えた気がしただけだ……」
「むしろ、我々は軍に入隊した気分であります」
ははは、と疑問符の浮かぶ顔をよそに、遠い目でそう笑ってごまかす二人。
「……それはともかく、このバーサークフューラーは、誰が操縦を?」
「あ、はい! 私です!」
と、あの少女が手をあげ、そうそうと後ろの3人がうなずく。
「はぁ……マジですか?」
「え、結構驚いてます?」
本当に怪訝な顔をしてしまうオティーリエに、その少女も同じような顔になる。
「いや、正直、失礼ながら偏見かもしれないと前置きを置いてから言うでありますが……
何というか……なよなよ~しそうな少女が、この整備費と勇名だけを多くとるような誰も乗れない兵器としてアレな、騎士とかいうのがいる時代まで逆行したような、火力は良いけど乗れなきゃ意味がないみたいなバカっぽい機体を動かせるのか、と思うと……」
「オティーリエ殿、ゾイドに失礼過ぎると思うのだが」
あまりの言い草に目の前の少女の目は点のようになり、さすがにヒルダはそうツッコミを入れる。
「いや、だって、バーサークフューラーでありますよ?
狂気の総統閣下でありますよ? 狂気過ぎて誰も乗れないような――――」
と、そのオティーリエの頭上に、黒い影が迫る。
「へ?」
そこには、さっきまで倒れていたバーサークフューラーの頭部があった。
ゆっくりと、オティーリエの方を見て……というか、睨み付けている。
「……あー、これは言いすぎたカモでありますな~……十分凶暴そうな…!」
ガシィン、とそのバーサークヒューラーの足元で轟音が響く。
よく見ると足のアンカーが設置され、尻尾をピン、と伸ばしている。
「げぇ、この動作!?」
ガシンガシンガシン、と断続的に尻尾の装甲が開き、放熱の準備が行われていく。
「荷電粒子砲!?」
「え!? ちょっと!?」
「あー、はい。今理解しました。
あなたは確実にいいゾイド乗りでありますよ、だって!」
バスタークローは開かない。
だが、その口にはいつもの、あの砲塔が伸び、荷電粒子の光が集まっていく。
「ここまで沸点の低いゾイドを乗りこなせているのでありますからァァァァァァァ!!!」
その時、森に一筋の光が走った。
***