時間は進んで、本日朝のホームルーム。
「――――そのせいでこの校舎の端が吹き飛んだと言う訳か。
大体理解した、オティーリエ・カリウス。
とりあえず原因であるお前は今日中にここを自分とゾイドの力で修復しておけ。
異論は認めん」
綺麗に角の取れた校舎を指差し、非常にもフィリアの『生徒指導』が下される。
「はい……すみませんでありますぅ……」
うるうると泣き出しそうな目で力なく言うオティーリエの肩を、ぽん、と隣にいたリナが手を置く。
「ドンマイですよ。ドンマイ」
「うぅ……死ぬかと思ったのにこの仕打ち……」
「まぁ、そんなことはどうでもいい。
さて! 本日はC組の最後のクラスメイトを紹介する!」
と、酷い切り捨て方をしたうえで、正面玄関に集めさせられたC組全員に向かって言う。
「ミツキ。自己紹介をしろ」
「はい!
みなさん初めまして!!
ミツキ・カリンです! 入学式に出られなくてごめんなさい!
皆さんと仲良くなれるとうれしいです! よろしくお願いします!」
ペコリ、と頭を下げるしぐさも可愛らしさ満開である。
この日本系地球移民らしき少女の名前を、ようやくオティーリエは知った。
「そう言えば全然名前聞かなかったでありますなー……」
「ミツキ・カリン殿か……」
「―――え、ミツキ・カリン?」
と、そんな疑問符を浮かべる横で、そんな男性の声が上がる。
今声を上げたのは、ジョン・ベルーガ。C組の男子生徒だ。
クレーエと同じくレッドホーンに乗っている、ミーハーな感じのする普通の生徒である。
「?」
「おや、アレはジョン殿では……」
「……あぁ!?
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
と、若干失礼ながらも、ジョンは指をさして、近隣の男子生徒に目配せして叫ぶ。
「え?
……あ!!」
今声を上げたのは、丸々肥えた体にメガネが特徴のフジオ・カーター。地球系クォーターの風族出身である。ハンマーロックに乗り、おそらくクラスでも有数のミサイル誘導経路設定の速さを誇る。
「あぁ!!」
そしてその隣で、イタリア系地球移民ハーフの海族出身のブリツィオ・ボナッコルティが驚きを上げる。
ちなみに補足だが、彼もジョンと同じくレッドホーンに乗り、女性相手への援護防御に定評がある。
「えぇぇぇぇぇ!?!」
そのさらに隣で、砂族出身のゴドス乗りの女子生徒、マリージア・マルが驚きの声を上げ、
「ありえねぇ!?」
黒い肌が特徴の、カノントータスの砲手を務める虫族女子生徒、ティリー・リコも同様の声を上げた。
ちなみにこの5人、昼休みによく集まるミーハーな集団だったりする。
「5人とも、なんでそんなに驚いてるんですかぁ?」
「「「「「知らねーのか、副委員長(サブリーダー)!?!」」」」」
綺麗にハーモニーして叫ぶ5人。
「おいおい、サブリーダー、せめてテレビはよく見ろよぉ? 彼女はウチの村ですらすっげぇ有名人だぜぇ?」
と、身振り手振り大きく、ティリーは妙なリズムでリナに言う。
なぜか褐色の肌とその部族出身らしいヘアスタイルが、その動きに似合う気がする。
「というと?」
「副委員長、彼女は!
このミツキ・カリンさん、は、マジもんの『アイドル』なんだよ! なぁ!?」
「今週の『月刊アイドル検定』の表紙を飾ったはずなのに……クッ、余りの事に気付くのが遅くなりました…!」
大仰に驚いて大手を振って指すジョンの横で、冷静にメガネを直し語るフジオ。
「へー、アイドルですかー。
すごいですねー、勉強しなくてもお金稼げる職業じゃないですかー」
「相変わらず言いぐさが酷い副委員長だった!!
じゃなくてさー、もっと驚こうよ!! こう、アイドルだよ!? アイドル!!
もうスッゴイ有名人だよ!? 雑誌にもテレビにも載ってるほどだよ!!
あ、カリンちゃーん! わたしぃ、ファンクラブ会員番号78番だよー!! 最初期メンバーと言ってもいいレベルだよー!! 仲良くしようねー!!」
と、テンションの高いマリージアに、流石のカリンも少々苦笑いだった。
「何という事だ……ただでさえ、レベルの高い子たちがそろっていると言うのに……目移りしそうだな、本当。誰からお茶に誘うべきか迷うな」
その横では、ブリツィオが少々キザったらしく髪をかきあげ、そんなどうでもいい悩みを吐いていた。
「落ち着け、雑魚共。とりあえずは、事情をまず聴いてやれ」
と、フィリアが気になる単語を出して、そんな事を言う。
「……ところでジョンさーん。冗談抜きでカリンさんって、どんなアイドルなんですかー?」
「え? 『純粋ゆるふわ系』アイドルの筆頭だけど? めっちゃファンサービスもいいし、どんな外回りも必ずやるんだって」
「いつぞやの部族を見よう的な企画でも、本当に芋虫を食べたことで有名です」
へー、とリナは、なんとなくこれから起こるであろう出来事が予想できてしまう。
「えっと、みなさん!
まずは、ある意味で、その、本当にごめんなさい!!
私は、このクラスに番組の企画で、入ることになりました!」
「あ、やっぱり。なんだ、予想通りでしたね」
あぁ、とクラス全員が納得した声を上げる。
こんな、ゾイド乗りを育成する機関の中でも、まぁ、そこそこしか有名になれない場所に有名人が来る理由など、そのぐらいしかないだろう。
「で、でも! 受験は私が本当に、テレビの圧力なしで、実力だけでここに入りました!
ほ、他のところが落ちちゃったけど……でも、実力で入りました!」
「あの~、とりあえずクラスの副委員長としても、一応カリンさんに質問いいですかー?」
と、リナは手を上げて言うと、フィリアは、くい、と顎だけで良しと伝える。
「じゃあ、カリンさん?」
「はい! えっと……」
「おっと。私はこのクラスの副委員長と作戦参謀を務めているリナソレーネ・アシュワースでーす。
さて、聴きたいことはただ一つ。
あなた、どの程度ゾイドを動かせます?」
と、リナの質問に小首をかしげるカリン。
「どの、程度…?」
「まぁようするに、バーサークフューラーが動かせるとしたらどう戦闘するんですか?
他のゾイドに乗っても戦法が似ているのはどこですか、と」
えっと、と困惑するカリン。
「ば、バーサークフューラー……えっと、私は『ココロ』って呼んでるんだけど……」
ぶっ、とクラス全員が吹いた。
なんか可愛くて似合わねぇ……と言いたかったが、まずは続けて、と手で示す。
「その……一通りは、動かせます……でも……」
「でも?」
「……他のゾイドは……乗れないんです」
「はい?」
と、予想の斜め上の答えが返ってきた。
「動かせない、ってどういう事ですか?」
「その……えっと、コマンドウルフだと、乗った途端に勝手に暴れちゃって……カノントータスは動かなくて……モルガは……コックピット空けてくれなくて……もっと小っちゃいのでも、変にみんなにいやがられて……」
ここまでもじもじと告白するカリンに対し、
リナ、まるで目の前に宇宙人がいるかのような目でカリンというアイドルを見る。
「はぁ?」
「あ……ごめんなさい……」
「いやいや、冗談とかキャラづくりで言っているのなら、カメラ回さないところで詳しく聞きますよ?
え、まさかマジで言ってるんじゃないですよね?」
「お、大マジ……です……」
リナは、顔面が自分でもひきつるような感覚に陥る。
「……カリンさん?」
「はい…?」
「あなた、○○系アイドル、って名乗るなら、ゆるフワ系アイドルより絶対に合う言葉がありますよ?
ピーキー系アイドルとか、変態性能アイドルとかっていう」
「ふぇ!?」
「いやね、悪いとは言いません!! バーサークフューラーは、そりゃあ、色々と問題もありますけど、でも!
優秀な性能をもつ、最高級のゾイドであることに、疑う価値はありませんよ?」
でも、とリナは言い放つ。
「あなた、ピーキー過ぎるでしょう!?!」
「……私、いけない子ですか…?」
「そうじゃないんですよ……ちょっと、ちょっとなんかおかしい気が……あー、ごめんなさい。
ちょっと私の中の常識が崩れているんですよぉ……」
リナは、理解できるが理解できない事に、頭痛を覚えた。
いや、周りも、一部はすごく頭痛を催している。
「なんで、この世にこんなよくある頭の軽い小説の主人公気質がいるんですかねぇ……」
「え、えっと……?」
「リナ殿、まぁ、その辺にしてやるといい。カリン殿は困惑気味だ」
と、そこでヒルダがそう肩に手を置いて、語る。
「ふむ、まぁ、あれだ。こういう場合、絵になる映像もそろそろあのスタッフたちも欲しているだろう。
この困惑を解消するためにも、少々いい余興がある」
と、うまく一言でこの場をまとめ、ヒルダはそのままフィリアに向かう。
「先生。1時限目は、ゾイドの慣らしだったでしょうか?」
「ああ。今日は一週間に一度の全科目ゾイド実習の日だ。忘れたか?」
「ならちょうどいいでしょう。
―――――私は、カリン殿に一騎打ちを申し込む」