西方大陸北部、ニザム高地の一角、旧ニクシー基地が見える場所、
そこに、帝立シュバルツ高等育成学校が存在する。
まるで、そこは重々しい要塞のような場所だった。
広大な敷地は、全て頑丈な壁に囲まれ、その奥に立つ校舎はまるで帝国の城塞をそのまま学び舎に改造したかのような雰囲気を持つ。
―――――グワァァァァァァッッ!!
『うぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉッッ!!!』
ガシィン、と金属のこすれ合う音が、その広大なゾイド演習場で響く。
片や、ぶつかるは共和国重突撃ゾイド『ディバイソン』。
片や、ぶつかるは帝国の堅牢なる移動要塞、『ダークホーン』。
そんな、重ゾイドを筆頭に、お互いが頭を突き合わせ、押し合い、ぶつかり合い、火花と金属音を散らしていく。
「――――――やぁぁぁめぇぇぇぇぇぇいッッ!!!」
と、そのゾイドの咆哮ですら、一瞬で黙らせる怒号が響く。
「全員、傾注!! 総長の言葉である!!!」
一人の男子生徒が姿勢を正してそう叫ぶ。
途端、その場のゾイドのコックピットがすべて開き、姿勢を正しその人物へ顔を向ける。
その場にいる者達と同じ、この高校特有の黒い、軍服にも見える制服と帽子をかぶるその人物。
意外にも、可憐な容姿の少女は、二つにまとめられた黄砂のような金髪をなびかせ、鋭く全員を見つめていた。
「我が『シュバルツェスシュトルム』の戦友諸君、まずは訓練に励みご苦労と言おう。
ここに私が来たのは、先方の『ミューズ学園』が、『我々に来い』と言ってきたことについてだ」
その紡がれた言葉に、全員が驚きの声を上げる。
「こちらが……我々が出向けと!?」
「そうだ。先方はそう言ってきた」
「我々が折れろと言うのですか!?」
「そうだ! そう言ってきた!!」
ぴしゃり、と言い放ち、彼女は続ける。
「この伝統あるシュバルツェスシュトルムに対し、彼らは『お前らから来い!』と言ってきた!!
私は、これを挑発として受け止める!!」
一度そこで彼女が見回してみれば、周りは皆闘志を燃やしたように拳を握りしめ、この言葉に聞き入っている。
「よかろう、そこまで言うのならば行ってやろうではないか。
彼らがどんな勝算をもってこのように挑発をして来ようとも、我らがやることは一つ!」
『正面から叩き潰すのみ!!』
その通り、と腕を大きく振り上げて彼女は叫ぶ。
「我らにの辞書に迂回とか撤退とかいうまどろっこしいものはない!
圧倒的な突破力を持ち、策略、謀略、小難しい敵の思惑すべてを切り抜ける!!
それこそ、シュバルツェスシュトルムの名を冠する意味であり、それこそが守べるつぇすシュトルムなのである!!」
おぉ、と全員が拳を握りしめ、彼女の言葉を聴き入る。
「諸君!! 我が同胞諸君!!
敵はミューズにあり!!!
来いと言われたからには、行ってやろう!!
否!! 奴らの敷地を怪人にした後に、中央大陸まで駆け抜ける勢いで突入してやろうではないか!!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!
その歓喜の雄たけびが、校庭を埋め尽くす。
誰がどう見ても、士気は上々。
「………」
そんな様子を一人、
皆と同じ制服を着た女生徒が、鋭い目で見ていた。
***
シュバルツ高等学校、部室の一つ。
「さて、ツバキ! お前の意見を聞きたい」
バン、と先程の金発の少女が、腕を組みながら目の前の少女へと言い放つ。
「私は今回の遠征に反対です。こちらが費用を出してでも向こうをこちらに来させるべきだと思います」
その彼女、視た所日系地球移民らしき、長くつややかな黒髪と人形のような白い肌の顔を持っていた。
「なるほど、お前の心配は大体分かっている。
だが却下だ!」
「ええ、もう答えは知っていました」
その言葉はもはや予定調和なのか、特に諦めた風でもなくツバキと言う少女は答えた。
「ただ、エルさんこれだけは言います。
私は、何も怖いからだとかそう言う恐怖心で言っているわけではなく、」
「100%でも戦いは負ける、だから勝率を1000%とし、限りなく100に近い99.99%の作戦を立てる、だったか?
お前の言葉は長すぎて覚える気になれんと言うのに、お前が何度もいう物だから暗記をしてしまったぞ?」
と、不機嫌そうに顔を膨らませ、エルと呼ばれた彼女が言い返す。
「『石橋をたたいて渡れ』と言うのは私の先祖の言葉なので」
「橋が怖くて川が渡れるか!!
崩れたら崩れる前に渡ればよかろう、落ちても生きていれば対岸に泳げるだろう?」
「……はぁ~……」
その返答に半眼になって、これ以上に無いほどわざとらしくため息をつくツバキ。
「失礼ですが、我がシュバルツェスシュトルム1年総長、エルフリーダ・V・ブリッツェンどのは、アホの子なのですね」
「今頃気付いたか、このアホめ」
明らかに侮蔑の言葉に対し、エルことエルフリーダはそう答える。
「ええ、私もアホでした。
アホの単細胞総長に頭のいいことを言って1割でも理解できるなどとアホな想定をしてしまいました」
「まったくだ。だが言っとくが、お前の言う事は他の人間でも難しいと言う事だけはアホの私でもわかるぞ?」
「で、おバカ脳筋総長? 助言は意味がないと解釈しても?」
「はっはっは、こいつめ。目上の者にも辛辣だな」
と、ジトジトと視線を送る相手に笑いながら答えるエルフリーダ。
「その答えはイエスだ。
私の辞書には『高尚な考え』の項目がすべて抜けているからな!」
胸を張って答えるエルフリーダ。
ドスン、と制服の下で揺れ動く。
「……多分、そこについた栄養が脳に回れば、辞書に追加されると思いますが?」
「ああ、だからお前は胸がないのか!」
「死ね」
はっはっはっは、と胸を張って答えるエルフリーダに、ただ静かに睨みながらそう答えるツバキ。
「気にするな! そこまで胸が無いわけじゃないだろう? うん、貧乳ではないと言う事だけは私が保証してやる」
「黙れ脳筋ホルスタイン総長」
「ああ、私の辞書では『黙る』の項がよだれを垂らして誰か寝ていたかのようにぼやけていてな!」
「やっぱり死ね。死んでください」
まぁまぁ、落ち着け、とそこでエルフリーダはツバキを制する。
「どのみち、お前は私に『突破』『突撃』『攻撃』の3文字以外に期待していないだろう?
なら話は簡単だ、お前の武器はなんだ?
その高尚な脳みそだ。おそらくこの大陸の中で、お前の考えと戦術眼、戦略眼にかなう人間などいない。
ならば、私と私以下勇猛なるシュバルツェスシュトルムの皆がどこに突破すれば勝てるのかを示してやればいい。違うか?」
「………簡単に言うあたり、全く能天気と言うか……」
「うむ! 幸い、私の頭は今日も日本晴れだ! これもお前の祖先の言葉だったな!」
ため息をつくエルフリーダに対し、なおもはっはっは、と笑うエルフリーダ。
この光景、
この場所ではもはや日常とでもいえる物だったりする。
「ふぅ……で?」
ふと、そう切り出すエルフリーダ。
「で、とは?」
「お前が弱気すぎる理由だ。それを知りたい」
ふむ、とツバキが顎に手を当て、考え込むしぐさをする。
「……先の放送で、敵の機体編成を見ました。
あれが学生の考えた編成だと知ったときは、正直信じられませんでしたね?」
「ほう? なんでだ?」
「あまりに、ハイ・ローミックスが完璧だったから、ですよ」
何だそれは、と言う顔をするエルフリーダ。
「我々のゾイドたちは値段や性能を見ても高い物ばかりです。財力とはすばらしいものですね。
ですが、通常はそんな事出来る学校は限られてきます。
そんな混成が当たり前な中、相手は」
「話が長い!!」
「ええ、じゃあとりあえず相手が私と同じ頭の元、
あなたみたいな思考しない人間がいないと言う事だけ覚えていてください」
……二人とも頭を抱えていた。
取り合えず、お互い同じ理由だった。
「……だがまぁいい!
お前がそこまで言う相手、こちらも楽しめそうだ!」
「ですが、負けるかもしれませんよ?」
「お前は何回同じことを私に言ったか覚えているか?
そのたびにその言葉を覆してきたのは誰だ?」
「私です」
「その通り!
今回も同じだ!」
良し、とエルフリーダは机を叩く。
「お前の心配はわかった!!
だが、私は行くぞ! お前もついて来きて存分に頭を働かせろ!!」
「……まぁ、いつも通りですね」
はっはっはっは、と部室にはエルフリーダの声が響いていた。
***
そのころ、ミューズ学園では。
「――――や~っぱり、これを使うしかないですよねぇ~?」
と、リナが不敵に笑いながら、D組に頼んで学校の備品から引っ張り出してグスタフで検診してもらった『ある物』を見ていた。
「え、リナ、何する気?」
「簡単ですよ~?
――――歓迎の花束の準備に決まっているじゃないですかぁ~?」
いつも通りその笑みは、不敵そのものだった。
「フフフ…♪」
そう、いつも通りの意地の悪い笑みだった。