その1
ゾイドバトルと一口に言っても、その形態はさまざまである。
だが、大体の場合1対1の決闘、4対4の集団戦、多対一、1対多がおもだろう。
「さて、A組はまぁそれ専門だろうから説明など不要だろう、常識だ。覚えていないヤツは覚えろ、教えはしない。
さて、その上で『コマンドタクティクスルール』を知っているまだまともな頭のヤツは手を上げろ」
今回、観戦するついでにフィリア女史の特別授業を受けることとなったA組は、一応学年でも上位の成績のアリシアですわ、答えられなかった。
「……いやいい、期待しすぎた私がバカだった。
と、なると1からの説明か……面倒だが、教師である以上は教えるべきだな」
さて、とガラガラとホワイトボードを横から持ってくるフィリア。
「さて、先ずは「コマンドタクティクスルール」の概要を説明するべきか。
ゾイドバトルの主なルールは、まず『小規模な団体戦』である『ノーマルルール』。こちらがなじみ深いだろう
次に「限定空間における1対1のデスマッチ」である「フルメタルクラッシュ」。
こちらはこちらで、お互いが砕け散るまで戦うというシビアかつ時代錯誤な中世のコロシアムのようなルールで有名だ。
だが、まだこのコマンドタクティクスに比べれば生易しい」
ホワイトボードのこの二つを説明した図柄から、その下のコマンドタクティクスの絵に移るフィリア。
「このルールは、基本としては「大規模集団戦」がメインとなる。
広大な土地を使い、お互いにフィールドの端と端にまずは「陣地」を形成し、最低40対40で戦うことになる。
勝敗は二つ、どちらかの殲滅か、あるいはどちらかが敵陣地を一定時間確保したか、だ」
「あら、なんだか簡単そうに聞こえますわ…ひっ!?」
と、アリシアがつぶやいた瞬間、一瞬、フィリアが獲物を見つけた肉食獣のような目と笑みでそちらを見た。
「そう思うか、チャンプ?
いや、何も言うな、そう思ったから言ったのだろう、それでいい。
お前は直情的だ、下手に何か考えて動けないヤツよりはマシだ、それでいい。
だが無知ではいたくないだろう? この場の人間もそうだろう?
なら聞け。
このおぞましく暴力的で、最も死人が出てもおかしくないゾイドバトルルールの真髄を、だ。
軍出身の私が言う。これは戦争に限りなく近い」
と、フィリアが珍しいほどに笑って言うその恐ろしさに押され、A組全員が聞き耳を立てる。
「いいか、コマンドタクティクスルールは以下の通りだ。
最低40対40の集団戦。
勝敗は一方の殲滅か、陣地の確保か。
広大なマップの地図は戦う前はお互い知らないこと。
指定マップから出ないこと
後はない」
と、あまりにも簡潔な、そして最大の恐ろしい言葉が紡がれる。
「……後は、無い?」
「そうだ。
このコマンドタクティクスルールはな?
4つしかルールがない」
と、全員の度胆が抜かれた。
「ちょっと待ってください、頭部損傷ダメージの禁止は!?」
「ない」
「荷電粒子砲使用制限は!?」
「ない」
「武装数制限は!?!」
「ない」
「飛行ゾイドレギュレーション調整は!?」
「ない」
「光学迷彩使用禁止は!?」
「勝てるのならつかえ」
「ゾイドダメージ判定は!?」
「コンバットシステムさえフリーズしなければ片足が吹き飛んでも続行可能だ」
「大型ゾイド使用レギュレーションは!?」
「ないな。
言っただろう? 3つのルールを守っていれば、
後は何をしようと勝手だ。
デスザウラーでもギル・ベイダーでもなんでも使用してよし。
ルール無用じゃない、戦場のルールを作ったヤツが勝利だ」
こともなげに言うフィリアは戦慄するA組をみて言い放つ。
「まぁ、見ておけ。
未熟者共でも、面白い戦いはするとは思っているからな」
そう言って、フィリアも校庭へ向き直る。
***
ズドォォン、と音を立て、広大な平野と言える広さの校庭に、それが落ちる。
円柱状の物が落下個所よりせり上がり、開く。
〈―――あー、コホン!
このバトルは! ゾイドバトル連盟青少年部の管轄となる!!〉
出てきたそのロボットこそ、惑星Zi『ゾイドバトル連盟』の公式審判こと『ジャッジマン』。
何十年も前からその見た目の変わらない彼こそ、この惑星Zi最大のエンターテイメントバトルの、名ジャッジである。
〈さぁて、久々のコマンドタクティクスルール、まさか君たちのような青春をかける少年少女たちが行うとは、私も驚きである。
しかぁし!! 他校試合だからと、ましてやほぼルール無用とはいえ、わ・た・し・が! いるからには! 公平かつ的確に、この場のゾイド乗りの卵たちを、ジャッジする!〉
ドォン、と胸を張り、ジャッジマンは声高々に宣言する。
〈では諸君、これより私から半径50キロ以内への無断侵入および無断離脱を禁止する。
両者、陣地への集合をこれよりスキャンにて判定する〉
ピーン、と目が光り、このバトルフィールドのスキャンが始まる。
***
『緊張してきたぁ……!』
『ああ、もう、震えてきやがったぜ…!』
「はいはい、皆さん、落ち着いて?
作戦どおり行きましょう?」
皆の声をリナは聞きながら、通信にて指示を飛ばしていく。
「まず、私たちスカウター隊が先行し、この場所の半分の精確なマップを製作します。
地図がなきゃ戦場じゃ生き残れませんしね。5分を目安に考えていてください。
マップにてスナイプポイント2か所にその後ヴォルケーノ隊、アーチャー隊が配備、
中央付近の『防衛ライン』にパンツァー隊以下全員が集結し、ここで戦闘を行います。
まぁ、デスザウラーぐらいの緊張感がある方がやる気が出るでしょうし、気負わずがんばりましょう♪」
『デスザウラーぐらい、ってなんだよ参謀!』
はっはっはっは、と通信機に笑い声が起こる。
「さて、みなさんもうすぐですよ?」
***
「諸君! 戦友諸君! いよいよその時だ!!
我ら『シュバルツェスシュトルム』の勇名がこの地に吹き荒れる時だ!!
用意はいいか!?」
エルフリーダの言葉に、通信機から「ヤー!!」と掛け声が上がる。
「我らシュバルツェスシュトルムは!?」
『最強!』
「行く手を阻むものは!?」
『粉砕!!』
「その名誉の地平線に刻むものはなにか!?」
『勝利!!』
「よろしい! 諸君、いよいよ進撃の時だ!!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、という雄叫びが、通信機の意味をなさないほどに上がる。
***
〈半径50キロ以内のスキャンを完了。
これより、この区域内はゾイドバトル連盟青少年部の管理下に入る〉
それでは、とジャッジマンは声を上げる。
〈チーム、シュバルツェスシュトルム!
VS、
チーム、1年C組!
バトルモード、2035。
レディー……〉
ジャッジマンの赤と青に塗られた両腕が振り上げられ、
〈ファイッ!!〉
カァン、とそのゴングが、鳴った。
***