ミューズ森林地帯幹線道路入口
「む?」
ライガーゼロのレーダーが、後ろから迫る高速移動体をとらえた。
「後ろから……速い!?
しかもこの速度……!」
レーダー波のドップラー効果、それが導く後方の移動体の速度は―――320km/h。
「なんですかこの速度…! ライトニングサイクスの315キロを超えている…!」
ガイロス帝国製高速格闘戦ゾイド、EZ‐035『ライトニングサイクス』の最高速度を超えるゾイドは、リナが知る限りで4体しかいない。
「マーダ…? まずそれ以外だと、惑星Zi史上、最も中2臭いゾイドになりますけど……!」
普通なら、マーダが妥当だろうし、もう一つはまず見ることなどない。
……だがもし、とリナの心に疑問が浮かぶ。
「もし……もしも、もしかして……アレだったら…!」
どのみち、ライガーゼロの最高速度を超えている。
このクロムウェル―――はるか過去の時代、自分の起源たる地球の民族が持っていた、快速巡航戦車の名前を関するこのゾイドでも、追いつかれる。
「なら見てやりますとも! 疑問を解くことにためらってはいけません!」
と、思っている内に、目標がどんどん近づいてくる。
中2が出るか、マーダが出るか……それとも、
(来た…!)
クロムウェルのすぐ横を、弾丸のように飛び出す影。
「!!」
息を飲む。
それは、ライガーと同じ4足歩行型、そしてライオン型ゾイド。
銀色の全身を覆う流線型の装甲、そこから見える赤いフレーム。
(これは…!)
動き回る足の構造は、案外簡素で、なおかつ高速機動戦において真価を発揮するであろう頑丈さを持つ。
(このゾイドは…!)
四肢の指は割れていない、装甲板のみの爪。両肩から覗くビームガン、特徴的な胸部105ミリ衝撃砲と周りのビーム砲。
「間違いない…!」
そんなゾイドなど、リナは一つしか知らない。
「ライジャー…!
EHI‐09『ライジャー』…! ゼネバス帝国最後の機体…!!」
と、その神がかったタイミングで相手がこちらに気付き、速度をこちらに合わせてくる。
『―――そこのライガーゼロ! 聞こえるか?』
「っ! まさかライジャー乗ってる人ですか!?」
む、とそのライジャーに乗っているであろう……意外な事に女性の声が、反応を示す。
『貴殿、まさかライジャーを知っているのか!?』
「知っていますとも!! 最高時速320km/h、機動力、火力、おそらく防御力も最高レベルでまとまっていたとされる、セイバータイガー……いえ、サーベルタイガーのの補佐にはもったいない中型ゾイド!」
『なんと!?』
「かつての第1次中央大陸戦争時代、この機体が投入されていれば戦況はどうなるかわからなかった埋もれた名機を知らない方が失礼です!」
おぉ、とはっきりわかるほどうれしそうな声が漏れる。
『貴殿が良識者であることはよくわかるな?
我が中等学校時代は、ライジャーが新型だとよく勘違いをされていた』
「うっわ、そいつらって絶対ライガー=共和国とかいうふざけた思想の持ち主ですよー!」
『機動戦を先に始めたのは、我が先祖たるゼネバスの民たちだと言うのに』
「むしろ共和国は砲撃の国でしょう!?」
『うむ、それで我が始祖も負けたのだ』
この人、分かってらっしゃる!
という認識が二人の間に生まれた瞬間だった。
『だが、この理解される喜びに浸る暇はないようだ。すでに校門が見える距離まで来ている』
と、2体のゾイドの先、このミューズ森林地帯に鎮座する建物――――『私立ミューズ学園』の校門が見え始めている。
「しくじりましたね……もう校門が閉まり始めていますよ…!」
リナの言うとおり、校門が閉まり始めていた。
『うむ、これは最高速度で通過せねばいけない状況であろう。
しかし問題もある、あの校舎との距離――――」
「ええ、ぜんっぜん、足りない!」
このまま突っ込めば、おそらくは校舎にぶつかるだろう。人間にとってはかなり広い校門付近であろうとも、ゾイドにはとても小さい。
『貴殿はどうするつもりか?』
「人身事故+施設破壊よりは、施設破壊の方がいいと言う理論を持ち込むつもりですよー?」
さぁて、とリナは行動に移る。
「いいますよぉ、クロムウェル!!」
クロムウェルが吠えると同時に、顔の両脇の排熱機構―――たてがみ状のそれが開く。
「あなたはギリギリでブレーキをお願いします!」
『何かするつもりのようだ、乗っておこう!』
了承は得た、後はやるだけ。
「この技は叫ぶのがお約束です!」
ふぉぉん、とクロムウェルの爪が黄金に輝き、ライガーゼロ最強の格闘武装が目を覚ます。
「ストライクッ!
レーザー…!!」
そして、扉が閉まりきる瞬間、2体のゾイドが校門をくぐったその時、
「クロォ―――――――――――――――――――ッッ!!!」
舗装された綺麗な道に、それを叩き込む。
『なんと!』
「くぅ―――――――――っ、クロムウェェェェッル!!」
その時、ブレーキをかけると同時に、同じくブレーキをかけたライジャーの前に4つ足ドリフトで回り込み、
「ライガーゼロよりライジャーの方が絶対希少価値高いですし!」
そ、とライジャーの鼻先が当たった瞬間、最大の力でストライクレーザークローを地面に食い込ませる。
「多少壊れても許してくださぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
そして、大きく地面をえぐったまま、急速に速度を落としていき、
コツン、と校舎に当たって、止まった。
「……はぁ……」
そこで、リナは額の汗をぬぐう。
「うーん、どうも無事みたいですねー?」
『何とか、な……ふぅ、どうも貴殿はよほど荒い操縦が好きらしい』
「すべてはライジャーが無傷という結果の為!」
にべもなく言うリナに、ライジャーのパイロットらしき女学生はフフフ、と楽しそうに笑った。
『―――そこの生徒!! 遅刻したくないのはわかるが何をしている!?
始業式が終わったら、生徒指導室に連行する!』
と、校内放送用のスピーカーまで使って、そんな怒声が響く。
「あらら、やっちゃいましたね、どうも」
と、いいつつリナの顔に反省の色は、全くなかった。
『よくいう……ええと……』
「おっとっと、そう言えば名前いうの忘れてましたねー」
と、そこでリナはそのライジャーの乗り手に、自分の名を名乗る。
「私、リナソレーネ・アシュワースって言います。
ああ、風族じゃなくて、地球移民4世ですよ?」
***
こうして、このミューズ学園にて、彼女たちの生活が始まった。