「………きっと、この指示は受け入れられないと思うんです」
と、梯子を上り、その場所へ向かうツバキが、つぶやく。
「そうでしょうね!! まず普通は受け入れません!!」
下にいた一人の生徒―――シュバルツェスシュトルムの一人が妙な笑みを浮かべて答えると、下へ視線を向けたツバキも、同じ顔をした。
「でも、それは他の学校の人間や、ほかのゾイド乗りたちの話なのでしょうね」
そこは、コックピットだった。
こぎれいな電子機器に、両脇には申し訳程度の視界で有名な透過型装甲。
それを覆うように閉じる黒い装甲式キャノピーは、間違いなく帝国製。
「さて、指示を出しましょうか。
『敵の一番装甲の厚いゾイド部隊に突っ込め』、と」
***
『通信です!! 傍受を恐れ、遠距離短波電文!!』
『ツバキからか!? 内容は!!』
放火にさらされる中、その内容が酷く言いずらそうに読み上げられる。
『内容は……はい!
敵の最も装甲の分厚いゾイド群に突っ込め、です!!!』
一瞬、すべての味方が沈黙した。
言っている意味が分からない、という具合に。
その時、最初に動いたのは、
『ええい、うろたえている場合かッ!!!
全軍突撃こそ我々の神髄である!!』
荷電粒子砲の使えないデスザウラー。
『行くぞ!! ついてこい!! これこそが!!』
エルフリーダの乗る、総指揮官の機体。
『我々の戦いではないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!』
デスザウラーの突撃に数瞬遅れ、後続がその後ろへ付き、突撃を始めていく。
***
『げぇ、やられたァ!?
防御ガン無視ですか、あの方々!?!』
崩れた場所を完全に無視し、逆にパンツァー隊の方角へ進撃を開始する相手を見て里奈が叫ぶ。
包囲された場合、防御に回るのは愚の骨頂であり、逆に一点に向かい突破した方が、損害は少ない。
経験則や、戦術家、戦略家も皆が口をそろえてそう言う。
「―――なーわけねーでありますからぁ!?!
その場でとどまって援軍を待つという選択肢だってあるのにッ!!」
だが、はっきり言って、それをまともにやろう、と思う人間は、名将か、バカかだ。
オティーリエには絶対にやらない。やろうとは思わない。
人間には恐怖もあるし、損害を考える脳みそもある。
自分ができても、ほかの人間にできないことはある。
(しかし、あのデスザウラーにはそんな物を感じない!!
直観だ!! それも野生の勘でしかない!!)
こちら側に来た手前、結構なピンチだった。
こっちにあるゾイドは、比重でいえば小型ゾイドが多い。
中型までなら対応できるゾイドばかりだが、
重突撃、重装甲ゾイドばかりの相手で、しかも戦闘は荷電粒子砲がないだけで、まともに動けるデスザウラー。
格闘性能だけで、ゴジュラスを蹂躙できる、帝国の『死を呼ぶ巨竜』。
(迷っているわけにもいかないでありますなぁ……)
ならば、
「カリン殿ぉ!!
荷電粒子砲をぶっ放せでありまぁぁす!!」
『え!?』
「とにかく撃てぇ!!! 目標は先頭のデスザウラー!!!
そのあと全員でリナ殿たちと合流であります!!」
『りょ、了解!!』
自機であるフェルディナントの後方、カリンの乗るC組最大戦力のバーサークフューラーが、足の固定アンカーが下り、伸ばした尾の廃熱フィンが開く。
「バスタークロー部分からは撃たなくてよし!! 威力も4割程度で大丈夫であります!!」
『撃ったらすぐに移動だよね!? わかった!!』
***
「させるか、わがデスザウラーは簡単に止まらんぞ!!!」
その巨体を信じられない速さで駆る。
『総番につづけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!』
『足を止めるな、突撃だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
その足の下には、足が速いブラックライモスや、それに乗ってきたのか重砲撃型イグアンも見える。
完璧な『突撃』の布陣だ。
***
「行くぞ、フェルディ!! そしてパンツァー隊の野郎ども!!」
『え、俺らだけぇ!?』『野郎で該当するのお前と俺だけだろ!!』
しかし、その一軍に、果敢にも3体のゾイドが突撃する。
どれも重量級。共和国重突撃ゾイドのディバイソン2機と、ガイロス帝国の巨象エレファンダーだ。
『邪魔だ、チビ共ぉ!!!』
『いやいや、小型でも強力なやつばかりじゃないかよぉぉぉ!!!!』
『気にするなよ、男子共、後ろから女神の支援をやるぜ!!』
先頭同士が交叉する瞬間、背後からあらゆる砲撃のシャワーが放たれる。
黄金砲――――ハイパーローリングキャノンという、共和国のあらゆる砲を乗せたロマンと実用性を兼ね備えた逸品、
アンキロサウルス型ゾイド、ガンブラスターの攻撃だ。
『チッ、相手方はほぼ『半荷電粒子リコイル』装備だ!!!
ビームの通りが悪いぜ!!』
実弾とは別に、ビーム砲やレーザーがイグアンなどに当たる瞬間、不自然な曲線を描くさまが見えた。
「贅沢なやつらだ!!
17連突撃砲薄いぞッ!! 何をやっているッ!!!!」
『砲としてしか見てねぇのかよぉ!!!!』
しかし、ディバイソン2機の凶悪なまでの弾幕は、イグアンに次々傷を負わせ、ブラックライモスすら退けていく。
そこへ、エレファンダーが火器を乱射しながらツッコミ、防御に回れば後ろからガンブラスターの黄金砲が光を放つ。
***
「ぐっ…!?
……成程、なかなかやる…だが!!」
この攻撃を、相手はものともしなかった。
「この私の駆るデスザウラーが、超重装甲ッッ!!!」
再び放たれたハイパーローリングキャノンの雨に、その装甲が傷つき、焦げつつも、まるで無傷かのように歩みを止めない。
「そう簡単に、抜けると思うなぁぁぁぁぁぁあっっ!!!」
それどころか、素早く反転し、尾を薙ぎ払うように敵へたたきつける。
***
「ゲッ!?」
とっさに、全員姿勢を低くしたり、後ろへ飛ぶ。
動物型だからできる芸当だ、がそれでも先頭にいたディバイソンがやられる。
『うぎゃぁぁぁぁぁ!?!?!』
ずさぁ、と砂を巻き上げ、ぼこりとでた岩砂漠の入り口のような場所に叩きつけられる。
ブモォォ、という声は断末魔か、バチバチとショートしたような音と共に動かなくなる。
「はうあぁぁぁぁぁぁぁぁ、あ、あ、アスカ殿ぉぉぉぉぉぉぉッ?!?!
パンツァー隊一機システムフリィィィズ!!!!」
『ごめんよぉ、マジでごめんよぉ…!!』
通信機越しにオティーリエとディバイソンの中にいたアスカは、泣きながら誤っていた。
しかし、今は止めだ、とでも言わんばかりにデスザウラーが再び顔を向けるタイミングだ、かまっている暇は無い。
「カリン殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっっ!?!?!」
『お待たせッ!!』
だが、まだパンツァー隊に運は向いていた。
バーサークフューラー、ココロの口から、
光が、その時ほとばしった。
***
『荷電粒子砲――――――ッッ!!!』
『反荷電粒子リコイル最大出力――――――ッッ!!』
前衛にいたゾイド群の周りに、丸い光の膜が浮かび上がる。
反荷電粒子フィールドが最大出力になった際起こる現象だ。
だが、それは気休めだった。
存外、空気を振るえるほどとはいえ、砲撃音よりは小さい音と、そんな物感じないほどの光を放つ荷電粒子の線は、その膜を容易にえぐり、デスザウラーへ直撃する。
―――グォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!
胸部へ直撃した、バーサークフューラーの収束荷電粒子砲。
その威力、そしてその痛みに、デスザウラーが吠える。
「ぐぅぅぅ……!!」
衝撃で、コックピットが揺れる。
「も、持て……デスザウラー……!
死を呼ぶ巨竜……我が、愛機よ……!!」
操縦桿が重い。今にも手放しそうだ。
だが、ダメだ。
これを放した瞬間、エルフリーダの誇りが、デスザウラーの闘志が消える。
「システムフリーズなど……するかぁ!!」
耐えきった。
超重装甲は誘拐し、いまだその熱で赤熱化し、融けて内部機構が見える程だ。
だが、そのデスザウラーは耐えきった。
「ッ、生き残りはぁ!?」
『え、A班生存報告!!!』
同じく、同じく、と続き、
『E班全機システムフリーズ!!』
『B班、2機を残し戦闘続行不可能!!』
と、数秒の内に被害報告が上がる。
「相手は…!」
ようやく、視線を相手へと向けた。
そして、驚く。
「いない…!?」
***
「邪魔よ!!」
カリンが撃った瞬間、いや、撃った前から、静かに、
アーチャー隊……ハンマーロックの一団は動いていた。
『委員長さ~ん! 突出し過ぎちゃだめですわぁ~!!
隊長機が撃ち落とされてもルール上は問題ないですけれども、』
「なら問題はないわ!!」
目の前で突進してきたブラックライモスに対し、フレア(対ミサイル阻害熱源)を散布して虚を突き、横腹に拳を叩き込み、叫ぶ。
『士気に影響もあります!! 何やかんやで、一番みんなを引っ張っているんですから!!』
「いい!? 指揮官だから前に出ない、は言い訳でしかないわ!!
前に出るデメリットは、時として前に出ないデメリットを下回るのよ!!
今がそうよ!! へリック大統領の言葉通り!!」
敵の重装甲イグアンの放ったビームを回避し、近づいて蹴りを喰らう前に殴る。
「もうすぐ、パンツァー隊が合流するわ!!
ここまでこそこそ動いて、電子妨害もちょっとして穴を掘ったの!!」
『もうちょっとでふさがりそうな小さい穴ですけれどもねぇ!!』
相手の数は多い。何せ、敵陣の真ん中を通っているようなものだ。
すでに包囲されていると同義なのだ。
「相手と同じことをしようとしただけよ!!
それに、破城槌はもうすぐ来る上に!」
と、すぐ近くで爆炎が上がり、敵が吹き飛ぶ。
『弾着!! カノントータスの780ミリ榴弾です!!』
「味方の射程に入った!! 近いわ、きっとリナなら状況を理解してくれるって信じてたわ!」
そして、直後時期のすぐ近くに榴弾がやってくる。
『きゃぁ!?』『近い、近いって!?』
「……だ、弾幕で防御するから早く来いってことにしろ、死んでもいいかぐらいに思っていないかしらこれ……!?」
しかし、案外有効だった。
破片やら粉塵やらもあるだろうが、このハンマーロックはミサイル攻撃をメインに置くよう改造されており、センサーの感度はなかなかだ。
敵も、ひるまず撃ってくる。特にダークホーンがやたら多いためその弾幕は、気を付けるべき密度だ。
だが、榴弾と動じない胆力とちょっとのゾイドのダメージで守られたハンマーロック達には、まだ当たらない。
「まだなのパンツァー隊…!?」
『ちょっと、委員長さぁん!! 私の所のエースの心配は!?!』
「それも含めてよ!」
と、隣で奮戦するゴドスからの通信に軽口をたたく。
メルヴィンにはまだ、勝機が見え、余裕があった。
『――――アーチャー隊のみなさぁぁぁぁぁぁん!!! 遅れたでありまぁぁぁす!!』
そして、待ちに待った声と共に、ゾイドを蹴散らす重厚な足音が聞こえた。
「来たわね!?」
一瞬、注意をそちらに向ける。
だが、次の瞬間、
『ですがぁ!! ピンチです!!ピンチであります、うぎゃぁ!?』
その不穏な通信と共に、エレファンダーの姿が見える。
「何があったの!?」
『ココロの右腕が!
じゃ、じゃなかった、どど、ドリルの右が壊されちゃいました!!』
『さっきやられたディバイソン以外は何とか無事だが、マジでやべぇぞ!!!』
と、不穏な通信と共に、味方の一団が小型、中型ゾイドからなる壁を壊して進んでくる。
殿を務める、はバーサークフューラー。
みると、ココロの右のマグネーザーが、半ばから消えていた。
(何…!?!)
瞬間、何かが、バーサークフューラーの背後からやってくる。
『クッ…!?』
見事な操縦で、それの突撃をよける。
しかし、瞬間、煌きと共に、
スパン、ともう一方のマグネーザーが、半ばからずり落ちた。
「何!?」
ドスン、と音を立て、エレファンダーとこちらの間に何かが下りる。
それは、黒いゾイドだった。
サイズは大型、形はバーサークフューラーと同じ―――ティラノサウルス型。
「ジェノザウラー…?
いや、違う…!」
ジェノザウラーに酷似したそのゾイド。
しかし、背部にあるのは、パルスレーザーライフルではない。
その背部にあるのは、二振りの『剣』。
まるで、騎士を思わせる兜とでも言い表す頭部装甲から、赤い角と鋭い視線を見せる、恐竜型ゾイド。
「ジェノリッター…!?
なんて趣味的な…!!」
***
「合流などはさせませんよ? ミューズ学園の方々」
敵を見据え、ジェノリッターの操縦桿を握るツバキは静かに意思を向ける。
「ここが、あなた方を飲み込む『渦』だ」
シャラン、と二振りの大剣「ドラグーン・シュタール」を向け、言い放つ。