その1
無事、始業式と入学式に出ることができたリナ達は、生徒指導室で叱られていた。
「―――以上だ。今後とも問題を起こすなよ?」
「はーい」
フィリア・W・ヴァルツァー、という名前のガイロス系らしい女性の言葉に、気のない返事で返すリナ。
全く反省していない。
「―――申し訳ない、ヴァルツァー先生」
と、その隣で謝る生徒がもう一人。
オレンジ色の髪をひとくくりにし、やや赤茶色の肌、そしてより濃い同じ色の瞳を持つ、それはそれは凛々しく美しい印象を持つ少女。
恐らくは地底族であろう彼女の、その凛とした雰囲気は、やや無礼な物言いも許される気がした。
「……まさか、お前らが二人もそろって私の担当クラスだとは驚いたよ。
リナソレーネ・アシュワース、そして、ヒルデガルド・ターレス」
あぁ、そんな名前だったんだ、と自分は名乗ったものの名前を聞いていなかったリナは驚いた。
「まぁ、暴れ馬は嫌いじゃない。無理に『調整』して力を殺すのもおしい」
人の事なんだと思っているんだか、と思いつつも、黙ってリナは聞き耳を立てる。
隣のヒルデガルドと言う女生徒も、黙って聞いているのだからと。
「……それはそうと、一つ尋ねるが」
と、フィリアがやや声音を変えて二人に尋ねる。
「はい」「なにか?」
「お前らの突破した交通整理をしていた警官な、アレはニューリバプールの中でも相当悪名高い武装警官隊らしい。なんでもすぐにぶっ放すから、ゾイドの被害が絶えないそうだ」
「そう言えば後ろで撃たれていたような……まぁ、つっきちゃいました♪」
「右に同じ、ですね」
「そうか、お前たち見どころがまだあるな? ここで素直に交通規制を守っていたようじゃ、半人前もいい所だからな」
なんて先生だ、と思いつつも、なんだかおもしろそうな先生だと思うリナだった。
「さ、さっさと洋室に行け。
どうせホームルームまで私はいかん、今のうちにクラスメイトの顔を覚えて置け」
と、そう言って手を振り、行けと言いはじめる。
「はい」
「失礼します」
断る理由もなく、二人は一礼して職員室を出て行った。
***
「改めて名乗らせてもらう、リナソレーネ殿。
私が、あのライジャーの使い手、ヒルデガルド・ターレスだ」
やや慇懃無礼だが、その高貴そうな立ち振る舞いはそれをごく自然な物だとリナに理解させてしまう。
リナにとっての第1印象は、「絶対どっか帝国系の貴族の末裔だこの人」だった。
「どうも~、改めまして、私はリナソレーネ・アシュワースでーす♪
あ、長いのでリナでいいですよ?」
「ふむ、そうか。では言葉に甘えさせてもらうとしようか、リナ殿」
ただ、違うのは成金とかそんな輩ではなく、確実に相当な高位の貴族系の人物であり、こんな立ち振る舞いを幼い時から仕込まれている、ともリナは理解していた。
この、地底族の色が濃く出た容姿である彼女、それでいて凛とした美しさのある、自分の可愛らしさとは別の女性の魅力がある彼女は、間違いなく本物の――――
「では、リナ殿、私の事も気軽に『ヒルダ』とでも呼んでくれ」
と、そこまで考えたところで、そんな声がかけられた。
「ええ、ではヒルダさん、で」
「うむ」
と、笑顔で返してくれる辺り、どうも性格は良いようだ、とリナは判断した。
とりあえずこれでクラス内における女子グループの一つを作れそうだ、とも
(ハブられる心配はこれで、無ーし!
初日から上々です!)
そんな微妙にリナの『女の計算高い思考』を知るかはともかく、
「それはそうと、リナ殿がライジャーを知っているとは驚きだ。
何せ、前にいた所では誰一人もあの名機を知らなかったからな」
これは、とリナに衝撃が走る。
「い……いくらなんでもそんな環境は悲しすぎますでしょう!?」
がばっ、という擬音が似合うほど素早くヒルダの顔のすぐ前まで顔を持ってきて、叫ぶ。
「それは……それは、ライジャーは……ライジャーは、ゼネバス帝国の終焉間際に作られ始めたために、ほぼ一切戦線に出ることなく終わった不遇の機体とはいえ…!!
仮にもゼネバスの名を冠しておきながら、知らない人しかいないだなんて……!!」
「うむ、そうなのだ。
どいつもこいつも、ゼロイクスだのダークスパイナーだのと……シュトルヒやディメトロドンはまだ許せるが、」
「それは許せますねー、どれもゼネバス帝国の名機には入りますしねー」
「後、イグアンだな。あの縁の下の力持ちがいなければ、」
「ゼネバス帝国は一瞬で積んでいたでしょうしねー」
イグアンちゃんマジ天使、とリナが言ったところで、ヒルダがなぜネオゼネバスに配備されなかったのか、とうなずく。
実際、今話にでたEZ‐017「イグアン」は、ゴドスと対抗するために作られた機体だけあって、ゴドスと同等の性能でありながら、ゴドス以上に火力が高い機体だった。
生産コストから考えても、当時資源的に切迫していたゼネバス帝国、ガイロス帝国の両社は、率先して戦線を支えるべく使っていた間違いのない名機だ。
……ここだけの話、ガイロス帝国の元陸戦ゾイド乗りの中では、レブラプターに機種転換する時期になっても、イグアンを使い活躍した兵士が多い。
「そもそも、レブなんとかみたいに火器の無い機体を小型機で量産するとか、アホの極みですかー?」
「面目ないな……なぜ、格闘武器だけで共和国の砲撃部隊を突破できると当時は思っていたのか……」
やっぱりイグアン、と二人は納得してうなずく。
……まぁ、レブラプターもいいゾイドではある。だがそれだけだ。
純粋格闘戦機で戦争に勝てるはずがない。
「おっと、話している間についたみたいですねー?」
「む?」
と、二人の視線の先に目的の教室―――1年C組にたどり着く。
「もう教室か。一応は同クラスの友もできたが、クラスにうまく私はなじめるだろうか?」
「とりあえず、貴族口調を押さえれば可能じゃないですかぁ?」
「ほう、それは困った。
これではクラスでの友は一人だけのさびしい学園生活になってしまう」
ははは、と笑って、二人はクラスの扉を開いた。
ガラララー、
「――――てめぇ、もっぺん言ってみろゴラァ!?」
「――――ええ、何度でも言ってやろうじゃない!
この脳筋女!!」
「――――あのー、二人ともどうかそのへんで」
そこの光景を一言で表せば「濃い」だった。
中にいるクラスメイトの顔、というよりも雰囲気。
まずがなり立てているのはいかにも脳筋そうな不良女子生徒で、それと言い合いをしているのが、誰がどう見ても『メガネをかけた優等生で堅物の委員長』な女子生徒、
その中心に立って止めようとしているのが、なぜか頭に黒く変わった意匠の十字の飾りのついた帽子をかぶった女子生徒であり、
「………」
なぜかその様子を窓の端の席で見ている、銀色のながい長髪の女子生徒は仮面をかぶっており、
「ああ、私だ。昨日伝え忘れた案件だが――――」
「……」
どう見ても制服がコスプレにしか見えない、ダンディなオヤジと、その近くで無言で資料を渡す褐色で背の低い女子生徒がいたり、
「あー、髪が決まらねぇー」
「おい、どっちに賭けるアレ?」
「えっと……えっと?」
「ふん! ふん!!」
他にも今風の男から、気の弱そうな女の子から、不良っぽいのやら筋トレ中やら……
「うわ、私のクラス、濃すぎー」
リナの言葉に、ヒルダも思わず苦笑していた。