色々長くなってごめんなさい
ついでに言うとこの本編のとある個所、『我らが万能戦艦N‐ノーチラス号』などのBGMでお楽しみください
ZAC2179年、『豊穣月』18日目
早朝、西方大陸北標準時4:45
「……………」
シャコシャコシャコ……と歯を磨くリズミカルな音が響く。
寝ぼけ眼という言葉をこれでもかと表現した顔で、メルヴィンは歯を磨いていた。
場所は、これが校舎なのか、と思える程に鉄板となにやら膨らんだ四角い何かで装甲化された校舎の屋上だ。
「ガラガラガラガラガラ………くちゅくちゅ、プッ!!」
近くのバケツに、口を漱いだ水を捨て、メルヴィンは朝もや漂う森林を眠たげな眼で見る。
「……もう少し、ってところかしらね………ふぁ……」
欠伸まじりにそう言って彼女は、森の先を見る。
朝もや交じり、西のまだ霧の濃い方角。
湖。
おそらく、敵の攻めてくる方向を。
「委員長さーん! できましたー!」
と、背後からそんな声が聞こえる。
す、と服のえりに刺していた眼鏡をかけ、すっきりした視界の先にいる一団を見る。
そこには、ジャージ姿にも拘わらずナチュラルメイク済みのカリン。
そして、いつもの番組スタッフ3名。
その足元には、大鍋で何かが煮込まれている。
「リナさんに教わった「本格派はブチギレるロイヤルミルクティー」できましたよー?」
「味はどう?」
と言いつつ、お玉ですくってマグカップにそれを注ぐ委員長。
「リナさんみたいにうるさくないから、甘くておいしいです♪」
「よろしい。朝は甘いものとカフェインに限るわ。
ブラックコーヒーは苦手だけどね……恥ずかしながら」
ふーふ、とすこし表面を覚まし、慎重に一口。
……熱い。だが、それがいい。
朝の目覚めの一杯は、これでいい。
「今回は、リナさんが向こう側なんですね~」
「大問題ね。
それだけで相手の脅威度がぐんと跳ね上がるわ」
と、カリンの言葉に、そう答えるメルヴィン。
いつになく、険しい表情だ。
「ところで、相手さんの大将であるイオナ生徒会長、だっけ?
番組の為にも聞くけど、強いんですかい?」
と、ディレクターのいつもの胡散臭い男……名前は何だったか……がそう尋ねる。
「そうですね……まぁ、番組さんとしては面白くないことを言えば、
確実にこちらが負ける程度には強いでしょうね」
え、と3人のスタッフ以上に、カリンが驚く。
「そ、そんなに……??」
「強い強い、かのムーロア家の血筋をいかんなく発揮しているわ。
ゴジュラスに乗せれば一騎当千、普段乗ってるビガザウロですら別格のゾイドのように動かすわ。高速戦ゾイドや飛行ゾイドは苦手らしいけれどもね?
ただ、それ以上に、
イオナフェルト・ムーロアは、この学園最高の知将で、政治的手腕も学生のレベルを超えているわ」
と、面白くなさそうに言うメルヴィン。
「そ、そんな……あの、生徒会長の言葉のお辞儀でマイクに頭をぶつけたり、家庭科の実習でみんなからクッキーをもらってうれしそうに完食してたりする生徒会長さんが…?」
「あなただって、可愛い顔のアイドルでもバーサークフューラーのパイロットとして優秀じゃないの。今回も頼んだわよ?
そして、そんなマスコットみたいな生徒会長でも、
この学園最強のN組の委員長、指揮官を務める人材なの」
ふん、と忌々しそうな声を出すメルヴィン。
「彼女が悪いわけじゃないけど、王族の身分でさらに優秀なんて嫉妬しちゃうわよね。
民主主義と言いつつも、ある部族しか惑星Zi最大の共和制国家のトップに立てないとでも言う感じで」
「……委員長さん……??」
「おっと、ごめんなさいね。ちょっと個人的な話になったわ。
ともあれ、あの会長は侮れない。
最悪に最悪を重ねた状況になることは必須よ」
と、敵の来るであろう方向を見据え、そう言葉を紡ぐ。
「……こちら側からくると思いますか?
えっと、詳しいことはまだわからないことだらけですけど……防御の薄い方を狙うのが当然じゃ?」
「そのためには、厚い側がある必要があるの。
逆を言えば、厚くしておけば必ず、薄い方向に行く。
……でも、こうも考えられるわ。
何らかの方法で厚いここを無理やりぶち抜く」
え、と思わずカリンは疑問の声を上げる。
「でも……この前の授業で、『強点突破は愚の骨頂』だって、」
「そこが、強点たりえたら、の話よ」
と、至極もっともな意見を、不穏な言葉で一蹴するメルヴィン。
「……!?」
カリンは、思わずこの校舎の周りを見る。
霧に覆われたこの装甲化した校舎、その壁に空いた穴から、ダブルガトリング使用でたたずむ、レッドホーンが5機。
E組のゴルドスを、ロングレンジバスターキャノン使用にしたものが、8機。
イグアン、重装型ゴドス、ハンマーロック、それなりの数。
ゴジュラスが、バスターキャノン装備2機。
―――そして、N組揚陸部隊最強戦力『デススティンガー』が一機。
「こ、これ……相手は、どうやって突破するんです……??」
乾いた笑みが漏れる程、すがすがしい戦力投入。
普通なら、余裕の火力です、とでも言いたいほどで、実際テレビクルーの皆さんも、絵になるなぁなど言うほどだ。
だが、メルヴィンは、まったくもって不安な表情のままだ。
(幸い偏ってこちらにいる航空爆撃部隊は薄い方にもすぐ行けるよう飛行場を配置している……そちらから機動部隊が来るはずとはいえ……)
ふと、霧の先にある湖を見る。
(敵編成は、A組が偏ってしまったせいで機動力はある物の、火力に関しては若干不安要素がある……かといって、先ほどから『電波が届かない場所、レーダーが反応しない場所』が増えているのは、中~小型でも強力な電子戦部隊がいるため、そしてもう活動を始めているため。
そして、あちらには、主に護衛戦闘機部隊とはいえ爆走もできる万能機がそろっていて、航空支援もしてくると踏むべきでしょう)
一口、紅茶を飲む。
甘いはずのその味が、だんだんわからなくなってきた。
(何より、相手はセイスモサウルスが一匹いる。N組の最強火力ね。
デススティンガーも強力とはいえ、射程においては向こうが上。
随伴は駆逐艦仕様のいつものビガザウロ数機ね。
この大艦隊は、この森を抜けざる負えないはず。
ここまで集中した戦力は観測しているはずだから、侵攻されてはまずいもの。
―――普通ならそう思うから、薄い部分にセイスモを送ることはできない)
長い考察だが、どうしても、ある接続詞を付けざるを得ない。
「―――でも、相手はかのムーロアか」
不安だ。
よりにもよって、部隊配置や運用に長けたリナが向こう側だ。
自分も能力で劣っているとは思いたくないが、しかしその優秀な参謀を扱うトップは決して侮れない相手なのだ。
「どう出る? イオナフェルト・ムーロア生徒会長殿?」
そろそろ、地平線から太陽が顔を覗かせるころだ。
襲撃は近い。
***
『じゃあ我々、高速戦部隊は、『セイスモサウルスの随伴』として頑張ります!』
「リナちゃん、お願いね? ゴルヘックス一機とグランチャー4機だけの電子戦編成でごめんね?」
『イオナ! 私とセイスモをこっちに向かわせるんだから、精々その『おんぼろ大統領』で足を引っ張らないようにね!』
「頼りにしてます、ミリシャさん。『タコライス君中隊』頑張ってください♪」
『『そのうまそうなネーミングなんとかならない(ですか)?』』
ぴ、と、最後の言葉には反応せず、通信を切る。
ふぅ、と、ため息まじりに、今いるこのコックピット―――というよりは、戦闘指揮所である『斜めになっているために、本当は横だが真上の』眺望を楽しむ。
「………霧が深いなぁ……でも、静かで好きかも」
あたり一面、水と霧。
ある種、自分がどこへ向かうべきか、どう進むべきかわからないこの光景を、そうと一言で片づける。
――――まるで、道は自分が作るとでも思うかのような、自信の表れだ。
『会長、冗談はよしてください。
さっきからレーダーの乱反射に、位置情報特定の衛星電波も届かず、困ってるんですから」
と、そんな男の声が聞こえる。
「トシキ副長、二つ訂正があります。
一つ、会長ではなく、艦長!! と呼びなさい。艦長、ですよ? 艦長。かっこいいでしょう?
二つ、このN組の情報、諜報を一手に担うトシ君副長が、そんなわけありませんよね?」
と、自分の戦闘指揮所の正しい角度から見て前方、
その、斜めにそびえたつ影の中腹にいるであろう、相手にそう問いかける。
『……では、艦長殿!
自分だって、E組に入るか否かなほどの適性はありますが、決して万能ではありません。
この霧の上、E組班のジャミングウェーブも乱れ飛んでいて、とてもじゃないが……」
「しかし、電子戦においてあなたの力の比重が大きいのも事実です。
E組から空白周波数帯パターンのデータはもらっているでしょう?」
不確定要素を排除したいという副長の言葉を、しかし笑顔でさえぎるイオナ。
『~!!
……つまり、やれってことですか……ッ!
クッ……人使いが荒すぎて、胃が痛くなってきた……!!』
『ハイハイ、二人ともそこまでだよ~?
トシ君はお腹が弱い上に貧血なんだから、いじめすぎると倒れちゃうよ~?』
と、さらに上の位置からそんな語尾の伸びた声の通信が入る。
『っ!?
……コユズ・ミノワ航海長、余計なことは言わなくていい』
『いいじゃない、トシ君~♪
お互い長い付き合いなんだから~。もういっそ、付き合っちゃう?』
『おいユズ!! お前、お前なぁ!?』
『私も今ならトシ君もありかも~♪』
『そういうことは、もっと、こう……』
『……ふーん、私じゃダメなんだー』
『あーもう、俺にその気はない!!
いや、お前に魅力がないわけじゃないが……だがなぁ!?』
二人の男女の、なんだか青春の香りのするいつものやり取り。
微笑ましそうに、ついでに意地の悪い笑みを浮かべて、黙ってイオナは聞いている。
どうぞどうぞ、続けて続けて。
『―――ヒューヒュー!! お暑いデース! お二人さん!!』
『東方大陸に伝わる幼馴染の会話は最高ダッゼ!』
しかし、そんな茶々が入るのも、まぁお決まりだ。
正しい向きとすれば両脇は、黄色いキャノピーに守られた、ガンナーコックピットであるはずの一課荒響く、陽気な掛け声。
そこに、小柄な二人の、同じ顔―――は失礼だが、9割9分にた顔の小柄な女の子たちが、そうマイクを使う必要あるのかという身振り手振りを見せる。
霧でうっすらと、なのにそんなシルエットが見える動きだった。
「キリエ、キリノ、両砲雷長!
こういう聞いててハッピーなやり取りに茶々を挟むのは、個人的な権限で許しません!!」
『なんデスと!?』
『怒られたッゼ!?』
な、とついでに副長の声も響く。
『そんなことに権限を使わないでください、会長!!!』
「今は艦長と呼びなさい、副長!
そして、却下です!! 存分にイチャイチャしてください!!」
『やったー、公認だよ~!』
『こんなの認めてたまるかぁ――――――――――ッッ!!!!!!』
と、叫び虚しくも、周りの女子たちは笑っている。
『――――あー、こちら尾部機銃の機関長だがー』
と、その言葉と共に、真後ろの方角にそう声が聞こえる。
「ブライ機関長、こちらCIC(中央戦闘指揮所)。
機関チェックが終わったのですか?」
『おう、艦長殿!
この艦、いや『ゾイド』に乗る唯一の男のダチがいじられちまう程度に手間取ったが、
ま、俺もD組の連中と話し合う程度にゃメカいじりが好きだからな!!
補機動力源(サブジェネレーター)、1番から8番までチェック完了だ。
勝手だが、アイドリングは始めさせてもらったぜ?
あとは、ゾイドコアに――――主機関に目ぇ、覚ましてもらおうだけだぁ!』
その年齢に似合わない野太い声を聴き、不敵な笑みが自然に浮かぶ。
「―――機関長、もう一度報告求む。
補機動力源、チェックどうだ?」
そして、言動を正し、改めてそう相手へと問う。
『補機『反荷電粒子リコイルジェネレーター』、1番から8番までチェック良し!
補機始動済み、主機『ゾイドコア』へ動力伝達準備よろし!!』
報告を聞き、す、と座るシートの脇から、一つある物を取り出す。
それは、白い官帽。軍や警察などが制服着用時にかぶる物とでも言えばいいか。
白く、頭頂部とつばの間に黒いラインが入り、真正面にこのミューズ森林学園の校章が入る物。
何のことはない、制服の一部の帽子だ。
だが、これをかぶる時、イオナは普段の状態から変わる。
ただの、ほんわかした女学生から、
この学校を統べる生徒会長、そして、指揮官へと。
「主機ゾイドコア始動!!
全艦、電磁砲雷撃戦用――――――――――う意ッッ!!!」
『全艦! 電磁砲雷撃戦用―――――――――う意ッッ!!!』
『電磁砲雷撃戦用―――――――――――――う意ッッ!!』
『主機、ゾイドコア始動!!』
直後、腹の底から鳴り響く、鼓動のようなけたましい音が鳴り響く。
ゾイドコアが、活性化を始める。
――――クォォォォォォォォ……!!!!
この、ゾイドが鳴く。
それは、目覚めのあくびのような、そして戦意の表れのような、甲高い声。
「傾斜復元!!
船体を起こせ――――――――――――――ッッ!!!」
『船体起こ――――――――せ―――――――――――ッッ!!!』
『船体、左斜め30度より急速回復――――――ッッ!!』
ゾイドコア、そしてそれを補うサブジェネレーターの唸りに負けない声で、指示を飛ばし、報告する。
長い首が、湖に沈んでいた体が、ゆっくりと戻っていく。
「ハイドロジェット始動!! 推力上昇、1160トン!!
行きます!!
ヘリック・ムーロアⅡ!! 抜錨!!!」
――――クォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!
その、巨大な影を持つゾイドが、完全に目覚める。
『ヘリック・ムーロアⅡ、抜錨――――――ッ!!
『4番、5番、動力伝達切り替えー!
ハイドロジェットへ出力!!』
『ヘリック・ムーロアⅡ、抜錨!!
おーもかーじ!! 40!!』
そして、湖を進みはじめ、目的の場所へと向かっていく。
「……これが急に出てきて、対応できたら、
メルヴィンさんの評価あげちゃいます…!」
その、不敵な笑みを乗せてすすむ。
***
午前5時半
『―――緊急警報!! 総員起床!! 戦闘配置につけ!!
敵襲だ!!!ビガザウロ4機と、未確認の超大型ゾイドだ!!』
けたましく鳴り響く校内放送、まばらながら急いでいることのわかる足音、起動するゾイドの声、喧噪、移動を始めるゾイド群………
「それで?
未知の『超』大型ゾイドっていうのは?」
学校の備品である、大型電子戦ゾイド『ゴルドス』。
その、大型ミサイルポッドなどで改造した機体に、メルヴィンは乗っていた。
『報告によれば、機体側面に大型火砲を4門搭載した首長竜型ゾイドだってさ!
ジャミングと霧の濃さ―――つーか、これうちの『ジャミングミストシステム』だよ!
ゴルヘックスでもジャミング変遷パターン解析しなきゃ、有視界でもそれ以上のことは分からないやつ!!
けど、これって…!』
「『大統領』だって言いたいわけ?」
E組、DJサオリンの報告に、静かにデータリンクシステムを確認し、目標を現す表示された画像をにらむ。
『マーム、発言の許可を、マーム!!』
そんな会話に割り込むように、別の相手から通信が入る。
「N組のエイル・マリンコフさんだったかしら?
ゴジュラスマリナーの子よね?」
『イエスマム!!』
「それで? 発言を許可するから簡潔に言いなさい」
と、メルヴィンの催促に、勢いよく『ハッ!』と答えるエイルという生徒。
にしても、まだ幼そうな気もする高い声音のわりに、勢いのいい声だ。
『マーム、自分たちは常々、『最悪の事態を想定し、それでも勝利し生き残る事』を信条、そして行動指針にしております!!
今回も、あの我がN組が提督、いや生徒会長が!!
何らかの方法で『大統領』を改修!! 旗艦にしていると思われます!!!』
『―――横から失礼だけど、それは難しいはずだよ~?』
しかし、その意見に反対の声も上がる。
それは、近くにいたハンマーロックよりも小さなゾイド――――ゴーレムからだ。
「D組の……?」
『ヒバリ・ウェリントン。バリ子でいいよ、副生徒会長。
それより問題は『大統領』さ、
あんなバカでかい機体、サブジェネレーターそろえるにしたって何使えばいいんだ?
ゴジュラス用でも、まだ足りないぐらいだ。
普通に考えて、今の大統領は瀕死の狸さ!』
D組は、ゾイド整備、輸送のプロだ。
『大統領』というゾイドも、彼らにかかれば、詳細なスペックまで把握される。
「そうなの……
でも、本当に不可能なの? 全く可能性がない。そう言い切れるの?」
しかし、それでも尋ねる。
何せ、来ているという確信があった。
悪い予想は9割当たる物なのだから。
『ゴジュラス用サブジェネレーターでも足りないとなると………
それでこそ、ハイパーローリングチャージャーでももってこいって感じだよ!!』
と、ゴーレムを器用に肩をすくめさせ、そう答えるヒバリ。
……それもそうだが、やはり不安だ。
(こうやって不安にさせるのも相手の策略よね………
なら、攻撃的に『撤退』するのみね)
その判断を下し、命令を出す。
「前期傾注!! 攻撃を開始する!!
デススティンガー、及びレッドホーンを中核とした機甲部隊は、前面に出て敵を迎撃。
航空支援は別動隊の高速戦部隊及び、後方にいると思われるセイスモサウルスを迎撃するために望めない!
小型群はビガザウロのミサイルを迎撃することに専念!! ゴルヘックスはジャミング解析よりも敵ミサイル攻撃のパターンを小型群に送り、同時に火力支援を絶やさないこと!!
ゴジュラスも火砲支援よ、今は前に出ないで!!
その後の予定は、『プランD』よ!! 深追いは禁物と肝に銘じておきなさい!!」
了解、と各部隊からの返答が来る。
「全部隊に、火気使用自由!!
攻撃開始!!」
直後、自身の乗るゴルドスのロングレンジバスターキャノンから砲弾を放つ。
まずは、火力を叩き込む。大まかな場所しかわからずとも、『射撃』ではなく『砲撃』であるのでいいのだ。
これは地ならし。あくまで『整地作業』だ。
***
『私に続いてッ!!
レッドホーン部隊は、ビーコンの届かない距離以上離れず、近づかづ、散開隊形で進んで斉射!!
ミサイル来るわよ、小型たちは迎撃お願い!!』
デススティンガーは、頭部のAZ35ミリバルカンを斉射しつつ、進む。
『オラオラァ!?!?! 出てきやがれこのクソ臆病首長共がぁ!?!』
『こんだけ斉射しても、霧が深くて何も見えないな…!?』
『いるはず!! ノイズだらけでも、もうレーダーに反応している!!』
進む一団は、この霧の海ともいえる森の中、未知なる敵に警戒し、恐怖する。
何がいる……?
いや、おそらくは、ビガザウロの一団。
旧式の中でも旧式、しかしそれを改造し、駆逐艦とした大型ゾイド。
だが、まだいる。
何か……得体のしれない緊張が、無作為に発砲する一団を襲っている。
まるで……ここは魔の海域(トライアングル・ダラス)。
何がいても、おかしくはない………
と、その時、デススティンガーの足が止まる。
『どうした!? 切り込み隊長さんよぉ!!』
問いかけに代わりにこたえるよう、突如デススティンガーは荷電粒子砲を起動させた。
『おいおい、暴走でもする気か?』
『そうかもね。
でもおかしいわ? この子、おびえてる』
低く唸るデススティンガーは、おもむろに荷電粒子砲を放つ。
一瞬、霧が一直線の光によって晴れ、円のような穴から青い空が見えた。
『………』
光も収まれば、その穴も霧に押しつぶされるように消えていく。
……何も、いない?
『前方!! 高初速移動体確認!!』
『しまっ…!?!』
しかし、直後、霧を穿つ巨大な砲弾が、デススティンガーを襲った。
***
『きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!』
『デススティンガー、頭部損傷!!
動けるか!?』
『大丈夫!! でも、向こうの攻撃が来てる!!』
『おいおいおいおいおいおいおい!?!?』
無線は大混乱だった。
光が、ビームや、砲弾や、ロケット、ミサイル、そんな砲火が霧から見え、そして巨大な影を映して消えていく。
「第2次火砲支援開始!!
前線、下がりなさい!!!」
『了解!!』
ゴルドスをはじめとした重砲撃部隊が、ようやくレーダーにとらえたそれを、撃ち始める。
「悪い予感は当たる物ね…!!」
すでに、小刻みな自身に似た揺れがここまで来ていた。
ようやく、レッドホーンの赤い色が、あちこち破損した部隊たちが、そして、頭部装甲がむき出しになったデススティンガーが、霧の中から後退してくる。
ドシィン…………ドシィン……グゥゥン、ドシィン……!
その音が、こちらに近づいてくる。
もはや、その、姿が巨大な影になり、見え始めていた。
「姿が見えた!! 撃って撃って!! 小型群は装甲陣地の後ろ側に!!」
やはり、悪い予感は当たる物だ。
その、上に長く、横に太く、大地を踏みしめ、ゆったりと歩く姿を見て、思う。
ドシィン、と何度目かの足音と共に、その姿が霧の中から出てくる。
――――クォォォォォォォォォォォ――――――――――ッッ!!
その頭、共和国伝統のクリアキャノピーに覆われた頭部は、丸く突き出た角のない竜の頭。
草食竜独特の四角い歯を覗かせ、長く、途中にコックピットが埋め込まれた首を伸ばす。
大きい。
C組として、この前戦い、辛くも撃破したあの、デスザウラーよりも。
その4足の胴体だけで、ゴジュラスが小さく見える。
その、巨大な胴体の脇に、4つの巨砲を乗せ、力強く進むゾイド。
惑星Ziにおいて、ホエールキングを除き、長らく最大級の巨体を誇り、
その戦闘能力は、デスザウラー出現まで無敵時代を築き上げ、
今も、『海戦無敗』『大艦巨砲主義』を貫く、共和国超ビガザウロ級竜脚類型巨大戦闘艦艇ゾイド。
ある時は、陸上をも支配する大戦艦。
ある時は、戦場の総指揮をつかさどる移動大本営。
ある時は、けん引する甲板に飛行ゾイドを乗せた、巨大空母。
その名は、
RZ‐037 ウルトラザウルス
旧へリック共和国海軍所属戦後型第2世代ウルトラザウルス『プレジデント級』一番艦ネームシップ・現行ミューズ学園N組練習艦及び総旗艦
『BBG‐09 へリック・ムーロアⅡ』
『艦長!! 敵要塞化校舎、射撃可能距離に入りました』
副長の言葉に、静かに帽子の下から鋭い視線をイオナは見せる。
「目標、敵要塞化陣地。
350ミリリニアキャノン全自動射撃!!」
『目標――う!! 敵要塞陣地ッ!! 350ミリリニアキャノン、全自動射撃――きッ!!』
4門の巨砲が、その要塞に向かい、その砲口を向けていく。
『方位盤、目標を補足。全自動照準、手動にて誤差修正!!』
『リニアキャノンに動力伝達、速力、低速にまで下げ!
3番、両舷リニアキャノンへ動力集中!!』
『!!
観測より艦長へ報告!! 敵デススティンガー、荷電粒子砲チャージ確認!!』
しかし、敵も黙っているわけではない。
頭部を破壊されても―――いや、破壊された怒りからか、
すでに、デススティンガーの荷電粒子砲はチャージがなされ始めている。
「機関長! 1番、2番予備動力、『シールド』へ回せ!!」
しかし、イオナは表情を変えず冷静に命令を下す。
『艦長!! 防げるのはこれで一回ぽっきりかもしれないんですぜ?』
「デススティンガーと言えど『量産型』。
真オーガノイドでもなければそれで十分です」
『了解…!!』
イオナの普段を知っている人間は、きっと驚くだろう。
彼女の、ここまで不敵な自信にあふれた笑みを見れば。
***
『落ちろッ!!
へリック主義者の牙城がぁッ!!』
共和国でいえば問題発言待ったなしの言葉と共に、デススティンガーの荷電粒子砲が放たれる。
まっすぐ飛んだそれが、ウルトラザウルスを真正面から襲った瞬間、
白く、球形な半透明のフィールドが、荷電粒子を拡散させ本体を守る。
『!?
Eシールド!?』
「違うわ!!
あれは、『反荷電粒子フィールド』!!!
あのウルトラザウルス、反荷電粒子リコイルを、それも内部動力として『ミニマムローリングチャージャー』を装備している物を搭載しているのよ!!!」
『うぇ!?
まさか………アレ全部こっちが使ったはずじゃ!?』
「やられた……そういう事…!?」
その装備の意味に気づき、メルヴィンは悔しさでコックピットの壁を殴る。
***
「学校の予算配分や備品整理項目に一番口を挟めるのは誰でしょうか~?」
その会話を聞いていたわけではなく、しかしおそらくはそんなことを言っているだろうとそう言葉を紡ぐ。
職権乱用、とはこのさい誰も言うまい。
『艦長、今ので1番2番が過熱し冷却中。現在は停止中。
しかし、主砲リニアキャノンへのチャージは完了しましたぜ?』
『側的完了。誤差修正。上下角よし!』
『艦長、発射準備整いました!!!』
よし、とイオナが叫ぶ。
「発射ぁ――――――――ッッ!!」
『発射ぁ――――――――ッッ!!!!』
『『発射ぁッッ!!』』
復唱、そしてガンナーコックピットの二人が引き金を引く。
ズドォンッッッ!!!
それ以上に表現のしようのない強烈な爆音で、350ミリ口径の砲弾が放たれる。
『弾着ぁ―――――――――――く!!!』
ひゅるひゅると音を立て、砲弾が山なりに飛ぶ。
『…………今ッッッ!!』
瞬間、装甲化した校舎の一部が、盛大に噴煙を上げて破壊される。
巻き込まれ、半壊した校舎や装甲に押しつぶされ、一機のゴルドスが生き埋めになる。
なんという威力か。
『ワーオ……これが本気の大統領の一撃デス?』
『鎧袖一触だッゼ………すごーい!』
「これが、N組総旗艦たる『大統領』の威力です。
さすがひいお祖父ちゃん、いい子いい子♪」
『……しかし、これは………
負けた方が、修理するんですよね………俺、そうなったら……痛た……』
『トシ君、こういう時は勝つことを考えよう?』
『そうだぜ、勝ったら勝ったで自軍の整備だ!
いやぁ、D組連中がいないと、きついぜぇ?』
「そういう事です。
油断はしちゃいけません。まだ初撃で成功しただけなんです」
これからです、と相手を見て、イオナは言う。
笑っている物の、決して油断せずに。
しかし、勝つことを考えて。
***
「撤退!! まずは体制を立て直す!!
後ろの状況!!」
『セイスモのせいでヤバい!! 以上!!』
「チッ……丸く防御を固めるのは悪手、とはいえこれじゃあ……!!」
自軍の損耗は、大きい。
まだ、数十分の戦闘だというのに。
「味方と合流後、編成を変更!!
後ろのセイスモは怖いでしょうし、おそらくは包囲殲滅っていうリナらしい展開になるわ!!
でも、食い破るにもまだ手詰まりよ!! 合流して可能性を増やす!!」
『了解!!』
嫌な展開だ。
しかし、さすがはイオナフェルト・ムーロアと言うべきか。
「……個人として、その能力、手腕に敬意を。
しかし、まだ終わりと思わないで…!!」
メルヴィンは、まだ闘志を失わなかった。
***
その後、結果だけならば、赤組は敗北し、白組の勝利となった。
だが、ウルトラザウルスを中破、損耗率24%まで追い込み、セイスモサウルスを撃沈し、自軍は27%の損耗の時点で、全滅前に『投降』した手腕は、ある種指揮官としてメルヴィンも十分に優秀だった証明となった。
おそらく、遠巻きに見ていた教師陣の評価も、なかなか平均点の高そうな様子になったであろう。
そして、『春の終わりの砲火後作戦』は終了した。
***
「お疲れ様です」
と、テスト明け休み前、1日の超スピード校舎修理を終えたメルヴィンがC組の教室に入ると、そこにイオナがいた。
そして、その手にある紅茶を差し出してきた。
「どうも、会長殿。
さすが、N組をまとめるだけあって、恐るべき指揮能力だったわ」
すす、と今の時期にホットは……という思いも消える、さわやかなレモンティー、すこし砂糖多めのそれを味わう。
「あはは……事前に物量や兵站でも細工して用意を整えてごり押ししただけですって」
「それができてこそ、一流でしょう?」
ティーカップを、手身近な机に置き、そう言葉を紡ぐ。
「でも、それでもあそこまで苦しんだんです。
事実上引き分けですよ」
「勝者の余裕、そうとしか思えないわよ?」
「損害が全滅間近で「勝利」と言えるほど、私も欲が薄くなくって」
はは、と少々剣呑な雰囲気で語らう二人。
その割に、不思議とウマが合っているようにも見える。
「だから、今年度の『お買い物』において、C組へかかる補助予算、すこし多めにします」
「ちょっと、それは職権乱用じゃない?」
「優秀な人間に、ちゃんとした報酬を払わないのは、愚か者であり自殺志願であり、何よりこの世全ての法則に逆らう非論理的で非科学的なことである」
「かの帝国主義者にそまった裏切り物、かのゼネバス皇帝や、野蛮な暗黒軍の皇帝ですら、そんなことはしない」
「ひいお祖父ちゃんの言葉です。今使うにはぴったりでしょう?」
「でも、そこに住む限り規定や法に従うのが人間の摂理、とも言うわ。
私は、不正するにしろそこまでする気はないの」
「禁止されなければ率先してすべきである。
という理屈で反撃しますよ? 別に、書類上も学校の校則上も問題ありませんし」
メルヴィンの反対の言葉に、次々と反論を用意するイオナ。
また負けた気分だ……嫌ではないが、いつか反撃してやろうと、メルヴィンは心に決める。
「……ありがとう、生徒会長殿」
「いえいえ。当然の対価です♪」
「何の?」
「あなたの未来の」
「そっちの未来じゃなくって?」
「もちろんそっちも」
ふん、と思わず言ってしまう。
この、一見人畜無害な少女は、一体自分の何歩先を行っているのか……
「……負けたくないから」
「そうでなくっちゃ」
「予算、ありがたく使うわ。
今度、組どうしの練習でコテンパンにしてやるから」
「装備だけ強化だったら、嫌っちゃいますからね?」
「そうならないよう、努力するわ」
紅茶ありがとう、とすべて飲んだうえでカップを返す。
メルヴィンは、じゃあね、とだけ言ってそのまま帰っていった。
「……ふふ、」
見送り、イオナは楽しそうに笑う。
「当たりかな、この学校。私の夢にもぴったり」
そういって、ただ無邪気に笑う。
手際よく片づけをして、窓から外のビガザウロに乗り込む。
「これから3年間、楽しくなりそうだね」
そして、彼女も帰路に就く。
途中、何処で寄り道して何を食べるか考えながら。
「ふんふふーん♪ うふふ♪」
これからの事を考えて、ニコニコと無邪気に笑う。
***
季節が、変わる。
そして、新しいことが始まる。
***