ミューズ森林地帯を南南西へ進む、青い弾丸と、最初の飛行ゾイド。
この広い北エウロペも、ゾイドにかかればほんの1時間以内に目的地に着く。
広大な、アレキサンドル大地の中の―――――
「ヒャッハー!!」
モヒカン姿の男たちが、火炎放射器を片手に暴れまわる。
店は、建物は破壊され、銃弾や火炎瓶、爆発物が飛び交う。
「弾圧反たーい!!」
「軍属の象徴たるゾイドの市街地の使用をやめろー!」
「革命の同志達よ、前へー!」
なにやら、東方大陸の文字の書かれたヘルメットで武装した若い人間たちが、大挙して何かを主張していた。
そこは、荒廃の極みのような街だった。
「うわぁ、この西方大陸に、まだこんな紛争地域なんてあったんですね~!」
ひょい、と火炎瓶をよけたリナの言葉に、変な笑みを浮かべるヒルダとオティーリエ。
内心二人は、ここが同じ北エウロペなのかと驚いていた。
アレキサンドル大地にある都市、『ビッグディッパー』。
元は、グラム湖より西に位置する巨大な湖、ヘスペリデス湖から流れる川の名前から取られたコロニーが発展した町であり、比較的豊かで近代的な街並みが自慢らしい。
最大の特徴は、
犯罪発生率、暴動発生率、ともに北エウロペNo.1
「……まるで押し迫る世紀末にはしゃいでいる子供みたいですね~」
と、隣のグライドラーの足元に降りていたイオナは、そんな言葉を苦笑まじりに吐いていた。
現在、このゾイドの通れるここ『大陸道90号線』は、なんだか良く分からない理屈と突飛な主張―――いうのも憚られるアホな物―――を繰り返すだけの謎の集団に占拠され、事実上通行止めである。
内容は、察していただきたい。
「うーん……あ、そこの治安局のおじさん!」
と、リナが声をかけると、「あぁあん??」と、モヒカン頭の世紀末のような格好の男―――よく見ると腕に「治安局」の腕章がある人間が振り返る。
「ここの近くに迂回路ってありますか?」
「ひゃははは! それが残念なことによぉ! 昨日グスタフが事故を起こしてもう一本の道路に濃硫酸がぶちまけられちまったのさぁ!
悪いなぁお嬢ちゃん!
なぁに、今ムショにここにいるアホ共をぶち込んでやるさぁ!!
踊れ踊れ踊れぇ!!」
ヒャッハー、とショットガンやグレネードランチャーを情け容赦なく撃ち放つ。
全部催涙弾とゴム弾で死者はいないが、手際よく、交渉もせず、迅速にこの集団を護送車に放り込んでいく。
「うーん、絵面が悪いわりにすごく優秀な治安局員たちだなぁ……」
「しかも、暴徒たちと違って、一発も民家に被害を出していない……」
「あ、治安局仕様のツインホーン! レアでありますな~、放水してる……」
しかし、そんなモヒカン治安局員達の努力もむなしく、バカなデモ隊の数は多い。
「でも、これじゃあ……試合に間に合うかどうか……」
まったく、ゴキブリ並みだ、などと口には出さない悪態をつきつつも、何もできない状況に焦りが生まれていく。
「……Eシールドアタックしちゃいましょうかね…?」
「いくらアレでも、殺人はまずいですよ…!」
「出力が低くても死ぬかもしれないしな……」
「それ以前にゾイドの武装を人に向けるのはちょっと……」
と、不穏極まりない思考に陥る4人。
だが、
次の瞬間、すさまじい光量と熱量を持った本流が、
そのデモ隊の頭上を、4人の脇を、すり抜け、その場を揺らす。
『!?!?!』
一瞬、何が起こったのかわからず、いや何が起こったのかを理解したせいで、4人は混乱のままに背後を確認する。
『――――ったくよぉ、朝からなんだぁ? 今日は祝日でもねーのにどんちゃん騒ぎ!
訳の分からない主義主張にイデオロギーで、天下の通学路のバイパス様を塞ぐたぁ、』
どしん、どしんと音を立て、それが姿を現す。
『お前ら、命張ってやってんなら、このぐらいされる覚悟はあるんだよなぁ!?』
ずしぃん、と踏み出した一歩は、ティラノサウルス型特有の太く、スラスターユニットのある足。
赤い塗装、凶暴な目つきはまだ本気ではない意味を持つ赤い色。
頭部にあるブレードに、背部のスラスターと荷電粒子コンバータが一つとなり、本来の腕とは別に存在する第3、4の腕たる『ハサミ』――――フリーラウンドシールドとエクスブレイカーの基部となるユニットを持つそのゾイドは、
「じぇ、じぇ……!?」
「……魔装竜……ジェノブレイカー…!?!」
その場全員の、畏怖と驚愕の視線の中、そのジェノブレイカーはゆっくりと歩を進める。
『こちとら今日の試合は死んでも参加するつもりなんだよ。
それを邪魔するんなら命かけてもらうのも道理だろ…?』
ジェノブレイカーから響くのは、男勝りながらも女性の声だった。
その声と共に、スラスターが火を噴きはじめ、その体を宙へと浮かせていく。
『デモだか何だか知らねぇが、
命かけてんなら避けんじゃねぇぞ!?』
尾をピンと伸ばし、廃熱カバーを全て開く。
口を開き、荷電粒子砲の砲身を伸ばす。
また撃つ気だ……それも、直撃させる!
その光が放たれる瞬間になって、皆ようやく逃げ出した。
すさまじい量の荷電粒子が、道路を、その場を包み込んだ。
「………、」
瞼の下から、光が収まるのを感じて目を開く。
意外なことに……道路は無事だった。
『ケッ! 人に全力の荷電粒子砲なんざ撃つかってんだ!
ビビッて逃げてる程度の主張で、世の中変えられると思うんじゃねーぜ、っと!』
ガシン、と着地したジェノブレイカーの頭部をわざわざこちらに向け、その中にいる人物はスピーカー越しにつぶやく。
突然の出来事に呆然とする4人の目の前で、ちょうど腹部のハッチが開き、中から誰かが下りてくる。
「よっ!」
着地したのは、やはりというか、自分たちと同じ少女だった。
白い髪は、中央大陸の神族の血なのだろうか、だがその可愛らしい素顔のまま過ごしているという事は、間違いなくそういう部族の伝統は守っていないという事だろう。
「よぉ! どこ校だお前ら?」
と、開口一番そう尋ねる。
なんとまぁ、その快活そうな笑みに似合う、『らしい』セリフだった。
「……あ、我々です?」
「他に誰がいんだよ!?」
ついつい、そう尋ねただけなのだが、若干目を吊り上げて相手はそう尋ねた。
「えっと、初めまして。私立ミューズ学園から、本日の試合を見に来ました。
アレキサンドロス高校の方ですよね?」
そして、間髪入れずにイオナが、自分たちのことを簡単に紹介した。
「おうおう、そっか!
どこの学校か知らねぇけど、あたしらの勝利を見に来るたぁ、わかってんじゃねぇか!」
その途端、近づいてイオナの肩をたたき、機嫌よさそうに笑ってそう大声で言う。
なんとまぁ、わかりやすい人間だ。
「あはは……まぁ、アレキサンドロス高のエース、ジェノブレイカー乗りのレドーナさんに言われるのは悪い気持ちではないですね」
と、イオナがそういうと相手―――レドーナという彼女の顔が驚きに変わる。
「知ってんのかよ!?」
「一応準備知識は必要ですから……」
「あんだよ、あたしも人気者になったな~、おい!?
あーっはっはっはよっしゃよっしゃ!!」
言い切るより早く、バンバンと肩をたたくレドーナ。
「……イオナさん、レドーナさん、って、もしかして前年度エウロペカップ優勝決定戦で、20体以上のゾイドと、デスザウラー1機を単騎で撃破した、あの『アレキサンドロスの赤い悪魔』の?」
リナは、ふと気づき、そう尋ねる。
「ええ、そ」
「よく知ってんじゃねぇか、メガネ!
そうだぜ、あたし様ことレドーナ・ザーラス様こそ、その『赤い悪魔』よぉ!!
あのシュバルツんとこの、えっと、忘れたけど名前の長いチームにひと泡吹かせてやった張本人様だあ!」
イオナを完全に無視するかのようにリナの前に出て、そう胸を張って答える。
(調子のいい人だなぁ……)
素直に、その場の人間はそう思ってしまった。
「―――おぉい、所でお嬢ちゃん方よ!」
と、そんな会話をしていると、あのモヒカンの治安局員がこちらに声をかけてきた。
「あん?
なんだよおっちゃん! しょっ引くんなら今日は午後にしてくれよ!」
「まったく、人間相手に荷電粒子砲をぶっ放すなんて、こりゃあ普通なら少年院いきだぜぇ?
けどまぁ、俺らはなぁんにも見なかったがなぁ!!
今日は、デモ行進軍団が荷電粒子砲を持ち出すなんて、とんでもない話だったなぁ!?」
その治安局員の言葉は、なかなかとんでもないことを言う。
「なんだよ、わかってんじゃねぇか!」
「それはまぁいいけどよぉ、嬢ちゃんがた今何時だっけ?」
…………
瞬間の沈黙。
そして、全員が時計を、ゾイドギアの電子時計を見る。
「……試合開始まで、30分前です」
「あああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?
遅刻じゃねぇかよこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!?!?!??!?!?!」
そこからはすごく速かった。
急いでコックピットに、身体能力任せに飛び乗ったジェノブレイカーが、ブースターを全開にして浮かび上がる。
『行くぞ、ローディ!! OSリミッター、89まで解除だ!!』
ボン、と音速でも超えたかのような勢いで―――実際は時速345キロの最高速度まで加速して飛んでいく。
「……我々も、行かないといけないですね」
うんうん、と皆が頷いた。
***
ビックディッパー市の端、荒野に面した四角い建物がぽつんと立つそこは、
この街の最果て、『公立アレキサンドロス高校』
曰く、「一日に一回校門が爆破される代わりに、この街で学のある人間になれる場所」
「おっせぇぞ、ゾイド戦闘履修組ィ!!」
「こちとらお前らが勝つ方に焼きそばパン8個賭けてんだよおっらぁーん!?」
「敵前逃亡か赤い悪魔の野郎ぉぉぉぉぉ!?!?!
出てきやがれオラァ!?!?」
「ガンリュウジマってやつかオラー!?!」
と、どう見てもいかにもな不良軍団が、ヤジと怒号と飲み残しのペットボトルを校庭へ投げていく。
時刻は、現在試合の開始時刻。
なお、アレキサンドロス高校、及びディガルド学園も、いまだ準備整わず。
「もう開始時刻だぞこの野郎ォ!!」
「つーか、一分過ぎたぐらいでグダグダいうのもアレだけどよぉ!?
こういう時はきっちりやんだろうがよぉ!?!」
会場のボルテージは、とっくに臨界だった。
この高校、血の気の多さだけで言えば、大陸一を誇る。
古くからそういう若気の至り、要するに馬鹿な不良が集まり、まぁ社会に必要な知識を学ぼうね、とでもいう暴論のままにこの高校の創設者のある種の投げやりなのか慈愛なのかわからない思いからできたこの場所は、問題はまぁ絶えない。
しかし、10年前ほどから、ゾイドによる試合を選択授業で取り入れてから、表面上の問題はみるみる減っていくこととなった。
皆、喧嘩と暴力と高校生がやっては行けないことなどが好きなのであり、
要するに、ゾイドで殴り合いを、決闘をするようなゾイドバトルは―――その性質によくマッチしたのだ。
さらに言えば、
ここは、去年のエウロペカップで、まさかの優勝をしている。
期待しているのだ……今年も、栄光をつかむことを
今日はそのための、行く末を占う前哨戦なのだ。
「「「間に合ったー!!」」」
そんな大地に、シールドライガーが一機とグライドラーが一機降り立つ。
ずざーと、土煙を上げた拍子に、近くにいた人間が「危ないぞバカヤロー!」と叫んで退避した。
そんなことなどかまわず、クルセイダーの開いたキャノピーからリナたちは飛び降りる。
「来ましたね! アレキサンドロス高校!」
「どうやら、試合開始は少々遅れているようだな?」
「まぁ、なら序盤の動きも見れて万々歳かもでありますな!」
と、リナがライガーの脚のサーボモーター内側の空洞に入れていた椅子を取り出し、並べていくところに2人が座る。
「確かに、全体の流れを第三者の視点で見れるなんて機会はめったにありませんし、
今日は、午前中を少し休んで正解かもです」
グライドラーをワイヤー伝いに降りたイオナが椅子に座るのを確認し、リナもようやく座る。
「リナちゃん、用意がいいね?」
「昔から、ゾイドを飛ばした先でのんびりアフタヌーンティーなんてしちゃうもので」
ゾイドギアをなにやらいじりながら言うリナ。
ニヒヒ、と言い表せる笑みに、全員も笑顔になる。
「さてと……まだ時間はかかりそうで……」
と、そんな準備万端な一行へ向かい、ジェットエンジンのような爆音と、ガシャンがしゃんとサーボモーターが大きく稼働する音が響いてくる。
直後、何かがシールドライガーを飛び越え、数メートル先から砂を巻き上げる程の風圧を発生させてホバリングを始める。
「あれは!?」
「まさか!?」
いち早く、ヒルダとオティーリエが反応する。
それは、黒いボディと銀色に輝く刃を二つ持ち、赤い剣を携えた頭部を騎士然とした兜で包むジェノ系列のゾイド、
C組にとって、記憶に新しい存在、
「ジェノリッター…!
しかも…!」
前は、そんな場所にあったかどうかまで確認できなかったが、左足装甲にビームガトリングユニットと俗に言う帝国機甲師団では一般的な武器を模したエンブレムがあった。
物騒な形に、「SCHWARZ」の文字が質素に掘られたそれは、『校章』。
―――帝立シュバルツ高等育成学校の、校章だ。
「シュバルツェス・シュトルムの!」
ガシン、と降り立ったジェノリッターは、その後に遅れてきたセイバータイガー、それも高校の由来を考えれば中々らしい装備の、ビームガトリングユニット搭載型、『セイバータイガーSS』と並ぶように移動し、ようやくコックピットを開く。
「―――ははははは!! やはりツバキのジェノリッターは、速い物だ!
ははは、うぶっ……!?」
「―――酔い止めをあれ程飲めと言ったのに、この一年総番は…!」
そこから、黒く長い髪の地球系と、金髪碧眼の今にも吐きそうな顔で笑う少女が下りてくる。
格好は、帝国軍制服に似た、シュバルツ高等学校の制服一式だ。
間違いない。
「おーい! ツバキさーん!!」
まさに知り合いになったばかりの顔を見て、リナは手を振って声をかけた。
「む?
あら、あなたはミューズの!」
「リナでーす! その節はどうも~」
黒髪の少女―――ツバキに近づくと、どうも、と挨拶を返してくれた。
「こちらこそ。次は負けませんが」
「あはは、お手柔らかに……」
「む? ええと……あー!? ミューズ学園とはこの前の奴か!?!」
と、そこまでして、吐きそうな顔だった金髪碧眼の少女―――シュバルツェス・シュトルム一年生の総番であるエルフリーダがようやくピンときた表情を見せた。
「あ、そちらもこんにちはー」
「む? お前、もう少し目がきつくて、いつも腰に手をやっていなかったか?」
「それ私の組の委員長の方です」「それは相手方の委員長の方です」
だがどうやら勘違いのようで、二人にそうツッコミを入れられた。
「はっはっはっは!
いやさすがに冗談だ!!
このエルフリーダ・V・ブリッツェン、歴史の教科書の顔は全く覚えられないが、
あったことのある人間の顔を忘れたりはせんっ!!」
「それ、威張って言う事ではありませんよね? この前歴史が赤点でしたねそういえば」
的確なツッコミにも、めげずに豊かな胸を張って笑うエルフリーダ。
だが、そこは覚えておこうよ、年号じゃないんだから……とリナは内心思ったが口には出さなかった。
「そうかそうか、生憎顔を見れずじまいだった、ツバキがやたらと気に掛ける知能派のゾイド乗りとは貴殿か! ほうほう?」
と、改めて彼女は、リナを上から下まで見る。
「ふむふむ………」
そして、くるりとツバキに向き直り、
「どういうことだ? 知能派なのに胸がデカいぞ?」
そう言いのけて、一瞬でツバキの顔を心底感情のない真顔へと変えた。
「え…?」
「……………………………胸なんて、関係ないじゃないですか、胸だなんて…………」
それは、聞き取るのも一苦労なほどの小声だった。
こういう時、的確なツッコミを入れる印象もあった彼女にしては珍しい。
………まぁ、スレンダーな体系を見て、少々リナは察したが。
「いや、私もこの胸の駄肉に知能が吸われているのではと、一回さらしで胸を締めあげてテストをやったが、そうしたら少しだけいい点になったからもしやと思ったモガ!?」
「おおっと、エルフリーダさんでしたか?
失礼ですがこの話題はここまでにしなければいけません。
どのみち彼女をここまでへこませ、おおっとっとっと、失礼、ここまで沈んだ気持ちにさせる話題をしてきているのですから、ダメージは最小限にすべきですです」
ですを2回言って、物理的に口をふさいでまで話を終わらせる。
こんなむき出しのゾイドコアをゴジュラスで踏むような真似は駄目だ。
「むむ? しかしこんなのはいつものことだぞ?」
「やめましょうよ、いつも心に超収束荷電粒子砲を撃つのは」
ポンと、顔の暗いまま肩をたたくツバキ。
わかっている、何も言うな……
そう、リナは軽く頷いて伝えた。
「むー………
まぁいいか!! 私が馬鹿なだけだ!! はっはっはっは!!」
そして、言った本人はこんな調子である。
……こういう上官を持つ苦労は知りたくないリナだった。
「でも自分で馬鹿とは言う割に、肝心な時に迅速な場所に部隊を動かし、皆を牽引できる手腕は見事だなって、思ってますよ?」
と、すす、といつもの柔和な笑顔で、リナの背後からイオナが出てくる。
「む? 貴殿は?」
「初めまして、私はミューズ学園の生徒会長をやっております、イオナフェルト・ムーロアと言います」
よろしくお願いします、とペコペコ握手するイオナに、当然というかウムウム言いながら握手に応じるだけのエルフリーダ。
だが、当然苗字を聞いて隣のツバキは驚く。
「む、ムーロアとは、まさか…!?」
「あ、はい。ひいお祖父ちゃんはヘリック2世大統領です」
「あ、知っているぞ!! 共和国の大昔の大統領だな!!
テストで名前だけ書いてまるをもらった!! だから覚えているぞ!!」
「あなたその程度の認識でいいんですか!?!」
エルフリーダの言葉に、苦笑いで答えるイオナ。
いやはや……ヘリック共和国建国の父にして、ゼネバス、ガイロスの両帝国と渡り合い、中央大陸は風族の王族たるかの大統領を、この扱いとは………
「その程度もクソも、私に知識を求めるな!」
「~、こーの、脳細胞を丸ごと置き忘れたような人間は……!」
「あはは……」
エルフリーダの強烈な馬鹿さ加減に汗を流す一同、
「―――その辺にしておけ、エル」
と、シュバルツ高校組の二人の背後から、そんな声がかけられた。
「ハッ!?」
「総大将! これは失礼!」
たった一言、よく通る声に二人が姿勢を正す。
当然、何がどうなっているかを確認すべく、リナもイオナも視線をそっちに向けた。
「いや、お二人には失礼した。
ここにいる阿呆は、ゾイド乗りとしての腕と皆を牽引する能力以外抜け落ちているのが欠点なもので。
悪いやつではないから、私の顔を立てて許してくれないか?」
そこには、一人の女性がいた。
シュバルツ高等学校の制服に身を包み、『ある偉人』を思い出すようなつばの広い帽子を着用する、凛々しいたたずまいだった。
金髪で、緑に近い色合いの瞳を持つ……誰かに似ている気もする女性だ。
「……あなたに言われては、私は「気にしてませんから」と言わざる負えませんね」
イオナは、そう彼女を知っているように言葉を紡いだ。
実際、黙っているリナも、彼女が何者かは、以前相手の高校を調べた際に知ってはいた。
「ほう、さすがはかのムーロアの血筋だ。
下調べは済ましているようで、挨拶の文句が思い浮かばなかったから助かるな」
「だって、『ガイロス国防軍の至宝』と言われた方の血統ですもの。
調べなければ失礼でしょう?
シュバルツェス・シュトルム総大将、
フィーネ・キルシェ・シュバルツさん?」
その名を言われた彼女―――フィーネは少し口の端を曲げる。
「言っておくが、私は大叔父様の直接の血統ではなく、その弟がお爺様だ。
だから、名前程能力は高くはないさ。
ネームバリューも困ったものだな、王族や国家元首の家系ほどではないかもしれないが」
しかし、この場の誰もが思った。
かの、カール・リヒテン・シュバルツを思い出すような見事な皮肉だった。