後、私ドリフトとか阿頼耶識とか好きやねん
「戦場では水よりもコーヒーが多く飲まれるらしい。
何せ、生水よりも煮沸された物の方が安全だ」
プシャーと音を立て、エスプレッソマシンからコーヒーが抽出される。
それは、セイバータイガー腹部の追加コンテナの中にあった。
「それが理由とは言わない。私は、ただの金持ちな家に生まれただけの学生だからな。
当然これは金をかけた趣向品だ、好みで選んでいる」
カップに注がれたコーヒーをマドラーで人かき混ぜし、その香りを楽しむ。
「知っているか? 西方大陸でも徒歩で行ける最高峰「マウントアーサ」は、旧基地の観光や絶景だけではない。
その名を関するこの豆から抽出された黒の雫たちの味は……」
すす、とフィーネは一口含み、一瞬にして体を満たす苦みと酸味、その芳醇な味わいに目を細める。
「……んん……最高だ
ふ、と口の端を曲げ感想を漏らす。
「ふふ、なかなか面白い話です♪」
ライガーの腹部の給湯器から出るお湯。
沸騰直後のこの星では珍しい『軟水』のそれを温めたポットに勢いよく注ぎ、茶葉を程よく蒸らす。
「さすがは名門シュバルツ高等学校。
有事の際は泥水でも飲めるよう訓練されているだなんて、
私みたいなただの学生から見たらうらやましい限りです」
ここだ、というタイミングで温めたカップに注がれるは、芳醇な香りひきたつ至極の逸品。
そうして淹れられた紅茶のティーカップを受け取り、静かに、優雅に一口を含む。
「……んー……ちょっと贅沢な濃さかな……」
「すみません。別の香りがあるので、鼻が利かないかと思って」
「まぁ、仕方ないですね。ここは土と泥の匂いが大きいですし」
ちら、とフィーネに冷ややかな視線と、若干嘲笑の入った笑みを送るイオナ。
ぴくっ、と目の端が動くフィーネが、フ、とわざとらしく鼻で笑う。
「チャノキに囲まれた生活では、鼻が変に敏感になって大変だろう。同情するよ」
「いえいえ。名門シュバルツ校で泥水をすするような、血のにじむ努力をするあなたには負けますもの」
「やれやれ、生粋の共和国人なだけはある。その精神力は感嘆の一言だ」
「名門の暗黒人の方に言われてしまうだなんて、光栄の極みですねぇ」
お互い、常に笑顔で会話をしている。
しかし、なんだ?
まるで、今にも開戦しそうな緊張感が、場を支配している。
「……ねぇ、なぜかしら。私達はとんでもない場所に来てしまった気がします……」
「コーネリア先生、そりゃあそうですとも。
ここは、対立する二つの宗教の武闘派が隣り合わせに座っているんですぞ?」
両手に何故かもらったコーヒーと紅茶を持ち、二人の大人は冷や汗交じりにつぶやく。
「俺、砂糖欲しい」
「私は砂糖とミルクー、」
と、同じく二つとももらっていた、ロゼとアーガスの言葉に、
「―――ぬぁんですってぇ~~~~???」
「―――砂糖とミルク、だとぉ………????」
ギギギギギ、と音を立てて、イオナとフィーネが恐ろしい笑みでそちらに首を向ける。
びくっ、と二人が驚き、事情を知るディーンが思わず目を見開く。
(しまったッ! 過激派……『ストレート以外は認めん』主義過激派かッ!?
殺される……このままでは、バラバラにされヘスペリデス湖に沈められるッ!!)
瞬間、二人の指がパチンと鳴らされ、側近と思わしき二人の人間が飛ぶ。
その手に何か、凶器にも見えるものを持ち、二人へと迫る。
「ちっ…!」「ひっ!?」
アーガスが男らしく前に出た瞬間、
さっ、と二人の前に、ミルクと角砂糖が差し出される。
「「え?」」
「こんなこともあろうかと、
ちゃんと一番相性のいいミルクと砂糖を用意しておきましたとも♪」
「どうぞ、角砂糖をお好きな数を。
おすすめは、角砂糖1にミルク多めです」
「「……ありがと」」
二人がそう言って受け取る中、ほっ、と胸をなでおろすディーン。
「……私ももらっていいかな?」
「「どうぞどうぞ♪」」
穏健派で、よかった……
ほっと胸をなでおろし、とりあえず砂糖をもらった。
***
「して、ミューズの生徒会長殿はどう見る?」
改まって、フィーネはそうイオナへ訪ねる。
「どう、とは?」
「どちらが勝つ?」
「私は、安直に新型ゾイドたちに一票で」
はは、とフィーネはその返答に笑う。
「なんだ、あなたもかムーロア会長殿。
実は私もだ」
と、その返答に、今度は少し驚いた顔を見せるイオナ。
「意外ですね。
昨年あなた達を打ち破ったアレキサンドロスはいいのですか?」
「ああ、彼らにはさんざん辛酸を舐めさせられたよ。
だから私は彼らが嫌いなんだ♪」
途端、ははははは、と二人は笑いだす。
「ははは、でもアレキサンドロスは、調子のいい時はとことん調子のいいゾイド乗りたちですよ?」
「ああ、だが、噂ではバイオゾイドは『実弾とビームを通さない』特殊装甲らしい。
すでに、本社のプレゼンで共和国軍が負けたと聞いている」
「ゴルドスとコマンドウルフ相手でしたね」
「旧式だが、かつては主力だった機体だ。手も足も出ないとは中々やる」
ちなみに、彼女らの言う情報は、結構な機密だ。
「……しかし、無敵の装甲だけで、果たしてアレキサンドロスの勢い、
そして、『例の戦い方』に勝てるんでしょうか?」
その問いに対し、ただ手を振って何とも言えないと伝えるフィーネ。
「うーん……」
そして、イオナは、
「そこらへん、どう思います?
バイオゾイドの生みの親、ディーン・ガルドさんは?」
と、近くにいたディーンに話しかけた。
「え?」「えぇ!?」「そうなの?」
周りの見知らぬ学校の生徒たちに驚かれる中、ふぅ、と肩をすくめるディーン。
「……隠していたわけじゃないが、まさか知っていたとはね?」
「情報は武器です♪」
「まさか、隣に来ていただけるとは思いませんでしたが。
それも、そんな『フーテン』のような姿で」
ははは、笑い、そしてフムと顎に手を当て唸る。
「しかし君らも意地悪な質問だねぇ?
暗に私に手の内を語れというのかね?」
「確かに、あなたの学校の情報が、他校に流れるのは避けたいでしょうけど、」
「私もあなたの先の放送は見たのですよ、ディーン社長。
バイオゾイドは自分の最高傑作、
そんなあなたが、その程度の手の内を語ってくれないとでも?」
二人の、意味深な視線と言葉が放たれ、
途端、大きな声で笑いだすディーン。
「はっはっはっはっは!!
こりゃあ、一本取られた!!
これでは、私が口を紡げば先の発言が嘘になる、か!!」
ふぅ、と笑いつかれた喉を紅茶で潤して、再び口の端を曲げた不敵な顔を上げる。
「よろしい。
君らに教えてあげよう。
バイオゾイドの、もう一つの素晴らしい性能を!」
そう、と言葉を続ける。
「その名も、『SLS』!」
***
試合10分前、
ジーナ・ガルドは、まるで骨格標本そのものな姿の銀色のゾイド―――バイオラプター達の間を縫い、目的の場所にたどり着いていた。
「―――98、99、100!」
その場所には、その背中に車椅子に座るおしとやかそうな少女を乗せ、腕立て伏せをする男がいた。
「……リョウヘイ、お前、何をしてる?」
「ふーっ……ああ、ちょっとミサトに頼んで筋トレをな」
と、背中の上に乗っていた車椅子の少女が、器用にその背中から降りる。
「はい。キクチ君がどうしても、体がなまりそうだから、って」
「……お前たち、許可する方も考えた方も、よくやれるな……」
立ち上がり、湯気が上がりそうな汗を肩にかけたタオルで拭く男子生徒――リョウヘイ・キクチという東方大陸出身者と、同じくミサト・サイゴウにあきれた声をかける。
「悪いとは思ったんだが、自重だけじゃ物足りなくてな」
「私も、リョウヘイ君がいないとゾイドに乗れませんし」
「先に乗っていればいいだろ?」
まったく、と指だけで二人をゾイドに乗れと指示を出し、自分も自身のゾイドに向かう。
銀色の小型ゾイドたちのほぼ中央に、一際異彩を放つ大型ゾイドが3体。
ティラノサウルス、トリケラトプス、メガラプトル、
それらの骨格標本のような、しかしその中に赤く輝く目とコアを持つバイオゾイドたち。
そのうち、ティラノ型が、自身の主を見つけ、目で追う。
「デウス、時間だ」
その言葉を理解し、漆黒の外骨格じみた装甲を持つティラノサウルスの胸部―――コアのようにも見えるそこを開く。
「ふん…!」
グイ、と彼女を押し込むよう、銀色の巨大なラプトルのコックピットへ接続する。
「腰、装着できました! 後は一人で大丈夫ですよ、リョウヘイ君」
「ああ……俺もトリケラに行く。
今日は負けねぇぞ? エース!」
「上等です、健常者君?」
ぐ、とサムズアップし、それに返し立ち去る。
さて、とミサトは座席が下がると同時に、自分の体にまとうスーツの丸い『プラグ』に、周りから伸びるケーブルを指していく。
「神経ケーブル、か……本当に、ゾイドから伸びる神経みたい」
さしずめ、と最後のケーブルを背中に刺し、つぶやく。
「私はゾイドの、『第2の脳』かな?」
左右の液晶スクリーンの球体とでもいうべき、おおよそゾイドの物と思えない「操縦桿」に指をつなげる。
真っ暗だった周囲に明かりがともっていき、その前方にゾイドの目からくる景色が映る。
「映りが悪い……ああ、違うか。
普通に見たらこうなんだもんね」
いや、言うほど悪くはないその映像に、そんな声とため息が出る。
そして、おもむろに右操縦桿のスイッチを入れる。
ドクン!
「うっ……!」
瞬間、彼女の脊髄に鋭い痛みが走った。
***
「ぐ……!?」
一足遅れコックピットに乗り込んだリョウヘイは、脊髄から、いや全身の神経からくる鋭い痛みにうずくまる。
血圧の急上昇に毛細血管が耐えられず、鼻血が垂れ、目を充血させ瞳孔を収縮していく。
「適性が……低いっつーのも、考え物だな…!」
ぐ、と右腕で鼻血をぬぐう。
〈オイ、大丈夫カ?〉
瞬間、その脳内に声が響く。
「ああ、『相棒』! お前こそ、鼻からなんか垂れてねぇだろうなぁ!?」
〈オレ人間ジャナイ
エエト、オレ、オレノ事ナンテ言ウンダッケ?〉
「ゾイドだ!! バイオゾイド!!」
ぐ、と脳内の声に声を張り上げ、広がり、人間では見れない『生』のゾイドの視界に目を細める。
「バイオトリケラがてめぇの名前だ!!」
グォォォ、とリョウヘイの声に合わせるよう、バイオトリケラがうなる。
***
〈グ、オ……オ前ノ眠気ガ……〉
「耐えろ。耐えてやる」
黒いティラノ型バイオゾイド―――その名もバイオティラノの『意思』にそう答える。
〈人間、ナンデ眠イ時寝ナイ? 馬鹿ナノカ?〉
「そうだ。眠い時寝かせてくれない。
なぜかみんなあくせく起きて、面倒な戦いに身を投じる」
〈戦イハ良イダロ?〉
「……かもな……」
ぐ、と起き上がる感覚でバイオティラノを起こし、自分が首をほぐす動きも正確に映し出す。
「コマンダー、起動。バイオティラノ、全バイタル問題なし。
全機、準備は?」
『Aセクション全機行ける! バイオトリケラもOKだ!』
「了解。
Bセクション、リーダー、バイオメガラプトル、準備は?」
OKです、とすぐさま答えが返ってくる。
***
「ただ、『コテツ』ったら、ずっとゾイドコアが活性してて……元気すぎです」
ぐいぐい、と『足』をストレッチしながら、ミサトは微笑む。
〈ボク元気!! イツデモ戦エル!!〉
「はいはい」
『今のはメガラプトルへの返事か?』
「あ!
ごめんなさい、つい!」
謝りつつ、彼女はバイオメガラプトル―――小鉄を半歩前に出す。
***
『作戦は、確か『O‐9』からステップ4を『O‐32』に変更するタイプでいいんですよね?』
「その通りだ。教科書通りやれば問題ないだろう」
脳内に映し出される全機の配置を、各ゾイドの情報共有領域にアップロードしていく。
「ただし、相手は昨年の仮にも優勝校。
それも、我々とは対極にいる相手だ。
確実に仕留める。いいか?」
『俺は、親の七光りも実力も持ったお前に従う。
ただ考えるのは性に合わねぇ、何処に移動するかだけ逐次教えろ!!』
「それぐらいは頭にたたき込め筋トレ馬鹿」
『じゃ、私も……ジェノブレイカーは私が抑えます』
「期待しているぞ、エース」
さて、とジーナは、バイオティラノを進める。
「全機、一応は遅れた身だ。
歩を進め、礼だけはきっちりとしておこう」
『『『『『『『『『『『ハッ!!』』』』』』』』』』』
そうして、銀色のゾイドたちが、その異質な体を進めていく。
***
「SLS。
スピリット・リンク・システム。
いや、スピリットと言っても本当に魂とつなげているわけじゃあないが、そう言っても差し支えないという意味も込めて名付けたんだ」
遠くで、整列し始めたゾイド群を見てディーンは語る。
「ゾイドとの精神リンク技術はすでに確立されていたが、我が社はそれをより強く引き上げた!!
バイオゾイドの全神経は、科学の力で強化はされている物の、基本は野生体本来の密度と感度を持つ!
それを、違法や人体に影響が出ないギリギリまでの精神リンクで直結し、あたかもゾイドと一体になったかのように動くことが出来る!!
うれしい副作用として、神経の病による麻痺がつながっている間は治り、症状も緩和していくという物もあるのだ!!」
ふっふっふ、と、とても楽しそうに、大の大人が笑う。
「ゾイドとの精神リンクによる様々な武勇伝、伝説は多い。
だが、ゾイドとの精神リンクを多用することが少ないのはなぜか?」
「聞くが、オーガノイドシステムに当てられ廃人になりたいかね?」
「聞きますが、砲撃管制を勘でやりますか?
神経の疲れを考えれば、長時間行動できないシステムをなんでありがたがるのか?」
と、すぐさま二人の反撃が来る。
しかし、ディーン・ガルドはその口の端を曲げた。
「それがどうした!?
そんな物抜きで、ゾイドと文字通り一つになる!!
そんなシステムがあるなら、使ってみようと思うのが男の子の心だ!!」
「私達女子でーす!!」
と、熱意ある言葉に、残酷な返しが飛ぶ。
しかし、彼はめげない。
「だがね、これだけ言うからには、バイオゾイドは強いよ?
とにかく強い!! ロマンもある!!
いずれ君たちの学校にも、正式にバトルを申し込み勝たせていただこう…!
ついでに今日からバイオラプターは販売だから買ってくれると嬉しいな!!」
ははは、と二つの学校の学生代表が笑う。
「そりゃあいい。
まぁ、まずはアレキサンドロス校を打ち破ってからだな!!」
「ですね。
昨年の優勝校、その名は伊達じゃありませんよ?」
でも、とイオナは考え込むよう首をかしげる。
「どうせですし………
この後、勝った方に、勝った方へかけたこの場の高校が試合を申し込む。
と、言うのはどうです?」
ほう、とその横で目を輝かせるフィーネ。
「学生の身でギャンブルをするようになるとは、お爺様もお嘆きになるかな?」
「おりますか?」
「乗るとも。
ここで逃げたのなら、お爺様から『お前は真のゾイド乗りにはなれん』と言われてしまう。
シュバルツの名に懸けて、負けは少なくあろうとも、逃げることは許されん」
はっはっはっは、とその会話を聞いていたディーンが、横で笑う。
「いいな!! 最高だ!!
もちろん、今日はわが校が勝つだろうが、これはどちらが勝っても良い事になりそうだ!!」
「試合の日程は、後日すぐに報告します」
「もう勝った気か?
次は祝杯の紅茶缶でも開けるのかな?」
「ふふ……私、これでもギャンブル運だけは強いんですよぉ~?」
「言ったな? 負けた時はアレキサンドロスの次に、この前のリベンジマッチと行こうか」
「ご自由に」
ふふふふふ、と不穏ながらもどこか楽しんでいる二人の笑い声が重なる。
「さぁ、速く!! 試合開始はまだか!?
こちらの御仁と合わせてもう10万近く突っ込んでいるのに!!」
「負けたら帰れない、負けたら帰れない……!!」
皆が皆、それぞれの思い―――若干邪な思いを込めて、試合はまだかとせかす。
さぁ、時間だ。
***
殺せ! 遅せぇ!! やんのかコラぁ!? すっぞこらー!! ぶちかませー!!
『あー!あー!! 静粛に!! 静粛に!!!
アレキサンドロス校の諸君も落ち着きたまえー!!』
「うるせー!!」
『ヒッ!?』
会場の熱気、とりわけアレキサンドロス側の熱気を押えようとしたジャッジマンに、対ゾイド用アンチマテリアルライフルが叩き込まれる。
『はぁ……この校がほかのジャッジマンに嫌われる理由がわかる……
あー、コホン!!
それでは、遅れてしまったが!!』
そうして、ようやくジャッジマンが顔を上げる。
『では?
公立、アレキサンドロス高校!!
VS
私立ディガルド学園!!
バトルモード2666!!』
げぇ、と会場のあちこちから息をのみ、驚愕する声が聞こえる。
「2666……悪魔の『666(オーメン)デスマッチ』!!」
「集団ルール無用の殴り合い乱闘かよ!! 敵さん可哀そうに!!」
そうして、バトルモードが宣言され、いよいよ始まる。
「レディー………ファイッ!!!」
カーンッ!!
戦いのゴングが……鳴った!!