バトルモード2666
泣く子も黙る、過激な『666(オーメン)デスマッチ』!!
それは、ゾイドをボロボロにしようと何しようと、どんな数の差があろうと、
とにかく、コンバットシステムさえフリーズしなければどこまでも戦えるルール!
部位破壊、コックピットキャノピー吹き飛び、そんなことは知ったことではない。
砕け散るまで戦え!!
そんな過激さが売りなのだ!!
そして、
このルールこそ、アレキサンドロスの本領発揮。
***
『オラオラオラオラ!!!』
『ヒャッハー!!!』
デッドボーダーが、ドスゴドスが、ティガゴドスが、ダブルガトリング装備のレッドホーンが、突っ込む。
銀色のゾイドの大群へ、ただひたすら突っ込む!
ガスン、と、一体へのレッドホーンの角がぶち当たる。
吹き飛ばされたバイオラプター。
そのまま、一瞬でシステムフリーズを起こす。
『おいおい、聞いてたのと違うぜぇ!?』
『貧弱なんだよ、オラァ!!』
そして、出鼻をくじかれた一団に向け、ビームガトリングが斉射される。
しかし、不気味な銀色の装甲は、直撃のはずのビームの雨をはじき、霧散させる。
『は!?』
『何だそれ!?』
そして、逃げつつも時折振り向いて口から火球を放つ。
『うぉあぁ!?!』
それは、小型ゾイドとは思えない凶悪な火力だ。
もしも、レッドホーンの装甲がこういったビーム系列に強い塗料が無ければ、焦げ跡が付いた程度では済まない。
『オイ!! こいつらさっきから射撃が一つも効いてないぞ!?』
『みたいだな、おい!?』
ぴゅーん、と飛び交う小口径荷電粒子ビーム砲などは、銀色の装甲に拡散、無効化される。
試しに、とレッドホーンBGが、対ゾイド3連砲を叩き込む。
ガンッ、と音を立て、弾丸ははじかれる。
が、その衝撃で一体のバイオラプターが吹き飛び、玉突き事故さながらの要領でぶつかり、2体ともシステムフリーズを起こす。
『見たか!?』
『あー、そっか、装甲は抜けねぇけど……アレだな!!』
『アレだ!! デカいキャノンと、後格闘だ!!!』
語彙力はないが、彼らは言動や行動ほど馬鹿じゃなかった。
***
『A‐9、A‐22、SF(システムフリーズ)です!!』
『AセクションはフォーメーションをP1よりP4へ変更の後、O‐9を続行。
Bセクション、反転の後にオペレーション変更までフォーメーションをP‐32で続行」
『ASリーダー了解!! 前に出ます!!』
『BSリーダー、了解!!』
「コマンダーはこれより、『ゴッドサンダー』の発射態勢に移行する。
そろそろ、件の『デカ物』が見えてくるはずだが、それよりもデッドボーダーに注意しろ。
P4のフォーメーションで常に移動するように」
『『『『了解!!』』』』
さて、とバイオティラノは動きを止める。
「……『神の雷』って名前、ダサくないか?」
〈ヨク、分カラナイ〉
***
バイオゾイドの能力は、すぐに丸裸となった。
「こちら、ブリギットだ!! 全員、よく聞け!!」
アレキサンドロス高校側の副総長―――『皆のノート女番長』ことブリギット・カンザキは、その司令室で声を荒げた。
「バイオゾイドに聞く攻撃は限られている!! 小口径弾では無意味だ!!」
『しょ、しょうこう!?』
『ノート番長!! もっと漢字少なく!!』
「バカ共が!! 自分の武器を見て、ゴドスとかの手と同じぐらいの武器じゃ意味がないという事だ!!
ついでだがビームはもはやただの飾りだ!!
格闘戦を挑め!! 体当たりの方が効果がある!!」
『おっけー!!』
『何だよ、いつも通りじゃねぇか!!』
「バカが!! 格闘でも同格サイズのぶちかましじゃ意味がない!!
奴らは火器が少ないが大粒で威力が高い!!
ティガゴドスの頭なら、あれも数発は耐えれる!!
先頭に置いてなるべく突っ込め!!
デッドボーダー!! お前たちだけが射撃でダメージが与えられる!!
月を落とすつもりでドンドン撃て!!」
あいよー、などの統一感のない返事を聞き、彼女は頭を抱える。
「……馬鹿ばかりと話すのは疲れる!」
『全国模試10位台はいう事が違うぜぇ!』
『で、ブリちゃん今月何人血祭りで補導??』
ガン、と通信機へ、聞こえた操縦席と火器管制席の声に蹴りを入れる。
「お前らは後で屋上だ」
『『ヒエー!』』
「変な声を上げる暇があるなら、とっとと突っ込め、バカが!!!」
ズドォン、と言う爆音は、しかしいま彼女の乗るゾイドには衝撃一つ伝わらせない。
「いい展開をする相手だが、『これ』を殺しきれるか? ディガルド学園」
ギュゥゥウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
唸りを上げる、2本の角。
その下から覗く長い3本目の角と、鋭い視線。
基部に見えるなだらかな曲面美は、かつて最強を沈めるべく生まれた特殊装甲―――『反荷電粒子シールド』。
脇腹から水平に放たれ、向きを変え相手へ飛ぶミサイル。
そのサイズ比を見よ!
中型ゾイドのブースターはありそうなミサイルが、まるで小粒のマイクロミサイル。
腰で回り続けるは、半永久動力の『ハイパーローリングチャージャー』。
近くにあるビーム砲は、本来シールドライガーに乗るはずの大型にもかかわらず、予備兵装にしか見えない。
この超巨大ゾイドこそ、アレキサンドロスがジャンクの山から見つけ、修復した恐るべき『竜殺し』。
トリケラトプス型、『超巨大』戦闘機獣。
RZ‐055 マッドサンダー
かつて、最強だったデスザウラーをただの案山子に変えた、狂える雷神である。
「ポッカ、弾幕が薄いぞ!!
サンチョ!! 先頭に出ろ!!
こいつを倒せる手段があろうとなかろうと、前に出るのがこいつの役目だ!!」
『アイサー、キャプテン!!』
「女はサーじゃない、マームだ!!」
『細かいことはいいんだよ!!』
『そーそー!!』
2連大口径衝撃砲、そして二つのビームキャノンが火を噴く。
***
『うぉー、マッドが来たぞー!!』
『ぶっこみいくぞぉー!』
唸るマッドサンダーのマグネーザー。その音だけで周りの味方の士気は上がる。
『Bセクション、フォーメーションをP‐32からP‐01に変更。
BSリーダーを先頭にマッドサンダーの侵攻を止めろ。
神の雷を使う』
「了解ィッ!!」
パイロットの戦意高揚に反応し、SLSを介しバイオトリケラが吠える。
「Eシールドアタックをする!! 道を任せるぞッ!!」
『『『『了解!!』』』』
バイオトリケラの前面、金色の角を中心にEシールドが展開される。
***
「このマッドサンダーに突っ込む気か、チビ!!」
大型ゾイドですら小さく見える相手へ勇敢に向かう相手に笑みを漏らす。
『いい感じの馬鹿で好きだぜぇ!!』
『来いよぉ!! その度胸気に入ったぁ!!』
「ねじ伏せろ!! マグネーザーの肥やしにしてやれ!!」
アイサー、と凶暴な笑みを浮かべて良そうな声音が上がり、マッドサンダーの巨体が俊敏に相手を捉える。
『おぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!』
「こぉぉぉぉぉぉぉぉぉいッ!!」
激突。
銀色のトリケラトプス型ゾイドのEシールドと、巨大なトリケラトプス型ゾイドの回転するマグネーザーがぶつかり合う。
「力で勝てると思うなよ、新型ァ!?」
指令席で叫ぶブリギット。
「―――ヘッ、」
しかし、体格差とパワーで押され始めるバイオトリケラの中で、リョウヘイは笑う。
「『一瞬でも拮抗して』、『隙が出来』りゃ……
俺の、『俺たちの勝ち』だ!!」
瞬間、マッドサンダーの背後で、黒い光がはじける。
『『『な、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!』』』
まるで空間がゆがむような錯覚すら見える一撃は、マッドサンダーの腰のあたりを消し飛ばす。
そう、
マッドサンダー最大の弱点である、
ハイパーローリングチャージャーを。
「―――う、嘘だろう…??」
安全に配慮し、特殊なカーボンで守られているとはいえ、コックピットや司令室はめちゃめちゃだった。
衝撃で座席から放り出され、しりもちをついたブリギットは、そんな一撃にそんな声を漏らす。
***
「―――ビームスマッシャーの原理で超高密度圧縮したバイオ粒子を放つことで、一時的にマイクロブラックホールに似た現象まで起こる兵器、か」
しゅぅ、と煙を上げるバイオティラノの口を閉じ、思わず冷や汗が出るジーナ。
「学生の身分で使っていい兵器じゃないぞ、わが父よ」
***
『すまん!! やられた!!』
マジかよぉ、と声の上がるアレキサンドロスの面々。
そこは、まさに多勢に無勢だった。
単体で見れば、性能のいいゾイドのそろうアレキサンドロス高校だが、
その場所は銀色のゾイドたちが、目で見えてわかる程の数で押していた。
『こいつら……聞いてたより多くないか!?』
『つーか、あーし同じ数で戦うって聞いてたんですけどぉ!?』
『人数は俺らと大差ないはずだよな!?』
まだ、数の上ではマッドサンダーが落ちたぐらいだ。
ドスゴドスもレッドホーンBGも、デッドボーダーもヘルディガンナーたちも健在だ。
『馬鹿、動きをみやがれ!!』
『あぁ!? お前も大して成績変わ……は!?』
そこで、気づく。
一部よく動くゾイドと、どこか機械的、あるいは動くゾイドへ追従するゾイドたちがいる。
『スリーパーか!?』
『ずるいなぁ、オイ!!』
スリーパーゾイド。無人型のゾイドは、ゾイドバトル連盟の使用ルール内では『武装』扱いである。
人が乗っていない分戦力が下がるが、数の埋め合わせに使えば大変有利な状況に出来る場合もある。
皆の印象はよくないが。
『つーこたぁ、さっき殺した馬鹿は無人か!! つまんねー!』
『鬱陶しい手ぇ使いやがって!! さっきマッドを沈めたやつらと戦わせろやぁ!!』
ぎゃん、ぎゃん、と射撃が対して効果のないバイオゾイドを、爪と牙とその質量を利用した格闘で沈める。
だが、大変困った状況だ。
『糞、今のは有人か!?』
『こんなダチいねぇよ!!』
『『友人』じゃねぇ、寒いギャグかますな!!』
『うるせぇ、どうしろってんだ!?』
今潰したのは、無人機か、有人か? それがわからない。
偏差値ワーストだから、というわけではないが判別するための脳は彼らは一切機能していないのだ。
『こういう時どうすればいいか聞ける奴が最初に沈んだしなぁ!!』
『―――おいおい、野郎共、何キンタマ落としたみたいな声出してんだぁ!?』
そんな時、アレキサンドロス側のゾイド群の右翼に固まっていたバイオラプター達が吹き飛ぶ。
『―――要するによぉ、より取り見取りって事じゃねぇかよぉ!?!』
二つのハサミでバイオゾイドの首を掴み、地面にこすりつけながら豪快にターンする、赤いティラノサウルス。
『こんだけいりゃぁ、今日の撃墜数トップのスペシャル丼!!』
システムフリーズしたそれらを投げつけ、3機巻き込みでさらにフリーズさせる。
『学食で食いたい放題だぜぇ―――――――ッ!!!』
両腕のワイヤークローを伸ばし、2体のラプターをからめとり、モーニングスターよろしく周りの敵へぶつけていく。
『ははははははははははッ!!!
どぉしたぁ!? ディガルド校ってのはこの程度なのかよぉ!?!』
赤い目の暴君竜の口が開き、荷電粒子砲が放たれる。
たった一機、
その一機の数秒の戦闘により、バイオラプター達が相当数減っていく。
『例のジェノブレイカーか……
Bセクション、前へ。ミサト!』
「了解ですっ!」
〈ヤッチャエ!!〉
瞬間、バイオメガラプトルを主軸とした部隊が前に出る。
バイオラプターの一群がジェノブレイカーを囲み、その壁を跳躍で超えたバイオメガラプトルが鋭い爪を振るう。
スパンッ!
その、あまりの軽い衝撃と共に、フリーラウンドシールドの装甲に二つの切れ込みが入る。
「嘘だろ!?」
自身の愛機の最も固い部分を切り裂いた威力に驚く中、
「行ける…!」
バイオゾイドの性能を確信し、フュン、と鋭い爪が首筋に迫る。
避けられない。
「チッ、調子乗んじゃねぇっ!!!」
それを理解する前に、機体と自分の凶暴性を乗せて体当たりを敢行する。
「!?」
驚愕の意識のまま即座に後ろへ飛ぶ。
(牽制!)(ブッパナス!!)
飛び始めた最中に気づき、反動で着地が難しくなるリスクを承知で口からヘルファイアを放つ。
「チッ!」
傷のついたフリーラウンドシールドでそれを防御、同時にアンカーを下す。
「ぶっ放せ、タコ野郎!!」
ガンッ、と拳で荷電粒子砲のスイッチを殴る。
その怒りと気合でチャージを5割まで終わらせ、荷電粒子砲を放つ。
「しまっ―――――っ!?」
着地の硬直、光の本流に飲み込まれるには十分な間。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?!?」
荷電粒子砲は見事直撃し、バイオメガラプトルを光の本流で包み込む。
〈熱イ!! スゴイ熱イッ!?!〉
「ぐ、うぅぅぅぅぅぅぅぅ…!!」
しかし、その本流はバイオメガラプトルを起点とし、四方八方に拡散して降り注いでいる。
いくら5割の出力とはいえ、貫通はするはずだ。
「…?」
その感触は、不思議なことにジェノブレイカーのローディ、そしてそれに乗るレドーナにも伝わった。
「……まさか、」
荷電粒子砲を止める。そして、すぐに動き出し、自然と格闘戦の用意をしていた。
「はーっ……はーっ……!」
じゅぅ、と音を立て赤熱化した正面装甲。
しかし、すぐに水蒸気も止み、元の銀色の外骨格へ戻っていく。
「耐えられた……!?」
〈怖カッタ………デモ大丈夫!〉
荷電粒子砲の余波で周りの土は黒く焦げ、拡散した余波は周りにも影響を与える。
しかし、バイオメガラプトルは健在だった。
〈ア、 右!〉
「!?」
バイオメガラプトルの視界の端に映る煌きにすぐ反応する。
操縦桿より早く頭で動した体が回避を選択するが、ロケットブースターで飛ぶクローはよけきれない。
「楽しいことしてくれてるじゃねぇかテメェ―――――――――――――ッ!!」
たわんでいたワイヤーがピン、とまっすぐ張られ、それに沿うように全速力でやってくる角のようなブレード。
〈「!!」〉
頭部を直撃する瞬間、紙一重でよけ、ティラノとメガラプトルの頭部がぶつかり合う。
俗に、『鍔迫り合い』。
きしむ金属の音を立てながら、ぶつかり合う両者のコア出力があたりを揺らす。
「ぐっ……すごいパワー…これがオーガのイドシステム……!!」
「チィィィ!! イラつくぐらい反応が速ぇえなぁ!?!」
エクスブレイカー二つが挟み込むよう襲う。
しかし、すり抜けたと錯覚するような反応速度でそれは回避され、代わりに高温プラズマ火球の直撃をもらう。
「がッ……舌噛んだ…!!
ペッ……やってくれんな、銀色野郎ぉ―――――――――――――ッ!!」
血の痰と共に、ウェポンバインダーのミサイルをばらまく。
ずん、ずん、とステップを踏むような軽やかさでよけるバイオメガラプトルに、煙に紛れた全力のタックルを当てる。
「きゃぁぁぁぁぁぁッ!?!」
吹き飛ばされ、地面に転がって衝撃を逃がす。
「クッ…!」
素早く反応し、ヘルファイアを再び放つ。
ずん、と大きく音を立て、あの損傷していたフリーラウンドシールドが地面に舞い落ちる。
「……やるじゃねぇか」
煙を上げるサブアームを一瞥し、吠えるジェノブレイカー。
「上等だぜ、ディガルド。
正直舐めてたわ。悪かったな、いやマジで」
ぱち、ぱちっ、とコンソールのボタンを押し、画面に『OS‐LIMIT:ON』の文字が出る。
「……まだなの……」
機体は無事だが、コンバットシステムのモチベーションが下がってきたことは脳で感じる。
そろそろ、まずい。
「上等だテメェ、銀色の細くて弱っちそうなガイコツの癖しやがって!!
覚悟できてんだろうなぁ? じゃあ見せてやるよ……!」
『UNLOCK』と書かれた画面に浮かぶボタンに指を伸ばす。
「――――こいつの本気を、見やがれクソが、」
ボタンに触れる。
ビィ――――――――――――ッッ!!!!
「!?」
だがその瞬間、そのけたましい音が響く。
「――――私達の勝ちだ……!」
にぃ、と静かにコックピットで笑う。
『バトル、オールオーバー!!
バトル、オールオーバー!!
アレキサンドロス校の監督責任者からの申請により、
このバトル、アレキサンドル高校側の敗北とする!!』
「は!?」
『ウィナー!!
私立ディガルド学園ッ!!!』
「はぁ――――――――――――――――ッッッッ!?!?!?!?!?」
この時、
こんな声は、あたり一面から響いたという。
***
「ふっっっざぁっっけんなよ、ゴゥルォルァァァァァァァッッ!!!」
「俺の今月のバイト代がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?!?!」
「金返せ!!食券返せ馬鹿野郎ぉ――――――――――――ッッ!!」
断末魔と怒号が、観客席の大部分から響く。
コーラ、焼きそばパン、缶コーヒーが空を舞い、暴徒と化した生徒たちが暴れ始める。
「お、お、お、
大穴――――――――――――――ッ!?!?!?!」
「やったー!! 帰りの運賃手に入ったー!!!」
うぉぉぉぉぉぉ、と泣き叫ぶ、グルカ高等学校の面々。
その横で、静かに紅茶をすするイオナと、ため息詣りにコーヒーをあおるフィーネ。
「予想通り」
「予想が外れた」
両者、苦笑を漏らしながらそう言葉を紡ぐ。
「ところで、そもそも私も負ける方に予想はしていたが、あんな賭けを持ちかけられて勝った方にしたわけだ。
で、この最初から破綻した賭けに勝った根拠は?」
「根拠も何も、そっちも予想が外れたとお嘆きになったじゃないですか。
そっちの言葉も聞きたいですね」
「では、そちらが先だ」
「ふふ……まぁ、きっと同じ理由ですよ。忌々しくも」
スコーンを一口含み、すぐに咀嚼する。
「……アレキサンドロス校の今日は前哨戦です。
勝てば幸先もいいですが、『勝つために全力は出してはいけない』のが『前哨戦』です」
どうぞ、と新しいスコーンをフィーネに差し出し、受け取るのを確認して言葉を紡ぐ。
「アレキサンドロスはあれで優勝校。
監督、作戦担当は、そのイケイケドンドンな戦い方でそこまでやった手練れ。
今日も、新型の性能や作戦にひるまず、騒がず、散らず、
ある種嫌なぐらい『代り映えの無い突撃に攻撃の全力一辺倒』、
見事ですよ。ここまで馬鹿に徹しきれる戦い方は」
「ああ。
彼らは怖れがない。だから、生半可な方法では太刀打ちできんよ」
フッ、と笑いながらスコーンを一口で平らげるフィーネ。
コーヒーで流し込み、フムとうなる。
「だが、私の予想が外れた、はそういう事じゃない。
てっきり、あの赤い悪魔は『本気を出す』のかと思ってな?」
「OSリミッターの解除ですか?
データでは、まだ6割のはずでは?」
「そのデータに、私の直接対峙の感想がないだけさ。
おや、ついわが校の機密を教えてしまった! 失礼? 忘れてくれ」
ははは、と二人は笑う。
どこか剣呑で、そしてどこまでも同類の匂いを茶葉と豆の匂いで隠して。
「……そうか、もうあの動きは6割か……」
ふと、直接対決した彼女たちの様子に思いが移る。
***
アレキサンドロス校チーム集合場所
「ふざけんなよクソ先公がぁ――――――――――ッ!!」
がッ、とイッカクの胸ぐらをつかむレドーナ。
振りかぶった拳は、しかし右腕で受け止められる。
「なんだ? 先生様に逆らうとは、内申点に俺はマイナスつけるのを忘れたか?」
「うるせぇ!! 中途半端なことしやがって!!
まだ負けてねぇ!! まだ負けてねぇだろうがよ、くそがッ!!
最後までやらせろッ!! 行けただろうがよぉ!?!
そういうルールだろうがッ!! あたしらの得意な、最後までやるルールッ!!!
それを、」
「―――ああ。だから、まだ負けてないうちに引き下がったんだよ」
グッ、と拳をひねり、小さな体のバランスを崩させる。
「うぉ、」
「調子に乗ってんじゃねぇぞ、メスガキがぁぁぁぁ!!!」
バキッ、とその額に自分の頭をぶつける。
衝撃で額が割れ、よろめくレドーナを後ろにいた生徒たちが支える。
「て、てめぇ……!」
「お前はなぁ!? 頭使わなすぎなんだよ!!
お前も、お前らもだッ!!!
前哨戦っつったろ!? あ!?
そりゃ勝ちたいだろうさ!! 勝つことに意味がある!!
だけどなぁ!!?」
ぐい、と自分もれた額から流れる血をぬぐう。
「勝ちっていうのはな、最後の最後でもいい。最後の最後じゃなきゃダメなこともあるッ!!」
あまりの興奮に、さらに額から血が噴き出す。
「いいか、俺らはもう無名で名誉も、誇りもねぇ、ただのチンピラでポッと出の集まりじゃねぇ!!
前年度優勝っていう奇跡が!! 実績が!!! 信頼が、伝統が!!!!
そんな煩わしい、面倒臭ぇ、たった一つの『価値』がッ!!!
……俺たちの『値打ち』がついて回ってるんだ…!!」
荒い息を肩でしながら、周りにいる者たちを見回し、語りかける。
「……先公……!」
「はぁ、はぁ……俺の内申点に、お前らの就職先、まともな道!!
全部だ……全部確保するには、ここだけ勝ってりゃいいって話じゃ、もうねぇんだ……!!
クズ、ゴミ、不良品!!
そんなものからまともになるには、まだだ!!
まだ、まだ全力で俺たちをぶつけるわけにはいかねぇ…!」
イッカクは、皆に背を向ける。
「………今年度も優勝!!」
『!?』
「……今年度も、優勝だぜ。
いっそ世界大会に出る勢いで、無い脳みそも馬鹿みたいにある凶暴性と体力も使っていく。
どんなにダメでも、ベスト4入りだ」
『……』
「お前らは、無い脳みそは別の所で使え。
……俺は、お前らに考えられない部分を教えてやる」
コツコツ、と背を向けたまま歩いていくイッカク。
「待てよ……!」
「おいレドーナ! どうせ後で保健室で会うだろ!」
「まだ話は終わってねぇ…!」
「終わりだ!! イッカク先生の事も考えろ!!」
「考えてらぁ!!!
あの負けず嫌いのクソ先公がッ!! 悔しくないわけねーだろッ!!」
ブリギットに止められたレドーナは、そう叫ぶ。
「あのイッカクだぞ!? 一発殴られてやろうか迷うぐらいには……ッ!!
悔しがるだろうがよ、クソがッ……!」
誰もいない、保健室前の廊下。
ガンッ、と音を立て、学校の壁に拳をぶつける。
「………チッ!」
血のにじむほど握られた拳を壁に押し付け、悔し涙が廊下を濡らす。
「ああ……お前らにゴミみてぇな『頭のいい負け』なんてことさせたんだ…ッ!
今年も優勝しなきゃ………割りにあわねぇだろうがよ……!!」
***
「さて!!!」
パンッ、と両手を叩き、イオナは立ち上がる。
「まぁ、表面上とはいえ、バイオゾイドの『対策』はいくつか考え尽きました。
出来レースとはいえ賭けにも勝ちましたしね」
「フッ、一つ貸しだ」
フィーネの言葉に満足したイオナは、改めてディーンに向き合う。
「ディーン・ガルド社長。今日はありがとうございます。
近々、そちらに試合を申し込むので、その時にまた」
「いいとも!! そちらの学校は好みのゾイドが見れそうだ!!
だが、まだまだ私の自慢のバイオゾイドは増えるよ~? まだ秘密もある!!
出来れば今日みたいなことは無しだ。最後までやりあおう!!
心苦しいが、全力で戦おうじゃないか!」
「ええ。
新製品の売り上げが不振になるぐらい叩き潰して行こうと思います!」
はっはっはっは、と大声で笑う二人。
「では、敵に塩を送るつもりではないが、今日から今日見せた4機種は市場に出る。
サンプルやアグレッサーでもいい。
存分に買って色々試してみてくれたまえよ」
「もちろん!
でも、それ以上に『我々のゾイド』が先ですが」
二人の不敵な笑みは、新たな戦いの予感をあたりに想起させた。
――――そうして、アレキサンドロス校での試合が終わった。