その1
ミューズ学園、図書室。
いや、そこはもはやこの地域随一、いやこの大陸最大の『図書館』と言っても過言ではない。
そこにある書物は、かのロイ・ジー・トーマス氏の書いた、ゾイドと戦闘の歴史から、はるか幻想の時代の神話、最新の情勢を知る資料まで、全てがそろっている。
「てめぇ、謝れ!! 謝るまでやめねぇぞゴラァ!?!」
「だーれーがー、謝りますか、このヤンキーごときがぁ!!」
すべてがそろっているであろう、棚が揺れるほどのキャットファイトが勃発している。
「「何が起こったこれ!?!」」
とりあえず、図書室は静かに、を早速リナとオティーリエは破った。
***
話は、二人が図書室に来る前から始まる。
「……なーんで、オレって肝心な時に運がねーんだろ」
クレーエがとぼとぼと顔をうつむかせて歩いていた。
「仕方がない。人の運命など、大きな流れの前では無意味だ」
と、そのクレーエの隣から、そんな透き通った声が聞こえる。
隣には、C組にいた、あの白い髪に仮面という、奇抜かつ妙に印象的な特徴を持った小柄な女子生徒がいた。
「お前がオレを一番不幸だと思わせる原因なんだよぉ!!」
「?」
「だー、何が悲しくて仮面被った変態と隣歩かなきゃいけねーんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
仮面の下からでもわかるきょとんとした態度に対し、嘆くように大声をあげるクレーエ。
「仮面をかぶると変態なのか?」
「少なくとも恥ずかしくねぇのか、チビ!」
「チビとは私か?」
「他にいんのかよ!?」
「チビじゃない。私の名前は、シルバ・アッシュだ」
「そう言う意味じゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
なんだよこいつ、と本日何度目かわからない言葉を吐く。
「なんでこんなのと、寄りにもよって図書委員にさせられるんだよ!」
「本は嫌いか?」
「そう言う事じゃねぇけどよ……がらじゃねぇよ……クソ」
はぁ、とため息をついているうちに、その問題の図書室に到着する。
「本は良いぞ、歴史も軍事も、全て自身の力になる」
「知ってるよ、んなこと……でも、嫌いなものは嫌いなんだよぉ……」
このシルバ・アッシュとかいう謎のクラスメイトと喋るだけで、クレーエの調子は狂いっぱなしだった。
そして、まだ釈然としないが図書委員の登録の為にも扉を開く。
「――――結局、ゾイドをどこまで手足のように扱うのかが勝敗を決めるのですわー」
そして、余りにも信じられない言葉を聞く。
そのいけ好かない言葉は、これまたいけ好かない人間だと一目でわかるような、クレーエが一番嫌いないかにもお高くまとまった生徒の物だった。
「大体にして、人間が操縦する物の心に合わせる必要がおありですかしら~?」
「ですわね、流石フッドさん!」
「やっぱり、ゾイドんんて手足のように動かせばそれでいいのですわよね!」
「さすが、ちゃらちゃらと、ゾイドの命は大事、だのなんだのいう輩とは違いますわ~」
おほほほ、だなんだと笑って、クレーエにとって最も大事な『ダチ達』がバカにされる。
「……シルバ、だっけかぁ、おチビ」
「なんだ?」
「お前は、隣にいたけど、止められなかった。
いいな」
「ふむ……主語はないが理解した」
クレーエは、腹の立つままに、ゆっくりとそれらに近づき。
「あー、ちょっといいかー?」
「はい? なんでしょ――――」
停学、退学、なんでも来い、と言わんばかりに、殴り掛かった。
***
「――――まぁ、その後の話を聞く限りだと、どっちもどっちじゃないですかぁ?」
「同感であります」
「「誰がコイツといっしょだ(ですか)!?!」」
偶然駆けつけたリナとオティーリエの二人は、図書室の机の上に二人の人物を抑えつけていた。
一人は、なぜか顔が殴られたかのように赤いクレーエ。
もう一人は、何処から見てもお嬢様な、しかし顔を大きく赤くはれさせた女子生徒だ。
「まだ、この野蛮人と決着がついていませんわ!!」
「上等だお姫様! てめぇ、ちょっと喧嘩慣れしているだけでオレにはかなわない事を教えてやらぁ!!」
どうも、このお嬢様も中々、気性が荒いらしい。
とにかく、二人はもごもごと動いて、軍隊式の人のホールド状態を抜け出そうとしている。
「そこのあなた! どうか放してください! 先に殴ってきたのはあっちですのよ!」
「うーん……どーしましょーかねー…?」
「そこを何とか! A組のこのアリシア・フッドの誇りのために!」
「ん? ちょっと待ってください、ひょっとして、イギリス系地球移民の方ですかぁ?」
「え、そ、そうですわよ…?」
「ならば、同族の好という事で♪」
ぱっ、とそのアリシア・フッドという生徒から手を放すリナ。
「いよっしゃぁぁぁぁぁぁですわぁぁぁぁ!!
後でアッサム茶葉を差し上げます!」
「どうも~」
「てめぇ、このメガネ女2号ぉ!! 裏切りやがったなァァァァァァ!!!」
クレーエは、より強く拘束を解こうともがき始める。
「なぁ、そこの! 変な口調のお前!」
「酷い言い草でありますなー、これから頼みごとをする相手に」
「うっ……」
「さぁて、クレーエ殿ぉ? あなたの要望はよぉくわかるでありますよー?
でも、それをかなえるためには条件があるであります」
「……おう、考えといてやるよ」
「んっん~? 考えておくだけでありますかぁ、これは守る気が無いと判断せざる負えませんなぁ?」
「ウッ……い、いや、そんな、こと、するわけ……ないじゃ、ねー、か?」
「今ここで、私の言う事を必ず聞く、と誓え。
さもないと一生放さないし、殴られている間もずっと……」
「分かったァ!! ばっくれねー、誓う!!
なんでもしてやるよ!!絶対に!!」
「よくいえましたでありますよー」
ばっ、と手を放され、よっしゃぁ、とクレーエは再び立ち上がる。
「決着付けるぞクソアマァ!!」
「体から性格を強制して差し上げますわぁ!!」
バッ、とお互い殴り掛かった瞬間。
パスパス、と気の抜けた音と共に、初速が音速の小さな鉛玉が二人をかすめる。
「「へ…?」」
二人が振り向くと、そこには、
「よくもまぁ、私が司書をしている場所でここまで派手に暴れられるものだ」
サープレッサー装着型の拳銃を構えた、我らがC組担任、ことフィリアがいた。
***
「いやー、すみませんフィリア先生!!
私のクラスの生徒がこんなことをしてしまって!!」
生徒指導室、そこでA組担任の、いかにも体育会系っぽい小柄な先生、ヒビキ・ミドリノ先生が元気よく謝っていた。
「いえ、別にかまいませんよ、ミドリノ先生。
問題は、この二人の決着です」
目の前には、プルプル震えながら、冷や汗をたらして正座するクレーエとアリシアがいる。
ちなみに硬い床に直接である。
「さぁて、どうせこの部屋を出て数秒でまた喧嘩をするような気性の荒いバカども二人だ。
どう決着をつけてくれようか?」
「「……」」
まるで、何かを選別するような目つきで、二人を見るフィリア。
「まぁ、予想していたが、どちらも反抗的な目つきだ。
いいぞ、だったら最高の舞台を用意してやる」
と、怪訝な顔になった二人に、フィリアは告げる。
「お前たち、午後は実はな、A組とC組の合同授業だ。
そこで決着をつけるといい」
え、と驚く二人に、悪魔のような笑顔のフィリアはこう続ける。
「お前らも一人前のゾイド乗りになりたければ、
ゾイドバトルで決着をつけろ」