ZOIDS学園   作:影狐

9 / 47
その2

 

 ――――キュワワワワワァァァァァァァァァッ!

 上空を飛ぶストームソーダーの声が響く中、ミューズ森林地帯は静かに午後の授業に入っていた。

 

「てなわけで……すまん!!

 オレのせいで面倒なことになった!!」

 

 パチン、と両手を合わせ、クレーエは珍しく頭を下げていた。

           ***

 会話だけでわかる内容なので、数分前の事を聞いてほしい。

「ふん、1対1のバトルなんて、わたくしの勝利が目に見えていますわ!」

「あ? てめぇんとこの格闘バカなんざ、オレのクラスの雑魚一匹でも十分だゴラァ!?」

「なんですって!? わたくしどころかわたくしの学友までもバカにする気!?」

「実際馬鹿だろうよ、えぇ!?」

「先生、聞きました…?

 これは、2クラスによる総当たり戦で決着をつけるべきですわ…!」

「いいだろう、面白そうだ」

           ***

「オレだって、そりゃ朝から色々いきがってたけどよ、ここまでクラスに迷惑をかけるようなことは……なるべく、しないように思ってた……

 面倒に巻き込んで悪い! だけど――――」

「いいえ、何を言っているの?

 これはチャンスよ!」

 が、なぜか数時間前にクラス委員長に就任したばかりのメルヴィンは、一目でわかるほど上機嫌だった。

「え、な、なんだよ、委員長…!?」

「バカね、初日からゾイドバトルに怖気づいたり、ましてや『面倒な事』だなんて言ってどうするのよ!

 いい? 売られた喧嘩は必ず買え、売れる喧嘩は率先して売れ!

 負ける負けないにかかわらず、とにかく全力を出して戦え、そして勝てる時は確実に勝つ!

 卑怯、卑劣、怖がるな。他人の評価は賛否両論が当然!

 自分が強くなるために、手段は択ばない!

 ただし、ある程度の賛成を得られること。民主的に、ね?

 私の敬愛するヘリック2世大統領の、自伝の中の一節よ?

 私達は、ゾイド乗りになるタメにここまで来たのよ!?

 むしろ、スキルアップにいい近道じゃないの!」

 と、軽くガッツポーズをしてまで声高々に語るメルヴィン。

         ***

 ちなみに、実は外でフィリアは、電子タバコをふかしていた。

「いつからここは共和国になったんだ……」

 と、内容を聞いて小さくつぶやいていた。

         ***

「で、でもよぉ……」

「何かしら?」

「……いくらゾイド乗りとしての適性があるからっつてもよ……あれだぜ?

 オレ、そこのメガネ2号、そこでずっと静かにしてるお嬢様、それぐらいしか、まともなゾイドに乗った経験ないんじゃねーの?」

 チラリ、とクラスを見ると、案外項垂れている顔は多かった……

「……はぁ、なっさけないわね……

 そんなのじゃ、勝てる戦いも勝てないわよ、みんな!」

「勝てるかどうか分かったもんじゃないよ、委員長……」

 だいたい中腹の席にいる気の弱そうな男子生徒が、そんな弱音を漏らす。

「……はー……なんでやる前からこんな弱気なのよ……」

 頭を抱えるメルヴィンだが、意外とクラスの顔は重い。

 まぁ、この世代の人間たちに、自信を持って行動できる、と言う人間は少ないのだ……

 

「……」

 そんな様子を、ヒルダは、静かに見ていた。

「……フム」

 そして、あることを思い立ち、立ちあがる。

 

 その様子に気づいたメルヴィンは、怪訝な顔になる。

「えっと、ターレスさん…?」

「メルヴィン殿、少々私に話す機会を与えてはくれないだろうか?」

「……それは、私にとってメリットになる事、書記?」

 ちなみに、ヒルダはクラス委員の書記だった。

「それは、分からない。

 だが、それは今の状況にも言えることじゃないのか、とも私は疑問に思う」

 と、言って、右手を仰々しく上げるヒルダ。

「諸君。今日、初めて会った者のみで構成された、全く新しい環境に慣れていないであろう、我が学友諸君。

 諸君は、一体何を思ってここへ来たのだろうか?」

 上げた手を、いつの間にか注目している生徒全員に向けるよう動かすヒルダ。

 その動きに、妙に視線が言ってしまっている。

「皆、何か夢があるだろう。そして、自分はそれをかなえたいと真剣に思っている。

 諸君、親愛なる学友諸君。

 君たちは、まだこの学校の入試倍率を覚えているだろうか?」

 全員、数か月前の事であり、よく覚えている。

 ――――10.4倍。

 多いと思うだろうが、ゾイド乗り育成機関の倍率としては、標準的な物だ。

「思い出したまえ、その倍率を突破するために、してきた努力を。

 思い出してくれ、自分の名前が合格者発表に会った時の事を。

 諸君たちは選ばれた。

 望みを持って、それに選ばれたんだ。

 いいかね、選ばれた君たちには、選ばれただけの価値がある。

 謙遜も美徳だが、君たちに謙遜など必要ないのだ。

 此度の戦い、不安もあるだろう。

 だが考えても見たまえ、君たちは、この学校に選ばれたんだ。

 それだけの力がある。それだけの価値がある。

 それだけの才能が、見返りが、未来が、必ずある」

 ここまでのこの言葉。この言葉だけで、全員引き込まれたように聞き入っている。

 目が離せない。それは、彼女は美しい少女ではあるが……それ以上の、何か特別な魅力が、その姿に、その言葉に、あった。

「学友諸君、我が1年C組の親愛なる学友諸君。

 恐れることはない、委員長も言っておられる。

 負けることは恥ではない、戦うべき時に戦わぬのが愚かなのだ。

 君たちは愚かか? 違うだろう。

 君たちは選ばれた人間だ。君たちは優秀な人間だ。

 持てる力、そのすべてを発揮し、戦いに挑むことのできるだけの、優秀な人間なのだ」

 気が付けば、弱気そうな生徒ですら、そのヒルダの言葉に聞き入って、まるで彼女を何かの偶像のように、神聖な物のように、見入って、聞き入っている。

「諸君、恐れるな。

 戦おう、わが学友諸君。

 皆で誇りを持って、戦おう!」

 気が付けば、全員スタンディングオベーションで歓声をあげていた。

 涙を流している人間も、いた。

        ***

 書類仕事を外の机で一枚終わらせ、フィリアは一言つぶやく。

「惑星Ziにも、選民思想があったのか……」

        ***

「はい、じゃあ、みなさん再び注も~く!

 ここからは、いかに勝つか、のお話に入りましょう?」

 と、そこでリナが、そう一口、ミルクティーを飲み終えて喋る。

「……ホームルームなんだけど、副委員長?」

「あのですねー、私は何度も言いますけど、イギリス系地球移民ですよ?

 我が灰色の脳細胞は、この、グランボアシェリ・バニラフレーバーのミルクティーを欲しているんですよー。

 そう、勝つために」

 コトリ、とカップを机に置き、続ける。

「みなさーん、不安に思う事はありませんよー?

 所詮、相手は私達と同レベル。小手先なりなんなり、とにかく相手をいかに出しぬけるか、だけで勝敗を決せる相手です」

 さぁて、とリナは、目はまるでキツネ狩りを行うかのように鋭く、口の端を鋭く曲げて笑う。

「皆さん、まず自分のゾイドを持っていない人には、私の指示通りのゾイドに乗ってもらいます。

 

 ――――どうせですし、手足もいで生殺与奪件全部こっちが持つような、完全勝利目指しましょう?」

 

          ***

「……どうも、今度のクラスは、随分退屈させないようだ」

 廊下で、フィリアも不敵に笑って、本物のたばこを吸っていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。