――――キュワワワワワァァァァァァァァァッ!
上空を飛ぶストームソーダーの声が響く中、ミューズ森林地帯は静かに午後の授業に入っていた。
「てなわけで……すまん!!
オレのせいで面倒なことになった!!」
パチン、と両手を合わせ、クレーエは珍しく頭を下げていた。
***
会話だけでわかる内容なので、数分前の事を聞いてほしい。
「ふん、1対1のバトルなんて、わたくしの勝利が目に見えていますわ!」
「あ? てめぇんとこの格闘バカなんざ、オレのクラスの雑魚一匹でも十分だゴラァ!?」
「なんですって!? わたくしどころかわたくしの学友までもバカにする気!?」
「実際馬鹿だろうよ、えぇ!?」
「先生、聞きました…?
これは、2クラスによる総当たり戦で決着をつけるべきですわ…!」
「いいだろう、面白そうだ」
***
「オレだって、そりゃ朝から色々いきがってたけどよ、ここまでクラスに迷惑をかけるようなことは……なるべく、しないように思ってた……
面倒に巻き込んで悪い! だけど――――」
「いいえ、何を言っているの?
これはチャンスよ!」
が、なぜか数時間前にクラス委員長に就任したばかりのメルヴィンは、一目でわかるほど上機嫌だった。
「え、な、なんだよ、委員長…!?」
「バカね、初日からゾイドバトルに怖気づいたり、ましてや『面倒な事』だなんて言ってどうするのよ!
いい? 売られた喧嘩は必ず買え、売れる喧嘩は率先して売れ!
負ける負けないにかかわらず、とにかく全力を出して戦え、そして勝てる時は確実に勝つ!
卑怯、卑劣、怖がるな。他人の評価は賛否両論が当然!
自分が強くなるために、手段は択ばない!
ただし、ある程度の賛成を得られること。民主的に、ね?
私の敬愛するヘリック2世大統領の、自伝の中の一節よ?
私達は、ゾイド乗りになるタメにここまで来たのよ!?
むしろ、スキルアップにいい近道じゃないの!」
と、軽くガッツポーズをしてまで声高々に語るメルヴィン。
***
ちなみに、実は外でフィリアは、電子タバコをふかしていた。
「いつからここは共和国になったんだ……」
と、内容を聞いて小さくつぶやいていた。
***
「で、でもよぉ……」
「何かしら?」
「……いくらゾイド乗りとしての適性があるからっつてもよ……あれだぜ?
オレ、そこのメガネ2号、そこでずっと静かにしてるお嬢様、それぐらいしか、まともなゾイドに乗った経験ないんじゃねーの?」
チラリ、とクラスを見ると、案外項垂れている顔は多かった……
「……はぁ、なっさけないわね……
そんなのじゃ、勝てる戦いも勝てないわよ、みんな!」
「勝てるかどうか分かったもんじゃないよ、委員長……」
だいたい中腹の席にいる気の弱そうな男子生徒が、そんな弱音を漏らす。
「……はー……なんでやる前からこんな弱気なのよ……」
頭を抱えるメルヴィンだが、意外とクラスの顔は重い。
まぁ、この世代の人間たちに、自信を持って行動できる、と言う人間は少ないのだ……
「……」
そんな様子を、ヒルダは、静かに見ていた。
「……フム」
そして、あることを思い立ち、立ちあがる。
その様子に気づいたメルヴィンは、怪訝な顔になる。
「えっと、ターレスさん…?」
「メルヴィン殿、少々私に話す機会を与えてはくれないだろうか?」
「……それは、私にとってメリットになる事、書記?」
ちなみに、ヒルダはクラス委員の書記だった。
「それは、分からない。
だが、それは今の状況にも言えることじゃないのか、とも私は疑問に思う」
と、言って、右手を仰々しく上げるヒルダ。
「諸君。今日、初めて会った者のみで構成された、全く新しい環境に慣れていないであろう、我が学友諸君。
諸君は、一体何を思ってここへ来たのだろうか?」
上げた手を、いつの間にか注目している生徒全員に向けるよう動かすヒルダ。
その動きに、妙に視線が言ってしまっている。
「皆、何か夢があるだろう。そして、自分はそれをかなえたいと真剣に思っている。
諸君、親愛なる学友諸君。
君たちは、まだこの学校の入試倍率を覚えているだろうか?」
全員、数か月前の事であり、よく覚えている。
――――10.4倍。
多いと思うだろうが、ゾイド乗り育成機関の倍率としては、標準的な物だ。
「思い出したまえ、その倍率を突破するために、してきた努力を。
思い出してくれ、自分の名前が合格者発表に会った時の事を。
諸君たちは選ばれた。
望みを持って、それに選ばれたんだ。
いいかね、選ばれた君たちには、選ばれただけの価値がある。
謙遜も美徳だが、君たちに謙遜など必要ないのだ。
此度の戦い、不安もあるだろう。
だが考えても見たまえ、君たちは、この学校に選ばれたんだ。
それだけの力がある。それだけの価値がある。
それだけの才能が、見返りが、未来が、必ずある」
ここまでのこの言葉。この言葉だけで、全員引き込まれたように聞き入っている。
目が離せない。それは、彼女は美しい少女ではあるが……それ以上の、何か特別な魅力が、その姿に、その言葉に、あった。
「学友諸君、我が1年C組の親愛なる学友諸君。
恐れることはない、委員長も言っておられる。
負けることは恥ではない、戦うべき時に戦わぬのが愚かなのだ。
君たちは愚かか? 違うだろう。
君たちは選ばれた人間だ。君たちは優秀な人間だ。
持てる力、そのすべてを発揮し、戦いに挑むことのできるだけの、優秀な人間なのだ」
気が付けば、弱気そうな生徒ですら、そのヒルダの言葉に聞き入って、まるで彼女を何かの偶像のように、神聖な物のように、見入って、聞き入っている。
「諸君、恐れるな。
戦おう、わが学友諸君。
皆で誇りを持って、戦おう!」
気が付けば、全員スタンディングオベーションで歓声をあげていた。
涙を流している人間も、いた。
***
書類仕事を外の机で一枚終わらせ、フィリアは一言つぶやく。
「惑星Ziにも、選民思想があったのか……」
***
「はい、じゃあ、みなさん再び注も~く!
ここからは、いかに勝つか、のお話に入りましょう?」
と、そこでリナが、そう一口、ミルクティーを飲み終えて喋る。
「……ホームルームなんだけど、副委員長?」
「あのですねー、私は何度も言いますけど、イギリス系地球移民ですよ?
我が灰色の脳細胞は、この、グランボアシェリ・バニラフレーバーのミルクティーを欲しているんですよー。
そう、勝つために」
コトリ、とカップを机に置き、続ける。
「みなさーん、不安に思う事はありませんよー?
所詮、相手は私達と同レベル。小手先なりなんなり、とにかく相手をいかに出しぬけるか、だけで勝敗を決せる相手です」
さぁて、とリナは、目はまるでキツネ狩りを行うかのように鋭く、口の端を鋭く曲げて笑う。
「皆さん、まず自分のゾイドを持っていない人には、私の指示通りのゾイドに乗ってもらいます。
――――どうせですし、手足もいで生殺与奪件全部こっちが持つような、完全勝利目指しましょう?」
***
「……どうも、今度のクラスは、随分退屈させないようだ」
廊下で、フィリアも不敵に笑って、本物のたばこを吸っていた。