ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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リゼ3巻が発売したので初投稿です。


第十一話「朧月の欠片」

 不意をつくように放ったヒート・ダガーの一撃は、対峙する機体──ロードアストレイをベースとした【ロードアストレイオルタ】へと擦り傷を刻んでいたが、それが逃げの一手でしかないことは、アヤノにもよくわかっていた。

 電子の海を漂って、「月下の辻斬り」についての評判を調べてみれば、御丁寧に通りかかる人全員にフリーバトルを見境なく挑んでいるだとか、刀一本しか武装を搭載していないのにやたらと強いだとか、いい評判も悪い評判も続々と発掘されるものだったが、中でもアヤノの目を引いたのは、「攻撃の型が見えない」というものだ。

 例え同じ機体を使っていても、多かれ少なかれ、ダイバーによる「癖」とでもいうべきものは、要するにその身体に染み付いた「型」というものは見えてくるものだが、それが全く見えないとはどういうことなのか。

 アヤノは牽制にバルカンと胸部のガトリング砲を斉射するが、残像さえ見えない音速の太刀筋は放たれる弾丸すら斬り落として、再びクロスボーンガンダムXPの喉元を食い破らんと追いすがってくる。

 

「あわわ、アヤノさん!」

「わかってる、ユーナは隙を見てなんとか援護を……!」

 

 そんな隙を相手が与えてくれるかどうかはともかく、タイマンを張るにはこのカグヤと名乗った少女の太刀筋はあまりに苛烈であり、そして対ビームコーティングがガーベラストレートの刀身に施されている以上、通常のビームサーベルより出力が高いとはいえ、バタフライ・バスターBでどれほど受け止められるかわからない。

 アヤノは距離を取ることを諦めて、それこそ己の身体に染み付いた実家の古武術──一条二刀流の構えを取って、荒れ狂う鎌鼬のように素早く振り抜かれるガーベラストレートの刃を受け流す。

 

『なんと……素晴らしい型です、拙もまた、負けていられない!』

「それはどうも……ただ!」

 

 ヒート・ダガーによる不意打ちはもう見切られるだろう。

 アヤノは光の翼を展開した膂力で強引にカグヤの太刀を打ち払うと、次なる型へ、攻めの姿勢に転じるために構えを直して攻撃を仕掛けようと試みた、その時だった。

 ──何かが来る。

 理屈より先に本能が脊髄を伝って、直感的に警告をもたらす。

 アヤノはもう一度強引に機体を制動し、モーションを中断してのバックブーストという選択肢を手に取ったが、その代償としてフィードバックされる猛烈なGが胸を締め付け、息が詰まる擬似感覚が思考を苛む。

 だが、結論からいってしまえばそれは正解だった。

 アヤノが攻めに転じようとしたその瞬間、ユーナは確かに見ていたのだ。

 カグヤもまた、流れるように構えを変えていたことを。

 

「……えっ? えっと……あれ……?」

 

 しかし、ユーナはそこに一抹の違和感を抱く。

 確かにアヤノもカグヤも互いに次の一手を打つために構えを直した、その行為自体には何も問題はない。

 ただ、カグヤのロードアストレイオルタがそうさせているのか、或いは彼女のダイバーとしての性質がそうさせているのかはわからないが、アヤノが流れる水のように構えを変えたのなら、カグヤは無理やり、本来であれば繋がるはずもない型同士を無理やりくっつけたような動きでそれを切り替えていたのだ。

 飄風のように荒れ狂う、連撃を中心とした太刀筋から、刀それ自体の重さを利用した鈍器のように重たい一撃を見舞う構えに。

 武術の類に縁がないユーナでも目に見えてわかった違和感を、アヤノもまた覚えていないはずはない。

 そしてその行為自体の不可能性、現実でもし実践したなら確実に失敗するか、或いは関節を痛めるようなそれを無理やりつなぎ合わせることができたのは、MSサイズに拡大されたガンプラが、仮想世界で機体を得たことによる膂力があってこそなせるものだろう。

 

『今の一撃を躱しましたか……しかし、逃げてばかりでは、拙には及びません!』

「わかっているわ……!」

 

 型が見えない。

 そう評されていた理由を目の当たりにして、なるほど確かにその通りだと、アヤノは唇を静かに噛んで嘆息する。

 強いていうのであれば、あれは「別人の型」だ。

 それは一つの型に付けられる名前などでは断じてない。

 ただあくまでも別人が使う技を継ぎ接ぎにしたモザイクアートのような、パッチワークのような模倣の極致。

 恐らく今使っている重撃の型は、掲示板の中で比較対象として挙げられていた辻斬りダイバーである「ヒバリ」のそれと特徴が近い。

 凄まじい重さの太刀を、モビルトレースシステムのプラグインとフィジカルで強引に振り回すとされるその剣豪を、アヤノは名前しか知らないものの、不特定多数から名前が上がっている時点で、既にそれは強者であることの証明のようなものだ。

 そしてあのロードアストレイオルタは、足りない太刀の重さを補うために膂力とマニューバを重ねて、擬似的に「ヒバリ」の型を再現してみせたのだろう。

 ならば、それより前の連撃は──

 

『拙の前で隙を見せるとは!』

「くっ……!」

 

 再び切り替わったカグヤの攻撃に翻弄されつつも、アヤノは脳裏でロジックを組み立てて、反撃の機会を虎視眈々と伺っていた。

 

(なるほど、確かにこの人は強い)

 

 例えそれが模倣であったとしても、剣豪たちの型をその身に宿して再現して見せる時点で、その才覚が頭抜けていることは語るまでもない。

 今も尚、見知らぬ剣豪が使っていたのであろう型へと構えを切り替えて切り掛かってくるカグヤの太刀筋は予測が不可能であり、アヤノもなんとかガトリング砲や射撃による牽制を交えて回避に徹するのが精一杯だし、それとていつかは限界が来る。

 展開している光の翼と、そしてエネルギーゲインと睨めっこをしながら、受け止められそうな太刀をアヤノは起点とすることで、振り続けてきた己の太刀をぶつけることに決めた。

 すぅ、と呼吸を整えて、刀が振り抜かれるその一瞬。

 

「これが私の……!」

『なんと……っ!?』

 

 アヤノはバタフライ・バスターBを真上に放り投げると、膝部分から展開したブランド・マーカーから発振する二枚のビームシールドによって、直上から振り下ろされたカグヤの太刀を白羽取りしてみせる。

 そして、一瞬──カグヤが動揺したのを見逃さずにビーム・シールドをパージすると、そのまま機体を上昇させて、アヤノは放り投げていたバタフライ・バスターBをその手に取る。

 その太刀が空を切り、無防備な背中を晒している今しか好機はない。

 光の翼がもたらす強引な機体制御でもって「月下の辻斬り」を翻弄したアヤノは、両手に取ったその刃で確かにカグヤのロードアストレイオルタを切り裂いた、そのはずだった。

 

『申し訳ありません、拙も──学ばせていただきました』

 

 しかし、渾身の一撃は空を切り、橋に穴を空けるだけに終わった。

 驚愕に目を見開くアヤノを他所に、カグヤは淡々と言葉を述べると、先ほど自身ががそうしてみせたように、突き刺した刀を起点にしたハンドスプリングの要領で強引にそれを回避してみせたのである。

 戦いの中で学び続け、技術を吸収するのがこのカグヤというダイバーの才覚なのだろうか。

 舌を巻く暇もなく、仕切り直しとなった二人は得物を構えなおし、じりじりと距離を測って睨み合う。

 

「……凄まじい才能ね」

『いいえ、拙はただ──』

「でも、一つだけ忘れていることがあるわ」

『一つ……?』

「そうよ、それは……ユーナ!」

「がってんだよ、アヤノさん!」

 

 アヤノに指摘された通り、斬り合いに夢中になるあまり、カグヤは意識からその存在を外していた。

 だが、元々このフリーバトルは二対一という条件で提案され、そして承諾を得たものである以上、そこに卑怯という言葉は存在しない。

 今までは互いの剣戟に割り込む余地がなく、尻込みしていたユーナだったが、これだけ派手に動き回れば付け入る隙は生じるものだし、それを見逃すほどユーナもまた愚鈍ではない。

 

「おおおおおっ! 炎、キーック!」

 

 トライバーニングガンダムに組み込まれているバーニングバーストシステムを一部起動して、脚部に炎を纏わせたユーナは、己自身を一振りの槍として、呆けていたカグヤへとその一撃を見舞わんと機体を加速させた。

 

『くっ、抜かりましたか……ですが、そう簡単には!』

 

 それでも、カグヤが反応できていたのは彼女の尋常ならざる反射神経と、そしてラーニングがそうさせていたのだろう。

 カグヤは機体に炎槍が直撃する寸前、重撃の型に切り替えたガーベラストレートの一撃で、ユーナが放った炎キックを受け止めるが、アヤノもまた呆けているわけではない。

 

「……あまり気は進まないけれど!」

 

 バタフライ・バスターBを両手に握って、光の翼──ミノフスキー・ドライブの出力を全開まで引き上げるとアヤノは、今度こそ反応などさせないとばかりにその刃を、無防備なカグヤの横っ腹を狙ってX字状に振り抜いた。

 正直なところ、純粋な斬り合いでは終始圧倒されていたというところに剣士として思うところがないわけではない。

 だがこれは、剣道の試合でも侍の果たし合いでもなく、あくまでもガンプラバトルだ。

 武器であろうと数の優位であろうと状況であろうと、使えるものは全て使って勝利をその手に収めることが黄金律であるのなら、アヤノが取った手段もまた間違ってはいない。

 それでも、プライド故に釈然としないものを抱えながらも──システム音声が無機質に告げる「Battle Ended」の宣言を確かに聞いて、この場における勝者と敗者は決定される。

 

『見事な連携です……剣に気を取られて剣の中で戦いを忘れた、拙の完敗です』

「……こちらこそ、グッドゲーム。凄まじい太刀筋だったわ」

「はいっ! 『月下の辻斬り』さん、ありがとうございますっ!」

 

 こういう状況のことを、試合に勝って勝負に負けたというべきなのだろうか。

 それでも勝ちは勝ちだと純粋に喜びを露わにしているユーナとは対照的に、肩を落として小さく溜息をつきながら、アヤノは声には出さずに心の内でそう呟く。

 ──GBNには、数多の剣豪がいると聞く。

 与一から聞いた言葉は確かにその通りで、そして自分ただ一人で黙々と剣を振り続けてきたところで大海は広いのだと、改めてそう突きつけられた気分だった。

 だが、自然とそれは悪いものだけではないような──微かにそんな予感を、未来へと芽吹こうとしている萌芽を感じさせる何かが、そこに横たわっているのもまた、確かなことで。

 

「アヤノさん?」

「……大丈夫よ、ユーナ。世界は広いんだって……そう思っただけ」

「うん! だって四万キロぐらいあるからね!」

 

 最近図鑑で読んだんだ、と、明後日の方向に胸を張って呟くユーナに苦笑しつつ、そういうことじゃないわよ、と返すアヤノの口元もまた、静かに綻んでいるのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「先程は良き試合でした、それで……その、不躾ですが、どうして拙の元を訪ねてきたのでしょうか?」

 

 機体の損傷に伴ってベイルアウトしたカグヤは、同じように機体を降りたアヤノとユーナに向けて、小首を傾げながらそう問いかける。

 自分の評判がろくでもないものであることはカグヤにもわかっていたし、それ故に悪名を轟かせているダイバーを征伐しようと大人数で押しかけてきた相手と斬り合ったこともある。

 或いは噂のダイバーを仕留めて名を上げようとする手合いもそうだが、ユーナとアヤノ、特にユーナの方は何かそれと違った事情を抱えているような気がしたのだ。

 そんなカグヤからの問いかけへ、待っていましたとばかりに目を輝かせながらユーナはその手を取って答えを返す。

 

「えっと……カグヤさん、なんだか困ってるんじゃないかなって」

「拙が……ですか?」

「武とは何かー、って、なんかずっと言ってたって聞いたから、アヤノさんと一緒になにか力になれないかなって思ったんですっ」

 

 武。確かにカグヤはその一文字に込められた意味を探し続けていた。

 そしてそれは、きっとカグヤに限らずアヤノも含め、剣や拳を振るう求道者たちが辿り着こうと足掻き続けている答えであり、一介のゲームプレイヤーに過ぎないユーナがアプローチをかけたところで、お節介にしかならない、というのは他でもないユーナ自身も理解している。

 それでも、困っている人がいるなら何か力になってあげたかった。

 そんな強い意志を感じさせるユーナの瞳に絆されたのか、カグヤはきゅっ、と袴の裾を握り締めると、アヤノの方へと振り返って問いを投げかける。

 

「アヤノさん……武人である貴女から見て、拙の剣は、どうだったでしょうか」

「どう、とは?」

「そのままの意味です。どうか拙に……アヤノさんの感じたことを聞かせていただきたい、ユーナさんも……拙は……」

 

 しょんぼりと肩を落としたカグヤの様子は、「月下の辻斬り」と呼ばれていたとは思えないほどしおらしく、そして頼りなく見えた。

 正直なところ、アヤノはカウンセラーでもなければ武人と名乗れるほど一条二刀流を極めているわけではないため、カグヤが何を求めてそこまで必死に問いかけているかはわからなかったものの、そこに深刻な事情があることぐらいは理解できる。

 どうしたものかと思案するが、考えてどうにかなるものでもない。

 アヤノは腹を括ると、正直に、思っていたことを言葉にして唇から紡ぎ出す。

 

「そうね……とても強かったわ、誰かから習ったのかはわからないけれど、私の目から見れば十分に貴女の強さは完成されていると思うけれど、カグヤさん」

「わたしも同じく! だって二人が斬り合ってる時、割って入れなかったから!」

「……ありがとうございます、ユーナさん。そしてアヤノさんは、拙の問題を見抜いていらっしゃるのですね」

 

 概ね肯定的な答えであったのにもかかわらず、カグヤの表情はどこか曇ったような濁ったような、ノイズの混じった笑顔だった。

 誰かから習った、というのは言い得て妙だが、それだけでは真実からはまだ遠くとも、一介の武に生きる者としてアヤノは無意識に見抜いていたのだろう。

 

「拙は、まだ拙の求める武に辿り着けません。それがもどかしく、そして何なのか見えない……」

「なら、一緒に探しませんか?」

「ユーナ……!?」

 

 はらり、と一粒の涙を零したカグヤの頬をそっと拭うと、ユーナは満面の笑みを浮かべながらそう持ちかける。

 

「確かGBNって、フォースって機能があったはずだから! だよね、アヤノさん!」

「え、ええ……そうだけど……カグヤさんをその、フォースに?」

「うん! だって一人で悩み続けるより、相談相手がいた方がいいかな、って! わたしにできるかはわからないけど……えへへ」

 

 相変わらず見切り発車で、計画性も何もあったものではないが、内々的に問題を抱え込む気質と見えるカグヤに、相談相手がいた方がいいのは確かだろう。

 それは似た者同士であるからこそ、アヤノには痛いほどわかっていた。

 認めてしまうと少しむず痒くて、そしてわからなくなるから目を逸らし続けていたが、この笑顔に、悪く言えば脳天気で、良く言えばいつだって元気いっぱいなユーナの笑顔に自宅用のコントローラーを買う程度に、アヤノは絆されている。

 だから、それが自分だけに向けられるものじゃなくなる、ということには少し複雑さを感じてこそいるが、このまま答えが見えないで辻斬りを続けるよりはフォースに加盟した方がカグヤにとってもいいのはまた確かなことなのだろう。

 小さく頷いて、ユーナの提案を承諾するとアヤノは目配せをして、自分もその提案に依存はなく、カグヤを受け入れる意思があることを示す。

 

「アヤノさん……ユーナさん……ありがとうございます、拙は……」

「えへへ、困ったときはお互い様! えっと、フォース申請は……これだ!」

 

 涙ぐむカグヤにそう笑いかけると、ユーナは勢いよくフォース申請のボタンに手をかける。

 ──だが。

 

【ERROR!:フォースの結成には、ダイバーランクD以上が条件となっております】

 

 吐き出されたものは、無機質な機械音声によって読み上げられる無情なエラーメッセージと、そして。

 

「あ、あはは……どうしよう、これ……」

「……とりあえずは、フレンドから始めましょう」

「な、なんだか拙のせいで申し訳がなく……」

 

 ただひたすらに気まずい空気の中で、フレンド申請を交わす三人という、なんとも言いがたい光景であった。




だから、ダイバーランクをDにしておく必要があったんですね
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