ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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二ヶ月ぶりの初投稿です。


第十二話「突っ走れサムライガールズ」

 戦場となった荒野に朦々と立ち込める土煙と硝煙は、未だに状況が鉄風雷火の最中にあることを何よりも雄弁に物語っている。

 火星、クリュセ独立自治区。

 それは映像作品「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」に登場する架空の都市の名前であり、今まさにアヤノたちがその愛機と共に、護るべき最終防衛線として設定された戦いの舞台だった。

 

「うわ、わわわ……なんかいっぱいいるよ、アヤノさん! ちょっと気持ち悪いかも!」

「……プルーマね。数が多いと確かにその気持ちはわかるわ、でも」

「はい、今の拙たちはギャラルホルンの地球外縁軌道統制統合艦隊、その一員です! 絶対にクリュセへの侵攻を阻止しなければ……!」

 

 その土煙と硝煙を立たせる無数の影は、どこか甲虫めいた外観と色をしている上に数がとんでもなく多いため、確かにユーナが背筋を震わせた通り、嫌悪感を感じるダイバーも少なくはないだろう。

 小規模レイドミッション「厄祭来たりて」。

 GBNに数多あるミッションでも、レイドバトルは期間限定のものが多い。

 そしてこのミッションは常設されている、数少ないレイドバトルの一つであり、初心者から上級者まで幅広く参加して楽しむことを念頭において設計されているため、ランクが低いアヤノたちは原作におけるモビルアーマー「ハシュマル」との戦いではなく、その子機である「プルーマ」の露払いに徹しているのだ。

 ユーナがぶるりと身を震わせながらも、その足捌きでプルーマの外装を蹴り砕いたのに続いて、ユーナとカグヤもまた各々の得物を構えて、第二防衛ラインとして設定された、鉄華団の農業プラントへと侵攻しようとしているプルーマの群れへと果敢に斬りかかっていく。

 

「はっ!」

 

 気炎万丈、とばかりに力強さを重視した剛の型から振るわれるカグヤの一太刀が、抵抗の余地もなくプルーマの群れを一閃して両断していく。

 

 

(凄まじい剣技ね……)

 

 アヤノもリアルにおいては一介の剣士である以上、その太刀筋がどれだけ正確無比に磨き上げられたものなのかはすぐにわかった。

 このレイドバトルの性質上、ランクが低いダイバーには固有のバフがかかった状態でスタートするのだが、バフを考慮しなくとも、プルーマの正面装甲を綺麗に両断するその太刀が、一つの到達点であることは見て取れるだろう。

 だが、それでもカグヤにとっては何かが足りていないらしい。

 アヤノも同じく、バフと機体の造り込みを頼りに、ザンバーモードに展開したバタフライ・バスターBを振るって、無双ミッションのごとくプルーマの群れを蹴散らしていくが、ビーム兵器の減衰という性質を加味してもカグヤの太刀筋に自分のそれが及んでいるとは思えないのだ。

 

「とはいえ人は人、私は私、ね……」

 

 かつて憧れた「サムライ・エッジ」は二刀流だけでなく、己の心技体を磨き上げたことで体得した武術をもその武器にしていたという。

 ならば、彼の背中を追いかけるアヤノの信条もまた同じだ。

 腰のシザー・アンカーにバタフライ・バスターBを接続すると、アヤノは鞭のようにそれを振り回しながら、農業プラントを目指して侵攻していくプルーマの群れをそのまま薙ぎ払っていく。

 使えるものは全て使う。それこそがアヤノの信条であり、得意とするところでもあった。

 

「おおおおっ、炎、パーンチっ!!!」

 

 それに、何も気勢を上げているのはカグヤだけではない。

 プルーマからターゲットにされながらも、まるで飛び跳ねるような、型にはまらない体術で、数を頼みに圧殺されるという状況を回避しているユーナもまた中々のやり手だといっていいだろう。

 だが、数を頼みにした物量戦を徹底する単純なAIが組まれているだけとはいえ、この状況が一対多数であることに代わりはない。

 アリスバーニングガンダムの拳が炎を纏い、プルーマを一機破砕したその瞬間に背後から飛びかかってくる。

 

「わわっ、しまっ……」

 

 あなや迂闊、背中から圧殺されそうになったユーナを救うかのように、一発の弾丸が彼方から飛来して、プルーマをテクスチャの塵へと帰せしめていく。

 

『上々上々……名前は知らないけど、ありがとねぇ』

 

 そうだ。

 状況はともかくとして、この戦いの本質は一対多数ではない。

 ユーナたちの背後に控えてその窮地を救った桜色の狙撃手は、くぁ、とどこか退屈そうに欠伸をしながらも、前衛として持ち堪えているアヤノたちが取りこぼした個体を正確無比に狙撃していた。

 

『赤砂が味方なら背中は安全だな!』

『とりあえずこのウェーブは凌げるぞ!』

 

 通り名が付くほど有名なプレイヤーらしいそのフリーダムガンダムとトーリスリッターをミキシングした機体の主は、続々と上がる鬨の声もどこ吹く風といった風情で、マイペースに狙撃を繰り返しているが、その精度は素人のアヤノが見ても驚嘆すべきものだ。

 

「レイドバトル……侮れないわね」

「どうかしたんですか、アヤノさん?」

「なんでもないわ、ユーナ。私たちも……目指すのは上なんだから!」

 

 アヤノがこのレイドバトルに参加している理由は極めてシンプルだ。

 ダイバーポイントの実入りがいい。

 どこまでもシンプルに、その一点に尽きる。

 カグヤとの邂逅を果たした翌日に、ユーナから「手っ取り早くDランクに上がるためにはどうしたらいいのか」といった趣旨のことを問われて、GBNまとめwikiや攻略サイトを漁ってみたら出てきたのが「レイドバトル」のクリアがダイバーポイントを稼ぐにはちょうどいい、といった記事だったのだ。

 そのまま鵜呑みにするのも何かと思って裏も取ってみたが、確かにGBNにおけるレイドバトルは性質上ユーザー有利に設計されているようだった。

 そして常設枠のレイドは難易度も低めで、ダイバーたちがよほど足の引っ張り合いをしなければ問題なくクリアできる、という情報はどうやら確かなようであり、今のレイドバトルも、このウェーブを凌げば次は本丸である「ハシュマル」との決戦フェイズに移行するだけ、といった具合だ。

 後方には「赤砂」と呼ばれたダイバーの他にも、ジム・スナイパーIIとジム・スナイパーⅢといった狙撃機や、ガンキャノン・ディテクターといった砲撃機が控えており、更に前衛としてウイングガンダムがバスターライフルでプルーマを薙ぎ払うなど、参加したダイバーたちは各々に、遺憾無くその実力を発揮している。

 そんな戦いにFランクの自分たちが紛れ込んでも大丈夫なのか、という懸念はアヤノの中にあったものの、ユーナが「面白そう」と目を輝かせていたその勢いと、戦いの中で研ぎ澄まされた闘志に押しやられて、今はどこかに霧散していた。

 

「どこまでが固有バフでどこまでが実力かわからないのはもやもやするけど……!」

 

 それでも、確かにユーナが評した通り、この戦いは防衛ミッションというともすれば単調になりがちなフェイズを快適にするために、無双ミッションとよく似た爽快感を前面に押し出している。

 いってしまえばアヤノもまた、楽しんでいたのだ。

 開幕でクリアリングを行ったかと思えばプルーマの群れに圧殺されて全滅した「スカーレット隊」なるフォースはいたものの、爆散したのは彼らぐらいで、ハシュマルを決戦場へと誘導しているハイランカー組も、そして露払いを務めるアヤノたちも、まだ誰一人として欠けていない。

 

『……き、気をつけてください! 本丸が来ます……!』

 

 控えめながらも凛として、筋の通った声が戦場へと響いたのは、プルーマを何機屠ったのか、数えるのもめんどくさくなってきたときのことだった。

 きっとこれがPvPのバトルロワイヤルなら返り血に塗れているのであろう己の愛機が突き立てたバタフライ・バスターBを回収し、アヤノはその計画に従う形で一度防衛ラインへと後退する。

 

「ユーナ、カグヤ、大丈夫!?」

「はいっ! わたし、絶好調だから!」

「そういうことではないと思いますが……拙とユーナさんも恐らく逃げ切れるかと思います」

 

 少し遅れて姿を現した白亜の巨体は、その口元から甲高い唸り声を上げていた。

 ビーム兵器。鉄血のオルフェンズにおいてはナノラミネートアーマーによって無力化されていたが、そのパッシブスキルを持たないアヤノたちにとっては掠めただけで蒸発しかねない必殺の一撃が今、放たれようとしているのだ。

 気が弱そうな声で警告したダイバー……ガンダムAGE-FXをベースに独自の改修が加えられたそれは流星のごとく射線から離脱し、味方機も続々と、ハシュマルから放たれるビームから逃れようと左右に散開していく。

 ──だが。

 

『ヌヴォォォォ!?』

『ザクラァァァァンっ!』

 

 ザクラン、というらしい名前のダイバーが駆っていた、プロヴィデンスガンダムの色にリペイントされたジャスティスガンダムが、ハシュマルがその首を左右に振ったことによって薙ぎ払われて、テクスチャの塵へと消えていく。

 いくらユーザー有利に設計されているとはいえ、腐ってもあのハシュマルはレイドボスだ。

 一直線にビームを吐き散らすだけ、という優しさに溢れた行動で止まってくれるわけがないといったところなのだろう。

 次々と初見殺しの一撃に呑み込まれていくダイバーを一瞥しながら、アヤノもまたこめかみにじわり、と汗が滲むのを感じていた。

 

(単純な機動力があれば薙ぎ払いを避けることができる、でも)

 

 実際、クロスボーンガンダムXPであれば「光の翼」を展開することで強引にその射線から逃れることができるだろう。ユーナの機体も身軽だし、カグヤのそれもまた然りだ。

 だが──アヤノが一瞥した視線の先には、お世辞にも機動力が高いとはいえない狙撃機や砲撃機といった機体が右往左往している姿があった。

 これはレイドバトルだ。

 もしかすればあの警告を送ってくれたハイランカーだけが生き残っていてもクリアはできるかもしれないが、このミッションは全員が力を合わせてクリアするというコンセプトの元で設計されている。

 ならば、手数を失うというのは合理的ではないし、何より。

 

「士道不覚悟……悪いけれどユーナ、カグヤ、私はあの人たちのカバーに入るわ」

「ええっ!? それならわたしも──」

「貴女の機体には防御兵装がないでしょう、だから、決戦フェイズまで力を温存して」

 

 わかっている。

 これが単なる自己満足で、レイドバトルなんてものは生き残ることが第一で、出来るダイバーに全てを丸投げしてそのおこぼれを狙うのが、ランクの低いダイバーたちがとるべき戦術の常道であることぐらい。

 だが、何かいい知れない情動が、ダイバーハイとでもいうべき高揚感が今のアヤノを突き動かしていたのだ。

 

「ならば……拙もお手伝いいたしましょうか?」

「カグヤ、出来るの?」

「この太刀には……菊一文字には対ビームコートが施されています、アヤノさんの前に拙が立てば、或いは」

「……そうね」

 

 迷っている時間はない。

 ハシュマルの照射ビームは今この瞬間にも逃げる方向を間違えた機体や鈍重な機体を焼き払い、アヤノたちの方にも迫っている。

 そして、カグヤができるといったのならば、それを信頼するのが、まだ結成していないとはいえフォースを組むことになったなら、筋というものだろう。

 だが、それだけで足りるほどレイドボスが甘い存在でないというのは、固有バフがかかっているというのに次々と撃墜されていく名前も知らないダイバーたちのガンプラを見れば一目瞭然だ。

 

「……ユーナ。貴女、攻撃を防御に転用できる?」

「攻撃を……防御に? えっと、ごめんなさい、何が、何で……」

「……あのビームに向けて、炎パンチを打てる?」

 

 ちょっとだけアホの子が入っている友人の戸惑いを払うかのように、少しの溜息混じりにアヤノは提案を言い換える。

 一機だけでも、二機だけでも足りないかもしれない。もしかしたら、三機集まってもそれは無駄な抵抗なのかもしれない。

 だが、それでようやくユーナの方もピンときてくれたようだった。

 

「おお、そういうことなんだ! なら大丈夫! わたしの元気は百パーセントだよ!」

「……喜ばしいことね、行くわよ、カグヤ、ユーナ!」

「はい!」

 

 先行していたガズRとガズLをテクスチャの塵へと帰せしめ、そして今度はアヤノたちを呑み込もうとしている光の奔流に対して、逃げるのではなく真っ向から立ちはだかるように、ユーナのアリスバーニングガンダムと、カグヤのロードアストレイオルタがそれぞれに得物を構えて照射ビームを迎え撃つ。

 

「全力……炎、パァァァァンチ!!!」

「菊一文字、凪の型……!」

 

 バフがかかっているとはいえ、所詮自分たちはFランクのダイバーに過ぎないのかもしれない。

 だが、一秒、一瞬でも、そして一機でも多くあの白亜の天使を地に堕とすための戦力を守れるのであれば、この行いだって無駄にはならない──例えそれが、アドレナリンが見せる一時の高揚感に支配された行動であったとしても。

 言葉で語るのはもはや無粋だ。

 アヤノは肘のブランド・マーカーを展開すると、全力で展開した光の翼をそこに纏わせるかのように一度潜らせ──否、光の翼を「盾として引き寄せる」かのようにビーム・シールドへと纏わせて、ユーナとカグヤが減衰させた照射ビームを、真正面から受け止める。

 

『なんだ、あのクロスボーン……盾になって……!?』

『なんだっていい! 離脱するチャンスだ!』

『すまない、ありがとう!』

 

 そして、アヤノたちが盾となることで僅かに照射ビームの勢いが弱まった隙に、狙った通り鈍重な機体や狙撃機、砲撃機といった面々は反対方向へと離脱して、ハシュマル本体への攻撃に参加し始めた。

 これでいい、というにはあまりにも過酷な衝撃のフィードバックに、息つく間もなくアヤノはぎり、と奥歯を噛み合わせる。

 固有バフの補正を含めても、あと数十秒持つか持たないか。

 それが、イエローコーションを通り越してレッドアラートを吐き出し始めたコックピットの中で算出した限界時間だった。

 正直なところ、アヤノたちが自分の生存を優先しても、誰も何も文句は言わないし言えないだろう。

 それが野良でのレイドバトルというものだし、明確にタンク役を誰がやるか、火力役を誰がやるか、という綿密な打ち合わせがなされていない以上、即席の連携には期待できないのだから。

 だが──それでも、やらなければいけない気がした。

 やり通さなければいけない気がした。

 それが意地の張り合いだとしても、理由なんてきっとそれだけで十分なのだ。

 

『勇気ある方々ですわね! お待たせしましたわ、お味方は……ここに来たれり、なのですわ!』

 

 そして、そんなアヤノたちの無謀とも取れる行動に応えるかのごとく、高らかな笑い声と共に、先頭に立ち、歯を食いしばっているユーナとカグヤを巻き込まないようにと上空から一筋の閃光と、虹を纏った光条が撃ち下ろされる。

 

「……っ、貴女は……」

『ガンダムウイングゼロヌーベル、カエデ・リーリエ! 推して参りますわ!』

『ふふ……IFBR、セット、発射』

 

 どうやら、ハシュマルを決戦フェーズへと追い立てていたハイランカーが合流してくれたらしい。

 何故このレイドバトルにそんなランカーが参加しているのかはわからないが、上空から撃ち下ろされたツインバスターライフルとIFBRの一撃は、アヤノたちが食い止めていたハシュマルのビームを押し返して、見事に相殺していた。

 

「……あれが……」

『……ブランシュアクセル、フルブースト!』

 

 アヤノたちはその名前を知っているわけではない。

 だが、その無謀な賭けとも取れる行動を「嫌いじゃない」からこそ助けに回った彼女たちの名前は、GBNの中でも広く知られるようになってきた風情だった。

 そして──名前こそ知らなくとも。

 

「これもまた、武の形……」

 

 這々の体でカグヤが呟く。

 その言葉の通りに、名前こそ知らなくとも、今ハシュマルを、あの白亜の天使を地に落とそうと戦いの空を駆け抜けていった彼女たちは、いつか自分たちが目指さなければいけない「高み」にいることに違いはなかった。

 大破寸前の機体を引きずりながら、通信ウィンドウ越しに二つの視線が交錯する。

 

「行こう、アヤノさん!」

「……ええ、ユーナ!」

 

 ──楽しい。

 そこにある想いに、言葉は最早不要だった。

 四条の閃光を追うように、遥か高みへと手を伸ばすように、アヤノたちもまた、ボロボロになった機体を奮い立たせるように得物を手にして、あの白亜の天使を地に堕とすべく、疾駆するのだった。




何はなくともまず「楽しい」。


ボーダー10億の地獄とカムラの里から帰ってきました
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