ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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クロブにジャスティスくんが参戦するらしいので初投稿です。


第十三話「天使を狩る者」

 恒常レイドボスとして設定された「ハシュマル」の強さは、ゲーム全体を通してみれば並かそれよりほんのり抜きん出た程度に設定されている。

 だが、それでも、アヤノたちのような低ランク帯に属するダイバーにとっては、強敵であることに間違いなかった。

 合流してくれた前衛組の中でもエースと目される面々の助力もあって、照射ビームを防ぎ切ったのも束の間、必殺の一撃を防がれた怒りかそうでないのか、今度は残存するプルーマとの連携で追い込んだ集団に、脚部クローの先端に配置された特殊エネルギー運動弾の一撃が炸裂する。

 

『な……だ、ダインスレイヴ!? 聞いてな……』

『だからあれほどプラモの説明書は読めって言ったんだ!』

 

 哀れにも、ハシュマルが運動を停止して、特殊エネルギー運動弾──要は「鉄血のオルフェンズ」劇中でも禁忌の兵器として名高い、レアアロイの弾頭を電磁加速によって打ち出す「ダインスレイヴ」に酷似したそれを放つまでの予備動作を、間隙だと見込んだダイバーのジム・スナイパーⅡが爆散していくのを、アヤノはただ横目で見送ることしかできなかった。

 

「右腕は脱落、エネルギー残量も危険域、悪いけど助けられる余裕はもうないわ……」

 

 固有バフと「光の翼」を盾に転用することで照射ビームを無理やり防いだアヤノとクロスボーンガンダムXPだが、その代償は凄まじく、今もコックピットにはレッドアラートが鳴り響き、センサー類も破損したという状況なのか、モニターに投影される映像にはブロックノイズが混じっている。

 

「えっと、えっと……ごめんなさい、わたしも助けられなくて……」

 

 それはユーナも同じだった。

 元がビルドバーニングガンダムのレプリカモデル故に、シンプルかつ強靭に作られている彼女のアリスバーニングガンダムも、その拳で照射ビームを受け切るという暴挙の代償として右の拳は破損し、各部が融解した状態だ。

 じわり、とユーナの眦に涙が滲む。

 気に病むことはないといえばそれまでだが、何もできずに味方が爆散していくのを眺めていろ、というのは優しいユーナにとっては酷な話なのだろう。

 それと比べたら自分の感情は、どこか偽善めいた、或いはお節介にも似たようなものだと自虐しながら、アヤノはユーナの純粋な優しさに憧憬と嫉妬が入り混じったような思いを抱きつつ、機体を加速させる。

 ハシュマルの武器は、照射ビームだけでもなければ特殊エネルギー運動弾だけでもない。

 小回りの効かない本体を補うように、残されたプルーマの群れが、バラバラに散開したことで特殊エネルギー運動弾の一撃を逃れた後衛組や、アヤノたちのように本体へと攻撃をかけようと接近する前衛組へと飛びかかってくる。

 だが、それはあくまでも次の一手に対する布石でしかないことは予習済みだった。

 しゅるり、と、空気を裂くような鋭い音が聞こえたかと思えば、次の瞬間にはアヤノの機体から数馬身離れた位置に陣取って強襲をかけようとしていた、グフイグナイテッドがその背から「何か」に貫かれ、炎の華を戦場に咲かせて散っていく。

 

『うおおおおおー!!!』

『ウェストリバー! クソッ、ワイヤーブレードか!』

 

 ウェストリバー、と呼ばれた彼の隣を航行していた、ロービジカラーに塗り替えられたセイバーガンダムを駆るダイバーが絶叫する。

 だが、ウェストリバー一人が犠牲になったところで殺戮の天使が満足するはずもない。

 テクスチャの塵へと還っていったその遺骸からブレードを引き抜くと、今度はお前だとばかりに、しゅるり、と鋭い音を立てたワイヤーブレードが空中で複雑な起動を描き、ロービジカラーのセイバーガンダム、その脇腹へと突き立てられた。

 

『ヌヴォォォォォ!!!』

 

 数刻前に聞いた断末魔とよく似た声を上げて、ダイバーネーム「ナスラン」が駆るセイバーガンダムが、そしてその近くに陣取って170mmキャノン砲による攻撃を目論んでいたネモが、或いは原作におけるマクギリス・ファリドを意識したのかそうでないのか、黒く染め上げられた二刀流のグレイズリッターが、次々とその歯牙にかけられて、天使に捧げられた供物となる。

 

『攻撃速度が鋭いですわね、流石はレイドボスといった風情ですわ!』

『ふふ……ですが、それでこそ戦い甲斐がある……そうでしょう、リリカさん……?』

『……はいっ!』

 

 アヤノも、そして驚異的な動体視力を誇るカグヤとユーナですら集中していなければ見切れなかったその軌道から逃れて、いち早く本体にダメージを与えていたのは、案の定とでもいうべきか、自分たちの窮地を救ってくれたランカーと思しき集団だった。

 リリカ、と呼ばれた、どこか気が弱そうな少女はその琥珀色の瞳に、そんな第一印象とは正反対の苛烈な闘志を灯して、腕部のガントレットから二振りのビームサーベルを発振した白亜の愛機と共に、誰よりも早く戦いの空を駆け抜ける。

 

「あのリリカという方……凄まじい武を感じます」

 

 それはカグヤにとっても何か感じ入るものがあったのだろう。

 気弱で頼りない印象などゴミ箱にでも捨ててきた、と言わんばかりにワイヤーブレードの連撃を掻い潜り、押し寄せるプルーマを両断し、ハシュマル本体へと攻撃を加えていく「リリカ」を見つめて、ぽつりとその唇から言葉を紡ぐ。

 カグヤのロードアストレイオルタもユーナ同様に破損状況は酷いものだったが、あのビームを受け切って尚、菊一文字と名付けられた刀が歪むことはない。

 正直なところ、アヤノはどれだけ自分たちがハシュマルに対する戦力になれるかはわからなかった。

 先陣を切ったリリカに続いて、ツインバスターライフルを投げ捨てると、背中にマウントしたシザーソードを構えて突撃していく、「カエデ・リーリエ」と名乗ったダイバーのウイングゼロヌーベル、そしてその隣で妖艶に微笑むダイバーが駆るG-セルフの改造機こと【G-イデア】が次々と叩き込んでいくIFBRの一撃と比較すれば、蚊が刺したようなものなのかもしれない。

 だとしても、長く生き残って1ダメージでも多く稼いだ方がレイドバトルは早く終わるのだし、貢献していることになる、というのがあくまでもGBNにおけるレイドバトルのコンセプトだ。

 残ったバタフライ・バスターBを携えて、リリカたちがワイヤーブレードを引き付けてくれている間に、他のダイバーたちと示し合わせたようにアヤノたちもまた本体への攻撃に参加する。

 

「……バフが乗っているなら、ビームでも!」

 

 叫ぶアヤノに応えるかのように、或いは咆哮するかのようにクロスボーンガンダムXPのフェイスカバーが展開し、余剰となった熱を体外へと荒々しく吐き出す。

 本来、「鉄血のオルフェンズ」に出てくるこのハシュマルはガンダム・フレームやその他のモビルスーツと同様に、ビーム兵器に対して減衰効果を持つアクティブスキルとでもいうべき、ナノラミネートアーマーという特殊装甲に覆われている。

 そしてそれはGBNでも再現されていて、作り込みによっては原作同様の、とまではいかなくともかなりのビーム耐性を獲得することが可能なそれは、警戒すべきシステムとして恐れられているのだが──

 

「よし、通った……!」

「わわ、アヤノさんすごい! よーし、わたしも……炎、キィィィック!」

 

 跳躍し、「光の翼」の加速度を乗せて斬りかかった一撃は、果たしてアヤノの目論見通りにハシュマルのバインダー、その先端部を切り落とすことに成功していた。

 続くユーナの一撃もまた、Fランクのダイバーが放ったとは思えないほどの威力をもって、ハシュマルの正中線を正確に蹴り抜いて、その巨体を大きくよろめかせる。

 基本的に、ボスが理不尽な行動しかしてこないゲームはクソゲーだ。

 他の誰かがどう考えているかは知らないが、アヤノがクソゲーの定義を挙げるとするならば、それは第一にカウントされるものだった。

 かつて十字キーとボタンで操作するゲーム機が一世を風靡していた時代に流行した、強大なモンスターに狩人が単身ないし数人で立ち向かうゲームにしても、ボスの行動にはほぼ必ず、大なり小なり意図的に「隙」が設けられていた。

 プレイヤーは強烈な攻撃を掻い潜り、その「隙」に対してカウンターとして一撃を叩き込み、或いは攻撃の間隙を縫うように遠距離からの射撃を撃ち込み、といった具合に、どれだけボスが難しくとも、必ずプレイヤー側に攻撃の出番が回ってくることがコンセプトデザインとして織り込まれている。

 だが、これがもし、一方的にボスが暴れるだけ暴れまわってプレイヤーを鏖殺するだけのゲームであったとしたら?

 答えは明白だ。

 売れないし流行らない。誰が好き好んでそんなクソゲーをプレイしたがるというのだろうか。

 もしかすれば世の中にはその手のクソゲーを愛好してやまない人種もいるのかもしれないが、それはさておくとして、アヤノが信条とする法則が、巷で「神ゲー」として讃えられているGBNにも適用されるのだとしたら、それは例外なく、どれだけボスが強くてもプレイヤー側に「手番」が必ず回ってくるということだ。

 

「剛体の型……孤月一閃!」

 

 同様に、カグヤが放った斬撃もまたハシュマルに消えない痕を刻み、苦悶するかのように、その頭部ユニットが揺れ動く。

 ランクが低ければ低いほどバフの倍率が高まるこのレイドバトルにおけるシステムは、必ずプレイヤーにとって有利になるように設計されている。

 そして、ダイバーランクの低さとガンプラの完成度が必ずしも比例するものではない以上、バフが乗せられたアヤノたちは、奇しくも先陣を切ったリリカたち同様に、ダメージディーラーとして申し分ない役割を果たしていた。

 斬る、斬る、斬る。

 輪舞を踏むように、舞うように、ワイヤーブレードをリリカたちが引き付けてくれているその隙を縫って、アヤノはユーナと、そしてカグヤと共にハシュマルへと怒涛の近接攻撃を叩き込む。

 時折妨害に走るプルーマも何するものぞとばかりに斬り捨てていくその姿は、さながら修羅のそれであり、気付かないうちに釣り上がっていた唇の端に、そして瞳に狂気にも似た闘志の炎が迸る。

 そして、そんなアヤノたちの奮戦は、あまりに苛烈な攻撃に挫けていたダイバーたちの心をも奮い立たせたのだろう。

 

『なんだっていい、奴に攻撃をするチャンスだ!』

『あいつらが引き付けてくれてるうちに、俺たちも援護するぞ!』

『こういう時、臆病なぐらいがちょうどいいってね……!』

 

 鉄血のオルフェンズ、オプションセットに付属しているバルバトスルプス用の大型レールガンを構えたスタークジェガンが、クレイ・バズーカを二挺持ちしたガンダムMk-Ⅲが、そしてかがみ込んだ体勢で両肩のキャノン砲を放つガンキャノン重装型が、次々と誰かの言葉に呼応するように弾幕砲火を浴びせかけていく。

 バフが乗せられた鉄風雷火の嵐の中では、さしものハシュマルも堪ったものではないのだろう。

 ワイヤーブレードによる攻撃もいつしかその激しさは鳴りを潜め、ただ悶え、狂うように身を捩らせて、暴威を振るっていた純白の巨体は時折残存するプルーマに攻撃を代行させることしかできずにいた。

 ──勝った。

 誰ともなしに呟いた言葉が伝播して、眼前の勝利にダイバーたちの足を勇ませる。

 

『……仕掛けてきます、気をつけて……!』

 

 だが、弱った時、追い込まれたときこそ、苛烈な攻撃が待っている、というのは得てしてこの手のゲームのお約束のようなものだ。

 それを理解していたのか、目にも止まらない速さでハシュマルの巨体を切り刻んでいたリリカが、通信ウィンドウを全域に開いて警告を放つ。

 ハシュマルの耐久値は最早限界寸前であり、誰かが勝った、と呟いたこともあながち間違いではなかった。

 それでも、体力ゲージを削り切るまでは死んでいない。

 手痛い教訓を、その身をもって与えるべく、最後にチャージされていた照射ビームが攻撃にのめり込んでいたダイバーたちを目掛けて放たれようとしていた、刹那。

 

『おっけーおっけー……この瞬間を、待っていたよぉ!』

 

 味方の誰かから「赤砂」という二つ名で呼ばれていた少女が駆るフリーダムガンダムの改造機がその手に携えていたヅダの対艦ライフルから撃ち放たれた一発の弾丸が、今まさに炸裂しようとしていた照射ビームの発射口、その一点を正確無比に貫いていく。

 行き場を失ったエネルギーの奔流が暴発し、ナノラミネートアーマーに覆われているとはいえ、ハシュマルの頭部ユニットに無視できないダメージを与え──何よりも、大技をキャンセルしたことで生まれた大きな隙は、転じてダイバーたちには反撃の気勢と、ハシュマルの側に手痛い教訓を残すこととなった。

 

「動きが揺らぎました、仕掛けましょう、アヤノさん、ユーナさん!」

「わかりましたっ、カグヤさん!」

「ええ、こちらも心得たわ……!」

 

 あの超絶技巧という言葉でも足りないスナイプを決めた少女の声はリリカのそれにどこかよく似ていた。

 ダイバールックも似通った部分が多く、もしかしたら双子の姉妹か何かなのだろうかとアヤノは一瞬そんなことを考えるが、すぐに頭を張って妄念を振り払い、クロスボーンガンダムXPに残された出力の大半を、バタフライ・バスターBへと集中させる。

 

「これで……倒れろぉぉぉっ!」

「全力……炎、キィィィィィィック!!!」

「剛体の型……地烈激震!」

 

 全身を一条の炎の矢と変えて飛び立っていくアリスバーニングガンダムの蹴りが、ハシュマルの土手っ腹を綺麗に貫いて破砕していく。

 続くアヤノは出力を限界まで増強させたバタフライ・バスターBを薙ぎ払い、そしてカグヤは大上段に構えた菊一文字にありったけの力と気合を込めて振り下ろす。

 わかっている。

 それでも、この戦いの立役者は自分たちではない。

 ブランシュアクセルと叫んだリリカが、長大なシザーソードをその手に携えたカエデが、そしてIFBRによって絶えずダメージを与え続けていた少女──ダイバーネーム「ユユ」が。

 そして、あのヘッドショットを決めたダイバーである「赤砂」……「緋きスナイパー」の二つ名を持つことで知られる「ミワ」が寄り合ったフォースである、「アナザーテイルズ」こそがこのレイドバトルにおけるMVPであることには異論の挟まる余地がない。

 ──それでも。

 

「……これは、私の戦いだ……っ……!」

 

 フィードバックされる衝撃にぎり、と歯を食いしばりながら。

 残された左手の関節部がスパークし、脱落しそうになりながら。

 それでも尚、アヤノが剣を振るうことをやめなかったのは、そして続くダイバーが攻撃の手を止めなかったのは、この戦いが彼女たち「アナザーテイルズ」だけのものでないことを如実に示していた。

 光が爆ぜる。

 遠距離から放たれる弾幕砲火が、そして近接戦を仕掛けたアヤノたちと「アナザーテイルズ」による攻撃が、天使の名を冠した殺戮兵器の巨体をとうとう地に引き摺り下ろす。

 伏していくハシュマルには、最早抵抗する力すら残されていなかった。

 

【Battle Ended!】

【Winner:Player Teams!】

 

 そして、立ち込める土煙が晴れたと同時に流れる無機質な機械音声が、アヤノたちプレイヤーチームの勝利を告げる。

 左手の関節から先がねじ切れたクロスボーンガンダムXPのコックピットでアヤノは優雅に空中に佇む純白の天使を地に堕とした白亜のガンダムを一瞥して、ふぅ、と、深く息を吐き出した。

 GBNには数多の剣豪がいる。

 この電子の海に自分を誘った兄の言葉を思い返しながら──それを噛みしめるように、いつか自分が通らなければいけない場所にいるそのガンダムの背中を、アヤノはただ憧憬と共に見送ることしかできなかった。

 

「遠い、わね」

 

 思わず苦笑が漏れる。乗り気ではなかったはずなのに、のめり込んでいる自分にも、そして何よりも──見上げれば見上げるほど遠い、その頂点へのきざはしが、あまりに途方もなくて。

 だが、どこか気負ったアヤノとは対照的に、ポップした通信ウィンドウに映し出されたユーナは、満面の笑みを浮かべていた。

 

「でもでも、わたしたち、一歩前に進みましたよ!」

 

 それを示すかのように、ダイアログを確認してみれば、そこには。

 

【Congratulations! ダイバーネーム:アヤノのランクがFからEへと昇格しました】

 

 ユーナが歓喜を示した通り、無機質ながらも不思議とどこか胸にすとん、と落ちる温かさを告げる通知が、残されていたのだった。




まずは初めの一歩から

Tips:

【厄祭来たりて】……鉄血のオルフェンズにおけるハシュマル戦を再現した常設レイドバトル。参加人数と平均ランクによって難易度がある程度上昇したり下降したりするが、概ねレイドバトルの入門ミッションといった形で位置付けられている。

【アナザーテイルズ】……例の彼女たち。フォースバトルトーナメントでは惜しくも三回戦負けという結果を残しているが、その後も活動を続け、今では強豪フォースとして名前が挙がるくらいにはめきめきと実力をつけてきている。
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