ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント 作:守次 奏
周回要素。
概ねどんなゲームでも逃れることのできないそのファクターを楽しめるのは、どんなに小さくてもいいから自分のアバターを表す、或いはコレクションの数が徐々に増えていくのを楽しめる人間だと聞く。
要は貯金を楽しめるかどうかが周回に向いているかいないか、と断じてしまうのは暴論だとしても、それに近いところがある、というのはアヤノもまた同意するところだった。
「大分昇格ラインまで近づいてきたわね」
「うん! よーし、この調子でガンガン行こっか、アヤノさん、カグヤさん!」
「ええ、拙としても……フォースを組んでみるというのは初めてのことなので、楽しみにしています」
GBNのセントラル・ディメンション、文字通りゲームの中心点であり開始地点でもあるロビーでコンソールを操作していたユーナが、Dランク昇格までの必要ダイバーポイントが表示されているゲージを見つめて、歓喜の声を上げる。
そのあと少し、が近くて遠いことにもどかしさを感じてはいたものの、アヤノとしても少しずつ必要な数字が減っていく感覚──と、いうより、純粋に昇格まで近づいているというのは確かに一抹の喜びを感じるところだった。
「次に行くのは構わないけれど……どのミッションを受けるの?」
とはいえ、効率重視で回していた高難度ミッションはほとんどクリアしてしまっている。
アヤノはすっかりのめり込んでしまっている自分に苦笑しつつ、懐から取り出した扇子を広げて、早速次へ次へと意気込んでいるユーナと、そんな彼女を一歩引いた位置から見守っているカグヤへとそう問いかけた。
同じミッションを受ける、というのも選択肢としてそう悪いものではないにしろ、ここ数日間、ローテーションで入り浸っていたというのもあって飽きが来ていることは確かで、常設レイドに乗り込む選択肢も考えられたが、あれはあれで拘束時間が結構長い。
それに何より、アヤノとしてはEランク相当のミッションでは、ランクが一つ上のAIが組まれているNPDだってDランク相当なのだから物足りない、というのが思うところであった。
経験が浅い自分ですらそう感じているのだから、既に既定ランク以上に達しているカグヤも概ね同じことを考えているのではないだろうか──などと、少しばかり増上している自分を諫めるように頭を振りながら、アヤノは視線をカグヤへと向ける。
うきうきしながら次のミッションを探しているユーナを一歩引いた位置から見守っているカグヤの瞳は穏やかだが、そこにどこか「退屈」が存在していないわけではない。
同じ「武」を嗜む者として向けられたアヤノからの視線にカグヤは振り返り、小首を傾げる。
そして、困ったように小さく笑いながら、言葉のない問いかけへと答えを返した。
「……やはり、わかってしまいますか」
「ええ、私たちは目的があるからいいけれど……カグヤさんはバトルがしたいんじゃないかと、そう思っていたところよ」
「えっ? なになに、どうしたの? アヤノさん、カグヤさん?」
元々「月下の辻斬り」なんて物騒な二つ名が付くまでフリーバトルにのめり込んでいたカグヤからすれば、低ランクのNPDは相手として役者不足もいいところなのだろう。
だが、「NPD相手の周回に飽きてきた」というそのシンプルな事実を言い出しづらいこともまた確かであり、コンソールを閉じて頭を捻っているユーナへと、アヤノはどこか諭すように方便を語る。
「要するに、今日は今までとちょっとだけ趣向を変えてみないかと、そう思っていたのよ」
「しゅこー……チョップで戦ってみるとか?」
「……要するに、ミッション以外の何かをやってみようと思っていたの」
それは手刀だ、と突っ込みを入れたくなる気持ちを胸の内側にしまい込みながら、アヤノは頭上にいくつもクエスチョンマークを浮かべているユーナへと、目頭を抑えながらそう返した。
基本的に、GBNにおけるダイバーポイントの獲得手段は二種類に分けられている。
一つは、今までアヤノたちがやってきたようにNPD相手の公式ミッションやレイドバトルを繰り返すことで貯蓄していくパターン。
そして、もう一つは。
「拙の手前勝手で申し訳ないのですが……『対人戦』をしていただけないでしょうかと、そういうことなのです」
カグヤが深々と頭を下げながら語ったように、NPD──ノンプレイヤーダイバーではなく、プレイヤーとして「中身」が入っているダイバーたちとシノギを削る対人戦だ。
これもいくつかの種類に分けられているのだが、要するにプレイヤー同士が競い合うといった点には変わりなく、またDランクまではポイントの増減こそあれど、上昇幅は大きく、下降幅は少ないといった具合の調整が行われているため、実入りという意味ではレイドバトルに匹敵するところがあるのは確かなことだった。
ただそれは、「勝てれば」というのが話の前提につくのだが。
だが、何よりそれこそが問題であり、また、アヤノやユーナの心配するところでもあるのだ。
扇子で口元を覆い隠すアヤノの意思を代弁するかのように、ユーナは一度小首を傾げると、カグヤへ向けて問いを投げかける。
「えっと……わたし、自信はあんまりないけど……じゃなくて! その、対人戦っていってもなにするのかなーって」
「……言われてみればそれもそうね」
扇子を閉じて、アヤノはユーナに追従するようにそう言った。
GBNはその前身であるGPDから引き続き、基本的にはPvPのコンテンツをメインとしているのだが、フォースを組めないランク帯では、できることが大きく制限される。
例えば、有名どころならランダムで抽選されたフォース同士が戦い合う「バトランダム・ミッション」を受注できない。
そして、フリーバトルを申し込むにも、ランクが低い相手と上級者は基本的に戦えないことから、掲示板などの内部コンテンツを使って募集をかけるという手間がかかったり、何かと手段に困るのがアヤノたちの現状なのだ。
そんな問いを二人から投げかけられても、カグヤは穏やかな表情を崩すことなく、セントラル・ロビーの受付を掌で指し示して、はっきりと答えを返してみせる。
「でしたら、打ってつけ……というにはやや難儀しますが、今の拙たちでも受けられるコンテンツがありますよ」
「ふむ……その心は?」
「『シャフランダム・ロワイヤル』……ご存知、ありませんか?」
「しゃふらん……? 何?」
ユーナは何が何やらちんぷんかんぷんだといった調子で、ぷすぷすと黒煙を吐き出しかねない勢いで頭を抱えていたが、アヤノはそのコンテンツ名に心当たりがあった。
と、いうのも、獲得ダイバーポイントが多いコンテンツを調べるに当たって、そういった対人コンテンツの記事も攻略wikiには記されているため、ついつい読み耽ってしまったというのが実際のところなのだがそこはそれ、結果オーライというものだ。
そんな事情はさておくとしても、カグヤが提案してくれたシャフランダム・ロワイヤルというコンテンツは、基本的にあまり評判が芳しいものではなかった、というのがアヤノの記憶する限りだった。
曰く闇鍋、曰くお祈りゲー、曰くランダムだけど固定を組んだ方が早い。
そんな風に悪し様に罵られているのは、元々フォースを組めないランク帯であったり、何かそういう事情を抱えているダイバーに向けて、ランダムで抽選された五人が即席のチームを組んで戦う、というコンセプトこそ悪くなかったものの、その実態が理想と大きく乖離していたからである。
元々、即席のチームで連携を行うこと自体が難しいというのもさながら、自分の意図していない行動に走ったり、酷い時はチーム全体を壊滅に導きかねないような行動をするダイバーも参加者の中には混ざっているため、そういった味方を引き当てないことを祈ることが第一条件であるとまでに揶揄されているのだ。
今でこそアップデートを重ねて、参加申請をしたパーティは最初から同じチームに配属される、という仕様になっているものの、アップデート前はパーティ申請をしていても、別なチームに飛ばされるということも珍しくなかったため、そこで評判を落としていた名残もあるのだろう。
ただ、わざわざカグヤが選択肢として提案したのだから、悪いことばかりではないというのはアヤノも理解するところだった。
今のところ、アヤノとユーナ、そしてカグヤの三人でパーティを組んだ状態で参戦すれば、残りの味方が問題を抱えていたとしても過半数は確保しているのだから問題はない、とまではいわなくとも、被害は比較的少ない。
それに何より、ランクの問題でフォース戦やバトランダム・ミッションが受けられない自分たちがPvPを始めるにあたって、一番ハードルが低いコンテンツである、というのは紛れもない事実なのだ。
「要するに即席でチームを作って他のプレイヤーと戦うの。でも、私たち三人は事前にパーティ申請を送っておけば、ばらけずに済むのよ」
「なるほど! それなら安心だね! アヤノさんって頭いいんだなー……」
「……いえ、別にそんなことはないのだけれど……」
ユーナから予想外の方向から褒められたことに困惑しつつ、アヤノは火照った頬を隠すように再び扇子を開く。
そんな二人をどこか姉のように温かい目で見守るカグヤであったが、その視線には先ほどまでとは打って変わって、あの月明かりが照らす夜に見た、苛烈なまでの闘志が燃え滾っている。
「では、シャフランダム・ロワイヤルを受けるということでよろしいですか? お二人とも」
「私は異存ないわ」
「……わたしもオッケー! えへへ、元気に頑張らないとっ!」
方針の確認を済ませたところでコンソールを操作して、パーティ申請をフレンドメニューから送り合いながら、アヤノたちは「闇鍋」と称されるその井戸の底へと飛び込んでいく。
何故シャフランダム・ロワイヤルが「魔境」だといわれているのか、そのもう一つの理由を知らないままに。
◇◆◇
アヤノたちの戦場として選ばれたのは、平坦な平原を挟んで森林地帯が広がっている汎用バトルフィールドの一つだった。
ゲートから飛び立ったクロスボーンガンダムXPを着地させて、まずアヤノは森林──というには木々があまりに鬱蒼と立ち並んでいる樹海を一瞥して、その向こう側にいるであろう敵の姿を思い描く。
平原地帯であれば戦いもシンプルでやりやすくなるが、十八メートルサイズに拡大されたガンプラすら身を隠せるほどの樹海が間に立ち込めているという都合、そう簡単に事が運んでくれるはずもない。
ユーナのアリスバーニングガンダムと、カグヤのロードアストレイオルタもそれをわかっていて、どう仕掛けたものかと身構えていたが、沈黙を破り、口火を切ったのは、味方として配属されていたダイバーだった。
『こちらナスラン、君たちは……この前のレイドでも見かけたな』
「はいっ! えっと……ナスランさん、よろしくお願いします!」
『ご挨拶どうも。痛み入るよ、それと……俺のセイバーでまず威力偵察をかけようと思うんだが、君たちはどう思う?』
ナスランが頭の中に思い描くシナリオは、変形したセイバーガンダムで相手の陣地を偵察し、今度はジャスティスガンダムではなくガナーザクウォーリアに搭乗している兄の「ザクラン」の火力支援を得たアヤノたちが近接戦を仕掛ける、というものだ。
確かに無難で、上手くいけば相手を一網打尽にできるかもしれないこの戦術は理に適っている。
相方ガチャと称されるシャフランダム・ロワイヤル第一の壁を無事に突破できたことに安堵しつつ、ユーナに代わってアヤノがナスランへと言葉を返す。
「私たちとしてもそれが望ましいと考えているわ」
『ええと……君は確か……アヤノだったか。了解した、よろしく頼むよ』
『頼んだぞ、ナスラン』
『了解した、ザクラン! ナスラン・ゾラ、セイバーで出るぞ!』
景気付けかげん担ぎとして、高らかに宣言すると、実際の軍用機を思わせるロービジカラーに塗装されたセイバーガンダムがモビルアーマー形態に変形し、樹海を上から突っ切るように飛び立っていく。
ナスランのセイバーには本来であればスタビライザーがある位置にはレドームと一体化したユニットが増設されており、最初から偵察機としての役割を果たすために改造を施していたのだろう。
データリンクで送られてくる樹海の地形を睨みながら、アヤノたちは慎重に、ナスランが安全だと判断したルートから樹海へと踏み入っていく。
機動力では劣る分、ザクランも言い方こそ悪いがいつでもアヤノたちを盾にできるような位置に陣取っていて、ここまでは順調そのものだといえた。
──だが、青天を引き裂いて雷が落ちるように、戦況というのは突如として変化するものだ。
『ヌヴォォォォォ!?』
『ナスラン!? くっ、どうした、応答を──』
突如としてデータリンクが途切れたかと思えば、先行していた一点──ナスランのセイバーガンダムを示すレーダー上の青い点が消滅していたことに気付いた時にはもう遅かった。
樹海に溶け込んでいたかのように、最後の足掻きとしてナスランが転送してくれたデータから、五つの赤い光点が自分たちを取り囲んでいることをアヤノは悟る。
そして、何よりも目を疑ったのは──
『ふふ、偵察という発想は悪くなかったですが……先に飛んだのは、よくありませんでしたね』
『ヌワアアアアアア!!!』
「ザクランさん!?」
「斬撃が、飛んで……!?」
その瞬間、アヤノが目の当たりにした光景こそだった。
密林迷彩が施されたギラ・ドーガや、ミゲル・アイマンを思わせるオレンジ色に塗装されたモビルジンを従えるかのように前へと歩み出たその機体が振るった一撃は、確かに「飛んで」、今度は後ろから砲撃の機会を窺っていたザクランのガナーザクウォーリアを一刀両断する。
そして、歩み出たその機体こそが。
「コアガンダム……いえ、ゾルヌール、ガンダム……!」
「カグヤさん、知っているの?」
『ふふっ、知っているも何も……』
「ええ、彼女は……あのガンダムは、拙の……!」
『そう、ニチカはカグヤのお姉さんですから』
ニチカ、と、名乗った女性は改めて、ビームサーベルというにはあまりに長い──それこそ、カグヤが構えている刀を思わせる、ビーム・セイバーを携えて、新たに獲物を捕らえんと駆け抜ける。
恐らくは地上戦に特化しているのだろう。
姉だ妹だと、どうやらカグヤが抱えている込み入った事情は置いておくとしても、あの【ゾルヌールガンダム】というらしい機体はローラーダッシュによって瞬く間に距離を詰め、今度は当惑しているユーナを斬り伏せんとビーム・セイバーに手をかける。
「ユーナ、狙われているわ!」
「えっ、あ、わわっ……どうすれば……」
「ここは拙が引き受けます、アヤノさんとユーナさんは周りの対処を!」
ナスランとザクランが一撃で撃墜されたことでパニックに陥っていたユーナは、カグヤの一喝によって正気を取り戻し、アヤノのバタフライ・バスターBによるフォローを受けつつまずは密林迷彩が施されたギラ・ドーガのクロスレンジへと飛び込んでいく。
「ユーナ!」
「わかった、アヤノさん! おおおおっ、炎、パーンチっ!」
『た、盾が!? うわあああっ!』
アリスバーニングが放った炎を纏う拳は、ギラ・ドーガのコックピットを盾の上から殴り貫いていたものの、依然として数の上ではこちらの不利が付いていることには変わりがない。
先日作ったばかりの「クジャク」は腰部のハードポイントにマウントしたまま、アヤノは戦況を俯瞰するようにレーダーと、そして目にも留まらぬ速さで剣戟を交わすカグヤを一瞥する。
「……これが、闇鍋といわれる所以なのね……」
そう。シャフランダム・ロワイヤルは、その性質上「実力差を考慮しない」マッチングが組まれる事が往々にして存在する。
それを示すかのように、「月下の辻斬り」と呼ばれるカグヤと、その姉を名乗るニチカは、刹那の内に生死を分かつ、一進一退の剣戟を交わし続けるのだった。
姉を名乗る敵対者
Tips:
【ナスラン・ゾラ】……レイドバトル「厄祭来たりて」ではハシュマルのワイヤーブレードの犠牲になっていた、都市迷彩のセイバーガンダムを操るDランクダイバー。スタビライザーユニットを換装する事でマルチに役割をこなせるそこそこのダイバーなのだが、何かと運がない。後述するザクランの弟。
【ザクラン・ゾラ】……レイドバトル「厄祭来たりて」ではハシュマルの照射ビームの犠牲になっていた、プロヴィデンスガンダムカラーに塗り替えたジャスティスガンダムや、ガナーザクウォーリアを駆るDランクダイバー。ナスランとは兄弟であり、二人揃ってアスラン・ザラを意識した機体チョイスやダイバールックをしている。