ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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弱点特効2スロ2が出ないので初投稿です。


第十六話「日輪の禍威(まがい)

 ニチカのゾルヌールガンダムとカグヤのロードアストレイオルタは、ほぼ互角に切り結んでいるように見えたが、徐々にカグヤの方が押され始めてきているというのは、戦いを横目に見たアヤノにも理解できた。

 かといって、他人のことを気にしていられる状況かといわれればそうでもないのが現状であり、突出したギラ・ドーガはユーナの奮戦もあって処理できたものの、敵の総数は四機でこちらが三機という不利はまだ覆せていない。

 

『怯むなよ、数の上ではこっちが有利なんだ!』

『わかってる、突っ込むから援護頼むぞ!』

『了解!』

 

 ゾルヌールガンダムを除いて、残ったガンプラの内訳はバウンド・ドックが一機、袖付き仕様のマラサイが一機、ガブスレイが一機と、一部はジオン残党軍仕様になっているものの、ティターンズ系のそれで統一されているといってもよかった。

 撃墜されたギラ・ドーガがどうだったのかはわからないが、少なくともあの三人組に関しては完全な野良ではなく、自分たちと同じくパーティーを組んでからこのシャフランダム・ロワイヤルに参入してきた面子と見てもいいだろう。

 根拠を挙げるとすれば、それは連携の精度だ。

 ガブスレイが構えたフェダーイン・ライフルによる狙撃を回避したアヤノは、その隙間を突くようにして空中から自身ではなくユーナに向けて飛びかかるマラサイを一瞥し、小さく舌打ちをする。

 

「ユーナ! 危ないわ、避けて!」

「えっ、なになに、何を……きゃああああっ!」

『ハハハハ! 海ヘビのお味はどうだいお嬢ちゃん!』

 

 どことなく、カクリコン・カクーラーを思わせるダイバールックに身を包んだマラサイの操縦者は、アヤノの注意も虚しく、困惑するアリスバーニングガンダムへと手にしていた電磁兵器──海ヘビを絡ませていた。

 ワイヤーが絡み付いただけならまだしも、そこから流される高圧電流は継続的にアリスバーニングの耐久値を削り取り、妨害を入れようにもガブスレイの狙撃と、そして今アヤノの眼前に躍り出てきたバウンド・ドックがそれを許してくれない。

 

『悪いがここで倒れてもらうぜ!』

「……お断りよ……!」

 

 電撃による攻撃に悲鳴を上げるユーナを見遣ると、アヤノは胸の内側に沸々と湧き上がってくるその感情に身を任せ、手にしていたバタフライ・バスターB同士の銃身を叩きつけることでザンバーモードに変形させる。

 怒りだ。その感情の名前ははっきりとわかっている。

 だが、何故──何故、ユーナが攻撃を受けているというだけで自分はここまで激昂しているのか、少し冷めたところから見下ろす理性は首を傾げていた。

 だが、今のアヤノを突き動かしているのは理性ではなく激情だ。

 何とも表現し難い、全身を巡る血液が沸騰したような、そうでなければ溶岩に置き換わったような灼熱の怒りと共に、アヤノはバタフライ・バスターBをいつも欠かさず練習してきた、自身の家に伝わる武術「一条二刀流」の構えをとって、刹那の内にバウンド・ドックを切り刻む。

 対峙するクロスボーンガンダムXPの膂力と完成度は確かにバウンド・ドックを操るダイバー、「ドジェリ」にとっては予想外だった。

 分解されていく愛機に申し訳ないという気持ちを抱きながらも、ドジェリは確かに口元に笑みを浮かべて、僚機への通信を開く。

 

『アウマー、今だ! 仕掛けてくれ!』

『ドジェリ……わかったわ、これで!』

「しまっ……!」

 

 クロスボーンガンダムXPは今、ドジェリのバウンド・ドックを撃墜したことで大きな硬直を晒している。

 ABCマントを纏っているとはいえ、作り込まれたフェダーイン・ライフルの一撃は決して軽視できるものではない。

 

『これで……っ、終わりよ! クロスボーンガンダム!』

「っ、おおおおおっ……!!!」

 

 確かにここで諦めていれば、いつも通りにどこか冷めたまま、「仕方ない」と受け入れていれば、確かにアヤノは終わっていたことだろう。

 だが、理性が無駄だと忠告を繰り返す中でも、自身の内に灯る激情の炎は決して消えることはなかった。

 それどころか、風に煽られたかのように勢いを増して、アヤノは親友の──ユーナが気合を入れる時によく似た雄叫びをあげながら、機体を無理やり制動し、踏ん張らせていた。

 間に合うかどうかはわからない。

 膝をついた機体を立ち上がらせて、ビーム・シールドを展開する。

 それが恐らくベストなのだろうが、最大出力で放たれたのであろうフェダーイン・ライフルの直撃までに間に合う保証などどこにもない。

 ならば、他に取れる方法は。

 考える。考える。そして、検証する時間などないから、実行する。

 一秒にも満たない僅かな時間の中でアヤノの脳が演算を繰り返し、導き出した答えは極めてシンプルなものだった。

 

『なっ、この子、剣を盾に……!?』

「私は終わらない、終われない……!」

 

 バウンド・ドックを斬り伏せたバタフライ・バスターBをコックピットの前で交差させて、アヤノは即席のビーム・シールドを作り上げていた。

 ガンプラの造り込みと、ガンプラへの思いが全てを決めるGBNにおいては当たり前のことだが、量産機が専用機を倒したり、原作では勝利を収めた機体がライバル機に敗北するといったシチュエーションは往々にして存在する。

 だからこそ、アウマーと呼ばれた女性のガブスレイも、各部のシャープ化や甘いディテールの作り直しに金属パーツの採用など、相当な造り込みがなされていたのだろう。

 ヴェスバーに匹敵する威力にまで引き上げられたフェダーイン・ライフルの一撃は、二振りのビーム・ザンバーとABCマントという防護がありながらも、相当な衝撃をもってクロスボーンガンダムXPへと着弾していた。

 ぎしぎしと、腕部の関節が悲鳴を上げる。

 鉄の軋みは機体の呻き。クロスボーンガンダムXPのフェイスカバーが押し寄せる熱量に咽ぶかのように、がちり、と開く。

 ハシュマルの照射ビームを受け止めた時とよく似たその感覚のフィードバックに、アヤノは歯を食いしばりながら、ただその一撃を受け切って、次へと繋げることだけを考える。

 そうして、照射ビームが巻き上げた土埃が晴れた時、そこにあったものは。

 

『やった!? いや、まさか……!』

「これで……っ!」

 

 ほとんどが溶け落ちたことで脱ぎ捨てたABCマントを置き去りに、光の翼を展開したクロスボーンガンダムXPが、空中高く舞い上がり、脚部からヒート・ダガーを射出する。

 ガブスレイの機動力であれば、それは問題なく振り切れた一撃であった。

 だが、アウマーは一瞬、確信してしまっていた。

 あのX0を素体にしながらもカラーリングはX1とX3を足して二で割ったようなクロスボーンガンダムは撃墜した──一瞬生まれた余裕、慢心。

 強いていうのであれば、それが勝敗を分かつ絶対条件だった。

 無防備になったガブスレイのコックピットへと、脚部から射出されたヒート・ダガーが直撃し、その装甲を貫いたことで、アウマーの機体もまたテクスチャの塵へと還っていく。

 

『油断したわね……次は、負けないわ』

 

 次があるのかどうかなど、乱数の女神様の気まぐれ次第だ。

 そんな皮肉を返すこともせず、アヤノは荒い息を整えながら、海ヘビによって動きを止められて、今も攻撃を受けているユーナの救援へと向かうのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『ふふ、思い出すわね。こうして戦っていると、ニチカたちが生まれた時のことを』

「世迷言を……! 連撃の型、飛天燕輪!」

『その技、前にも見たけれど……すごいわね、精度が上がってる。ニチカの知らないところで成長してるのね、カグヤ』

「くっ……!」

 

 わかっていた。

 手数を重視した柔の型から繰り出される連撃を、いとも簡単に受け止める、ニチカのゾルヌールガンダム。

 それは取りも直さず、彼女が本気を出していないことの証左だった。

 カグヤが今まで辻斬りを繰り返してきた理由が、そして、そこで得られたものが全て、日輪を纏ったかのように赤い、「リゼ」のコアガンダムとよく似通った色をしながらもフェイス部やアンテナは原型機のそれを受け継いでいる姉の愛機であり躯体の前では無力になる。

 

『でも、カグヤ……その様子だと、まだ自分の型が見つかっていないんでしょう?』

「……ッ! 重撃の型、雲雀剛波!」

『知ってるわ。ニチカはそれを前にも見た……そろそろ、新しい型を、カグヤが武者修行で得たものを、お姉さんに見せて頂戴?』

 

 自身と同じく、ジャパン・エリアで辻斬りをしているというダイバーの一撃を参考にした、鈍いが、食らえば確実にただでは済まない、重い一撃もビーム・セイバーを巧みに捌くことで防御して、ニチカは煽るのではなくただ純粋な期待から、カグヤへとそんな言葉を投げかける。

 だがそれは、カグヤにとって屈辱だった。

 ──お行儀の良い真似事ばかりが得意でも、中身が伴ってなければなぁ!

 かつて辻斬りをしていた時に挑んで、カグヤが破れ去った相手の一人であるウォーモンガー、「戦争屋」として名高い少女──ダイバーネーム「アリム」の言葉が脳裏をよぎる。

 自分の、自分だけの型が存在しない。体得できない。

 つまるところ、カグヤの悩みはそれに尽きた。

 対して、ニチカは──カグヤの斬撃を全て捌き切ってみせたように、既にコアガンダムとゾルヌールアーマーの特性を全て理解して、己だけの戦い方を確立させている。

 アヤノにどこか羨望じみた感情を抱いている理由もそうだ。

 それは彼女がリアルにおいて一条二刀流という流派を学んでいるからなのだが、カグヤにとっては自分だけの戦い方を持っている、という時点で既にそれが羨ましくて仕方ないのだ。

 他人に打ち明ければたったそれだけ、たかがそれだけと言われるかもしれない。

 だが、たったそれだけのことが泥濘に足を取られたかのように、心臓に別な生き物が巣食って血液を掠め取られているかのように、カグヤの心を雁字搦めに縛りつけ、そして凍らせてゆくのだ。

 

「拙が、拙が得たものは……っ……!」

『その様子だと、まだ時間がかかるのかしら? でも安心して、ニチカはカグヤのことを信じてるから……ね?』

「っ、ニチカ……姉様ッ……!」

 

 穏やかな、菩薩か、そうでなければ窓から差し込む日だまりにも似た笑顔を浮かべながらも、ニチカが繰り出してくる攻撃は、いっそ禍々しさと威圧を感じさせるほどに、どこまでも鋭く、そして重い。

 気質こそ自分より幾分か穏やかであったとしても、ニチカが「勝ち」を譲る気がないというのは、誰よりもカグヤがよく知っていた。

 同じ感情を共有しているからこそ。同じ時間に、同じ場所で生まれたからこそ。

 ビーム・セイバーを大上段に振りかぶるゾルヌールガンダムを前に、カグヤはどこか諦めたように瞳を潤ませて、膝を突かんとしていた。

 ──だが。

 

「っ、おおおおおっ……!」

 

 それは奇跡とも呼べない、些細な偶然の先端が触れ合っただけに過ぎないのかもしれない。

 ポップした通信ウィンドウの中で、歯を食いしばり、そして雄叫びを上げるアヤノの表情は、同じく絶望的な状況の中でも決して勝利への渇望を忘れることなく、猛る戦士の、(もののふ)の面影を持っていた。

 ただそれだけの、ほんの些細なことだと他人が笑うようなことかもしれない。

 だがそれは、カグヤの消えかかっていた闘志に火を点けるのには十分すぎるほどに、己が生まれてきた根幹の理由である「武」への探究心を満たすほどに、苛烈ながらも美しく煌めいていた。

 

「拙は……」

『なあに、カグヤ?』

「拙は決して、諦めません……! まだ技は見えずとも! まだ、武の境地に至らずとも!」

『あらあら、諦めが悪いのね。でも、そういうものかもしれないわ、だって、ニチカとカグヤは──』

「おおおおおおッ!!!」

 

 この期に及んでも余裕を崩すことのないニチカの笑顔を、その横っ面から殴りつけるように、カグヤは勇ましく雄叫びを上げて、ビーム・セイバーによる斬撃を──避けるのではなく、敢えてその直撃を受けるのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「……あ、ありがとうございます、アヤノさん……」

「大丈夫よ、ユーナ。むしろ私が……バウンド・ドックに気を取られていたから、助けるのが遅れてしまったわ」

 

 数的優位を覆してしまえば後はこちらのものだとばかりに、海ヘビでユーナのアリスバーニングを追い詰めていたカクリコン・カクーラーによく似たダイバーが駆るマラサイを、頭部バルカンと胸部のガトリングガンによる掃射で片付けると、アヤノはユーナの機体を自身のそれにもたれかからせる。

 アウマーが放った必殺の一撃によって、クロスボーンガンダムXPの両腕は使い物にならなくなってしまっていた。

 そして、海ヘビによる電磁パルスの影響でアリスバーニングガンダムもまた関節部にダメージが蓄積して満身創痍といった風情であり、数の上でこそ有利であったとしても、カグヤとニチカの戦いにアヤノたちは割って入れるような状態でない。

 だからこそ、あの場をカグヤが切り抜けてくれることを祈るしかないのだが、ブロックノイズが走るモニターで見る限り、限りなく状況的に不利を背負わされているのは彼女の方だった。

 負けたかもしれない。

 ユーナもアヤノも敢えて口に出すことはしなかったものの、そんな空気がにわかに漂い始めていたことは事実であり、まともに立てないアリスバーニングと、両腕が使えないクロスボーンガンダムXPでは援護ができないこともまた確かなのだ。

 最早勝利への光明は完全に閉ざされた。

 アヤノが諦めに項垂れかけた、その時だった。

 

「おおおおおおッ!!!」

 

 カグヤの勇ましい雄叫びが戦場に響いたかと思えば、次の瞬間には眩い閃光が走り、視界を灼く勢いでそれは広がっていく。

 一瞬、何が起きたのかとアヤノは当惑するが、その原理はアウマーが放ったフェダーイン・ライフルによる高出力射撃と同じものだと理解するのにそう時間はかからなかった。

 それに確か、前にフレンド登録した時に参照したカグヤのダイバーランクはCだったはずだ。

 

「アヤノさん、あれって……!」

 

 もうもうと立ち込める土煙の中にゆらりと立ち上がる影を指してユーナは答え合わせを求めるかのようにアヤノへと呼びかける。

 Cランク。それはGBNの実質的なスタート地点と呼ばれるほど重要な分水嶺であり、その理由は、同ランクから解禁される「必殺技」という存在が極めて大きい。

 ダイバーの戦い方や癖によって一人一人微妙に異なったユニークスキルを得ることができるこのシステムもまたGBNを「神ゲー」たらしめる理由の一つであることは間違いない。

 元来ユニークスキルやユニークアイテム制はVRMMOにおいて相性が悪いものだとされてきたが、それが一人一人違ったもので全員に与えられるとなれば話は別だ。

 だからこそ、血眼になってCランクを目指すダイバーたちも数多いのだが、そんな事情はさておくとしても、カグヤがこの瞬間、必殺技を発動させたということに間違いはなさそうだった。

 しかし、それは単純に火力へと寄与するものではない。

 しゅぴん、と鋭い音を立てて土煙が引き裂かれると同時に、宙を舞ったゾルヌールガンダムの右手が地に落ちて、煙の中から現れたものは。

 

『なるほど、そう来るのね……カグヤの武者修行、ちゃんと効果はあったみたいで、ニチカも嬉しいわ』

「……EL、ダイバー……」

 

 茫然と口走っていたのは、アヤノの方だった。

 ロードアストレイに擬態していた装甲が剥がれ落ち、「撃墜判定を一回だけ免れる」というその必殺技が発動したことで姿を現したものは、カグヤのダイバールックをメカに落とし込んだようなデザインの機体、ガンプラでありながらある意味ガンプラではない、モビルドールと呼ばれるものだった。

 

「……なるべくならば、この姿を晒したくはなったのですが……!」

 

 どこか苦々しくそう呟きながらも、即座に刀を構え直すカグヤの瞳は、通信ウィンドウ越しに見てもわかるほど、熱く燃え滾っている。

 そして、対峙する日輪の禍威を討ち払うべく、神楽舞を踊るかのように、カグヤは柔の型へと構えを切り替えて、反攻へと打って出るのだった。




明かされる小さな秘密

Tips:

【モビルドールカグヤ】……ロードアストレイオルタの中に封じ込められていた、というより一部装甲をロードアストレイのもので擬態していたカグヤの躯体にしてモビルドール。戦闘力自体はロードアストレイオルタとさして変わらないものの、チィと同様にモビルドール形態への移行を必殺技として設定していることで、相手に強烈なカウンターを見舞うことも可能。

【ゾルヌールガンダム】……カグヤの姉であるニチカの躯体にして、ELダイバー「リゼ」と同じくモビルドールとしてコアガンダムを選択したニチカが後見人と協力して作り上げた、剣術に特化した機体。サタニクスガンダムを参考にしたローラーダッシュが搭載されているものの、多少不得手ではあるが宇宙戦も可能。名前の由来は太陽(Sol)とない、空白(Null)。

【アリム(出典:「X2愛好家」様作「GBN:ダイバーズコンピレーション」】……セシア・アウェア・セストによく似たダイバールックをしていながらも、その性格はアハトに近いウォーモンガー気味な少女。「月下の辻斬り」に興味を持ってあえてフリーバトルを受け、その時完膚なきまでにカグヤを打ちのめしている。
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