ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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うまぴょい初投稿です。


第十八話「推参、ギャルダイバー!」

 辛勝、と表現する以外に、あの戦いを表す言葉は見当たらない。

 ロビーへと帰還したアヤノはすっかり疲れ果てた様子で壁に背中を預けてもたれかかると、ふぅ、と小さく息をつく。

 コンソールを操作して戦闘履歴を確認してみれば、先程のシャフランダム・ロワイヤルにおける戦略の内訳を見てみれば、敵戦力の大半が自分たちより格上といった風情で、やはり闇鍋と呼ばれているのは伊達ではないと、そう実感する。

 

「申し訳ありません、アヤノさん、ユーナさん。その……拙について黙っていて」

 

 アヤノとしては純粋に精魂尽き果てていただけなのだが、それがどこか不機嫌に映ったのか、カグヤは申し訳なさそうにぺこり、と頭を下げて、そう謝罪の言葉を口にした。

 

「気にしていないわ、ただ、ごめんなさい。疲れていたから……」

「それは……ありがとうございます、そしてごめんなさい。拙のわがままにも付き合っていただいて」

「いえ、大丈夫よ。私としても勉強になったから」

 

 相変わらず律儀に、折り目正しく頭を下げ続けるカグヤを宥めつつ、アヤノはさっきの戦いを思い返す。

 元々クロスボーンガンダムXPはGPDで使うために作ったものなのだが、作っていただけでは及ばず、電子の海に戦いの舞台が移ったとはいえ、上には上がいるという事実が嬉しいやら途方もないやらで、考えているだけでげっそりとしてきそうだった。

 それに、カグヤもまだ抱えている問題は解決していないのだろう。

 どことなく気まずく、ぎこちない雰囲気が漂うロビーの片隅で、ぺたんとへたり込んでいるユーナを除いて、カグヤもアヤノも険しい表情を崩していない。

 

「……姉様との戦い、アヤノさんとユーナさんがいなければ負けていました。拙は……自分だけの型も見つからず、お二人に迷惑をかけるばかりで、本当に申し訳がない次第です」

 

 ニチカとカグヤの間に何があったのかをアヤノは知らなければ、そこに踏み入っていく権利もないと、そう思っている。

 だからこそ無理に聞くことはしないのだが、本人が語りたいのであれば何か言葉を返さなければいけないわけで、そんな時に何か気の利いた言い回しが浮かんでこない己の語彙力に絶望しつつ、ばさり、と扇子を開いて口元を覆い隠すことしかできない。

 自分だけの型。カグヤが追い求めてやまないそれを、アヤノは自分が身につけられているとは思っていなかった。

 体得している「一条二刀流」だって、それはアヤノ自身が開祖となった訳ではなく、脈々と受け継がれてきたバトンを受け取ったにすぎないし、剣にこだわらず、あるものを全て活用して勝利を掴むバトルスタイルだって、かつて憧れた「サムライ・エッジ」のそれを真似しているだけだ。

 自分がそれほど大層な存在であったなら、今頃苦戦することもなければ、GBNの個人ランキングにおいて上から数えた方が早いくらいにはなっていたのだろうが、現実はそう上手くいくものではない。

 どうしたものかしらね、と心の中で呟いても答えは出てくるはずもなく、ただアヤノは途方に暮れることしかできなかった。

 

「えっと……わたしたち、フォース組めるんだよね?」

 

 昇格したのにもかかわらず、どこか辛気臭い雰囲気を醸し出している二人だったが、それを知ってか知らずか、ぺこりと頭を下げ続けているカグヤに対して、小首を傾げながらユーナは純粋に、そんなことを言ってのける。

 元々ここ数日、ダイバーポイント稼ぎに東奔西走していたのはユーナの提案があったからだ。

 しかし、それはそれとして、二人の間に横たわっている気まずい空気に呑まれることなく、そして臆することなく堂々と言葉を発する友人の姿が、今は少しだけ逞しくアヤノの目には映っていた。

 アホの子が少しばかり入っているユーナではあるが、ここ一番にはこういう度胸を見せることがあるのは、格好いいと、素直にそう思う反面、なんでもすぐに諦めてしまう自分と比べて、少しばかり羨ましく思うこともある。

 それがまさしく今だった。

 

「はい、ユーナさんとアヤノさんがDランクに昇格したのでフォースを組めますが……」

「なら良かった! わたし、カグヤさんが言ってる難しいことはよくわからないけど……わたしだって自分のことでいっぱいいっぱいだけど、その、今日は皆だったから勝てたんだよね?」

 

 確かめるように、答えを求めるように、カグヤに向けられていたユーナの視線がアヤノへと突き刺さる。

 それはどこまでも透明で、髪の毛と同じ桜色に染められたその瞳に映る自分の奥底までも見透かしているかのようで──そんなユーナの眩しさに目を奪われながらも、そして、どこか心の奥底でそれを恐れながらも、アヤノはあくまでも平静を装って、懐から取り出した扇子を口元までそっと運ぶ。

 

「ええ、そうね……ユーナ。貴女の言う通りよ」

「良かった! じゃあ、えっとえっと……その、わたし、バカだからよくわからないけど、カグヤさんの、自分だけの戦い方、っていうのも、これから一緒に見つけていけばいいんじゃないかなって、そう思うんだ!」

 

 ユーナの言葉には遠慮こそあっても迷いはない。

 そんな彼女を、暗がりに囚われようとしていた誰かに手を差し伸べられる勇気を持つユーナを、誰が愚かだと罵ることができるだろうか。

 はっ、と目を見開いたカグヤは、どこか肩の荷が降りたかのように小さく微笑むと、その眦に一雫の涙を滲ませながら、激励の言葉を送るユーナに向き直って、再び深々と頭を下げた。

 

「そうですね……ええ、そうです。拙は……姉様と出会ったあまり、また事を急いていたのかもしれません。ユーナさん、アヤノさん。こんな拙でよろしければ……一緒に、探してはいただけないでしょうか?」

 

 カグヤが探し求める、自分だけの「武」の境地。

 それは誰かの想いを産土としてこの電子の海に生まれ落ちてきたELダイバーである彼女にとっては、普通の人間が思うよりもずっと重く、途方もないことなのだろう。

 生まれた意味を探し続ける。人間にとっても、果てしないほど困難で、八十年という時間をかけても見つからず仕舞いに終わることだって珍しくはないその重荷は、きっと一人で背負い切れるものではない。

 だからこそこうして、誰かと手を取り合い、繋ぎ合う。

 流行りのポップスで何度も歌われ続けて、陳腐になってしまった言葉かもしれない。

 誰かがお題目に掲げ続けて、うんざりしてしまうような言葉かもしれない。

 ただそんな、ありふれた言葉こそが、いつだって足元で静かに長い旅路をぼんやりと、朧に──だけど、確実に、消えることなく照らし続けているのだろう。

 そんな灯火のように、ユーナの言葉がすとん、と胸に落ちていくのを、アヤノはどこか噛み締めるように心臓へと手を当てて、己の心を確かめる。

 

「ええ、私は異存ないわ。ユーナ」

「はいっ! わたしも大歓迎……っていうか、そのために今日まで頑張ってきたんだもん! 一緒に頑張ろうね、カグヤさん、アヤノさん!」

 

 深々と頭を下げていたカグヤも、その言葉に小さく涙ぐみながら、差し伸べられた小さな掌に己のそれを重ね合わせた。

 一人一人では、自分たちは宙を舞うひとひらの塵にすぎないとしても、こうして寄り合うことで何か大きな事を成せる。

 だとすれば、即席の連携でこそあったものの、格上との戦いで神経をすり減らしたものの、あの戦いで学ぶことは大いにあったというわけだ。

 苦笑を浮かべるアヤノに釣られて、ユーナも大輪の笑顔を満面に咲かせ、カグヤもまた口元を綻ばせる。

 そして、ふんす、と鼻息荒く意気込んで、待ちわびていたかのようにユーナがコンソールを開いて、今度こそフォースを結成するべく画面を操作していた、まさにその時だった。

 

「その申請、ちょっと待ったぁ!」

 

 やたらとテンションが高く、よく通る声がセントラル・ロビーに響き渡る。

 声のした方に振り返れば、そこにはカラバのフライトジャケットを着崩して、丈の短いホットパンツを履きこなし、ふわふわとウェーブがかかった髪を金色に染め上げた、俗にいう「ギャル」な格好に身を包む、褐色肌の女性が佇んでいた。

 

「……いきなり現れて、何?」

 

 不躾な女性の態度に、アヤノも思わず眉を潜める。

 せっかくフォースを組もうとしていたところに水を差されては堪ったものではない、というのはユーナも感じているらしく、どこか困ったような顔をして、突然現れたギャルを見詰めていた。

 だが、女性にとってはそれもどこ吹く風、といった風情で、ハイヒールの踵をつかつかと打ち鳴らして、臆することなくアヤノたちへと歩み寄ってくる。

 

「そのフォース申請に待ったをかけた系、そうっしょ、カグヤ?」

「メグ……」

「えっと……なになに? 二人って、知り合いなの?」

 

 カグヤにメグ、と呼ばれた女性はユーナからの問いかけを待ってましたとばかりに、ふふん、と小さく鼻を鳴らし、豊かな胸を反らしながら言葉を返す。

 

「知り合いも何も、アタシはカグヤの後見人だよ! さっきのシャフランダム・ロワイヤルでの戦いがモニターに映ってたから、カグヤの様子を見にきたってわけ」

「……後見人」

「そうそう、俗にいう保護者ってやつ?」

「それは本当なの、カグヤ?」

 

 別に、目の前にいるメグと呼ばれた女性が何かしらの悪意をもって自分たちに接触を図ってきたのではない、ということはその言動から察せられるが、万が一ということも考えて、アヤノはカグヤへと確認を求める。

 後見人。それは、ELダイバーが現実世界において活動するために必要な、二年前からは厳しい審査基準を必要とするようになったものの、メグが語った通りに保護者としての役割だ。

 それが本当であるなら、カグヤの行動を監視する、とまではいわずとも、何かしら心配で気を揉んでいる、というのは十分に考えられる。

 

「ええ、本当です。メグは拙の後見人で間違いありません」

「そう、ならいいのだけれど……」

「こーけんにん……保護者さん、ってことはメグさんって、要するにカグヤさんのお母さんみたいなもの……?」

 

 何が何やらちんぷんかんぷん、といった風情に頭を抱えるユーナであったが、問題の要旨そのものは抑えていた。

 とはいえ口から飛び出てきた言葉があまりに突拍子もなかったからか、メグはきょとんとした顔をした後に、けらけらと腹を抱えて笑い出した。

 

「あっははは! そっかー、アタシ、カグヤのお母さんかー! 面白いこと言うね、えっと……」

「ユーナですっ! えっとその、元気だけが取り柄ですっ!」

「あっはは! 何それウケる、でも確かにこの歳でお母さんはちょっち微妙だけど、それで合ってるよ、ユーナちゃん!」

「えへへ、それほどでも!」

「褒められてないわよ」

 

 けらけらと腹を抱えて笑い続けているメグと、褒められたと勘違いして得意げに、カグヤやメグと比べれば控えめながらも、自身のそれよりは確実に主張している胸を反らすユーナの姿に、アヤノは思わず頭を抱える。

 とはいえ、メグが何かしらの悪意をもって自分たちに接しているわけではないことがわかっただけでも収穫というものだろう。

 それでも警戒を完全には解かず、笑い転げているメグが落ち着くのを待って、アヤノは広げた扇子で口元を覆い隠しながら再び彼女へと問いを投げかける。

 

「それで、メグ……さんでいいのかしら」

「あっはは……あー笑った笑った。気軽にメグでオッケーだよ、てか一応アタシ、G-Tuberやってるんだけど、知ってたりしない?」

 

 問い返すメグはコンソールを指先で流れるように操作すると、自身がGBNの内部コンテンツである動画共有サービス、「G-Tube」へとアップロードしている動画の数々を披露するのだが、残念なことに、アヤノにもユーナにも、その名前と動画に心当たりはなかった。

 とはいえ、再生数はそれほど少ないわけではなく、万単位のものもあったりするから、新着欄に並んでいても再生数が一桁か二桁で止まっているような、泡沫G-Tuberではないのだろう。

 配信の類に詳しくないとはいえ、万単位のアクセスを獲得するのがどれほど難しいのかはアヤノにも想像がつく。

 ただ、それから上に行くことの難しさも同じだ。

 G-Tuberというのは、その頂に配信の類を詳しく知らないアヤノやユーナでも名前を一度は聞いたことがあるような、もしくは新着一覧でも凄まじい数の再生を叩き出している「キャプテン・ジオン」や、彼の愛弟子でありライバルでもある「キャプテン・カザミ」、そして「ちの」や「チェリー・ラヴ」、「クオン」といった存在がひしめく魔境である。

 だからこそ、万単位のアクセスを稼いでもまだ中堅か、それより下──悲しいことに、そういうことになってしまうのだ。

 そういう意味では、メグには悪いことを言ってしまっただろうかと、バツが悪い思いでアヤノは小さく、聞こえないように溜息をつく。

 

「あー、いいのいいの! ほら、悲しいけどアタシってそんな有名でもないからさ! それよりそっちはタメでオッケー?」

「ええ、私は構わないわ、メグ。それで本題だけど……」

「そうそう、カグヤの話ね。一応アタシ、保護者だからさ? 心配してるわけなのよ」

「……それは、確かに」

「だからね、このアタシの目でキミたちがカグヤのフォースメンバーとして相応しいかどうか、確かめさせてほしいってわけ!」

 

 あくまでもフォースを組むことそのものは反対していない、という体で、保護者としての立場からメグはアヤノへとびしり、と指した人差し指と共に挑戦状を叩きつける。

 

「なるほど……そういうことなら納得がいくわね、ユーナはどう?」

「えっとえっと……要するに、メグさんと戦えばいいの?」

「そう、アタシとバトって、アタシが勝ったらカグヤは渡さないけど、アタシに勝ったらカグヤが所属する初めてのフォースとしてキミたちを認める系的な?」

「ふむ……」

 

 言っていることそのものにおかしいところは見当たらない。

 ただ、GBNの中では同じようにELダイバーの身柄を巡って一悶着あったのが計二回と、調べた知識と符合する状況に何か因果なものを感じていただけの話だ。

 それに、腕試しというなら悪くはない。

 シャフランダム・ロワイヤルではギリギリの勝利で、相手にしてやられた形であったものの、せっかくフォースを組めるランクまで昇格したのだから、どこまで自分の腕が通用するか試してみたい、と思う気持ちはアヤノの中に確かに存在していたのだ。

 だがそれは、アヤノ個人のものであって、全体のものではない。

 隣で何やら緊張した様子でぷるぷると背筋を震わせているユーナを一瞥すると、視線で慮るように大丈夫か、と問いかける。

 

「えっと、えっと……はい! わたしもそれにさんせーです!」

「本当にいいの、ユーナ?」

「だって、その方がカグヤさんもアヤノさんも、メグさんも納得するんだよね? それならわたしもその方がいいかなって!」

「……そう」

 

 若干消極的に聞こえたものの、ユーナ本人が納得しているならそれに越したことはないのだろう。

 

「意思の確認は取れたわ、それじゃあ」

「おけまるおけまるー、迷惑じゃなければフレンド申請も送っといたから。そんじゃ今日……は疲れてるだろうし、明日フリバよろしくね!」

 

 流れるようにフレンド申請を送りながら、メグはカグヤと手を繋ぐと踵を返して、ロビーの雑踏に溶け込んでいく。

 メグ自身は蹴ってくれても構わないから、と最後に言い残していたものの、それで本当に蹴ってしまうのも気が引けるからと、アヤノは送られてきたメグからのフレンド申請を受け取りつつ、ログアウトボタンにそっと指をかける。

 

「……はぁ」

「どうしたの、アヤノさん?」

「なんでもないわ、ただ……ちょっと疲れただけ」

「そっかぁ、じゃあ今日は早くお布団に入って寝ないとだね!」

 

 シャフランダム・ロワイヤルに、ニチカとカグヤの因縁に、更に保護者であるギャルの襲来と、放課後のスケジュールにしては随分とハードなそれをこなしたものだと肩を落とす。

 それでも疲れた様子を見せずに微笑んでいるユーナのバイタリティは相当なものなのだろう。

 改めて友人の元気に感心しながら、「そうするわ」と、ぶっきらぼうながらも、確かな同意がこもった言葉を返して、アヤノはログアウトボタンを押すと、電子の海から現実世界へと解けてゆくのだった。




保護者ギャル、登場


Tips:

【メグ】……カグヤの後見人にして、ガンプラの組み立て配信からミッション攻略配信まで手広く手掛けているも、中々再生数が伸び悩んでいる中堅G-Tuber。カラバのフライトジャケットをラフに着こなしている女性だが、その愛機は果たして……?

【ちの(出典:二葉ベス様作「ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ)】……「ちの・イン・ワンダーランド」を切り盛りする配信者にして、「戦場の支配人」という二つ名を持ち、個人ランキング104位という極めて高いランクに座するほどの実力を有する英傑。

【チェリー・ラヴ(出典:朔紗奈様作「可愛い子たちに会いにいく」)】……酒飲み合法ロリ巨乳配信者にして、ランキングに興味はないものの、極めて高い実力を持っているG-Tuberの一人。また、高難度クリエイトミッション「高嶺の花嫁」の配信者でもある。

【クオン(出典:青いカンテラ様作「サイド・ダイバーズメモリー」)】……フォース「エターナル・ダークネス」を率いる、終末を喚ぶ竜の端末という設定で配信を行なっているG-Tuber。その実力もポテンシャルも凄まじいものを秘めている。
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