ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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ストレイ初投稿です。


第二十話「ワンダリング・ドリーム・チェイサー」

 立ち込める濃霧を隠れ蓑にして、メグは着実にアヤノとユーナを分断するように立ち回っていた。

 アヤノはフェアではないと事前にメグのガンプラについて調べることはしなかったが、メグはそんなことなどお構いなしに、恥も外聞も投げ捨てて、カグヤの戦いが映っていたリプレイを保存し、その性質を目と脳に叩き込んでいる。

 アヤノのクロスボーンガンダムXPは、それこそあるもの全てを利用して戦う、原作さながらの創意工夫が特徴的だが、それは彼女のファイターとしての性質がそうさせているだけで、ガンプラとして見た場合は典型的な汎用機、原型機であるクロスボーンガンダムとそこまで変わらない、というのがメグの見立てだ。

 濃霧の向こう側にいるアヤノとユーナの位置を強化したレーダーで把握すると、先程の不意打ちのお返しだとばかりに、スマッシャーモードに変形させた「クジャク」の一撃が飛来する。

 

『あっぶな……やっぱそれ、厄介だね!』

「逃げ回るのであれば範囲で制圧する、それだけのことよ……!」

 

 勇ましくそう言い放っているものの、アヤノというダイバーはどこまでもクールでクレバーだ。

 でなければ、足が使えないアリスバーニングにシザーアンカーを巻きつけてもらって支えるだなんて戦法は思いつかないし、エネルギーを買われる照射ビームにしたって、闇雲に撃つのではなく、マニューバの軌跡を読んだ上で、ある程度狙いをつけて放っている。

 そういう意味では、メグにとってアヤノは天敵のようなものだ。

 そして、何よりも警戒すべきはギラ・ドーガが構えていた盾の上からコックピットを粉砕した、アリスバーニングガンダムのパワーもそうだ。

 霧隠れと不意打ちで左手を持っていくことには成功したものの、右手が残っていればパンチは打てるし、足が残っていればキックができる。

 メグが内心で冷や汗を流しながら、残弾と、暗器類のリソースを確認するためにコンソールを横目に見たその時だった。

 

「捉えたわ!」

『ちょ、早……っ……!』

 

 バチバチと弾けるような音を立てて、霧の向こうから姿を現したクロスボーンガンダムXPが左手に持っていたバタフライ・バスターBが振るわれる。

 咄嗟に腰からクナイを引き抜いて防御していたものの、ジャミングと、「仕掛け」を用意していたのにもかかわらず、本体の姿を視認されてしまったことにメグは一瞬動揺するが、ここでペースを崩されてしまってはアヤノの思う壺だ。

 そして、気配だけを頼りに本体を突き止めるという幕末式天誅チャートを脳内で組み上げたアヤノは、とうとう捉えることができたメグのガンプラ──その愛機である、G-アルケインをベースとした機体を一瞥し、二の矢は継がせないとばかりに右手のクジャクをブラスターモードに切り替えて叩きつけた。

 

「それが貴女の愛機というわけね……! だけど関係ない、ここで終わらせる!」

『あっはは、そうそう。G-フリッパー……アタシだけのガンプラだよ! そしてアタシは終わらない!』

 

 メグがG-アルケインを素体に、ブリッツガンダムの両肩を組み込んだり、背部にレドームとジャマー、そして武装コンテナがセットになった「ステルス・ザック」を背負うなどのカスタマイズを施した愛機である【G-フリッパー】のコンセプトは、ずばりそのままくノ一、忍者に他ならない。

 避けて、逃げて、隠れて、そして最後は自らの手管に相手を嵌めて勝利を手にするという勝ち方がメグの性に合っていた、というのもあるが、何よりもメグは戦う前の戦い、情報戦を軽視していなかった。

 偵察とは最も能動的な戦いであり、その地味さ加減から、斥候共々GBNでは軽視されがちな役割だが、己を知り、相手を知れば百戦危うからずという金言がある通り、「知る」というのは戦いにおいて大きなアドバンテージとなる。

 そんな理念を掲げている、フォースランキング第2位「第七機甲師団」を率いる長にして、やたらとモフモフしているオコジョこと「ロンメル」の戦いもさながら、不動のチャンピオンとして今もGBNに君臨し続けている、「クジョウ・キョウヤ」率いる「AVALON」も、偵察役としてEWACジェガンを操るダイバーをフォースメンバーとして擁していることからも、その重要性は伺えるだろう。

 そういう意味で、アヤノは戦う前の戦いには負けていた。

 メグの動画を確認すれば、ミッション攻略にもG-フリッパーで臨んでいる姿は見られただろうし、その武装だって確認できただろう。

 だからこそ、アヤノはその失策を取り返そうと、そしてユーナとカグヤに勝利を届けようと、果敢に組まれた策を踏み倒し、メグの喉元へと刃を突き立てんとしているのだ。

 だが、メグもそうそう易々と諦めてくれるようなダイバーではない。

 振り下ろされたクジャクの一撃を、衝撃を逸らすように受け流す形で躱すと、メグのG-フリッパーは再び霧の中へとその姿を溶け込ませて、不可視の存在へと変容する。

 

「ミラージュコロイド……!」

『忍法、隠れ身の術ってね! さあ、こっから仕切り直してくよ!』

 

 ミラージュコロイドとハイパージャマーの併用は、凶悪なアサシン構築としてGBNに知れ渡っているが、確かにそれは頷ける。

 アヤノは姿を消したG-フリッパーが噴かすブーストの軌跡を目で追って、神経を研ぎ澄ませることでなんとか攻撃の予兆を見切ってこそいるものの、極限まで集中力を使う都合、そう長く持つものではない。

 そして、メグはそれを──アヤノが自滅するのを待つという戦法を取ることにしたようだ。

 霧の中では、ミラージュコロイドの弱点であるブーストの軌跡も読みづらく、環境に溶け込んで、利用して、そして隙あらば背後から敵を仕留めようとするメグの戦い方は、カグヤが侍であるならまさしく忍者そのものだろう。

 アヤノが前線で奮戦し続ける傍ら、ユーナはそれに割って入ることもできず、ただ呆然と二人がとんでもない次元での戦いを繰り広げているのを見つめていた。

 

「……アヤノさん、すごい……それなのに、わたし……」

 

 ぽつりと、自分を責めるようにそう零していたが、何もこの状況はユーナが全て悪い、という訳ではない。

 格闘戦に特化したアリスバーニングが本領を発揮するためには、開けた視界や近接援護によるバックアップといったお膳立てが必要であり、こんな悪条件の中でも気配を読んで相手へと拳を叩き込めるのは、それこそフォース「虎武龍」を率いる「タイガーウルフ」や彼に匹敵するような達人ぐらいだろう。

 GBN初期から名を馳せた古豪である「パウパド」──老師の通称を持つハイモック使いのダイバー曰く、ガンプラバトルにおける必勝法は「自分とフィールドを一体化させる」そうだが、そんなことを知る由もないユーナとしてはただ、霧の中から飛んでくる攻撃に怯えて、そしてがむしゃらに剣を振るうアヤノを見守ることしかできなかった。

 ──せめて、霧が晴れてくれれば。

 痛みがフィードバックされるのもお構いなしに、ユーナはぐっ、と強く唇を噛み続ける。

 

『忍法……なんでもいいや、取り敢えず背中から!』

「くっ……このっ!」

『あっはは、引っ掛かったね!』

 

 宣言した先にアヤノは斬撃を「置いて」カウンターを図るが、そこはメグの方が一枚上手だったようだ。

 背後から襲いかかってきたと見せかけて、後隙を晒したその瞬間を狙い、コンテナから取り出した二挺のビーム・ピストルによる射撃を、アヤノのクロスボーンガンダムXPへと真正面から叩き込む。

 ──何を、された。

 ABCマントによってその攻撃は辛うじて防げたものの、マントがなければほとんど即死か瀕死の重傷を負っていたことだろう。

 アヤノは小さく舌打ちをしながら、胸部ガトリング砲でメグへと牽制射撃を加えつつ、崩れた機体を立て直す。

 思えば、初撃のシザー・アンカーによる鞭を避けられた時もそうだった。

 否。避けられたのではない。

 その時、アヤノの脳裏に一つの仮説が浮かび上がる。

 もしも避けられたのではなく、「最初から当たっていなかった」のだとしたら?

 ミラージュコロイドを展開したまま霧に溶け込み、時折クナイによる急襲を仕掛けてくるメグをなんとか捌きながらも、アヤノは考える。

 そうだ。

 相手のG-フリッパーにはミラージュコロイドが積まれている。

 そして、ミラージュコロイドの利用法はただ単に姿を消すだけに止まらない。加えて濃霧という悪天候、その条件を加味して考えられるのは。

 

「……まさか、残像……!?」

『あっはは、バレちゃったかー。なら隠してても意味ないね、これがアタシの忍法、分身の術ってね!』

 

 厳密には分身ではないものの、残像を出して機体を急停止させてから再びミラージュコロイドを展開して本命の一撃を叩き込むというメグの必勝への方程式は、ネタが割れたとしても厄介だ。

 なんせ、攻撃の殺気や敵意で相手の位置を割り出そうにも、一度その攻撃をキャンセルしてから放たれる都合上、初撃を外す確率は極めて高くなってしまう。

 かといって、置かれたものが残像だと決めつけて立ち回れば、相手は必ずその隙をついて、ぼやぼやしている内に真正面からバッサリと斬りかかってくるのは間違いない。

 だが、必ず強力な武装には制約が伴っている。

 ミラージュコロイドを無限に展開できるわけではない以上、メグが用いる「分身の術」による攻撃がいつまでも続く訳ではない。

 自分の集中力が切れるのが先か、それとも変幻の迅影が繰り出す攻撃が止むのが先か、どちらにしても短期決戦となることは間違いない。

 ジャミングによるレーダーのブロックノイズも途切れ始めてきたのがいい証拠だろう。

 アヤノは大まかに割り出した位置にバタフライ・バスターBでの牽制射撃を放ちながら、奇しくもメグと立場が逆転した形で、徹底した「待ち」の構えをとる。

 

(ちょっとどころじゃない、かなりまずい……!)

 

 メグの目算では、頭に血が上ったところを利用して早々に集中力を使い果たさせることが前提になっていたのだが、アヤノは思ったよりも遥かにクレバーであり、そしてスマートだった。

 ハイパージャマーの効力も切れかけていれば、ミラージュコロイドの残量も少ない。

 幸いなことに霧がある都合上、そこに身を隠して回避運動を続ければ、ハイパージャマーやミラージュコロイドのリキャストまで時間を稼ぐこと自体は可能だろう。

 だが、アヤノは決してのらりくらりと立ち回ることを許さない。

 待ちの構えに徹しながらも、攻撃の手を緩めることがないアヤノの姿勢に、思わず口元を引き攣らせながらも、メグもまた勝利への方程式を組み直して、温存していた切り札を切ることを決意した。

 

『やるね、アヤノ! だけど……アタシは負けられない! フォトンアヴィラティ、起動!』

「……っ、何を……!?」

 

 フォトンアヴィラティ、とメグが叫んだ瞬間に、復旧しかかっていたレーダーには再びブロックノイズが走り、霧の中、朧に浮かび上がっていたG-フリッパーの輪郭がさぁ、っと電子音を立てて再びその姿を消していく。

 ──必殺技。

 何が起きたのか、について、内心でアヤノが思い浮かべていた答えは、果たして正解だった。

 メグが起動したのは「既存の武装効果を延長する」という必殺技であり、これによって分身の術をかけてのラッシュや回避までの限界時間に猶予を与えることで、アヤノが集中力を切らすことを待つ方に回ったのだ。

 めくるめく立場の交代に、アヤノは思わず目の奥に鈍い痛みが走るのを感じていたが、それ自体が集中力が欠けてきた、ということであり、長く持たないのは自分の方であるという証明だった。

 せめて、霧が晴れれば。

 ユーナが考えていたのと全く同じことを考えつつ、疲弊したアヤノの間隙をつくように、バタフライ・バスターBを携えていた左腕が、クナイによる一撃で破壊される。

 

「くっ!」

 

 慌てて「クジャク」を振り下ろしても、G-フリッパーの姿は既にそこになく、スマッシャーモードに切り替えようにも左手は切断されてしまったため、範囲で無理やり炙り出す戦法も取れそうにない。

 やはり、メグの方が一枚上手だったということだろう。

 与一が昨日、戦いの前に評した通りアヤノはそのセンスこそ卓越していても、GBNでの戦いはほとんど初心者に近い。

 そして、ある程度中距離戦をこなせるビルドを組んでいても、クロスボーンガンダムXPがその本領を発揮するのはあくまでもクロスレンジでの接近戦であり、そういう意味では、搦め手を数多く用いるメグのG-フリッパーは、ある種天敵ともいえるのだ。

 

『隙ありぃッ!』

 

 アヤノが頭を抱えていたその一瞬をついて、迷光が混じったかのように、ぼやけた輪郭がはっきりと姿を現し、クロスボーンガンダムXPの頭部へとクナイを投擲する。

 

「しまっ……!?」

 

 無防備を晒していたクロスボーンガンダムXPでは、アヤノではその一撃に対応することができず、あえなく接続部からもぎ取られた頭部がごろり、と地面に転がり落ちた。

 間髪入れず、メインモニターにはブロックノイズが走り、霧の中に溶け込んだメグの姿を見つけ出そうにも、悪条件に悪条件が重なって、アヤノはただ気配を読んで防御に徹することしかできなくなる。

 それこそが勝利への方程式。

 例え卑怯と罵られようとも、避けて、逃げて、隠れて、嵌めて。

 くノ一をコンセプトとするメグの戦い方とその強みは、遺憾無く発揮されているといえた。

 このままでは、敗ける。

 与一から指摘された通り、アヤノの心はブレて、敗北を喫する想像がいくら振り払おうとも頭の中で膨れ上がって、脳裏を埋め尽くしていく。

 何か手はないのか、相手にカウンターを叩き込む方法は、能動的に攻撃を加える方法は──いくつもの考えが巡っては消えていくが、思考回路を占有されていること自体、この状況では好ましくない。

 

『悪いけど、アタシも本気だから……これで終わりにさせてもらうよ、アヤノ!』

「わた、しは……ッ……!」

 

 最早、分身の術を見切る集中力はアヤノに残っていない。

 トドメを刺す、という宣言と共に、濃霧に映し出されたG-フリッパーの輪郭が幾重にも浮かび上がり、今度こそクロスボーンガンダムXPのコックピットをクナイが貫かんとする、その時だった。

 

「全力……炎、パーンチっ!!!!!」

『なっ……!?』

「ユーナ……!?」

 

 突如として雄叫びを上げると、ユーナはその反動が来ることも厭わずに機体の全出力を解放、そして──地面を、思い切り殴りつけた。

 

「これで……晴れろおおおおおっ!!!」

 

 灼熱を全身に纏ったアリスバーニングガンダムの一撃が、白い闇を切り刻むように、否、全て吹き飛ばすかのように荒れ狂い、ホワイトアウトしかけていた視界を晴らす。

 バーニングバーストシステム。

 それはトライバーニングガンダムとカミキバーニングガンダムに搭載されていた時限強化システムであり、素体としたことでありアリスバーニングガンダムにも引き継がれたものだった。

 ユーナが拳や脚に炎を纏わせられるのも、早い話がこのシステムの恩恵だ。

 そして、普段はリミッターがかけられているそれを解除したことで発生した吹き荒ぶ熱風と衝撃波は、大気中の水分すら蒸発させて、立ち込める霧を一瞬払い、分身の術による残像を発生させて、今まさに、アヤノへと襲い掛かろうとしていたメグの姿を露わにする。

 

「……ユーナ!」

「わたし……わたし、頑張りました、アヤノさん! だからっ……!」

 

 しかし、そんな荒技に機体が耐えられるはずもなく、反動で自壊していくアリスバーニングを横目に見て、アヤノは切れかけていた集中力を、その欠片を拾い集めて、ブラスターモードの「クジャク」からビーム刃を発生させる。

 

「……確かに受け取ったわ、ユーナ! 私は……私たちは、負けない! ここで退くつもりなど……さらさらないッ!!!」

『……っ、だとしてもぉッ!!!』

「貫けええええッ!!!」

 

 一度は砕け、潰えようとしていた夢の欠片を無理やりにでも掴み取るように、アヤノの闘争本能が、反射神経が、限界を超えて、機体の上体を僅かに逸らせ、ブロックノイズの中で微かにその輪郭を見せるG-フリッパーが、メグが仕掛けてきた一撃をもらいながらも、なんとかコックピット判定を免れる。

 そして突き出し、振り抜かれたビーム刃は──果たしてG-フリッパーの横っ腹を確実に捉え、両断していた。

 

【Battle Ended!】

 

 レッドアラートが鳴り響き、再び視界に白い闇が立ち込めようとする中で、無機質な機械音声が戦いの終わりを淡々と告げる。

 

【Winner:アヤノ、ユーナ】

 

 そして、少し遅れてダイアログに表示されたものは、紛れもなく──二人が掴み取った、勝利の証に他ならないのだった。




この女、ギャルにしてニンジャ

Tips:

【G-フリッパー】……保護したカグヤが侍を志していたことから、G-アルケインをベースとして、「くノ一」をテーマに各種偵察や斥候に必要な装備を背部のウェポンザックに詰め込んで、両肩をブリッツガンダムのそれに変更することでミラージュコロイドの展開も可能となったメグのガンプラ。ギャルなのに忍者じみた機体を使って泥臭く勝利を手にするのが、彼女のチャンネルに登録しているファンの楽しみなのだとか。

武装:
ビームピストル×2
コールドクナイ×4
対戦車ダガー×8
ビーム・ワイヤー×2
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