ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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初見のナズチくんに起き攻めから床ペロさせられたので初投稿です。


第二十一話「フォース・ビルドフラグメンツ!」

 カグヤと出会ったのは、月明かりが綺麗な夜だった。

 刃を展開したクジャクが振り抜かれるまでの一瞬、それまでの思い出がメグの脳裏を駆け巡っていく。

 GBNにおいても、各ディメンションの天候はランダムに設定されており、その日は雲一つない夜空を、満月が朧に照らしていたのを、メグは今でもはっきりと思い出せる。

 ジャパン・エリアをそんな夜にほっつき歩いていたのは、なんということもない。

 ただ単純に、自分がアップロードしている動画の再生数が伸び悩んでいたことで、その気晴らしをしたくて散歩をしていただけのことだ。

 世の中にはそんな、各ディメンションを散歩するだけの配信ですら十数万から数十万の再生を叩き出すG-Tuberが存在する傍ら、自分が同じことをやったとして、ロケーションが良かったとしても四桁、いや、三桁再生が関の山だろうな、という事実が、余計にささくれ立った心にちくりと針で刺されたような痛みを突き立てる。

 

『……他人に嫉妬したところで、アタシの再生数が伸びるわけでもないのにね』

 

 嫌悪と共に、溜息をそっと夜空に還す。

 G-Tuber。

 GBNの黎明期には存在しなかったそれは、コンテンツ内で動画共有サービスであるG-Tubeが立ち上がると共に、かつて、電子の海での歴史を辿るかのように雨後の筍のように現れては消えてを繰り返していった。

 そして、消える速度よりも増える速度の方が速い都合上、どうしても埋もれてしまう存在というのは出てくるわけで、新着欄に並んだ泡沫配信者のそれよりも安定した、有名配信者のそれを見ておけば間違いなく面白い、という先入観から、どんどん客層の固定化は進んでいき、富めるものはますます富み、病めるものはより病んでいく、この世界の縮図のような様相を呈し始めている。

 正直にしてもいってしまえば、メグはそんな泡沫配信者たちの中ではまだ恵まれた方だった。

 G-アルケインという狙撃機でミッションを攻略するギャル系G-Tuber、というのは中々ニッチな層に需要があったらしく、それを契機にして制作配信なども行った結果、万単位の再生を記録した動画もいくつか生まれるようにはなっていたからだ。

 本当に悲惨な、一桁や二桁で止まっている配信者と比べれば、確かに自分は恵まれているのかもしれない。

 だけど、いくら手を伸ばしたって、天に座するキャプテン・ジオンや彼の愛弟子にしてライバルであるキャプテン・カザミ、そして同じアルケイン使いとしてどこか意識している「ちの・イン・ワンダーランド」を率いる「ちの」に届くことはない、という事実が覆ることだって、ありはしないのだ。

 そんな、ささくれ立った心を抱いてあてもなく愛機を彷徨わせていたその時だった。

 光を見た。

 その瞬間を言葉にするのであれば、その一言に尽きる。

 一際強く輝く光と、それに埋もれたかのように淡く朧に、だけど確かに存在の輪郭を浮き立たせる光。

 何事かとばかりに機体を着地させて、光の方へと向かってみれば、そこには、神社の巫女が着るような装束に身を包んだ女性が二人、何処か意識を手放したように天を見上げている姿がある。

 そして、その二人こそが、同じ想いを──侍や剣士といった、「武」の道を歩むダイバーたちの感情を核にして生まれてきた、ニチカとカグヤというELダイバーだった。

 

『拙の名前……ですか? 拙は……拙の、名前……』

『……カグヤ』

『カグヤ……? それは、一体……』

『なんか、月から降りてきたお姫様みたいだったから』

 

 姉が最初から自我が強く、「ニチカ」という名前を考えついたのに対して、その影から生まれてきた妹は──メグによって「カグヤ」という名前をつけられるまで、自分の存在すらもどこか曖昧であやふやだったことを、メグは今でも覚えている。

 だからこそ、守りたいと思った。

 ELバースセンターにニチカとカグヤを送り届けた時、アンシュへとカグヤの後見人の申請を行ったのも、そんな強い感情に突き動かされてのことだ。

 二年前に何やら大騒動があったらしく、ELダイバーの後見人になるための資格試験は思わず頭を抱えるほど厳しいものでこそあったものの、それでもメグは努力でそれを乗り越えて、カグヤと二人、現実とGBNという二つの空間で暮らす道を選ぶことができた。

 密度が極限まで高められた六つのビーム刃が、G-フリッパーの横っ腹へと食い込んで、そのコックピットを食い破らんと暴威を振るう。

 そうだ。

 カグヤを守りたい。朧で、危なっかしくて──目を離すと消えてしまいそうな泡沫にもよく似た彼女は、電子の海を浮かんでは弾けてを繰り返す自分にもよく似ていたから。

 だからこそ、カグヤが武者修行と称して辻斬りを行うのも止めなかったし、結果としてそれで彼女が望む「侍」に、「剣士」に近付けるなら、とメグは許可を出してこそいたものの、やっぱり心配なものは心配だった。

 そのために、G-アルケインを生まれ変わらせた。

 侍であるカグヤの戦いを邪魔することなく見守れるように、そして、その隣に立った時に相応しくあるように、くノ一をモチーフとした斥候型のビルドへと組み替えられたアルケインは最早狙撃機の領域を逸脱しており、だからこそ、偵察機である【ザクフリッパー】から名前を取って、【G-フリッパー】としたのだ。

 突き立てられた刃は、どこまでも前へ、前へと進もうとするアヤノの──否、アヤノたちの信念を形にしたような一撃は確実にG-フリッパーのコックピットを貫いて、GBNにおいて「メグ」を構成する躯体もまた、光の中に解けて消えていく。

 別に、負けるのが嫌だとか、アヤノたちのことが嫌いだとか、そんなことでは断じてない。

 ただ──少しばかり、寂しさを覚えたというだけの話だ。

 もう、カグヤは自分の手を借りなくても、自分だけの力で歩いていける。

 だからこそ、フォースに入ろうとしたのだろう。

 そして、自分をアヤノたちが破った以上は、そこに口出しをする権利など、どこにもない。

 そんな一抹の寂寞が、メグの目尻にじわり、と一雫の涙を滲ませる。

 親離れというには、見た目上の年齢は離れていないけれど。

 それでも自分という鳥籠の中からカグヤが巣立っていくのはどこか誇らしくもあり、晴々しくもあり──やっぱり、寂しくて。

 Battle Ended、と、無機質な機械音声が敗北を無慈悲に告げると同時に、メグの躯体は光に解けて、セントラル・ロビーへと再構築されていく。

 そして、ボロボロになったG-フリッパーの傍らで、首のないクロスボーンガンダムは、アヤノは精魂尽き果てたかの如く膝をついていた。

 勝利。それは齎された結果にして、勝ち取った答えの証明。

 だからこそ、クロスボーンガンダムXPは立ち上がる。

 そして、霧を晴らすため、バーニングバーストシステムのリミッターを解除したことで、全身にヒビが入り、ボロボロという言葉さえも足りないほどに損傷したユーナのアリスバーニングを抱き抱え、アヤノたちもまた、セントラル・ロビーへと転送されていく。

 

「……約束通り……勝ったわよ、ユーナ」

「えへへ……ありがとう、アヤノさん」

 

 メグが一体、どんな思いでこの戦いを挑んできたのか、アヤノにはわからない。

 それでも、ユーナが願ったことと背くなら、それがどうしても戦って打ち破らなければならないことであれば、迷いなく剣を取って引き金を引くつもりだったことも同じだ。

 ただ──少しだけ、「クジャク」の刃がG-フリッパーのコックピットを捉えた瞬間、アヤノはそこに何か寂寥のようなものを感じていた。

 それはきっと、メグがカグヤの後見人だから、保護者だからこそどこか思うところがあったという証明なのだろう。

 だとしても、自分は前に進んでいく。

 初めてではなくとも、死闘を制した手は震え、心臓は胸を食い破って飛び出してきそうなほどに速い鼓動を刻んでいる。

 それは、恐れが安堵に変わる感覚に、まだまだ自分の心が強さに至っていない証拠のようなもので、アヤノはそこに少しの気恥ずかしさを覚えながらも、同時に一抹の誇らしさを抱いて、ユーナと共にセントラル・ロビーへと帰還していくのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「いやー、負けちゃったね。アタシ、本気だったんだけどなぁ」

 

 それはそれとしてグッドゲーム、と、メグはどこか、何かを誤魔化すかのように微笑んで、アヤノとユーナへと右手を差し伸べてくる。

 実際、本気だったという言葉に嘘偽りはないのだろう。

 悪天候というフィールドをフル活用し、更に機体のステルスまでも駆使したメグの戦い方には一分の油断も慢心もなく、一歩間違えれば、と、いうよりあの時ユーナが機転を利かせてくれていなければ、間違いなく敗北していたのは自分たちの方だった。

 

「グッドゲームですっ、メグさん!」

 

 素直にその手を取って明るく微笑むユーナの元気な姿勢が少し羨ましく思えるほど、極限状態で集中を強いられた疲れはアヤノの両肩にどっと重くのしかかっていて、冗談ではなくメグの手を取ることさえも難しく感じてしまうほどだ。

 

「……グッドゲーム、メグ。それで、条件の方なんだけど」

「あーうん、そっか、そうだよね。カグヤ」

「はい、メグ」

 

 そんな三人のやり取りを一歩引いた位置で見守っていたカグヤは、名前を呼ばれると、しゃなりしゃなりと優雅に歩み出て、メグの半歩後ろでぴたりと静止する。

 背中に定規でも刺さっているのかと思うほど真っ直ぐな姿勢は美しく、彼女が纏う和装の凛とした美しさを際立たせていた。

 

「これで、私たちはフォースが組めるのよね?」

「まーうん、見たところアヤノたち、悪い人じゃなさそうだし? それに、戦って勝ったらー、って言い出したのアタシだから、今さらそれなしで! って言ったらカッコ悪いじゃん」

 

 へらへらと柔和に笑ってこそいるものの、メグの意見もまたカグヤの保護者らしく、一本筋が通ったものだ。

 これでやっぱり認めません、なんていわれたら流石のアヤノであっても頭に血が上っていたのだろうが、メグがそういう人間ではないということは、戦い方はともかくその太刀筋から伝わってきた。

 避けて、逃げて、隠れて、嵌めて勝つ。

 そんなメグの信条を脳裏で誦じて、自分はまだまだ未熟なのだと、真正面切っての戦い以外が苦手なのだと嫌が応にも見せつけられた現実に、アヤノは少しだけ渋い顔をする。

 

「そんじゃカグヤ、行ってらっしゃい。邪魔者のアタシはここらで退散するからさ」

「メグ……」

「あ、あのっ!」

 

 そう言って踵を返したメグがひらひらと手を振って、雑踏へと溶け込もうとしたその瞬間だった。

 何か意を決したように、瞳に鋭い光を宿したユーナの声が、ラフにフライトジャケットを着こなした背中を呼び止める。

 

「ん、どったのユーナ? アタシはもう用無しのはずだけど」

「えっと……その、良ければメグさんもわたしたちのフォースに入ってくれませんか?」

 

 名前もまだ決まってないですけど、と付け加えながらもしっかりと、振り返ったメグの瞳を見据えてユーナはそう言い放つ。

 アヤノはその様子に一瞬目を丸くしたものの、それを誤魔化すかのように懐から扇子を取り出して開き、口元を覆ってみせた。

 実際、考えもしなかったことではあるが、ユーナの提案は決して悪いものではない。

 このままユーナとカグヤ、そしてアヤノの三人でフォースを組むことになった場合、いくらなんでも戦力が近接戦に偏りすぎていてバランスが悪い。

 それはあのシャフランダム・ロワイヤルで、偵察役を務めていたナスランが撃墜されたところから戦線が瓦解していったことからも明白であり、偵察役、そして斥候として優秀で、高い生存力を誇るメグがフォースに加入してくれたのであれば、その辺りのバランスは一気に改善される。

 ナスランが撃墜されたのは、セイバーガンダムという機動力に優れた機体で先行しすぎてしまったのが原因だが、幸いなことにメグのリーチや機動力はこれまた自分たちに近く、足並みを揃えやすいことも好条件だろう。

 とはいえ、ユーナが考えていたのはそういった戦力面での話ではないのだろうが。

 扇子を閉じて口元に当てると、アヤノは同じように目を丸くしているメグを一瞥して、去っていこうとしたその背中から感じた、寂しさの欠片を掬い取るようにそっと目を合わせる。

 どちらかといえば人の感情、その機微に対して無頓着な自分でさえはっきりとわかるほど、去っていこうとしていたメグの背中はしょぼくれていて、だからこそユーナもそれを感じ取って、手を伸ばしたのだろう。

 

「えっと……その、いいの?」

「何がですか?」

「勝ったからいいけどさ、アタシ、ユーナたちの門出を邪魔しようとしたんだよ? それに戦い方だってアンフェアだった。そんなアタシがフォースに入っていいわけ?」

 

 ただ、妙に頑固というか一本気なところもメグはカグヤによく似ていた。

 あえてその役を買って出たとはいえ、邪魔者をやっていたという自覚は大いにあって、戦い方だって、真正面からぶつかれば勝てないと分かっていたからこそ不意打ちを繰り返すような、どちらかといえばダーティな戦法をとっていたのだ。

 それなのに、嫌な顔一つせず、そんな自分をフォースへと招き入れようとしてくれているユーナは、よっぽど大物なのかそれともアレなのか、メグは計りかねている様子だった。

 

「全然オッケーです! だって……メグさん、カグヤさんと一緒にいたいんですよね? それにわたしだって、メグさんとお話しするの、楽しかったから!」

 

 曇りなく、そして淀みなく笑っているように見えるユーナの笑顔には、どこか「別れ」に対しての忌避が滲んでいる。

 傍観者に徹していたアヤノでも、それが一体なんなのかはわからない。

 ただ、知ってはいけないし、安易に知ろうとしてはいけないようなことであるというのは、なんとなく察せられた。

 元気と愛嬌にそんな一欠片の何かを封じ込めて、ユーナは今日も笑っている。

 そしてメグも──図星だったのだろう。

 どこか心配そうに見つめるカグヤと視線を合わせると、メグははらり、と一雫の涙を零して、ジャケットの袖でごしごしと目元を拭う。

 

「あっはは……参ったなぁ、完全に見抜かれちゃってる。ウケる」

「拙も……メグと一緒に、そしてアヤノさんとユーナさんと一緒に戦えるのであれば、これ以上の喜びはありません。どうでしょうか、アヤノさん?」

 

 先ほどから沈黙を保って、傍観していたアヤノに最終解答を求めるかのように、カグヤはそう問いかける。

 とはいえ、もう意志は固まっていた。答えは、決まっていた。

 

「ええ。私としても……ユーナがそれでいいのなら、異存ないわ」

「やったぁ! ありがとう、アヤノさん!」

 

 少なくとも今、自分がGBNを続けている理由は、剣豪たちに巡り合うためではなく、この太陽のように明るく、それでいてどこか抜けている少女と──ユーナと、放課後の時間を過ごすためであることは、アヤノとしても認めるところだ。

 だからこそ、ユーナの理由は自分の理由だ。

 それは不確かで、不完全で、きっと誰かが見れば過ちだと評するのかもしれないけれど。

 少なくとも今この瞬間、アヤノにとってはそれが全てだった。

 

「よーし、それじゃあ……フォース、結成だ!」

 

 アヤノとカグヤ、そしてメグをメンバーに加え入れて、今度こそユーナはフォース結成の申請ボタンに手をかける。

 問われた名前の答えも、ユーナの中では決まっていた。

 

「フラグメンツ……フォース、ビルドフラグメンツ! どうかな!」

「造られた欠片、か……いいじゃん。風情あって」

「欠片……縁もゆかりもないですが、こうして巡り会えた拙たちには良い名前だと、そう思います」

「ええ、私も……そう思うわ、心から」

 

 ばらばらに、電子の海を漂うひとひらの塵に過ぎなかった自分たちがこうして寄り集まって、一つになる。

 だからこそ、ビルドフラグメンツ。寄り集まって、形を成した欠片たち。

 誰もその名前に異を唱えることなく、二度目のフォース申請は恙無く受理されて、ユーナたちは晴れて一つのフォースとなった。

 

(──ありがとう、ユーナ。ありがとう、アヤノ)

 

 違いがあるとすれば、三人が四人に増えたことで。

 それは、決して悪いことなどではなく、むしろ喜ぶべきことだった。

 涙を零すメグの手を取り合って、ユーナたち三人は笑う。

 そして、いつしかメグの涙も乾いた時、「ビルドフラグメンツ」は、寄り集まった欠片(フラグメント)たちの縁は、一繋ぎの輪を、形作るのだった。




それは、寄り集まった欠片たち。


二十一話にしてフォースを結成する話があるらしい
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