ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント 作:守次 奏
『ええい、連邦のモビルスーツは化け物か!?』
漆黒の宇宙を縫うように、細かなマニューバを繰り返す真紅のガンダムMk-Ⅱ──ガンダムMk-Ⅲ8号機と同様のカラーパターンに塗り替えられたそれを駆る、クワトロ・バジーナとよく似ていながら、顎がしゃくれているダイバールックの男は、光の翼を広げて己に食い下がってくるクロスボーンガンダム、その威容に戦慄する。
フォース、「CAA」──シャア・アズナブル・アライアンスの略称であるところのそれは、男、クアドラ・バナージが所属しているフォースにして、メンバー全員がシャアやクワトロの格好や言動に扮してロールプレイをする、いわゆるなりきりフォースの一つだった。
アクティブ二千万人という膨大なユーザーを抱えるGBNにおいて、こうしたなりきりやロールプレイを重視したフォースの存在は決して珍しいものではなく、例えば「SAA」、「CAA」の由来ともなったセシア・アウェアのなりきりフォースや、ガンダム作品の各種仮面キャラに扮する「鉄仮面ズ」辺りが有名どころだろうか。
もっとも、SAAを有名にしているのは、セシアに留まらない領域の、なぜそれをセシアと言い張る勇気を持っているのかと問いかけたくなるようなダイバールックをしたメンバーが多いからでもあるのだが──そんな事情はともかくとして、クアドラの眼前にいる「光の翼を広げるクロスボーンガンダム」は、そんな怯えごと愛機を両断しようと、両手に構えたバタフライ・バスターBを振るう。
フォース、「ビルドフラグメンツ」。
それこそが今、クアドラたち「CAA」がたたかっているあいてにして、先日結成されたばかり、出来たてほやほやの新米フォースだった。
『ええい、認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものは!』
「……クロスボーンガンダムX0はセルピエンテ・タコーンのMSだし、それはクワトロじゃなくてシャアの台詞じゃないの?」
どちらかといえばクワトロ・バジーナのロールプレイをしているつもりのクアドラがぼやいた台詞に対して、返す刀で振るわれたビームサーベルを受け止めながらそのクロスボーン、クロスボーンガンダムXPの主であるアヤノは呆れたように首を傾げる。
クアドラが「ビルドフラグメンツ」に戦いを挑んだ理由は至極単純であり、先日メグが密かに配信していた「ELダイバー争奪戦」の生放送を見て、アヤノやユーナ、そしてメグの奮戦に触発されたからなのだが、正直にいってしまえば、彼女たちを侮っているところがないとはいえなかった。
要は冷やかし半分で「君たちの実力を我々に見せてはくれないか」と啖呵を切ったのはいいのだが、開幕を飾ったメグのジャミングと撹乱戦術によって、メンバーはバラバラに分断されて、クアドラはアヤノとの一騎討ちを強いられているのだ。
もちろん、アヤノからすればそんなクアドラたち「CAA」の事情など知ったことではなく、ただ、喧嘩を売ってきた以上は倒すべき敵として淡々と戦うだけの話でしかない。
「とうっ、わたし、キーック!」
右手を見れば、無重力が支配する宇宙空間に、粒子による炎の足場を形作ると、ユーナはそれを勢いよく蹴って、オールレンジ攻撃によって自分を追い詰めていた、シャア専用ザクとよく似たカラーパターンにリペイントされたジオングへと急接近する姿がある。
「貴方たちに恨みはありませんが……拙の前に立ちはだかるのならば、斬り捨てさせていただきます!」
『ええい、打ち所が悪いとこんなものか!』
そして、同じように、その傍ではカグヤがシャア専用カラーにリペイントされたキュベレイのオールレンジ攻撃を、巧みなマニューバでもって掻い潜りながら、愛刀「菊一文字」による目にも留まらぬ一撃で肩部バインダーを言葉通りに一刀両断、後隙も残すことなく背後を狙ったビットまで斬り捨てて、勢いのままにシャア専用キュベレイの懐へと飛び込んでいく。
『クアドラ、味方からの支援はまだか!』
シャア専用キュベレイを駆るダイバー、フィアー・アズナブルはコンソールに向けて思わずそう叫んでいたが、ブロックノイズを出力する通信ウィンドウの向こうにその言葉が届くことはなく、その事態を生み出した元凶であるところの忍者──G-フリッパーを駆るメグは、ミラージュコロイドを駆使して巧みに逃げ隠れを繰り返しながら、シャア専用ディジェとの一騎打ちを展開している。
CAAの作戦はシンプルなものだった。
機動力を活かした連携によって撹乱、そして相手がまごついて一塊になったところを、最後方に控えている狙撃手──CAAが擁する隠し球である、シャア専用カラーに塗り替えた百式が放つメガ・バズーカ・ランチャーの一撃で一網打尽にする。
五対四という数の上でのアドバンテージも活かした、まさに完璧な作戦だったはずなのだが、その企みは他でもないあのギャル忍者が初手に放ったハイパー・ジャマーによって容易く瓦解してしまった。
『ええい、支援を待っている時間もない! 避けろ、クアドラ! フィアー、スー!』
そして、最後方にポツンと一人取り残されていたシャア専用百式を駆る男、ショア・アゴナブルは痺れを切らしたように、照準がまともに定まらないメガ・バズーカ・ランチャーを照射するのだが。
『エリィちゃんは私の母になってくれるかもしれない女性だ……ッ!?』
『フィアー!? ええい、味方に当たるとは何を考えている!』
そのエリィと呼ばれた女性の恋人である女性こと、「リビルドガールズのアイカ」が聞いたら問答無用でコックピットをぶち抜かれているであろう断末魔を残して、フィアーが操るシャア専用キュベレイが光の本流へと呑み込まれ、テクスチャの塵へと還っていく。
「たーまやー、ってね!」
『冗談ではない!』
シャア専用ディジェを駆るダイバー、シェア・ラズナブルはモニターを殴り付けながら、メグが口にしていた皮肉へ怒りも露わにサイコ・フレームを起動させると、機体が自壊するというリスクも厭わず真っ直ぐに突っ込んでいく。
しかし、ミラージュコロイドで姿を消したり表したりを繰り返しているメグに、ただ直線機動で突っ込むだけの刃が届くはずはなく、凄まじいまでの機動力に留まらず、超絶的な反応速度までも獲得したその代償として、ガリガリと削れていく装甲値を一瞥して、シェアは眉間にシワを寄せる。
アサシンやシーカーは隠れ、逃げ、潜むことで自らの手管に相手を嵌めて勝つのが常套手段であることは理解している。あれはあくまで自らを苛立たせ、冷静さを欠かせるための作戦であると、頭ではそう理解していても、シェアの激憤が治ることはなかった。
大振りに振るわれるビーム・ナギナタは気配を読むどころか、当たりもつけずにただ周囲を薙ぎ払うだけで、その刃は何も捉えることをしない。
だが、メグのミラージュコロイドとて無敵の武装ではない。
確かに展開している間は、スラスターの噴射光などは隠せなくとも、機体を完全に透明化して、レーダーにも映らないという特性を得るのがミラージュコロイドの強みだが、その代償として設定されているのは膨大なクールタイム、リキャストに必要な時間だ。
そして、それをわかっていないメグではない。
「悪いけど、アタシとG-フリッパーの付き合いも結構長いのよね……っと!」
だからこそメグは、残り少なくなってきたミラージュコロイドの展開時間を一瞥すると、賭けに出ることに決めた。
あのメガ・バズーカ・ランチャーの一撃でシャア専用キュベレイが自滅してくれたおかげで数のアドバンテージは消失しているし、相手取っていたカグヤにも事前に敵が強力な兵器を持っている、という予想を伝えていたことで「ビルドフラグメンツ」の被害は軽微だ。
ならば、ここで取り返すべきはただ一つ。
反攻に転じるためのアドバンテージだ。
メグは乾いてきた唇を舌先で湿らせると、がむしゃらにビーム・ナギナタを振るうシャア専用ディジェの前にあえてその姿をさらけ出してみせる。
「こほんっ……ええい、誰を狙っている!」
『クアドラ!? すまない、こちらとしたことが……』
「なーんてね、隙あり天誅っ、と!」
『なっ……』
こほん、とわざとらしく咳払いをしてみせると、通信で聞いた「クアドラ」の声真似をして、メグはそう叫んでいた。
確かに姿は表した。表したのだが、それがG-フリッパーのありのままであるとは誰も言っていない。
そうとでも突き付けるかのように、ミラージュコロイドを投影に用いることでクアドラの操るシャア専用ガンダムMk-Ⅱに成り済ましていたメグが、クナイをシャア専用ディジェのコックピットへと突き立てる。
その一撃は寸分の狂いもなく、コックピットが配置されている頭部を貫いていたが、サイコ・フレームの反動によって限界が近かった装甲ではどの道コックピットを外れていても受け止めきれなかっただろう。
ともすれば外道とも呼ばれかねないその戦術を臆することなく敢行してみせたメグの豪胆な一面と、そして異様に似ていた声真似に目を白黒させつつも、当初の目的通りアヤノもまたクアドラ当人が操るシャア専用ガンダムMk-Ⅱを追い詰めていく。
「これで……!」
『ええい、シールドを持っていかれたか、ままよ!』
バタフライ・バスターBの強みは、ライフルとしても使えることだ。
光の翼を展開している自分と互角の機動戦を繰り広げているクアドラの技量に舌を巻きつつも、アヤノの執念は確実に、じわじわと真綿で首を絞めるかのように彼とその愛機である真紅のガンダムを追い詰めていた。
盾を失ったことで、ビームライフルの予備Eパックとシールド・ランチャーをロストしたシャア専用ガンダムMk-Ⅱは、射撃戦を諦めたかのようにビームサーベルを展開すると、アヤノとのドッグファイトに最後の望みを託す。
即座にザンバーモードへと変更したバタフライ・バスターBと、クアドラのビームサーベルが激突し、火花を散らすが、単純な出力だけを見るならば、クロスボーンガンダムXPのそれはシャア専用ガンダムMk-Ⅱを上回っている。
『何を! ビームが、斬られる……!?』
「これはバタフライ・バスターB……つまり元はビーム・ザンバーよ」
ヴェスバーをそのままビームサーベルへと転用したのにも等しい、ビームシールドを上から叩き切ることができるほど高いビーム・ザンバーの出力によるアドバンテージは、宇宙世紀0153年においてはほぼ完全に失われていたものの、ここは宇宙戦国時代ではなくGBNだ。
機体の造り込みが追い付いているのであれば、フレーバーテキストとしての設定もある程度は反映されてくれる。
じりじりと押し返されていくシャア専用ガンダムMk-Ⅱを横目に、アヤノはメグからのデータリンクでリアルタイムに反映される戦況を一瞥するが、盤面だけを見ればほとんど勝利したといっても差し支えはない。
ユーナもシャア専用ジオングを、オールレンジ攻撃を封殺できる距離まで追い込んで、格闘戦で圧倒しているし、残ったシャア専用百式はまごついている間にカグヤが一刀両断、自慢のメガ・バズーカ・ランチャーもリキャストを待つことなくテクスチャの塵へと還る。
それは、クアドラの機体も同じであり、じりじりと追い込まれたシャア専用ガンダムMk-Ⅱは構えたビームサーベルごと、バタフライ・バスターによって両断された。
『サボテンが花をつけている……見事だ、「ビルドフラグメンツ」』
「……よくわからないけど、どうも」
原作を見てもいまいちその意図を理解できなかった台詞を褒め言葉として、最後に残ったクアドラが爆散して、宇宙の藻屑と化していく。
【Battle Ended!】
【Winner:「ビルドフラグメンツ」!】
そして、無機質なシステム音声が勝利を告げることで、アヤノたちの、フォースとしての初陣は見事な完勝で飾られたのだった。
◇◆◇
「いやー、重畳重畳。いい画撮れたよ、アヤノ、ユーナ!」
CAAとの初陣を終えた後日、セントラル・ロビーに帰還したアヤノたちは、デフォルトで支給される小さなフォースネストに身を寄せて、メグが編集していた初陣の動画を見て、感嘆の声を上げていた。
「わぁ、すごい! メグさんたちの活躍がバッチリ映ってます!」
「……本当ね。というか貴女、声真似なんてできたの?」
「もち。これでも元演劇部だからね……っと、リアルの話は御法度ってユーナに言っといてダメだね、今のなし。それよりアヤノもユーナも、本当に動画に映っていいの?」
争奪戦をひっそりと配信していた負い目はあれど、正式に「ビルドフラグメンツ」としてフォースを組むことになった手前、G-Tubeへの動画の掲載はメンバーからの同意を得なければいけない、ということで、メグはアヤノとユーナに自ら編集した、アップロード前の動画を披露していたのだ。
「ええ、構わないわ。特に不利益も浮かばないし」
「わたしも全然オッケーです! 元気に頑張るからがんがん載せちゃってください!」
「あっはは、ありがと。アヤノ、ユーナ。カグヤも許可くれてありがとね」
「拙は未熟ゆえに気恥ずかしくはあるのですが……メグが望まれるなら、それに応えないわけにはいきません」
「いやー、ほんっと助かるよ、皆! ありがとねっ!」
どういうわけか、先日配信していたカグヤ争奪戦の再生回数がリアルタイムで五万を超えたこともあって、中々鳴かず飛ばずの状況が続いていたメグのチャンネルは、登録者数が急激に増えていた。
CAAが興味を持ってくれたのもカグヤ争奪戦がきっかけであり、そういう都合で相手からも事前に許可を貰っていたことも手伝って、メグは期待半分不安半分に胸を高鳴らせながら、出来立ての動画をG-Tubeへとアップロードする。
「『フォース結成記念! ガチで「赤くて速い」彼らとバトってみた!』ね……動画の類についてはよくわからないけど、中々良いペースで再生数が伸びているんじゃないかしら」
「どれどれ……? うわっ、マジだ! 新着欄乗ったからってのもあるんだろうけど、こんなの初めて……」
更新をかける度に大きなスパンで増加していく数字を眺めながら、メグは期待していた状況が訪れたにもかかわらず、むしろその現実を飲み込まないまま目を丸くしていた。
メグの存在とあの戦いがG-Tuber発掘スレで取り上げられたことで人々の耳目を集めた、というのもあれば、元々ギャルで忍者で配信者、という彼女のパーソナリティは、配信者たちの中でも類を見ないものであり、数に埋もれてこそいたものの、磨けば光る素養はあったのだ。
『百式がキュベレイにFFかましてて草生えますよ』
『原作の因縁かな?』
『カミーユ、避けろ! 外れた!?』
『↑イヤァァァァ!!!』
『声真似からのアンブッシュ……汚いなさすが忍者きたない』
『↑汚いは、褒め言葉だ……!』
『光の翼とクロスボーンガンダム組み合わせるのいいよね……』
『いい……』
『刀一本とステゴロでオールレンジ機追い詰めるとかマジかよ』
画面の外枠に設けられたコメント欄に寄せられた文字列の数々を読み上げながら、メグは込み上げてくる喜びに、そしてアヤノとユーナ、カグヤは未知の文化に触れたカルチャーショックに目を見開いていたが、そうしている間にも瞬く間にコメントは増えていく。
「うわ、Gチャも来てる! うぅ……ありがと、アヤノ……」
「……何故、私にお礼を?」
「だってぇ、『ビルドフラグメンツ』に入らなかったらアタシ、きっと一生鳴かず飛ばずで終わってただろうし……それにアヤノ、このフォースのリーダーっしょー?」
微かに涙ぐんで、鼻声でメグはアヤノへとお礼の言葉を捲し立てていたが、そんな彼女の熱量に反して、アヤノはどこかすっとぼけたように、頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
「……私、リーダーではないけど」
「えっ」
「えっ?」
こうして、初陣も、それを記録した動画も順調な滑り出しを見せた「ビルドフラグメンツ」だったが、戦っている間のチームワークに反して、どこかコントじみた噛み合わないやりとりを繰り広げながら、アヤノとメグは互いに小首を傾げるのだった。
スタートダッシュした後ずっこけるような
Tips:
「CAA」……シャア・アズナブル・アライアンスの略称であり、メンバー全員がシャアないしクワトロのロールプレイをしているフォース。カグヤ争奪戦を経て「ビルドフラグメンツ」に興味を持ったことで、その初陣の相手となった。
「SAA(出典:X2愛好家様作「GBN:ダイバーズコンピレーション」)」……セシア・アウェア・アクターズの略称で、全員がセシア・アウェアやセシアシリーズに扮したなりきりフォースの一つ……なのだが、中にはどこがセシアなのかと小一時間問い詰めたくなるような個性的なメンバーを擁するフォース。