ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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方向性の違いから初投稿です。


第二十三話「わたしがフォースのリーダーです」

「えっ?」

「えっ」

 

 異口同音に言葉を発して、アヤノとメグはフリーズする。

 それもそのはずである。メグは今の今までアヤノがずっと、「ビルドフラグメンツ」という名前が決められるまで、三人で過ごしていた時もリーダーをやっていたのだと思い込んでいたし、当のアヤノ本人はそんなことを微塵も思わずにやってきたのだ。

 船頭多くして船山に登る、ということわざの通り、あまりリーダーに立候補する人間が多すぎてもままならないのが組織であるなら、リーダーを志願したがらない人間が多すぎても立ち行かないのもまた組織であり、それはGBNにおいても全く同じことだ。

 フォースの方向性。

 なんとなく、そして理由もなく集まった四人だからこそ考えなければいけないのかもしれない、と、フリーズしていた思考回路が再起動していく中で、ぼんやりとそんなことを考えながらアヤノはばさり、と、懐から取り出した扇子を開いた。

 

「拙も、アヤノさんがリーダーだと思っていたのですが……」

「わたしもわたしも! だってアヤノさん、リーダーっぽいでしょ?」

 

 カグヤとユーナもどうやらメグに同意するところだったようで、認識の違いを抱えているのが自分一人であるという事実に軽い目眩を覚えそうになりながらも、アヤノは扇子を閉じてふぅ、と、小さく息をつく。

 

「……私は、皆が思うほどリーダーに向いた人間ではないわ」

 

 都合よく解釈するのであれば、メグたちは自分の実行力を高く買ってくれていたからこそ、リーダーとして名前を挙げてくれたのかもしれない。

 だが、組織をまとめ上げるリーダーに求められるのは行動力だけではない。

 方向性を定めていくクレバーさも必要なら、何よりも部下をまとめ上げる求心力。それこそがリーダーという立場に求められる責任と能力であり、その両方を兼ね備えているのが例えば「クジョウ・キョウヤ」や「ロンメル」といった実力派フォースのリーダーだといえばわかりやすいだろう。

 そういう意味で、アヤノは自分には求心力、つまるところカリスマが欠けているというのは自覚していたし、何よりも。

 

「このフォースを組もうと提案してくれたのはユーナ、貴女でしょう?」

「えっ? 確かにそうだけど……」

「なら、このフォースは……『ビルドフラグメンツ』は、貴女という旗のもとに集ってきたといってもいいわ。そういう意味で私は、このフォースのリーダーは貴女だと思ってる」

 

 それは嘘偽りない、アヤノの本心だった。

 現状、「ビルドフラグメンツ」が、「AVALON」や「第七機甲師団」、「BUILD DIVERS」のように、実力派としてこの修羅がひしめくGBNの巷を駆け上がっていこうという方針を打ち出しているわけではない。

 放課後のちょっとした集まり、その延長線としての時間を大事にしたい、と、少なくともアヤノはそう思っている都合、フォースリーダーという役職も事実上有名無実なもので、何かしらの面倒がそこに付き纏っているわけでもなかった。

 だからといって、お飾りのリーダーです、と最初から自分が望まれた通りにその役割を引き受けるのは士道不覚悟、というよりは自分の信条に反する気がして、どうにも落ち着かない。

 故にこそ、リーダーには相応しい人材が選ばれるべきだ。

 そう考えて、アヤノはユーナを、自分を含めた三人をフォースとして寄り集めたそのカリスマを買った上で、フォースリーダーに相応しいと定めていたのである。

 

「うーん……確かにアヤノの言うことも一理あるね、アタシを引き止めてくれたの、ユーナだし」

 

 言い出しっぺであるはずのメグも、豊かな胸を支えるように腕を組んで頻りに頷きながら、アヤノの言葉へと同意を示す。

 どことはいわないし何ともいわないが、自分との圧倒的な格差に若干愕然としながらも、アヤノはメグが同意を示してくれたことにほっと安堵の息をついていた。

 実際、自分がリーダーであったとしたなら、メグをフォースに迎え入れていたかどうかについては微妙なところだ。

 それはメグが嫌いだから、とか、ダーティな戦法で翻弄された意趣返しだとかそういう話ではなく、あくまでもメグ自身があの場で去る、という選択をしたなら、それを尊重するという方向性でのことである。

 だが、ユーナは去っていくメグのことを引き止めて、フォースに迎え入れるという選択をした。

 それは紛れもなく自分にはできないことだと、アヤノはそう思っている。

 そんなユーナだからこそ、誰の手も手放すことをよしとしないユーナであるからこそ、この「ビルドフラグメンツ」を引っ張っていくのには相応しいのだ。

 無論、リーダーとしての実行力であるとか、相手との交渉であるとか、そういう細かなことが苦手なのもわかっている。

 だからこそ自分は、裏方としてユーナをサポートすればいい。

 それが、アヤノの考えだった。

 

「リーダー、リーダー……うーん……上手く言えないけど、その、わたし、バカだから。そういうの向いてないと思うよ、アヤノさん?」

 

 アヤノからの推薦を受けたユーナは、彼女にしては珍しく、何かを誤魔化すように曖昧に笑うと、そんな風に自虐をしながらぷい、と目を逸らしてしまう。

 実際、自分の頭の出来がそんなによろしくないということはユーナも理解しているところだった。

 国語のテストは壊滅的だし、その他のテストだってちんぷんかんぷんで、数学の文章題に至っては何を問われているのかさえわからない。

 かろうじて得意だといえるのは社会だとかそういう、暗記してヤマを張りさえすれば大体なんとかなる科目だけだし、何より自分が賢かったら、ログイン初日にあのミノタウロスに騙されて、ヴァルガなんぞに飛ばされていない。

 そこから助けてくれたのはアヤノだったし、今までGBNを続けてこれたのもアヤノがいたからだ、というのがユーナの本心であり今の嘘偽らざる気持ちだ。

 だから、ユーナにとって「ビルドフラグメンツ」のリーダーはアヤノ以外にあり得ないと思っていたのに、そのアヤノはユーナこそがリーダーに相応しいと言っているのだから、困惑する他にない。

 実際のところ、フォースリーダーという役割が今のところそこまで重要ではないということぐらいは、アホの子なユーナ自身もよく理解している。

 ただ、心構えの問題だった。

 頑として譲らないアヤノの雰囲気に気圧されそうになりながらも、ユーナもまた彼女にしては珍しく、リーダー就任を頑なに拒み続けている。

 

「え、えっと! カグヤさんはどうかな! わたしってそんな、リーダー、って柄じゃないと思うんだけど……」

「拙……ですか? 拙は、アヤノさんの意見にも一理あると思いますが……」

「がーんっ、わたし一人!?」

 

 カグヤの控えめながらも確かにアヤノへの同意を示す言葉に、先ほどとは打って変わって、自分がぽつんと一人少数派になってしまったことを理解して、ユーナは目を白黒させる。

 リーダー。そこに責任が伴っていなかったとしても、自分は。

 ユーナは足元に横たわっている過去に想いを馳せながら、そっと静かに俯いた。

 

「どうしてもやりたくない、というなら私が引き受けてもいいけど……私は貴女がいてくれたからGBNを続けられているのよ、ユーナ」

「……アヤノさん……?」

「……あまり、自分の話をするのは得意ではないし、自慢できることでもないのだけれど……私は、飽き性で、臆病だから」

 

 GPDの大会を見て、第七回世界大会において活躍したあの侍に憧れたことで、クロスボーンガンダムXPを作り上げたのは確かな事実だ。

 だが、アヤノは──かの「サムライ・エッジ」が引退してしまったことにショックを受けたこともまた事実なのだが、心のどこかではGPDという競技に対して恐れを抱いていたこともまた事実であり、そして年を追うごとに憧れだけは燻り続けても、モチベーションの核となる熱が失われていったこともちゃんとわかっていた。

 だから、GBNを始めた理由だって最初は与一への義理立てのようなものだった。

 ずっと沈み込んで憧れを燻らせている自分に、「剣豪と巡り逢い、戦いができる場所」として、詳しくないにもかかわらずGBNを紹介してくれた与一に対しては、感謝している。

 だが、それでも今このゲームを続けている理由がなんなのか、電子の海を漂い続けている意味がなんなのかと問われれば、それは始めた当初とは打って変わって、「ユーナという親友がいてくれるから」というものになっていることもまた、嘘偽りのないアヤノの本心だった。

 それをあえて言葉にするのはまだ気恥ずかしいものの、それでも、そんな飽き性で臆病な自分がGBNで虚勢を張り続けられるのも、全てはユーナと一緒に、初日でヴァルガに飛ばされたからで、そして、そこで彼女の力になりたいと思ったからで。

 今にも頭からは湯気を噴き出しそうで、頬が、耳が、かあっと赤くなっていく。

 そうして桜色に染まった頬を包み込むように、アヤノは扇子を開いて顔を覆い隠した。

 アヤノが臆病だ、とはユーナも思っていなければ、カグヤもメグも、その言葉には懐疑的だったものの、本人が顔を真っ赤にしてでも打ち明けたのだから、それは恐らく事実なのだろう。

 冷静かつ豪胆で、物怖じしないアヤノを知っている三人からすればそれは意外なことであったが、逆にいえばそれは、アヤノという人間について、ユーナたちはそれしか知らなかったということでもある。

 それもそのはずだ。

 たまたまGBNという電子の世界で巡り会っただけの相手について、一体どれほどのことがわかるというのだろう。

 メグたちがアヤノのそんな一面を知らなかったように、アヤノもまたメグの抱えている一つの「秘密」を知らない。

 それは、ユーナも同じことだ。

 だとしても──それでも。

 はっ、と、ユーナが目を見開いて俯いた顔をあげれば、そこには困ったように、だけど優しく微笑んでいるカグヤと、その横で何か思うことがあるのか、苦笑しながらも頷いているメグと、そして真っ赤になった顔を隠したアヤノがいる。

 そこには誰一人として、怒ったり、剣呑な雰囲気を漂わせている者はいない。

 もしも自分がリーダーを名乗ったとしても、アヤノも、カグヤも、メグも、それを咎めることはしないだろう。

 ユーナは少しだけ考える。足りないとわかっている頭をフル回転させて、自分が本当に相応しいのかどうか、そして何より、きっと打ち明けたくなかったであろうことを打ち明けてくれたアヤノの勇気に報いることができるのかどうか。

 ──踏み出した先に、道があるとは限らない。

 そんなことは、嫌というほどよくわかっている。

 昔のゲームに、透明になっている道を歩かせて離れ小島のような向こう岸に辿り着かせるギミックがあった。

 それは正解のルートから一歩でも外れてしまえば、下の階層に戻されてしまうというギミックが付随していて、ひどい時は一階からまた登り直し、ということだってある。

 それでも、登り直せるだけ、やり直せるだけゲームの方がまだマシだ。

 一度この世界で足を踏み外してしまえば、選択肢を間違えてしまえば、そこから正規ルートに復帰することがどれだけ難しいか。

 そして、その過ちにどれだけの代償を払わされるか。

 ユーナは、誰よりもそれをよくわかっていた。

 無責任だと、無神経だとアヤノのことを罵ることだってできただろう。

 それでも──理由を探してみれば、今自分がGBNを続けていられるのだって、あの時アヤノが助けてくれたからで、そして「友達」として楽しく、放課後の時間を過ごさせてくれているからで。

 ごくり、と生唾を呑み込むと、ユーナは一歩前に出て、ようやく気恥ずかしさが落ち着いたのか、火照りを覚ますようにセンスで胸元を扇ぐアヤノへと向き合った。

 

「アヤノさん」

「どうしたの、ユーナ」

「……えっと、わたし、頭良くないから、バカだから、伝わらないかもしれないけど」

「……そんなことはないわ。遠慮なく言って」

「えへへ、ありがとうございますっ。えっと……アヤノさんがそこまで言ってくれるなら、その……わたし、リーダーやってもいいかなって!」

 

 意を決して、ユーナは高らかにそう言い放つ。

 その方が皆悲しまないし、何よりもアヤノがここまで自分なんかのことを買ってくれているのだから、その期待に応えないという方が失礼だろう。

 幸いなことにまだフォース自体の方針は決まってないものの、そこまでガチガチに頂点を目指してやっていこう、というわけではないのだから、雰囲気が悪くなるようなこともないだろう。

 

「……ありがとう、ユーナ。でも、忘れないで。私は……貴女がいるからここにいるの。貴女なんか、じゃないわ。貴女だからよ、ユーナ」

「アヤノさん……」

 

 それはほとんど愛の告白に近いんじゃなかろうか。

 傍観者に達していたメグは、淡白に、それでもはっきりと自信を込めて、だけど無自覚にそんなことを言い切ってしまうアヤノの若さに苦笑しながら、それを見なかったことにして追従する。

 

「そうそう。さっきも言ったけど、ユーナがいてくれたからアタシはこのフォースに入れたんだし、おかげさまで動画も大盛況だかんね」

「拙も……上手く言葉にするのは難しいですが、メグと一緒にGBNを続けることができるのと、アヤノさんとユーナさんと一緒にGBNを続けられることが両立しているのは、とても喜ばしいことです」

 

 ──それもひとえに、ユーナさんがメグを引き止めてくれたからです。

 胸に手を当てて、しみじみと、カグヤは一言一言を噛みしめるかのようにそう言った。

 ビルドフラグメンツ。その名前はユーナがかの「BUILD DIVERS」を参考にして付けたものでこそあったが、確かにこうして俯瞰してみれば、自分を中心に寄り集まったというのも間違いではないのだろう。

 そして、ユーナ自身もかけがえのない欠片の一つとして、アヤノたちは快く迎え入れてくれている。

 

「わかりました! それじゃあ、今日から……わたしが『ビルドフラグメンツ』のリーダー、やっちゃいますっ!」

 

 元気いっぱいに、それだけの、たった一つの取り柄を御旗として掲げて、それを地面へと力強く突き立てるように、ユーナはそう宣言するのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「……あの、一条さん」

「どうしたの、優奈?」

 

 フォースの方向性、というよりはリーダーの決定で一悶着あってからしばらく、方向性自体は緩く、時にはメグの配信に合わせる形でやっていこうと定めた帰り道、落ちる夕陽が優奈が乗る車椅子を押す綾乃を照らす。

 そんな夕陽に映し出された優奈の表情はどこか曖昧で、ともすれば夜の帳と共に星空のスパンコールに覆い隠されてしまいそうなほどな脆さを綾乃に感じさせる。

 やっぱり、嫌だったのだろうか。

 自分がわがままを貫き通した形になったことにずきり、と罪悪感が痛みになって薄い胸を突き刺していく。

 沈み込む綾乃に対して、優奈は慌てて笑顔を浮かべると、そんなつもりじゃないんだとばかりに大袈裟な身振り手振りを交えて言い放つ。

 

「わわ、違うの、一条さん! その! わたし、嬉しかったんだ」

「……嬉しかった?」

「その……一条さんが、わたしがいたからGBN続けられた、って言ってくれたこと。だってわたし……ううん。とにかく、一条さんがそう言ってくれたの、本当に嬉しいんだ!」

 

 言い澱むことこそあったものの、じわり、と眦に滲んだ熱と、夕陽を映してきらりと光るプリズムは、それが嘘ではないと物語っていた。

 優奈の言葉に、綾乃はそっと安堵を覚えながら、ゆっくりと、この時間が過ぎることを惜しむかのように車椅子を押して、駅までの帰り道を歩んでいく。

 

「その……わたしもありがとう、優奈。貴女がいてくれて」

「えへへ……ありがとう、一条さん」

 

 その涙がどんな意味を持っているのかは、まだ問いかけることはできないけれど。

 そして、自分もまたそんな優奈の涙にもらい泣きしそうになっていることに、鼻の頭にじわりと熱が滲んでいることに気付いてこそいたけれど。

 綾乃は、優奈は、互いにそれを夕凪のせいにして、見て見ぬ振りをする。

 もうすぐ夜がやってくる。そう二人に囁きかけるかのように、初夏の香りと潮の匂いを乗せた海風が、そっと優しく頬を撫でるのだった。




わたしがリーダーです
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