ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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迷走初投稿mindです。


第二十五話「フォースの指針が決まらない」

「いやー、負けちった負けちった! 皆足速すぎっしょ!」

 

 優勝賞金である300万BCと、副賞のトロフィーを持ち帰って、ユーナたちがデフォルトで支給されているフォースネストへと帰還するなり、参加者が五十人近くいた中での十九位という、なんともいえない成績に収まったメグは苦笑混じりにそんなことを朗らかに唇に乗せ、言葉を紡いだ。

 実際、運動部でこそなかったものの発声練習や肺活量を鍛えるための走り込みなどそこそこメグも運動はできる方なのだが、スプリント序盤で駆け抜けていったアヤノとユーナ、そしてカグヤに比べればそれは誤差の範囲といってもよかった。

 

「ありがとうございます、メグ。拙は……ガンプラの組み立てで出遅れてしまいましたが、ユーナさんとアヤノさんの走りは見事なものでした」

 

 メグからの賛辞を素直に受け取ったカグヤは、最終的には三十八位という下から数えた方が早い順位になってしまったのだがそこはそれ、実際にガンプラを組み立てた経験があるかどうかが問われるチェックポイントのギミックにおいて、ELダイバーである自身はどうしても不利であるということは自覚している。

 だからこそ、この結果も納得がいくものだったが、それでも勝負事に負けてしまったという複雑な思いがカグヤの笑みからは滲み出ていて、アヤノはその向上心に思わず小さく唸っていた。

 ELダイバーは、何か強いダイバーの感情の残滓を糧に生まれてくると、調べて限りではそう聞いている。

 ならば、カグヤが求める「武」というのは案外、勝利の道にこそあったりするのではないだろうか──と、推論こそしてみたものの、指摘するのは無粋であるから、アヤノは閉じた扇子を口元に当てて曖昧に頷くことにとどめていた。

 強い感情、といえばカグヤもそうだが、何よりもユーナだろう。

 狭いフォースネストに副賞のトロフィーを飾って、どこか誇らしげに、というよりは何かそこに想いを馳せるかのように、黄金の輝きに映し出される自らの顔を見つめているユーナを一瞥して、アヤノはばさり、と扇子を開いた。

 

「その……驚いたわ、ユーナ」

「へ? わたし、何かしちゃった?」

「……あの土壇場でグレーゾーンとはいえ、空中で機体を加速させるなんて、思いもしなかったから」

 

 ナデシコアスロン、ひいてはその傍流であるナデシコスプリントにおいては、基本的に「相手への」攻撃行動はルールとして禁じられている。

 だが、それはロックオンマーカーが相手に向いていないことと、向いていなかったとしても範囲で巻き込むことができるサテライトキャノンやツインバスターライフルといった戦略兵器の使用を禁じているだけで、アヤノがやっていたように、攻撃判定を持つ加速装置である光の翼の展開や、ガンダムAGE-2ダークハウンドのように、機体を変形させてから始動するハイパーブーストのような加速機能の展開までは制限されていない。

 つまり、蹴りのモーションをとっていたとはいえ、あの粒子の爆発を利用して、それを帆のように活用することで空中での急制動と急加速を両立させたユーナの技も、ギリギリではあるがレギュレーションに収まっている、ということだ。

 

「あっ……そっか、えへへ。わたし、夢中で何も覚えてなくて……」

「……そう」

「でもでも、ああでもしないとアヤノさんには追いつけなかったから、アヤノさんも凄いんだよ!」

 

 虚空に視線を逸らして苦笑を浮かべると、ユーナは一転して、二着という結果にこそ終わってしまったものの、奮戦したアヤノの健闘に惜しみのない賛辞を送っていた。

 それはどこか、強引に話題を逸らしているかのようにも見える。

 いつもと変わらない、爛漫の春にも似た笑顔を浮かべるユーナを注視しながら、アヤノはそんなことを考える。

 思えば、自分はユーナについてどれくらい知っているのか。

 明らかにVR適性という言葉だけでは説明しきれない序盤のスプリントでの先行逃げ切り、ダイバー姿での走りをそこに思い浮かべながら、訝るようにアヤノは再び開いた扇子で口元を隠しながら小首を傾げた。

 

(……まあ、話したがらないということは、訊かれたくない、ということよね)

 

 ユーナの性格は良くも悪くも裏表がない。

 それだけは確実に知っていることだといえたし、そんなユーナが積極的に自らの勝利について語りたがらないなら、それをわざわざ掘り返して理由を問い詰めるのも野暮というものだ。

 だからこそ、アヤノはそんな些細な不和に、少しの歪みに、見て見ぬ振りをして、自らが貰った準優勝商品である盾を、フォースネストの片隅にそっと飾るのだった。

 

「私は、それなりに鍛えていたから……でも、それはともかくとして、優勝賞金を手に入れたということは、フォースネストも買えるんじゃないかしら」

「そういやそうだね! あっはは、すっかり忘れててウケる」

「言い出しっぺは貴女でしょう、メグ……それで、どんなフォースネストを買いたいの?」

 

 何はともあれ、「ナデシコスプリント」では味方同士での戦いという形になってしまったものの、その目的としては誰か一人でも優勝を果たして、賞金の300万BCをフォースネスト購入に充てる、というのが当初の目的であった以上、それが果たされたのは喜ばしいことだろう。

 自分としては、別に狭苦しい今のフォースネストでも不自由はしていなかったものの、やはり年頃の女子四人が集まるとなればこのデフォルトで支給された部屋は狭すぎる、というのが大方の意見である都合、リーダーであるユーナの意見も含めて伺うべく、三人を一望してアヤノは問いかける。

 

「拙も、特に希望はありません。鍛錬ができる空間があるならそれに越したことはありませんが……すみません、こういうことには疎いもので」

「いえ、貴女の意見も貴重な意見よ、カグヤ。トレーニングスペース……メグ、貴女としてはどう思うの?」

 

 ナデシコスプリントに出ようと言い出した発端であるメグを見据えてアヤノは問いかけたが、当の本人は小首を傾げて小さく唸るばかりで、中々答えを見つけられていないようだった。

 

「うーん……正直言っていい? なんも考えてなかった」

「ずこー!」

 

 あっけらかんと言い放ってからけらけらと笑うメグに合わせるかのように、次は自分の番かと身構えていたユーナがそれはもう盛大にずっこける。

 アヤノは目も当てられない、といった様子で扇子を閉じて目頭を抑えると、ユーナと同じように、盛大にずっこけてしまいたくなる気持ちを心の片隅に仕舞い込んで、小さく深呼吸をする。

 フォースを組むことはスタート地点であってゴールではない以上、フォースネストの購入についてもそれは似たようなものだ。

 フォースネストを購入しているダイバーは、個人勢も含めて多かれ少なかれ何かしらの目的があったから購入しているわけで、一応発端となった「狭苦しい」ことも買い換えの理由には当たるのだろうが、じゃあどんなネストに買い換えるのか、と問われた時の結果が、現状を示しているのだろう。

 

「あっはは、ごめんごめん。アタシも色々カタログとか眺めてたんだけど、いざ買える、ってなると迷っちゃうんだよねー」

「わかります! 高いお買い物ってそんな感じですよね、メグさん!」

「メグ……ユーナさん……」

 

 呆れて苦笑するカグヤに、アヤノとしても同意を示したいところであったが、自身としてもそういう体験に覚えがある以上強くはいえない。

 ガンプラの版元である企業の別事業部が展開している、合金製の関節を使用していることがウリの高級玩具で、クロスボーンガンダムシリーズに再販がかかった時、欲しかったし、そのために貯金もしてきたはずなのにそれはもう悩みに悩んで、結局受注締め切りギリギリまで購入を渋っていたという過去がアヤノにもある。

 

「んー、どんなフォースネスト、かぁ……言われてみるとけっこーむずくない? ほら、あの『ビルドダイバーズ』はリゾート船みたいなとこを拠点にしてるって聞くし、アタシのフレンドは喫茶店みたいなフォースネスト拠点にしてるって聞くし」

 

 そういや例のミッションクリアしたあの子たちはどうしてるんだっけ、と、コンソールを操作してウィンドウを呼び出すと、誰かに向けてメグは目にも留まらぬ速さでメッセージを送りつける。

 リゾート船や喫茶店。

 思わず顔を見合わせたユーナの瞳に映る自分が露骨な困惑に表情を染めていたあたり、きっと彼女も同じなのだろう。

 そこに何ともいえないむず痒さと、微かな温かみのようなものを感じながら、アヤノはその方針について考えを巡らせる。

 今のところ料理や何やらを提供したいという希望はないし、カグヤと同じように鍛錬をするスペースがあるならそれに越したことはない、というのが強いていうなら希望する範囲だ。

 極論、今のフォースネストに毛が生えたような広さの物件でも構わない、というのがアヤノの考えだったのだが、ユーナが迷っているのはどうにも事情が異なるようだった。

 

「むむむ、リゾート船、喫茶店……」

「ユーナは、何か希望があるの?」

「うーん……考えてみると難しいなって! うどん屋さんとか?」

「なんでうどんなのよ……」

「え、えっと、じゃあカレー屋さんとか……」

「……お店を必ず開かなければいけないわけではないのよ?」

 

 どうにもユーナは何か必ず店を開かなければいけない、という固定観念に囚われていたらしく、そんな提案をぶつけてくるが、店を開くとなると問われる自炊スキルに関してアヤノは一応心得こそあるものの他人に自慢できるようなものではないと自負しているし、他のメンバーのそれだって未知数だ。

 どうしてもユーナがうどん屋やカレー屋を開きたいというなら、フォースのリーダーが彼女である以上それに従うのだろうが、現状無理をしているようにしか見えないのなら、フォローを入れるのもメンバーとしてできることだろう。

 

「そうだったんだ! じゃあわたしはなんでもいいよ、皆がやりたいって思ったことがわたしのやりたいことだから!」

「……そう、でも私もカグヤもこれといって希望はないわよ?」

「お恥ずかしながら、拙はこういった事情に疎いので……」

「となると、メグさん待ちって感じだね!」

 

 言い出しっぺの法則、というものがある。

 法則というよりは願望に近いそれは、要するに話を切り出した奴から実践しろ、という暴論に近いのだが、ブーメランとなって見事に希望する選択肢を決める権利がメグに戻ってきたのは何か因果なものを感じずにはいられない。

 

「えっアタシ? あっはは……困ったなぁ、責任重大じゃん?」

「多数決をとるなら、このフォースネストのままでも不自由はしないけど」

「ちょ、それは勘弁! なんか狭いとこって落ち着かないっしょ? っと……来た来た。なになに……?」

 

 アヤノの半ば脅迫じみた民主主義の暴力に、それだけは勘弁とばかりに両手を大袈裟に振ってみせると、メグはメッセージの受信ボックスから新着で届いたそれを開封して、つらつらと読み連ねていく。

 

「へー、レストランの跡地をそのままフォースネストにしたんだ……でも真似しようにもアタシ、自慢じゃないけど料理とかあんま得意じゃないしなー」

「……食べ物からは逃れられないの?」

「んー、ちょっと考えてみたけどアタシもパスかな。あ、そうだ。なんなら配信映えを狙ってメイド喫茶とかやってみる?」

「却下よ却下」

「あっはは、秒で否定されちゃった。ウケる」

 

 自分があのフリフリな衣装に身を包んで、客に愛想を振り撒く姿はまるで想像できないし、何より美味しくなる魔法だとかケチャップで客の名前を書くだとか、そういうことを想像するだけで顔が赤くなってくる。

 アヤノはぱたぱたと扇子で胸元を仰ぎながら、けらけらと笑ってこそいるもののきっとメイド喫茶をやったとしてもやっていけるのであろうメグとその豊かな、という言葉に収まらない胸元を少しだけ恨みがましい視線で睨みつける。

 

「メイド喫茶やるんですか?」

「やらないわよ」

 

 それを真に受けたユーナは、自分と同じ想像をしていたのか、少しだけ頬を赤らめてメグへと問いかけていた。

 真顔で却下したアヤノはため息混じりにユーナをフォローすると、このままでは埒があかないとばかりに、メグが開いているのと同じフォースネストのカタログをウィンドウにポップさせて、スワイプしながら読み飛ばしていく。

 

「んー、まあ何か決まらないってのもある意味アタシたちらしいかもね」

「と、いうと?」

「だってカグヤ。カグヤとアタシはともかく、アタシとアヤノ、そしてユーナちゃんとは出会ったばかりだし。よくよく考えたら方向性とかって皆でゆっくり決めてく感じじゃん?」

 

 もちろん、ガチバトル目的で集まったフォースとかは違うんだろうけどさ。

 しみじみと呟くメグの言葉は、正鵠を射ているといってもいい。

 彼女と、疑問を投げかけて小首を傾げてきたカグヤはどうやら付き合いが長そうだと、込み入った事情を知らないアヤノでも察することはできたが、自分だってユーナと過ごした時間も決して長いものではない以上、足並みを揃えて、異口同音にこれだ、と決めるのは難しい話だ。

 

「それじゃあ、言い出しっぺのアタシに責任があるってことで……このフォースネストとかいいんじゃないかな? どう、ユーナちゃん?」

 

 メグはスワイプしていた中から目ぼしい物件を見つけ出すと、そのサンプル画像と間取りなどが描かれたページを開いてみせる。

 それは良くいえば整然とした、悪くいえば無味乾燥とした──それこそ、アヤノが希望に挙げていた、デフォルトで支給されたフォースネストを、人数相応に広くした程度の物件だった。

 

「えっ? メグさん、メイド喫茶やらなくていいんですか?」

「あれは冗談だってば! アタシもちょっと恥ずかしいし……じゃなくて、こほん! とにかくユーナ、リーダーとしてはどんな感じ?」

 

 とはいえ、カグヤが希望していた鍛錬のためのスペースもあれば、何より、派手さの抑えられた落ち着いた空間は、腰を据えるにあたってはこれ以上ないほど条件としては破格なものだろう。

 何もない。まっさらで真っ白な部屋を穴が空くかのように見つめながら、ユーナはしばらく思案する。

 メイド喫茶もカレー屋も、うどん屋も開かないで、今と同じように、放課後の延長線上にある空間として過ごせる場所。

 考えてみれば、それも悪くない。

 同意を求めるように、少しの不安を押し隠してアヤノへと向けた視線が交錯した時、返ってきたものは無言の肯定だった。

 ならば、問題はないのだろう。

 

「うーん……よし! このフォースネストにします! リーダー決定! でも、途中で何かお店とかやりたくなったら言ってくださいね、メグさん、アヤノさん、カグヤさん!」

 

 こほん、と大きく咳払いをすると、ユーナは心臓を高鳴らせ、口が乾いていくのを感じながらも、初めてリーダーとして責任のある決定を下す。

 まっさらだからこそ、真っ白だからこそ、やりたいことはこれから決めていけばいい。

 それは、小さな欠片が寄り集まった「ビルドフラグメンツ」としてはきっとこれ以上ないくらいぴったりな方針で、そして、この電子の海を、電脳の世界を漂い、歩き続ける理由としてはちょうどいい。

 そんなユーナの決断を尊重するように、アヤノたちは異口同音に同意を示すと、拍手をもって称賛を送る。

 

「えへへ……ありがとうございますっ。それじゃあ『ビルドフラグメンツ』の新しいフォースネスト、買っちゃいます!」

 

 ここから始まっていく。ゴールはまだ見えないけれど、それどころか、一歩先だって見えなくて、手探りだけど。

 だけど、何よりそれが自分たちらしい。

 カタログ欄からその簡素な、マンションの一室にも似たフォースネストを購入したユーナへと拍手を送りながら、アヤノはしみじみと、そんな始まりを噛み締めるのだった。




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