ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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百竜初投稿です。


第二十七話「カグヤのヴァルガ武者修行」

「ああ、初めてです……拙の胸は、こんなにも高鳴っている……!」

 

 吹き荒ぶ鉄風雷火の中に颯爽と飛び込んだカグヤのロードアストレイオルタは、まずはお前からだとばかりにまごついていた、ドッペルホルン連装砲を装備したダガーLを菊一文字で両断すると、背後からその隙を狙って放たれたバスターシールドの一撃をアクロバティックなマニューバで回避、その回転を利用して奇襲を仕掛けてきたガンダムデスサイズもまた斬り捨てて、地に伏せさせる。

 

「あっはは、生き生きしてるね、カグヤ……っとぉ!」

『天誅ぅぅぅぅ!』

「そう簡単に当たってなんかやらないかんね! 忍法フォトン空蝉の術、ってね!」

 

 カグヤがさながら無双ミッションに登場するNPDを斬り捨てるような感覚で他のダイバーたちを撃破する傍、付かず離れずの位置で見守っていたメグにもまた、おこぼれ狙いのパラス・アテネが放った対艦ミサイルが襲いかかってくるが、フォトン・バッテリーの残光を利用したデコイをばら撒くことでメグはそれを回避、ザックから取り出した対戦車ダガーを投擲して、パラス・アテネをテクスチャの塵へと還す。

 対戦車ダガー。他のキットから流用してきたそれは刃物の名前こそ付いているものの、実態としてはナイフ型の爆発物といった方が正しい。

 一応、刃を突き立てることもできなくはないが、投擲して爆発させるのが正しい使い方であり、似たような性質を持つスティレット投擲対装甲噴進弾に比べて、刃の面積が小さい分収納しやすいのが利点だった。

 

「いい、ユーナ。絶対に私から離れないで」

「はい、アヤノさん!」

 

 そんな二人の奮戦を横目に見ながら、アヤノとユーナはぴったりと背中合わせになって、ツーマンセルを崩すことなく、周囲から無尽蔵に湧き出てくる襲撃者の対処に注力する。

 アヤノがバタフライ・バスターBで支援をしている間にユーナが急速接近し、炎パンチや炎キックによって敵を撃退する、というのはいつもやっていることだが、ヴァルガではその密度も質も尋常ではなくなる以上、片時たりとも気は抜けない。

 基本的にハードコアディメンション・ヴァルガで真っ当にダイバーポイントを稼ぎたいのなら、そのビルドは二極化するといってもいい。

 アヤノは巨大な大楯を構えるジム・ガードカスタムを相手に、バタフライ・バスターBでは不利だと見るなり、即座にそれを腰にマウントして、代わりに取り外した「クジャク」をスマッシャーモードで一斉射した。

 二極化したビルドというのは、概ねタンク型かアサシン・シーカー型かに分けられる。

 十三門の砲口から放たれるビームの一斉射と、そしてそれに追い討ちをかけるようなユーナの飛び蹴りが炸裂することで、ジム・ガードカスタムの大楯は哀れにも粉砕され、剥き出しの生身になったところに、着地点から流れるような動作で放たれたアリスバーニングガンダムの回し蹴りがコックピットを穿ち、ガードカスタムは爆発四散してしまう。

 このヴァルガで少しでも長く生き残りたいのであれば、攻撃に対する対処としては、耐えるか避けるかの二択になってくる。

 

『天ちゅ……嘘だろお前!? うわああああッ!』

「……メグの足元にも及ばないわね」

 

 ──出直してきなさい。

 息つく間もなく、今度はミラージュコロイドによるステルスを解除して背後から襲いかかってきたブリッツガンダムを、気配だけを読んでノールックで斬り捨てると、アヤノはレーダーと周囲を一瞥した。

 例に挙げるのであれば、「耐えて」少しでも長く生き残りたいなら先ほどのジム・ガードカスタムのように耐久性と生存力に極振りしたビルドに、「避けて」少しでも長く生き残りたいなら今し方斬り捨てたブリッツガンダムのように、ステルスなどをフル活用して生存し、相手を暗殺するというスタイルを取る。

 これが何を意味しているのかといえば、バトランダム・ミッションや通常のフォース戦で見られるような純アタッカー構成の機体は、よほど腕に自信がない限り推奨されず、またヴァルガで遭遇するのは珍しい、ということだった。

 その点では、ある程度臨機応変に対応できるアヤノのクロスボーンガンダムXPはともかくとしてユーナのアリスバーニングガンダムや、カグヤのガンダムロードアストレイオルタは不利を背負っているといえる。

 だが。

 

「もっと……もっとです! 拙に貴方たちの武を学ばせていただきたい!」

 

 ユーナのフォローで手一杯だったため、メグにその役目を任せる形になったカグヤの様子はすこぶる絶好調といった風情であり、支援など必要ないとばかりに、シーカーもアサシンも、そしてスナイパーが隙を狙って放った弾丸すらも斬り捨てて、荒れ狂っていた。

 吹き荒ぶ嵐にも似たカグヤの太刀筋が招くものは、目立っている相手を沈めようと目論む狡猾な襲撃者たちだが、それさえ大歓迎だといわんばかりにカグヤの目は光り輝いていて、獰猛な笑みを浮かべる口元は三日月型に釣り上がっている。

 

『クソ、イカれてやがるぞあの女! 刀一本でなんでここまで……』

『退け、俺がやる』

 

 ランゲ・ブルーノ砲による狙撃を切り捨てられたギラ・ズール親衛隊仕様を駆るダイバーが、動揺と焦燥から、次弾の装填を待たずしてトリガーを引き続けているのを諫めるかのように、通信ウィンドウにポップしたその影は、有無を言わさぬ威圧感で、手出し無用だと言い放つ。

 

『アンタは……』

『武を求めていると言ったな、ならば……来い!』

 

 影の正体にしてその男──「ガットゥーミ」の機体は、武装らしい武装も持っていなければ、姿勢制御用のスラスターも搭載していない、狂気ともいえる仕様のそれだった。

 シュツルム・ガルス。

 映像作品「機動戦士ガンダムUC」に登場するその機体を、燃えるような、或いは返り血で染められたかのような赤に塗装したガットゥーミは、唯一の武装といってもいいスパイク・シールドとチェーンマインを放り捨てると、その足捌きだけで弾幕砲火を掻い潜って、カグヤへと襲いかかっていく。

 

『とくと見ろ、俺の境地を!』

「……ッ、凄まじい!」

 

 果たして武装を放棄したシュツルム・ガルスが何をしたのかといえば、それは至ってシンプルであり、音を置き去りにするほどに速く、そして空気を切り裂くほどに鋭い「突き」を放っただけだ。

 だがそれは、拳一つにして、無手の刀とでも言い換えられるほどに鋭く、遅れて発生したソニックブームが、ガットゥーミの一撃を受け止めたロードアストレイオルタの姿勢を僅かに揺らがせる。

 

『ワン、トゥー!』

 

 その隙を、一人の武芸者であるガットゥーミが見逃すはずもなかった。

 今度はボクシングスタイルに構えを切り替えて、有無を言わさぬ超速ジャブで少しずつカグヤの体幹を削り、そして大きく姿勢を崩させる算段なのだろう。

 

「く……っ、流石です、その拳……磨き上げられた武が伝わってくる!」

『褒め言葉をいただき恐縮だ、だが俺は……この拳でお前の刀を超える! 故に遠慮は何一つとてするつもりはない!』

 

 カグヤもそれは理解した上で、ガットゥーミの攻撃をなんとか防ぎながら、ただ防御に徹するのではなく、無刀の刃を受け流すかのように構えを即座に切り替えて、絶え間なく吹き荒れるジャブの嵐を捌き切っていく。

 

「やっば……支援しようと思ったけど、あれに手出ししたらカグヤまで……っと!?」

『ハハハハハ! どこを見ている!』

 

 カグヤを支援するため、ガットゥーミに対して牽制を放とうとしたメグのG-フリッパーに対して、その隙が命取りだとばかりに、崩れかけていたビルの谷間に身を潜めていたガンダムシュピーゲルが、ここぞとばかりに襲いかかってくる。

 今までどこに隠れていたんだと、メグは内心で舌打ちをするが、不意打ちなどヴァルガでは日常茶飯事、対応できなかったやつは不幸とダンスしたどころの話ではなく、当たり前に死んでいくだけの話だ。

 それでも反射神経で、「シュツルム・ウント・ドランク」に対抗できたのはメグの意地がなせる技だろう。

 ガンダムシュピーゲルは、接近戦を主体とするモビルファイターの中ではかなり異質で変則的な部類に入るのだが、幸いなのは接近しなければその武装のほとんどは機能しない、ということだ。

 無論相手もそのことは承知の上なのだろう。

 姿を消して仕切り直しを図ろうとしたメグに対して、シュバルツ・ブルーダーによく似たダイバールックに身を包んだ男、「シュバルツ・ブルーチーズ」は腰にマウントしていた、ガンダムピクシーのビームマシンガンを手にして牽制射撃を放つ。

 

「MFが銃器使ってくるなんて……!」

『ハハハハハ! 甘い、甘いぞ! 何故ならここは……GBNだからだ!』

 

 ──ゴッドガンダムが射撃武装を使って何が悪い。

 かつて、GPDが全盛の時代にその名を馳せた青いゴッドガンダムを駆るファイターが果敢にもそう言い放ったように、或いは三代目が言い切ったように、ガンプラというのは基本的に自由だ。

 格闘機が狙撃武装を使おうと、そして狙撃機が徒手空拳で戦おうと、それが本人のやりたいことであるならば、無謀であれど止める権利は誰にもない。

 そういう意味では、ブルーチーズがビームマシンガンを取り出したのなんて可愛い方だ。

 先入観から来る衝撃に竦みはしたものの、慣れてしまえばなんということはない。

 ──それに。

 

『ハハハハハ! この分身、貴公に見抜け──!?』

「悪いけど、範囲で制圧させてもらうわ……!」

「サンキュー、アヤノ!」

 

 密かにSOSを送っていたことで、それに気付いたアヤノが、分身殺法によってメグを仕留めようとしたブルーチーズのガンダムシュピーゲルを、その分身ごと、スマッシャーモードに変形させた「クジャク」で薙ぎ払っていく。

 それに、そうだ。自分には仲間がいる。

 ソロで活動していた時代には考えられなかったことだが、そのなんと頼もしいことか。

 アヤノがブルーチーズのガンダムシュピーゲルを撃墜するまでの間、メグは手薄になっていたユーナへの支援役へとスイッチし、物陰からサテライトキャノンをぶっ放そうとしていた、ティターンズカラーのガンダムXのコックピットを目掛けてクナイを投擲した。

 

「あっぶな……もっと周りに気を配って、ユーナ!」

「わわ、はい! ごめんなさい、メグさん!」

「いいのいいの! 次からできれば、それで花丸満点だから!」

 

 危うくその範囲に巻き込まれかけていたユーナは、対峙するVダッシュガンダムの懐に飛び込むと、見事なアッパーカットによってそのコックピットを粉砕してみせる。

 こうして俯瞰してみると、初心者といっても、ユーナもアヤノも相応に才能は持っていることがよくわかった。

 メグはレーダーとモニター、そして殺気への警戒を怠らず、思考の片隅にそんなことを浮かべながらそっと微笑む。

 ユーナはまだまだ周りが見えていなくて、アヤノは既に一角の実力者といっても差し支えはなくとも、自分のように搦め手を中心とした相手には弱い、という弱点はある。

 だが、光るものがあるのであればそれを磨いていけばいいだけの話だ。

 フォース「ビルドフラグメンツ」の中では一番GBN歴が長いのはメグだったが、うかうかしていたらそのアドバンテージも覆されてしまいかねないと苦笑して、果敢にも真正面から弾幕砲火でG-フリッパーをすり潰そうとするガンダムヘビーアームズとガンダムレオパルドを、ハイパージャマーによってミサイルの誘導を無力化しながら、すれ違いざまにクナイをコックピットに突き立てて制圧する。

 そうこうしている内に、ガットゥーミとカグヤの死闘にも幕が降ろされようとしていた。

 立ち上る二つの爆炎をバックに、メグはその様子を一瞥する。

 

『目まぐるしく変わる型……まるでッ、見えないッッッ!』

「……これが今の拙にできることです! 連撃の型、飛天燕輪!」

『ッッッ! 負けられる、ものかッッッ!』

 

 音を超えた拳を放った先に何があるのか。

 弧を描くように、輪を描くように一繋ぎの太刀筋からその剣を振るうカグヤに対して、ガットゥーミは内心で戦慄しながらも、ここで出し惜しみをしていては確実に負けると、その焦りを押し込めながらも、今まで見たことのない型、そのポーズを取る。

 音を超え、置き去りにし──光にも届くその一撃は、現実世界では、そしてGPDでは決して実現することはないだろう。

 だが、ここはGBNだ。イマジネーションがある限り、無限に羽ばたいてゆける翼が全てのダイバーに与えられた仮想郷だ。

 故にこそ、ガットゥーミは──「FINISH MOVE 01」のスロットにカーソルを合わせて、その一撃を放つことに決めた。

 音を置き去りにして、光に迫る超高速の突きを、腕そのものを鞭として叩きつけるような一撃。

 現実でこそ実現することはないものの、電子の世界であれば成立する、道理を踏み倒して無理を通すその一撃を!

 

『はあああああッッッ!』

「……ッ!? いえ……拙は惑わない! 居合の型、夕凪!」

 

 ガットゥーミの限界を超えた一撃は、確かにカグヤへと届いたはずだった。

 だが、武人として──生まれて過ごした時間こそ短くとも、その根源的な感情によるものと、数多の辻斬りによって培ってきたカグヤの観察眼は、そこから一歩抜け出して、振り下ろされた、ともすれば本当に亜光速に迫りかねない一撃を受け流し、そして振り抜いた刀は真紅のシュツルム・ガルス、そのコックピットを確実に捉えていた。

 ガットゥーミの必殺技は、速さも、強さも、しなやかさも、全てが申し分ないものだった。

 まさしく強者と呼んでもいい、武の世界に生きる者としての矜恃を見せつけた、凄まじいものだと誰もが口を揃えて言うだろう。

 それでも、一枚上手なのはカグヤだった。

 ただ、それだけの話だ。

 

『ふっ、見事だ……俺もまだまだ、修行が足りないな……』

「……少しでも反応が遅れれば、やられていたのは拙でした。素晴らしい武を、見せていただきました。ありがとうございます、ガットゥーミさん」

『ああ、光栄だ。だが、こういう時はこう言うんだ──グッドゲーム、とな』

 

 ──グッドゲーム、カグヤ。

 それだけを遺言にして、真紅のシュツルム・ガルスは、それを操る武人たる男はテクスチャの塵へと還っていく。

 確かに交えたものは刃ではなく刀と拳という異種格闘技のようなものだった。

 それでも、カグヤの心は滾っている。

 言葉では表すことのできない感情が、強者と戦えたという充足が胸を満たしながらも尚、気高く、そしてどこまでも貪欲にカグヤの心を飢え、餓えさせる。

 まだだ。まだ自分は「武」の境地に至っていない。

 無論、それが一朝一夕に為せることではないとわかっていても、カグヤはこの戦闘狂のラスト・リゾートの空気に当てられていることもあってか、まだまだ足りないとばかりに周囲の敵をなます切りにしていく。

 その行いこそが、カグヤの存在をこのハードコアディメンション・ヴァルガへと際立たせ、彼女や、それを支援する「ビルドフラグメンツ」は、いつしか戦いに巻き込まれたのではなく、戦いを生む台風の目と化していたのである。

 ならばこそ、「それ」が舞い降りるのは半ば必然のようなものだった。

 

『おおらぁぁぁぁ!!!』

 

 突如として稲光が迸る空が紅く燃え盛ったかと思えば、次の瞬間には、殺気という言葉でさえ言い表すには足りることのない、どこまでも貪欲で、そしてカグヤと同じように、どこまでも乾き、餓えた闘争への飽くなき求めが炎となって、ハードコアディメンション・ヴァルガの大地へと巨大なクレーターを穿ちながら、そして周囲の有象無象たるダイバーたちを巻き込みながら着地する。

 その機体を知らない者は、このヴァルガでは──否、このGBNにおいては間違いなく少数派だった。

 紅く燃え盛る炎のような、或いはそれよりも暗い返り血を浴びたような──奇しくも、ガットゥーミと同じような色合いにまとめあげられた機体は、背中の太陽炉から赤い粒子を噴き出して、肩に担いだ巨大なヒートソード、その切っ先をカグヤへと向ける。

 否、ガットゥーミと「それ」が似ているのではない。

 むしろ、ガットゥーミが彼を──舞い降りた鬼をリスペクトしていたからこそ、彼のシュツルム・ガルスはあのカラーリングにまとめあげられていたのだ。

 

「獄炎の、オーガ……!?」

 

 その名を呟いたのは様子を見ていたメグが先だったのか、思わず戦いの手を止めてしまっていたダイバーたちの誰かが先だったのかはわからない。

 だが、舞い降りたその機体──【GP-羅刹天】と、それを操る主である男、「獄炎のオーガ」は、獰猛な笑みを浮かべると、戦いに言葉はいらないとばかりに、カグヤへと斬りかかってゆくのだった。

 




舞い降りし禍威
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