ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

33 / 77
無印ビルドダイバーズを再履修してるので初投稿です。


第三十一話「夏の祭りのその前に」

「……と、いうことがあって昨日はログインできなかったのだけれど」

「えへへ……その、ごめんなさい、メグさん、カグヤさん」

 

 優奈のために開いた勉強会、その翌日にGBNへとログインしていたアヤノとユーナは、開口一番カグヤとメグへの謝罪を口にする。

 また明日、と約束しておきながら小テストが危なかったのでログインできませんでした、というのは単純に格好がつかないというのもあれば、何よりどんな些細なことであっても約束を違えたこと自体気が咎める、ということで律儀に腰を折って頭を下げる二人を、メグは驚いたかのように目を見開き見つめていた。

 

「あー、いいのいいの! 学生ってリアル優先っしょ? GBNにかまけて成績落ちて留年しました! とかってなったら洒落にならないし」

「拙は人間の事情に詳しくはないのですが……学業が学生の本分であることは心得ています、なので謝るようなことではないかと」

 

 アヤノとユーナの妙に律儀なところに感心しつつも、このまま頭を下げられていたのではやりづらいということでメグは二人を宥めながら、目にも留まらぬ速さでコンソールを叩き、ウィンドウをポップさせる。

 そこに映っているのは、先日、カグヤの武者修行のためにダイブした、ハードコアディメンション・ヴァルガにおける戦闘の記録映像だった。

 画面の中ではリスキル狙いの「回収屋」の魔の手から逃れた映像が切り替わり、刀一本で数多のダイバーを斬り伏せていくカグヤの様子が大写しになる。

 動画タイトルに「【悲報】組んだばっかのフォースがヴァルガにガチで武者修行!【オーガ降臨】」と書かれたそれの再生数は、わざわざあんな場所に行きたがる人間を観察したいという層やら怖いもの見たさでクリックする層、そして最近めきめきと増え始めているメグの固定ファンによって大きく再生数が押し上げられて、画面の右枠に流れるチャット欄もまた一段と賑やかになっている。

 

『オイオイオイ死ぬわあいつら』

『ほう、必殺技抜きヴァルガですか 死にますね』

『バカルテットの再来かよ』

『いや、逆にヴァルガ民斬り伏せてて草生えますよ』

『相変わらずすげーな辻斬りちゃん』

『何やってるかはわかるんだけど何でできてんのかはわからん』

『その陰で戦ってるDランクの二人も相当筋がいいな、アヤノとユーナだっけ?』

『メグが今回は一番影薄くね?』

『↑↑ちゃんをつけろよデコ助野郎!』

 

 概ね好き放題にコメントされている為に映像と合わせて追うのも大変だが、どうやら不評よりは好評の方が目立っているようで、特に八面六臂の活躍を見せていたカグヤの姿は、視聴者の琴線に触れるものがあったようだ。

 

「……ってなわけで、今のはまだ未完成版ってとこだけど、昨日一日アタシたちも完成版に向けて動画編集してたから気にしなくていい感じ?」

「……何というか、凄い世界なのね」

 

 アヤノはこういった類の配信をあまり見ないため、リアルタイムにコメントが流れていく文化やらそれに付随するGチャットなど、その全てが何か異文化に触れた時のようだと感じていた。

 だが、今もこの多少視点をいじった記録映像に満足することなく、編集を加えた完成版を作ろうと惜しみなく注がれている努力と愛の熱量は理解できる。

 

「まあ、いくら頑張っても前は見てもらえなかったかんね、アタシがG-Tuber続けられてるのはカグヤがいてくれたからだけど、それと同じくらいアヤノとユーナのお世話にもなってるわけだし、ギブアンドテイクってやつ? だから気にしなくていいってこと!」

 

 あっはは、と小さく笑って、メグはそんなアヤノたちの小さな不義理を水に流す。

 とはいえそれは嘘ではなく、本心からの言葉であることに違いはない。

 メグの動画編集は、前から投稿速度を重視した、いわゆる視点動画と、時間をかけてなるべく見てもらえるように工夫を凝らした編集動画の二本立てスタイルをとっていたのだが、それでも供給過多のG-Tuber戦国時代ではどうしたって、時の運がなければ埋もれてしまうことは決して珍しくない。

 無論、運が全てというわけではないが、誰に見つけてもらうかによって大きく結末が変わるということは往々にして存在する。

 だからこそメグはそのきっかけとなったアヤノたちに感謝しているわけだし、アヤノとしてもユーナと一緒のGBNを楽しむ中に、カグヤとメグという仲間がいることは喜ばしいと思っている以上、これはギブアンドテイク、WIN-WINの関係が成立するということなのだろう。

 アヤノたちは下げていた頭を上げると、つらつらと画面を流れていくコメントを視線で追いかけながら、相変わらず訳が分からない強さを誇る「獄炎のオーガ」とカグヤの一騎打ちを見る。

 本当に。本当に、どこまでも遠く──それをわかっていても、心は一抹の悔しさを、悲しさを覚えてしまう。

 それはユーナも同じであり、帰還を選択した自分に対して、少しの自己嫌悪を覚えて表情を曇らせていたその時だった。

 

「あっはは、ちょっと辛気臭くなっちゃったね。てかそれよりそろそろあの季節じゃん!」

「メグ。あの季節、とは?」

 

 そんなアヤノとユーナの間に流れる気まずい空気を察してか、動画を閉じると、今度は別のタブをコンソールから展開する形で、メグはカグヤの疑問に答える。

 ──グラン・サマー・フェスティバル。

 それはフォースフェスと呼ばれるイベントの中でも、夏限定で開催されるお祭りのようなものであり、午前の部、午後の部共に組まれたエキシビジョンプログラムと、そして後夜祭として花火大会が企画されているという、とにかく贅沢な企画だった。

 GBNの開発企業だけではなく、彼らと資本提携を結んでいる世界的巨大コングロマリットにして、GBN内でも最大のフォースアライアンスとして名を馳せる「グローリー・ホークス・カンパニー」こと「GHC」もその企画に一枚噛んでいることもあって、グラン・サマー・フェスティバル、通称夏フェスは極めて規模の大きなイベントになっているのだ。

 そのためだけに会社を辞めてきた、と豪語するダイバーも珍しくない程度のお祭り騒ぎに、曇りかけていたユーナの表情はぱあっと明るさを増していた。

 メグがウィンドウに呼び出したその概要を興味深そうに眺めるユーナの姿にどこか小動物めいたものを感じながら、アヤノもまた近くに控えている夏フェスに思いを馳せる。

 思えば夏祭りの類など、幼少期に両親や与一に連れ出されて以来一度も行っていない。

 それが例え電子の世界での出来事であったとしても、友人たちと夏祭りを楽しむ、という体験ができるという事実に、アヤノは心が高鳴っていくのを感じずにはいられなかった。

 

「つまり、私たちはこの『グラン・サマー・フェスティバル』に参加すると?」

「そゆことそゆこと! でもその前に……しっかり『予習』しとかないとね!」

「予習、ですか? はっ、まさか夏フェスの中でも勉強が……!」

「流石にそれはないと思いますよ、ユーナさん……」

 

 小テストではなんとか赤点を回避できたものの、期末テストが迫っているという事実を思い出して頭を抱えるユーナを宥めながら、カグヤはどこか困ったように苦笑する。

 幸いなのはグラン・サマー・フェスティバルとテスト期間が被ってないということだろう。

 だが、それにしても「予習」が必要だというのはどういった風情でのことなのか。

 訝るように小首を傾げて、閉じた扇子を口元に当てるアヤノからの無言の問いかけに、メグは待ってましたとばかりに、フレンドから送られてきたメッセージを提示してみせると、そこに記されていた「グラン・サマー・フェスティバル」のエキシビジョンプログラム、その一つについての情報をつらつらと読み上げる。

 

「グランダイブ・チャレンジ、っていって、まあ水中に潜って宝探しするクリエイトミッションがあるんだけど、それの夏フェス版ってことでこれ参加してみようかなーって。ちょうどアタシの知り合いも妨害役として参加するっぽいし?」

「ふむ……」

 

 水中戦。それはGBNの中でも取り分け不人気なコンテンツの一つであり、理由としては水圧に耐えられるだけの強度を面出しや合わせ目消し、継ぎ目埋めなどで出さなければならない、つまり必然的に面倒な工作を強いられるのと、主流であるビーム兵器が殆ど役に立たなくなるからに他ならない。

 あとは宇宙戦と違って、水圧による抵抗を考慮しなければならないことも大きな要因だろう。

 要するに、面倒くさい。

 それだけでカジュアル志向のダイバーは忌避するし、熟練のダイバーであっても不人気ゆえに数が少ない水中戦ミッションのためにわざわざ新しい機体を作るのは少数派だ。

 だが、メグはそんな水中戦にあえて挑もうと提案している。

 それはフレンドに対する義理もあるのだろう。

 ただ、アヤノたちにとっては今のところ受けるメリットはないに等しい。

 ──それでも。

 

「一応、参加するかどうかはともかく、水中戦に慣れておくのは一考の価値があるわね」

「参加しないの、アヤノさん?」

「少なくとも今はパスかしら。妨害役がいることはわかっていても、肝心の商品だとかがわからないなら、当日になってから考えても遅くはないはずよ」

 

 参加するかどうかはともかくとして、メグの提案する「予習」には価値がある。

 水圧という負荷がかかった状態でクロスボーンガンダムXPはどこまでやれるのか、そしてその状況下で今の自分はどれほどの腕を発揮することができるのか。

 それを試すという意味で、水中戦の練習をする価値はあると、アヤノはそう感じていた。

 

「でも、予習はするんだよね?」

「ええ、水中で自分がどれだけ動けるかは把握しておきたいから。というわけでメグ、私はそういうことだから」

「りょ。まあでも予習に付き合ってくれるんならアタシとしてもありがたいし、参加する気になったらいつでも言ってよね!」

「考えておくわ」

 

 メグに自分の意思を伝えると、アヤノは彼女に先導される形でセントラル・ロビーのミッションカウンターへと転移すると、その「予習」に付き合うために、受注したミッションへと挑んでいくのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「思ったよりも機体が重いわね……!」

 

 水中では殆ど機能しないバタフライ・バスターBを腰にマウントすると、ヒート・ダガーを抜き放ったクロスボーンガンダムXPは、対峙するアビスガンダムを視界に捉えて、その装甲へと赤熱した刃を突き立てる。

 連戦ミッション。それはいくつかのウェーブをクリアすることでゴールに辿り着けばプレイヤーの勝利というルールが定められた、長丁場のミッションである。

 メグが予習先として選んだのは、本家本元の「グランダイブ・チャレンジ」ではなく、あくまでも水中戦区間もあるという、「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」をモチーフとした連戦ミッションで、その理由については水中戦を経験できる以外にも、ダイバーポイントの身入りがいいから、という現金な理由に尽きた。

 連戦ミッションは得てして長丁場になりがちだが、その分獲得できるダイバーポイントは多めに設定されている。

 要はDランクに昇格してからいくつかの対人戦を経験し、更にはヴァルガである程度ポイントを稼いでいたアヤノとユーナをここでCランクに上げてしまおう、という魂胆であり、二人もそれに異存はなかったために、今回の連戦ミッションを受注したのだ。

 原作では轡を並べることがなかったフォビドゥンヴォーテクスの群れが、アヤノの一撃によって大きく怯んだアビスガンダムを支援するように、滑らかな動きで割って入る。

 

「拙も、流石に水中では……いえ、弱音を吐くなど士道不覚悟! ユーナさん、続けますか!?」

「えっと、えっと、わわ……うん、なんとかコツ掴めてきたかも!」

「はああああっ!」

 

 ミノフスキー・ドライブの性能に任せることで水中でも強引な機動で姿勢を立て直すことに成功していたアヤノだったが、単純な速度では追いつけなくとも、じわじわと旋回を駆使して追い詰めることで、三機のフォビドゥンヴォーテクスはクロスボーンガンダムXPを追い詰めようとしていた。

 だが、刹那。

 閃光が走ったかと思えば、一機のフォビドゥンヴォーテクスが胴体から袈裟懸けに斬り捨てられて、ズレた切断面から爆発を起こして海の藻屑と化していく。

 カグヤが放った「飛ぶ斬撃」によるものだ。

 水中でも減衰せずに斬撃を飛ばすことができるカグヤの、ロードアストレイオルタの膂力に目を丸くしながらもアヤノは、続いて細かな粒子を足場にすることで水中を蹴って駆け抜けていくユーナのアリスバーニングに視線を移す。

 

「密着ならぁっ!」

 

 拳圧にも当然水圧デバフがかかっているものの、それを無視できる懐まで飛び込んで、ユーナはもう一機のフォビドゥンヴォーテクスのコックピットを、そのトランスフェイズ装甲ごと強引に叩き潰した。

 相変わらず凄まじい威力だと、前衛二人の火力に関心を寄せている時間はない。

 メグのG-フリッパーは水中でもある程度動けるものの、クナイ以外に有効な武装は持っていないため、火力が低いのに近接戦を挑まなければいけないという状況にある。

 彼女の腕を信頼するなら、任せるのもありだろうが、戦術として常に最悪を想定するのなら、この中では比較的自由に動けるアヤノ自身が敵からの狙いを常に引き付けておく必要がある。

 ミノフスキー・ドライブによる推進力を高めるためにスロットルを全開にすると、アヤノは腰部からシザー・アンカーを射出して残ったフォビドゥンヴォーテクスを絡め取ると、水圧に抗うように歯を食いしばって、機体を急速浮上させていく。

 ばしゃん、と白波を蹴立てて、蒼海を砕き、獲物を連れたまま空中へと飛翔したクロスボーンガンダムXPのマニューバはさながらいさな獲りといった風情であり、空中高く放り出されたフォビドゥンヴォーテクスに、バタフライ・バスターBを放つことでアヤノはその幕引きとする。

 

「はぁ、はぁ……まさか、水中がこんなに重いなんて……」

「いやー、ごめんアヤノ! 今回アタシ、全然役に立てなかった」

「いえ、大丈夫よメグ。気にしないで」

 

 無理矢理フォビドゥンヴォーテクスを引っ張り上げたということもあって、クロスボーンガンダムXPの腰部関節には結構なダメージが蓄積しており、それは次のウェーブに支障が出そうなものだった。

 幸い、次はインターミッションであるため雀の涙程度とはいえ耐久値は回復する。

 ガイア、カオス、アビスを倒してインターミッションを挟み、次にラスボスとして出現するデストロイガンダムを倒す連戦ミッション、「GAIA×CHAOS×ABISS」。

 その手応えは受付に警告された通り、Dランクミッションよりも格段に上だった。

 だが、その分得られたものは大きいといえる。

 

「グランダイブ・チャレンジ……私たちでは無理そうね」

「うーん……そうかも……」

「諦めるのは不本意ですが……」

「ま、仕方ないっしょ!」

 

 このフォースは、「ビルドフラグメンツ」はその近接偏重な傾向もあって、致命的なまでに水中戦に向いていない。

 一応創意工夫を尽くすことでなんとかミッションはクリアしたものの、本番で入る妨害がこれよりも熾烈なものになると考えれば、参加を見送るのが賢い選択といえるだろう。

 インターミッションエリアで機体を降りて、地面に足を投げ出すと、アヤノたちは一様にそんな小さな挫折を口にしつつ、気合を入れ直して最終ウェーブであるデストロイガンダムへと挑みかかっていく。

 先ほどまでの水中戦でかかった時間が嘘のように、満を辞して登場したデストロイは、メグのジャミングを受けると、狙いがろくに定まらないまま砲撃を続ける内、カグヤに陽電子リフレクターを切り裂かれ、ユーナに装甲をぶち抜かれ、アヤノのバタフライ・バスターBにとどめを刺されてあっさりと沈んでしまった。

 やはり自分たちの構成は偏っていると、一様に苦笑しながら、「ビルドフラグメンツ」は初めての連戦ミッションを突破し、そして。

 

【Congratulation!】

【ダイバーネーム:アヤノのランクがDからCへと昇格しました】

 

 アヤノとユーナは、GBNの入口ともいわれるCランクのきざはしに、その足を踏み入れるのだった。




ナレ死するデストロイくん

Tips:

【連戦ミッション「GAIA×CHAOS×ABISS」】……全部で4waveに分かれた連戦ミッションであり、一戦目はコロニー内でガイアガンダムとその取り巻きであるワイルドダガー、二戦目は宇宙空間でカオスガンダムとその取り巻きであるユークリッド、三戦目は水中でアビスガンダムとその取り巻きであるフォビドゥンヴォーテクス、最後にラスボスであるデストロイガンダムとベルリン市街地で戦う連戦ミッション。戦う環境がwaveごとに変わる為、腕試しには打ってつけだとされているとか。

【「GHC」(出典:笑う男様作 『GHC』活動記録より)】……世界的複合コングロマリット「グローリー ・ホークス・カンパニー」の略称にして、GBNにおいては同名のフォース及びそのアライアンスを指す。「提督」「総帥」のあだ名で呼ばれるリアル社長「アトミラール」が率いる軍勢は実に2万にも及び、強豪フォースとして名を馳せているだけでなく、GBNにも多額の出資をしていることでいくつかのコラボイベントが定期的に開催されている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。