ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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定番イベントなので初投稿です。


第三十二話「わたしの水着が決まらない」

 フォースフェス。

 それは、このGBNにおいて比較的ライトユーザーに向けて設計されたイベントであり、フォースと名がついていても実態としてはフォースを組んでいないダイバーも参加できたりするイベントもある辺りで、そのゆるさ加減が伺えるというものだろう。

 実際、今から「ビルドフラグメンツ」が参加しようとしている「グラン・サマー・フェスティバル」も、参加条件はダイバーランクFのみ、と非常にゆるいことになっている。

 それだけでなく、参加報酬もインテリアアイテムの「浮き輪」ぐらいであり、エキシビジョンプログラムでの優勝商品も「黄金の浮き輪」「銀色の浮き輪」などという色変えアイテムに留まっているなど、徹底的にライトユーザーに向けて仮想の夏を楽しんでほしい、という配慮がなされているイベントだ。

 夏の定番イベントということで、先にげっそりするような定期試験をクリアしてきたアヤノとユーナは、カグヤとメグと共に、来たるフォースフェスへと向けての買い物に向かっていたのである。

 

「いやー、やっぱフェスってこともあってショッピングエリアも大分混み合ってるね!」

「これが……フォースフェス。拙にはわからない世界ですが、凄まじい人気が伝わってきますね」

「今年はミスコンの方式も一風変わった感じになったっぽいし、参加したいって層も増えたんじゃない?」

 

 グラン・サマー・フェスティバルにおける午前のエキシビジョンプログラムとして開催されているのは、平たくいってしまえばミスコンそのものだった。

 水着に身を包んだダイバーが、GBN内における画像共有サービス、ガンスタグラムを通じて「いいね!」をより多く獲得した方が勝利者となり、一番「いいね!」を獲得できたダイバーにはそれぞれ「ミスター・シーサイド」、「ミス・シーサイド」の称号を獲得できる──と、いうのが去年までの夏フェスにおけるエキシビジョンプログラム午前の部の概要だったのだが、マンネリ化を防ぐために今年は投票方式を一新する、という触れ込みが大々的になされていたのである。

 

「……出るの、ミスコンに?」

「んー、どうかなぁ、ちょっち面白そうだとは思うけど」

「ミスコン……わたしが出てもあんまり票貰えなさそうだなぁ」

 

 だってちんちくりんだし、と、カグヤやメグと比べて小ぶりながらも確かに両手に収まる程度には主張している自分の胸をぺたぺたと触りながら、ユーナはやるせない溜息をつく。

 お年頃の女子としては定番ともいえる悩みであったものの、ユーナでちんちくりんだというならそれほどの膨らみすらない自分はなんなのか、まな板とか壁の類なのか、と、アヤノも暗澹たる意識に足元を掬われそうになりながらも、頭を振って意識を切り替え、ようやく入店できた水着売り場に並んでいる水着の数々に視線を向ける。

 大人っぽく大胆なものから、フリルがあしらわれた可愛らしいものまで多種多様な水着が取り揃えられているGBNのアパレルショップだが、それもそのはずだ。

 真っ先に資本提携を結んだ「GHC」のアパレル部門をはじめ、世界的に有名な企業がコラボレーションを申し込んだことで、GBNにおける服飾のキャラメイクにおける幅は、最早一つのVRMMOの領域を大幅に逸脱している。

 初期のダイバールック作成時もそうだが、キャラメイクの幅があまりにも広いからこそ、ダイバールックのメイキングに何時間もかかってしまった、というダイバーは珍しくない。

 それが例え水着を選ぶだけだったとしても、迷いに迷うのは最早必然だといえるだろう。

 アヤノは現実と同じようにハンガーにかけられたそれを幾つか手に取って、自分のボディラインと相談した上でなんとか似合いそうなものを考える。

 

「アヤノさんもお悩みですか?」

「ええ、まあ……カグヤも?」

「はい、拙は本当に……戦い以外のことには疎いものなので、フォースフェスにどのような水着なるものを着ていけばいいのか、まるで見当がつかなくて」

 

 悩みのベクトルこそ真逆であったものの、アヤノと同じようにカグヤは迷い続けていた。

 飽くなき「武」を追求するという感情から生まれてきたELダイバーであるカグヤにとっては、戦い以外の道など考えたこともなかったのだろう。

 ただ、カグヤのボディラインと背格好は程よいもので、どんな水着に身を包んだとしてもそれほど違和感が出るわけではないだろう、というのがアヤノの見解だった。

 王道のビキニタイプから、パレオを纏ったタイプのそれで優雅さを演出してみたり、少し大胆にビキニタイプの上からボディラインを強調するようなバンドを纏ってみるのだって悪くはないだろう。

 あれこれ考えてみたが、そのどれもが自分でやったところで悲しくなるだけだという事実にアヤノは閉口するが、実際、カグヤの素材がいいことに間違いはない。

 そしてそんな彼女のことであれば、放っておけないのが後見人というものなのだろう。

 既に自分が着るためのそれを選び終えたのか、会計の列から戻ってきたメグが、幾つかの商品を手に取ってカグヤへと駆け寄ってくる。

 

「やー、ごめんごめん待たせちゃって! その様子だとけっこー悩んでる系っしょ?」

「ええ、メグ……拙にはどれを着るのが正しいのか、とても選べそうになくて」

「ふっふっふ……そんなカグヤのために、似合いそうなのを見繕ってきたから、試着室行ってみよっか!」

「メグ? なんだか目が怖いですが……」

 

 困惑するカグヤを半ば押し出すようにして試着室へと連行するメグの表情やら姿勢は、もしこれが後見人でなかったらガードフレームを呼ばれていたのだろうな、とわかるほど緩み切っていて、それだけカグヤという存在に入れ込んでいるのだろうと、見ているだけでアヤノにもすぐにわかった。

 そういう機微には疎い方だと自覚こそしているものの、アヤノはそんなメグからカグヤに向けられる名前の見つけられない感情であったり、あるいは熱量であったりするそれを、どこか羨ましく思う。

 そして、視線を二人から外してみれば、同じようにああでもないこうでもないと唸り続けているユーナが視界に飛び込んでくる。

 思えば自分は、ユーナのことをどれくらい知っているのだろう。

 とくん、と、不自然に高鳴った心臓を鎮めるように胸の下辺りを抑えながら、アヤノはそこにあるまだ不可解な思いと、そして己の内に潜んでいる何かもやもやとした感情について考えを巡らす。

 ユーナのことが好きか嫌いかで訊かれたなら、間違いなく好きだ、と即答できる自信はあった。

 好きでもなければ家に招いたりもしなければ、貴女がいるからGBNを続けてこれた、なんてことを言ったりしないのは確かだけれど、それは同時に一般論でもあって。

 

「アヤノさん? わたしの顔に何かついてるの?」

「……いえ、ユーナも迷ってるんだなって、そう思っただけよ」

 

 嘘だ。

 流石にあれだけまじまじと見つめられていたら、気付くのも必然だとばかりに振り返って、訝るように小首を傾げたユーナへと、何事もなかったかのようにアヤノは答えてみせる。

 諦めと、そして勝手な失望で塗り固められた道を歩いてきた自分が得意なのはこんな嘘ばかりだ。

 好き。一般論に包括されるその二文字のこと。

 それで何かが不自由するわけではないとアヤノは知っている。

 誰かを好ましいと思う気持ちも、誰かを疎ましいと思う気持ちも人間なのだから当たり前にそれは備え付けられていて、じゃあそれで不自由がないのに、自分は何を求めているのか。

 その答えは、白いもやがかかった感覚と理解の向こう側で、辿り着こうと足を運んでも、それが進むことはない。

 ただ足踏みをしているのと同じ帰結に至るだけで、かといって大仰に理解へと進もうとする分だけ疲れていく。

 カグヤのことが、メグのことが羨ましいのだろうか。

 考える。考える。そしてまた、進んだつもりで足踏みを繰り返す。

 

「そっかー、アヤノさんも迷っちゃうんだね! メグさんとカグヤさん、スタイルいいからなぁ……わたしなんてちんちくりんだもん」

「……その話は私も悲しくなるからやめてもらっていいかしら」

「あっ、えっと……ごめんなさい」

「……謝られるのもなんだか複雑なんだけど」

 

 口ではそんな、どこか漫才じみたやり取りを繰り広げながらも、アヤノの内心は理解に追いつかない「ハテナ」で覆い尽くされて、一人でいればそれは際限なく広がっていくのに、ユーナと他愛もない言葉を交わしていれば小さくなっていくようで、余計にわからなくなってしまう。

 好きだと、そういう言葉を口にすること自体さほどまず難しくない。

 ぺたぺたと平坦な自分の胸に触れながら、その内側にあるものを取り出すかのように、抉り取るかのようにアヤノは苦笑に複雑な内心を包み隠して、透明な、色のない血を流し続ける。

 好きだと感じたなら、その先を、今以上のことを知りたい──そうだ、知りたいと願うことは必然で。

 自分に果たして、それだけの資格があるのだろうか。

 曖昧に微笑んで、今もああでもないこうでもないと水着を選び続けているユーナを見つめて、アヤノはただ考え続ける。

 

「ねえねえアヤノさん、アヤノさんとしては、どっちが似合うと思う?」

「……ん。ごめんなさい、ぼーっとしていて……」

 

 自分が、きっと他愛もないことであれこれ悩んでいる内に候補を二択まで絞り込んだのか、ユーナは両手にそれぞれ同じ桜色の、フリルがあしらわれているビキニタイプの水着と、特に飾り気のないそれを掲げて、アヤノへとそう問いかけてきた。

 どちらもユーナの髪と瞳である桜色と合った雰囲気のものだが、ちょっとだけ幼い印象を受けるフリルの水着と、少し背伸びして大人っぽい雰囲気を醸し出そうとしている飾り気のないそれを身につけている彼女のことを脳裏に思い描きながら、アヤノはしばらく思索に耽る。

 王道路線で行くのなら、やはり前者だろう。

 フリフリのそれが自分には似合わないために少し羨ましいということもさながら、ユーナの背格好とスタイルを考えれば、彼女の魅力を引き立てる最高の一着であるといってもいい。

 だが、後者であえてギャップを狙うのも悪い選択肢ではないだろう。

 正直にいってしまうとそのどちらも魅力的で決められない、というのがアヤノの見解だったが、忘れかけていたもののこれを着ていくのはプライベートビーチではなく人でひしめく夏フェスだ。

 そう考えると、ガードフレームが常時監視しているとはいえ悪い虫が寄ってこないとも限らないのだから、後者は大胆すぎるだろう。

 さながら親のようなことを考えながら、アヤノは小さく頷くと、フリルがあしらわれた方の水着を閉じた扇子で指し示した。

 

「こっちの方が可愛らしくて、ユーナには似合うと思うわ」

「可愛い……えへへ、ありがとう、アヤノさん! アヤノさんがいうならきっと間違いないし、わたし、これにするよ!」

 

 善は急げとばかりに、試着することもなく会計エリアに並んでいくユーナを見送りながら、アヤノはその変わらず元気な姿にどこか、安堵のような感情を覚える。

 期末テストのことで頭から黒煙を噴き出しかねない勢いで悩んでいたユーナも可愛らしいことには違いないのだが、やはりこうして見ているだけでこちらも元気を貰えるような彼女の天真爛漫な明るさこそが人を惹きつけるのだろう。

 そう結論づけたアヤノは紺色を基調として、白のストライプが入った水着を手に取ると、ユーナに続けとばかりに会計列へと向かうのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『さぁ、今年も始まりました「グラン・サマー・フェスティバル」! これを心待ちにしていた諸兄諸姉の皆様も多いんじゃないかと勝手な想像をしてますが、いかがでっしゃろか! 盛り上がってまっか!』

 

 GBN、アイランド・エリアに浮かぶ巨大なリゾート島を丸々一つ会場とした「グラン・サマー・フェスティバル」、その開幕を高らかに宣言し、観客のボルテージを煽るかのように、実況席に座っているサングラス姿の青年──「ナデシコスプリント」では解説役を務めていた、ミスターMSが観衆へとマイクを向ける。

 わあっ、と上がった歓声はアイランド・エリア中に轟く怒号となって大地を揺らし、びりびりとした緊張感が、祭りを待ち望んでいたダイバーたちが溜め込んできたフラストレーションが一気に解放されていくのを、歓声の一部となったアヤノたち「ビルドフラグメンツ」もまた感じていた。

 

『ありがとうございますッ! ダイバー諸君の気合は十分! 元気を貰ったワイも今日一日頑張っていけますわ! ってことで、本日「グラン・サマー・フェスティバル」のメイン実況を務めさせていただくのはご存知窓辺のモクシュンギク、ミスターMSとぉ!』

『皆、こんちの〜! 解説役はフォース「ちの・イン・ワンダーランド」のちのだよー!』

『有名配信者にして個人ランキング104位! 「戦場の支配人」ことちのはんに来てもらいましたぁ! いやー、ありがとうございますわ! ワイもメイン実況として恥じないように頑張るつもりですが、今回は一段気合が入った夏フェスということで、サブ実況とサブ解説のお方もお招きしてお送りいたしております!』

 

 一段とテンションが高い、関西訛りのダイバーことミスターMSのそれに負けじと、解説席に座っている小柄な女性──彼の紹介通り、有名配信者にしてフォース「ちの・イン・ワンダーランド」のリーダー、そしてGBN個人ランキングこと、ワールドランキング104位という「三桁の英傑」の中でも相当上位に位置するダイバー、「ちの」も観衆に向けて手を振ってみせる。

 

「うわ、本物のちのちゃんじゃん! あとでサイン貰いに行かないと!」

「メグ、お知り合いなのですか?」

「ううん、全然! でもG-Tuberの中では有名だし、何よりアタシの憧れみたいなもんだからさ!」

 

 予想もしていなかったゲストの登場に、メグのテンションもボルテージを振り切って、きらきらと目を輝かせながら解説席に座っている女性に向けてぴょんぴょんと飛び跳ねながら手を振り返すその姿は、童心に帰ったようだった。

 バンドに胸元や臍の下にかけてのラインが強調された赤いビキニという大胆な格好であることも忘れて、メグはちのへと手を振り続けているが、当然そんなことをすればGBNにおける物理演算は重力の法則を再現するわけで、暴れるように揺れる豊かな胸元に視線を向けたアヤノは、ぎり、と小さく歯噛みすると、扇子を開いて顔を隠す。

 

「……胸なんて脂肪の塊よ、そう、脂肪の塊」

「わわ、アヤノさんがなんか怖いことになってる」

「怖くなんかないわ、ええ、私は至って健康よ」

「健康かどうかは訊いてないよ!?」

 

 数センチでいいから抉って自分のそれに継ぎ足したいという邪悪な欲望にして羨望と嫉妬を抑え込むようにアヤノは、妙に爽やかな笑顔で微笑んで、額に青筋を浮かび上がらせる。

 思っているより健康だとかそうでないとかどこかで誰かがそんなことを歌っていたような気がしたが、そういう意味では年齢通りに見られないことが多いアヤノが珍しく感情を剥き出しにする姿は年相応のそれだともいえた。

 

『続いてサブ実況にお招きしているのは……なんとなんと、まさかの超人気G-Tuber! シークレットミッションを攻略したことで一気にダイバーたちからの注目を集めることになった「BUILD DiVERS」より「キャプテン・カザミ」はんと、サブ解説は毎度お馴染み銭ゲバロリ! 三度の飯より金が好き、「リビルドガールズのチィ」はんでお送りしております!』

『うっす! あー、こういう場所での実況は初めてだけどよ、精一杯やらせてもらうんでよろしく頼むぜ!」

『あいよー、チィはチィだぜ。カザミのにーちゃんと組むのは初めてだけど、ギャラのためなら全力出してくんで、会場のにーちゃんねーちゃんもそこんとこよろしくな!』

 

 威勢こそいいものの妙に謙虚な「カザミ」と、俗物全開な、いつぞやの「ナデシコスプリント」にも出場していた「チィ」がそれぞれに特徴的な挨拶を終えたのを確認すると、わなわなとスタートを待ち望む観衆たちに向けて、ミスターMSは立ち上がりながらマイクを取って、その号令をかける。

 

『それでは、長々と話すのも時間が惜しい! 開会式はここらでお開きにして、「グラン・サマー・フェスティバル」午前の部! 今スタートいたしたいと思います! 全力で楽しんでいってくださあああいッ!!!』

 

 地鳴りにも似た歓声に包まれて、ミスターMSの宣言すらも置き去りにするように、ダイバーたちは一斉に駆け出していく。

 それはこの瞬間、紛れもなく、電子の海に燃えるような夏が舞い降りた、その証だった。




夏フェス、開幕

Tips:

【ちの(出典:二葉ベス様作「ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ」】……フォース「ちの・イン・ワンダーランド」を率いるリーダーにして、人気G-Tuberの一人。ワールドランキングも104位と「三桁の英傑」の中でも極めて高い位置にいる女性。
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