ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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かまぼこ初投稿です。


第三十四話「灼熱ビーチサイド・バレー」

 ユーロペというらしい、金髪碧眼のダイバーがミス・シーサイドの称号を手にすることに遅れて数分、ミスター・シーサイドの方も何やらアヤノたちの知らないダイバーが獲得した旨をミスターMSが高らかに宣言したことで、「グラン・サマー・フェスティバル」午前の部は終了を告げる。

 午後の部は複数のエキシビジョンプログラムが同時進行するということで、裏方に回っていたカザミとチィもスタッフと協力して機材のセットを進め、インターバルとして設けられた空白の時間が、しばらくダイバーたちを包み込んでいた。

 ミスコンの会場となったアイランド・エリアの中心となるセントラル・ビーチからは椅子の類が取り払われて、代わりにスタッフたちが実況席の設営などに勤しんでいることから、アヤノたちも追い立てられる形で少し離れたエリアまで、他のダイバーたちに流されるように移動する。

 

「それでメグ、午後の部は『キャノンボール・バリボー』と『灼熱ビーチフラッグ』に出場するということでよかったかしら」

 

 アヤノはコンソールを操作すると、事前にメモしていたToDoリストを呼び出して、そこに記されていた二つのエキシビジョンプログラムの名前を読み上げた。

 キャノンボール・バリボー。

 それは午後の部のメインコンテンツとなる「グランダイブ・チャレンジinサマー」に負けず劣らずの鉄火場である、というのが事前に調べた限りでの感想だった。

 ガンプラを使った2on2のビーチバレー、というとなんだかほのぼのとして聞こえるが、その実態は無法地帯もいいところな、「故意による相手のコックピット破壊、ボールの破壊」以外はなんでもありというルールが定められている人外魔境だ。

 とはいえ、以前の連戦ミッションで自分たちに水中戦の適性がないことは嫌というほど理解しているし、何よりチャンプまでが妨害役に加わった「グランダイブ・チャレンジ」の方は無理ゲーもいいところである都合、何かエキシビジョンに出るとなれば必然的に「キャノンボール・バリボー」と、「灼熱ビーチフラッグ」のどちらか或いは両方、ということになる。

 アヤノから確認するように問いかけられた言葉をメグは肯定すると、小さくピースサインを作ってにんまりと笑った。

 

「もち。せっかくだから両方出た方がいいっしょ、ちょうど二人ずつに分けられるし」

「……気軽に言ってくれるのね、勝てるとは限らないわよ?」

「そりゃーアヤノとユーナの運動神経信じてる的な?」

「あはは……他力本願じゃないですか、メグ」

「もちろんカグヤにも期待してる系? アタシとG-フリッパーはこういう瞬発力となるとからっきしだからさ」

 

 G-Tubeにアップするための動画として、そして「ビルドフラグメンツ」の活動記録として「グラン・サマー・フェスティバル」のエキシビジョンプログラムに参加しようということでメグと意思確認を行っていたのはいいとして、いざ鉄火場に立つとなると相応に緊張はするものだ。

 そんな震えを誤魔化すかのように扇子をストレージから取り出してぱたぱたと胸元を仰いでいるアヤノとは対照的に、ユーナの方は早速とばかりに、必要もないのに準備運動を始めている。

 

「いっちにー、さん、し……ふぅ、わたしの方は元気満タンですっ! いつでも行けますよ、メグさん、アヤノさん!」

「……頼もしいわ。今回の『キャノンボール・バリボー』、一筋縄では行かなそうだけれど……ユーナ、貴女の反応速度と瞬発力には期待してるわ」

「えへへ、ありがとう! でもアヤノさんも頑張るんだよね?」

「出来る限りはね。全力は尽くすわ」

 

 ああだこうだと口では言っていても、負けるというのは性に合わないし何より癪だ。

 どうせ出場するなら、もらえるものがルームアイテム「ビーチバレーボール」の色違いとトロフィーだけだとしても、死力は尽くす。

 アヤノもユーナに触発される形で軽くストレッチをしながら、口元に小さく笑みを浮かべて、彼女の言葉を肯定する。

 

「アヤノもユーナも頼もしいねー、そんじゃアタシたちも負けないように頑張ろっか、カグヤ」

「ええ、メグ。戦場の趣は異なりますが、拙は気焰が滾っています」

 

 アタシたちの方は個人競技だけどね、と苦笑まじりに付け加えて、メグとカグヤはそのまま「灼熱ビーチフラッグ」の会場へと向かっていく。

 こちらがガンプラを用いたエクストリームビーチバレーだとしたら、あちらの方はその名の通り、ガンプラを用いたエクストリームビーチフラッグといった風情だろう。

 ビーチの真ん中に突き立てられた旗を、四人の参加者の中からいち早く獲得したダイバーが勝ち抜けていく方式のそれは、メグが事前に零した通り、武器の使用こそ禁じられていてもトランザムシステムなどのブーストアップ機構には使用制限が設けられておらず、身軽であるとはいえ、推進力に長けているわけではないG-フリッパーでは苦戦を強いられる、という見立てはそう間違っていない。

 カグヤのロードアストレイオルタもそれは同じであり、当初は「光の翼」を持つアヤノが灼熱ビーチフラッグに出場する案もあったのだが、キャノンボール・バリボーの方もキャノンボール・バリボーの方で、時限強化無制限の戦場になる。

 そういうことから、一番勝率が高そうなアヤノの機体と運動神経に優れて、同じく時限強化機構を持つユーナが組んだ方がいいという結論に達したため、アヤノたちはこうしてハイパーモードに突入したゴッドガンダムと、FXバーストモードを起動したガンダムAGE-FXが目にも留まらぬ速さでラリーの応酬を繰り広げている鉄火場へと参戦することになったのである。

 第一試合はもう始まったばかりだったが、事前にエントリーは済ませていたことと、出番が大分後の方だったから、アヤノたちは遅刻を免れていた。

 しかし、こうして見ていると、それだけで胸焼けを起こしそうな光景が、キャノンボール・バリボーの会場には広がっている。

 

『さあ始まったぜ、キャノンボール・バリボー! つっても俺は今回が初実況なもんで、どんなもんかと思ったら第一試合から迫力全開! 正直最初からトップギアでついていけるかちょいと不安だが、その辺どう考える、解説のチィ……さん?』

『あー、チィはチィでいいよ。さんとかいらない……まあねぇ、チィもこれに参加したことあっけど、こうして俯瞰してると相変わらずぶっ飛んだことやってんなーと思うよ』

 

 カザミに話題を振られた、解説席に腰掛ける、黄色いレオタードにシースルーのパレオを纏わせた普段のダイバールックからは一転、俗にいうスクール水着に身を包んだチィはいつもの調子でそう返す。

 実況席に腰掛けるカザミの方も水着姿であり、一際盛り上がっている「グランダイブ・チャレンジ」の実況解説を行っているミスターMS達も同様の格好をしている辺りは夏フェスといったところだろう。

 

『さあ第一試合、さっそく凄まじいもんを見せられてるわけだが……今のところ戦況は互角だ! どう見る、チィ?』

『んー、そうだね、強いて言うなら不利なのはFXの方だねぃ』

『なるほど……で、その根拠は?』

『単純だよ、ゴッドガンダムのハイパーモードは別に全身攻撃判定になるわけじゃないけど──』

 

 チィの解説を遮るように、ぱぁん、と破裂音を立てて何かが飛び散る。

 その正体は粉々になったビーチボールであり、ゴッドガンダムが放ったスマッシュをレシーブで返そうとして、全身から生えているビーム刃にボールが触れてしまった、その結果だった。

 

『まー、FXの場合全身攻撃判定だから、ちょっと受けるベクトル間違うとああなっちゃうわけだよ』

『なるほど、ありがとうございましたぁ! と、いうわけで第一試合、「AGEシステムズ」の、キオ・キノーノ選手の失格に伴い、勝ったのはフォース「赤飯天驚拳」のお二人だ!』

 

 カザミの宣言を聞くと同時に、観客席に陣取っていたダイバーたちがわあっと一斉に歓声をあげる。

 一応、AGE-FXを操っていたキノーノというらしい選手は故意にボールを破壊しようと思ってやったわけではなさそうだったが、レシーブを返そうとした時にビーム刃へとボールが接触してしまったことが能動的、の部分に引っ掛かったのだろう。

 アヤノはその理不尽とも取れるルールに嘆息しながらも、迂闊にビーム・シールドやブランド・マーカーを使ったりは何より厳禁で、或いは攻撃判定を持つ光の翼も危険かもしれないと気を引き締める。

 何事も、明日は我が身なのだ。

 純粋に、瞳を煌めかせながら競技を見ているユーナの方を見遣ると、アヤノはその小動物的な愛らしさに少し毒気を抜かれながらも、ぴしゃりと頬を叩いて気を引き締め、会場へと歩んでいくのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『さあ始まったぜ、「キャノンボール・バリボー」第四試合! これで一回戦のカードは全て出揃った形だな!』

『対戦カードは……ふむふむ、こいつぁ興味深いねぃ、新進気鋭の売り出し中フォース、「ビルドフラグメンツ」と、キャノンボール・バリボー常連! 渚で返せぬ球はない、「宇宙水泳部」の激突だ!』

『特に「ビルドフラグメンツ」は最近配信でヴァルガに行ってたハリキリフォースだ、そんな奴らが常連の「宇宙水泳部」が強みにしてる連携にどう立ち向かっていくのか! 選手入場だ!』

 

 実況と解説のマイクパフォーマンスに乗せられて、観客たちのボルテージも一段と高く引き上げられ、万雷の拍手と喝采の中で、アヤノとユーナたち「ビルドフラグメンツ」は、その対戦相手となった「宇宙水泳部」とコートの中で対峙する。

 その名の通り、「宇宙水泳部」はガンダムシリーズに登場する水陸両用モビルスーツのみで構成されたフォースであり、今回選抜されたメンバーは「機動戦士ガンダム」に登場する【アッガイ】と、「機動戦士ガンダムSEED」に登場する【ゾノ】という、宇宙世紀とアナザーガンダムの垣根を越えた編成になっている。

 砂浜で水陸両用モビルスーツを使う、というのは理にかなっている。

 事実、「宇宙水泳部」はキャノンボール・バリボーの常連であり強豪として名高く、二年前は「リビルドガールズ」に一回戦で土をつけられているものの、それより以前には常に準決勝から決勝戦に顔を出していた常連であるらしい。

 らしい、というのはアヤノが今コンソールを操作して調べた限りでの情報だからだが、なんにしても、一筋縄ではいかないことは確かだろう。

 サーブ権が相手にあることを確認し、ホイッスルが高らかに吹き鳴らされるのと同時に動き出したアッガイが、ボールを天高く放り投げ、伸ばした腕でそれを打ち据える。

 

『悪いがお嬢ちゃんたち、ここは我々「宇宙水泳部」の庭! そう易々と突破できるとは思わないでいただこうか!』

『うむ、シモムラ! さあ、我らの鉄壁のディフェンスと変幻自在のオフェンス、破れるものなら破ってみるがよい!』

 

 威勢のいい啖呵と共に打ち出されたバレーボールは、彼らの自信に違わず凄まじい速度でコートの隅、そのギリギリまで攻めたところを狙っていた。

 着弾点を算出したアヤノは、小さく舌打ちをすると、出し惜しんでいる暇はないとばかりに「光の翼」を展開し、その妙技を速度で上から捻じ伏せる。

 

「ユーナ、行ったわよ!」

「任せて、アヤノさん! やるよ、アリスバーニング!」

 

 アヤノがレシーブに成功したことで再び天高く舞い上がったボールに、ユーナは全力で喰らい付こうとバーニングバーストシステムを起動させて跳躍、絶好の位置に飛んできたバレーボールを、炎を纏うその平手で思い切りスパイクする。

 

『これは速い! 「ビルドフラグメンツ」のアヤノ選手、光の翼を展開することでコートギリギリを狙って放たれたサーブを阻止して、ユーナ選手の攻め手へと繋いだ!』

『普通のバトルならある程度は出し惜しんでなんぼの切り札だけど、今回はキャノンボール・バリボーだからねぃ……果たしてこの選択が吉と出るか凶と出るかは乱数の女神様次第、ってとこかな』

『解説サンキュー! さあ、一転守勢に回った「宇宙水泳部」! 凄まじいパワーで打ち出されたスパイクをどう捌く!?』

 

 機体の膂力を強化して打ち出されたスパイクをどう捌くか。

 それはカザミが言った通り、ブーストアップ機構を持たない「宇宙水泳部」が「リビルドガールズ」に土をつけられた要因であり、またそこで浮き彫りになった課題でもあった。

 そこでシモムラが導き出した結論はシンプルであり、レシーブの方向性を変えることで弾の勢いを削ぎ、ディフェンスが不得意なゾノではなくアッガイが柔軟性を活かしてゾノのオフェンスへと繋げる、というものだった。

 ぎゃりぎゃりと、旋盤で金属を削るような、およそバレーボールに相応しくない音を立てながら、アッガイの腕と強烈なトップスピンがかかったボールが擦れ合い、火花を散らしながらもなんとか後方へのレシーブは成功し、シモムラが操るゾノへと攻撃の手番が回される。

 

『任せたぞ、シモムラ!』

『うむ、レッドノーズ! 受けてみろ、これが宇宙水泳部式必殺スパイクだ!』

 

 シモムラのゾノは、ユーナに負けじと天高く跳躍し、そしてレッドノーズと呼ばれたダイバーから繋げられたボールを、攻撃のチャンスを最大限に活かすため、今度はアヤノが駆け出していったところとは反対、コートの右隅を狙って強烈なスパイクを打ち放った。

 

「ユーナ、スイッチ!」

「はい!」

 

 だが、初撃だけで試合が決まると思っていないのはアヤノたちも一緒だ。

 先ほどまではディフェンスを担当していたアヤノと入れ替わる形で、着地したアリスバーニングガンダムはその背中から炎を揺らめかせ、コートの右隅に落ちようかとしていたその球を拾い上げる。

 勢いを削ぐことで、アッガイがディフェンスを担当していることであの強烈なスパイクを放たれることに繋がったのであれば、同じ過ちは繰り返さない。

 アヤノはキャノンボール・バリボーのルールを頭の中で誦じながら、ユーナが繋いでくれたバトンを受け取るように、打ち上がったボールへとスパイクを叩き込む。

 ──それはコートの隅ではなく、シモムラが操るゾノを狙って。

 あくまでキャノンボール・バリボーで禁止されているのは相手のコックピットを故意に狙うことであって、相手のブロック失敗を狙ったスマッシュまでは禁止されていない。

 この辺りは先ほどのAGE-FXが失格となった裁定よりも曖昧な部分であるため、正直なところアヤノも失格になることを覚悟した上での博打だったのだが、伸るか反るかで打って出た賭けは、果たしてよい結果をもたらしてくれたようだった。

 

『ぬおおおおおお!?』

『シモムラ! 耐えろ! 耐えるんだ!』

 

 反射神経の良さが仇となったのか、「光の翼」による加速を乗せて打ち出されたバレーボールは、シモムラのゾノがレシーブしようと差し出していたクローアームに直撃し、めきめきと何かが潰れるような音を立てて、その関節部に甚大な負荷をかけていく。

 もしここでレシーブをしない、という選択肢を取っていたのであれば、一点を取られるだけで終わったか、或いはアヤノが失格を取られていた可能性だってあっただろう。

 だが、シモムラはその反射神経から、ボールに手を出してしまった。

 こうなれば扱いとしては、スパイクを自らレシーブしにいった、という大義名分が成立し、その結果がどうなったとしても、責任はあくまでもシモムラに還元される。

 ぐしゃっ、と、あまり聞いていて愉快ではない音を立ててゾノの腕部がへし折れると、ボールはコートの外へと弾き出されて点々と砂浜を転がっていく。

 

『そこまで! チームメンバーの行動不能によって、勝者は「ビルドフラグメンツ」のアヤノ選手とユーナ選手に決まったァ!』

『あちゃー、まあ受けちまったんなら自業自得ってやつだねぃ、それはともかく会場のにーちゃんねーちゃん、勝者には盛大な拍手をお願いすっかんね!』

 

 そして、ルールである「チームメンバーの一人でも試合を続けられる状態にないと判断された場合は相手の勝利となる」というこれまたぶっ飛んだ裁定に従って、勝者となったのはアヤノたち「ビルドフラグメンツ」だった。

 

「アヤノさん!」

「ええ、ユーナ」

 

 ──グッドゲーム。

 本当にその内容が良かったのかどうかはさておき、次の試合に駒を進められたことをまずは祝って、アヤノのクロスボーンガンダムXPと、ユーナのアリスバーニングガンダムはその拳を軽く突き合わせるのだった。




帰ってきたエクストリームビーチバレー

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