ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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第四部が始まるので初投稿です。


第三十七話「次なる高みへと」

「うわ、なんかすっごいことになってる……」

 

 グラン・サマー・フェスティバルが終わりを迎えてから数日。

 メグは、いつもの4LDKのマンションに似たフォースネストでコンソールを立ち上げると、先日の生放送垂れ流しだったものに編集を加えて投稿したヴァルガ配信完成版の再生数と、夏フェスにおけるカグヤたちの活躍をまとめた動画の再生数を見て、驚愕に目を見開いていた。

 直近のそれらは十万をゆうに超え、名実ともに人気G-Tuberの動画と比べても遜色がない程度には、輝かしい数字が記録されている。

 何が一体きっかけになったのかはわからないが、少なくともヴァルガ配信を行うG-Tuberは比較的珍しくない以上、個々の動画が「跳ねた」というよりは上手いこと波に乗り切ったもいった方がいいのかもしれない、と、メグは少し謙遜気味に、そしてどこか他人事のように、直近の再生数の推移をそう分析した。

 実際のところ、メグの見立てはそう間違っているわけではない。

 ただ、そこに彼女の編集技術だとか、ヴァルガ配信の中でもあのオーガとカグヤの戦いは、ガットゥーミのそれと併せて名勝負に数えられるから、という視点が謙遜から欠けているだけだ。

 元々動画編集の技術自体は高く、乱数の女神様の気まぐれなのか撮れ高にも恵まれた展開が続いたことで、今やメグと「ビルドフラグメンツ」は、戦国時代と称されるG-Tuberの世界に一旗上げた新鋭として名実共に遜色ない領域にまで踏み入っていた。

 だからといって、自分たちの生活が何か変わったとか、通り道でサインを求められたとか、そんなことはないのだが。

 アヤノは同じガンダムベースシーサイドベース店からログインしてきたユーナと共に、メグが開いていたコンソールを一瞥すると、見慣れない数字に少し驚き、彼女と同じように目を見開く。

 

「凄いわね。おめでとう、メグ」

「いち、じゅう、ひゃく、せん……十万! 凄いですねメグさん! おめでとうございますっ!」

 

 どこかの鑑定団のように桁を指折り数えながら、ユーナはまるで自分のことのように目を輝かせて、メグの再生数が「跳ねた」ことを祝福する。

 実際それがどれほど凄いことなのかは正直なところアヤノたちにはまだピンとこない部分があるものの、その数字を見るだけでも六桁再生というのはインパクトがあって、単純に多くの人が見ているから、という理由でクリックをさせる呼び水にもなってくれる。

 つまるところ尋常ではないことなのだ、と、頭では理解していても、特に道中誰かに声をかけられたということもなければ、フォースネストに誰かがやってきた、というわけでもないため実感が伴わないのが悲しいところなのだが。

 まあ、いきなり有名になってサインをねだられたり、握手を求められたりするような生活がいいのか、と訊かれれば正直なところあまり同意はできなかったりするのだが。

 アヤノはまだメグが夢心地で見つめている、先日のヴァルガ配信を一瞥する。

 

『どう考えても気が狂ってて草』

『配信版も見てたけど改めてバカルテットの再来かよ』

『結成したてのフォースがヴァルガ行くなんて鴨がネギと鍋とスープとガスコンロ持参するようなものなんよ』

『↑フルアーマー鴨で草』

『回収屋生きとったんかワレ!』

『あいつも大概飽きないよな』

『やってることはモヒカンと大して変わらないけどスポーンキル狙いはヴァルガの風物詩みたいなもんやし』

『風情の欠片もない風物詩だ……』

 

 画面の右枠で、今もリアルタイムで増え続けるコメントの群れをつらつらと読み飛ばしながら、アヤノはつい先日のことだというのに、どこか懐かしささえ感じる武者修行の道中を眺め続ける。

 そして、メグの隣で少し困ったように微笑んでいたカグヤもまた、真剣さを増した目つきで、己の行動を客観的に、どこまでも冷静に見定めようとしていた。

 

『いやそうはならんやろ』

『なっとるやろがい!』

『噂には聞いてたけど本当に刀でビームとか弾丸切れる奴っているんだな……』

『GBNでサムライを名乗るなら必須スキルよ』

『↑俺は武者ガンダム使ってるけど侍じゃなかった……?』

『↑↑普通にできる奴がおかしいだけ定期』

 

 画面の中では、複数台をオートモードで記録させていた内、カグヤの暴れっぷりにフォーカスを当てた展開が続いており、彼女の常人離れした芸当に視聴者たちは困惑しつつも、この先にこれ以上の何かが潜んでいるのかと、これ以上の何かがあるのかと、コメントを打ちながらも続きを待ち望んでいるように見える。

 そして、Gチャットと呼ばれる投げ銭もちらほらと見え始めており、さながらそれは舞台の上に立つ役者に対するおひねりのように、カグヤの純粋な技量を讃えるかのように、合計すると結構な額のBCがメグのストレージへと加算されていく。

 

『げぇ、ガットゥーミ!』

『知っているのか雷電!』

『ガットゥーミ……ステゴロだけでヴァルガに潜り、ミッションを攻略する一種の変態じみた縛りプレイをするダイバーだな、そして空手やボクシングなどあらゆる格闘術に精通していることから「拳鬼」ガットゥーミと呼ばれることもあるダイバーだ』

『↑長文解説兄貴たすかる』

『はぇーすっごい……そんなのと出くわしてどうするんですかね』

『もうダメだぁ、おしまいだぁ……』

 

 あのガットゥーミがそんな二つ名を持っていたとはいざ知らず、そして持っていたとしても動じることはなく、カグヤは静かに、画面の中に映っている己の動きを逐一確認し、どこか未熟なところはなかったかと、危うい立ち回りをしているところはなかったかと分析する。

 だが、傍目から見れば破綻など見つけられないほど、カグヤとガットゥーミの戦いは両者共に実力が均衡している名勝負だ、というのがアヤノとユーナの見解であり、そして視聴者の総意だった。

 刀と拳という種の異なる武芸に秀でた者が、惜しみなくその実力をぶつけ合う姿は確かに「撮れ高」としては最高で、今も増え続けている視聴者たちも、コメントを打ちながらもその一進一退の攻防に魅入られている。

 

『すげえ、何やってんのかわかんないけどすげえ』

『何やってんのかは辛うじてわかるけどガットゥーミもカグヤちゃんもなんでそんなことできてんのか、コレガワカラナイ』

『裏でブルーチーズ兄貴の分身殺法範囲で一掃してるアヤノちゃん容赦なさすぎて草生えますよ』

『ブルーチーズ兄貴なぁ、あいつも大概キャラ濃いからなあ』

『拳で語り合おうぞ! とか言っといてビーマシ持ち出してくるからなあいつ』

『ガットゥーミの拳も速ければ、それに迫るカグヤちゃんの剣も速い……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね』

『俺はすでに見逃しそう』

『すげえな「ビルドフラグメンツ」、正直新着から惰性で動画クリックしたけどキャラ濃すぎて草生い茂ってる』

 

 ガットゥーミの拳とカグヤの刀は一進一退の攻防を繰り返していたものの、徐々に捲っていったのはカグヤの方だ。

 それがわかっていたからこそ、あの時ガットゥーミは己の持てる全てを叩きつけようと、必殺技の発動を選んだのだろう。

 

『上から来るぞ、気を付けろ!』

『ガットゥーミがあの構えを取った……ってことはあれか、あの頭おかしい必殺技が拝めるのか』

『現実でやったら人体が耐えられないしGPDでやってもガンプラが耐えられないあの音速に迫る突きか』

『ガットゥーミがんばえー』

『カグヤちゃんがんばえー』

『↑どっちを応援してるんですかね……』

 

 茶化すようなコメントが多いものの、それは「拳鬼」として勇名を轟かせるガットゥーミの必殺技、その威力と凄まじさが既に周知のものだからだろう。

 全身を一つの関節として連結させたように、腕そのものをしなるような動きで鞭のように叩きつけるその必殺技は、長文コメントに記された通り、この電子の海でしか実用に耐えうるものではない。

 ガットゥーミがGBNを始めた理由こそアヤノは知らないものの、恐らく彼もまた何か一つの「限界」を超えるためにこの仮想郷へと足を踏み入れたのだろう。

 そうして放たれた音速の突きに対し、カグヤは一瞬戸惑ったものの、その身体が止まることはなく、即座に取った受け流しと居合を複合させた「夕凪」という技によって、完璧に音超えの一撃を相殺し、そのコックピットへと刃を突き立てていた。

 

『ヤバいわよ!』

『ヤバいですね☆』

『いや何がどうなってんだよこれ』

『ファーwwwwwwww』

『草生やすな』

『ガットゥーミ……去り際もいい男だったぜ……』

『こりゃカグヤちゃんも相当だな……』

 

 ある者は目の前の事態を理解できず、ある者は理解を超えて茫然と口を開けて、そしてまたある者は二人の武芸者による死闘の幕引きを惜しみながらもその実力に戦慄し、カグヤとガットゥーミを称える。

 戦いに夢中だったからわからなかったものの、こうして動画を見てみると、戦い方、というよりは得意とするレンジが比較的近いアヤノとしてもカグヤの立ち回りは参考になるところが多い。

 だからこそ、一つでもその技量を参考にせんと、アヤノは目を皿にして食い入るように画面を見つめていた。

 

『ファーwwwwwwwwwwwwwwww』

『大草原不可避』

『オ ー ガ 降 臨』

『もうダメだぁ、おしまいだぁ……』

『いくらカグヤちゃんでも相手が悪すぎんだろ……』

『あのバトルグルメがこんな旨そうなご馳走目の前にして我慢できるはずもないからね、しょうがないね』

『救いはないんですか!?』

 

 そして、その武を轟かせるように、或いは動画内でのコメントにあった通り、据えられた御馳走を喰らい尽くしにきたかのように、「獄炎のオーガ」はその禍々しいまでの威圧感を放ち、ヴァルガの大地に降り立ったのだ。

 それはアヤノもよく覚えていた。

 あれは明らかに異質だと、絶対に手を出してはいけない存在だと、本能が警告していたにもかかわらず、ユーナの前で背中を見せたくはないという意地を張ってしまったのは自分でも青臭さがすぎたと反省しきりだが、やはり見れば見るほど「獄炎のオーガ」は化け物だ。

 その禍威へと食らいついているカグヤの技量も凄まじく、彼を興に乗せて鬼トランザムまで使わせたのは驚嘆に値することだが、それでもオーガは百パーセントを、己の持てる全てを曝け出したかといわれれば、そんなことはないのがまた恐ろしい。

 画面の中では、モビルドール形態に移行したカグヤと、鬼トランザムを発動させたオーガの【ガンダムGP-羅刹天】が瞬きする間も無く刀を交える光景と、二人への称賛や、或いはカグヤがELダイバーであることに驚くコメントなどがひしめき合っていて、情報過多もいいところだった。

 右枠近くで戦いを実況している、後付けで編集されたメグのアバターによるマイクパフォーマンスやリアクション芸も中々のものであり、総じて今見返していたヴァルガ配信完成版は、クオリティの高いものだと断言して問題ない。

 これもひとえにメグの努力の賜物だろう。

 今もどこか夢心地で、再生が終わったのにもかかわらず、コンソールに視線が釘付けになっているメグを一瞥して苦笑すると、アヤノはその肩をそっとつついて、意識を現実へと引き戻す。

 

「……はっ、ちゃんと感触がフィードバックされてる! 夢じゃないよね、カグヤ、アヤノ、ユーナちゃん!」

「はい、拙は夢というものを見ないので、拙が見ている世界こそが夢でないのなら、間違いなくこれは現実です、メグ」

「なんだか妙に哲学的ね……幸いなことに現実よ、わたしとユーナはちゃんとシーサイドベース店からログインしてきたんだから」

「うん! これも全部、メグさんが頑張ったからだよ!」

 

 次々と寄せられる言葉に感極まったのか、じわり、と、眦に涙を滲ませると、メグははらはらと涙を零しながら、カグヤたちをぎゅっと抱きしめて、その温もりが嘘でないことを確かめるかのように頬をすり寄せる。

 

「ありがとう……アタシ、皆と一緒じゃなきゃここまで来れなかった。夢見てたこの景色を見ることができなかった。だから、その……ありがと、皆……」

 

 毎朝G-Tubeにログインしては、増えない動画再生数とチャンネル登録者数に溜息をついて、そんな憂鬱をカグヤに悟られまいと、現実でのあだ名でもある「優等生」の仮面に自らの涙を押し隠していた日々はもう終わった。

 メグはこの瞬間、G-Tuberとして一つのサクセスを果たしたといってもいい。

 ギャル系ニンジャG-Tuber、というともすればイロモノと見られかねない自分の個性と、そしてフォースメンバーたちの個性を引き立てる、さながらG-フリッパーでの戦い方にも似た実況によるサポート。

 その全てを生かし、メグは見事に花開いてみせたのだ。

 まるで自分のことのように、釣られて涙を滲ませながら拍手を繰り返すユーナに、アヤノは苦笑しつつも、自分もどこか胸の奥が熱を浴びてくるような感覚を抱いているのだと理解する。

 それを人は、きっと愛おしさと呼ぶのだろう。

 

「で、メグ。余韻に浸っているところ悪いのだけど、次は何をするのかしら」

 

 フォースとして放課後の延長線上にある時間を過ごすためだけに集まったというのならそれはそれでこのささやかな祝賀会を続けるのも構わないものの、今日アヤノたちがログインしてきたのは、元はといえば、メグからお誘いのメッセージを受け取ったからに他ならない。

 

「ああうん、ごめん! すっかり忘れててウケる」

「構わないけれど……その顔だと、何かしたいことがあるんでしょう?」

「そうですそうです、リーダーとして、わたしも気になります! メグさん、答えちゃってくださいっ!」

 

 一応自分がフォースリーダーであることを思い出したかのように、冗談めかして元気いっぱいににじり寄るユーナに、メグは少し困ったように笑うと、いつも通り手早くコンソールを叩いて、その「目的」が記された画面をウィンドウへとポップさせる。

 

「えっとね、アタシたち一応っていうか、フォースとして結構やってきたわけじゃん? だからさ、この『バトランダム・ミッション』受けてみよっかなーって思ってたわけ」

「ばとらん……?」

 

 以前に遭遇したナスランとザクランの親戚か何かだろうかと案の定頭を抱えて黒煙を噴き出しているユーナを再起動させるかのようにアヤノはそっとその髪を撫でると、補足するように言葉を紡ぐ。

 

「簡単にいえばフォース対フォースで一つのミッションを舞台に戦うの。わかりやすい例だと、基地を攻める側と守る側に分かれて戦ったりとか、そういうのよ」

「へー……そうなんだ! あ、でも、フォース同士ってことは……」

「そ、対人戦! カグヤの武者修行にも丁度いいし、ここらで一つ動画とか関係なしに、アタシらのフォースとしての力試しみたいなものもしてみたかったからね!」

 

 メグは目の脇でピースサインを浮かべると、ぱちりと可愛らしくウィンクをしてみせる。

 バトランダム・ミッション。それはかの悪名高いシャフランダム・ロワイヤルの原型となったものであり、ある程度の実力差を考慮してランダムに抽選されたフォース同士が一つのミッションにおける成否をかけて戦うというイベントだ。

 実力差が考慮されるといっても、黎明期の「ビルドダイバーズ」と、その時点でSSランカーだったオーガ率いる「百鬼」がマッチングしたりとあまりその辺りはお世辞にも信用できるとはいえないのが実態なのだが、それがかえって腕試しには丁度いいと、ダイバーからは概ね好評を博しているらしい。

 アヤノはコンソールを操作してまとめwikiのページをウィンドウへとポップさせると、それをユーナに提示しながらふむ、と小さく唸る。

 確かにフォースとして「ビルドフラグメンツ」は色々と活動してきたわけだが、真っ当なフォース戦らしいフォース戦は初期の「CAA」と戦った以外には経験していない。

 そういう意味では、メグの言葉も一理あるといえた。

 

「そうね、私も……どれだけ今の自分がやれるのか、自分たちがやれるのかを見てみたいところはあるわ」

「拙も、己が武を磨けるのであれば、メグと共にあれるのであれば、それが地獄の底でも参りましょう」

「えっと……皆がそう言うなら、わたしも頑張っちゃうよ!」

 

 アヤノ、カグヤ、ユーナの意見が合致し、その視線はメグの瞳を真っ直ぐに捉える。

 

「皆……ありがとね! そんじゃアタシもばっちりサポートするから、バトランダム・ミッション、エントリーしちゃうよ!」

 

 そうして三人に促されるかのようにメグはウィンドウに浮かんでいたエントリーのボタンを押すと、フォース「ビルドフラグメンツ」は、バトランダム・ミッションへのエントリーを無事に果たすのだった。




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