ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント 作:守次 奏
メグがバトランダム・ミッションへの参加を申し込んでから数日、対戦相手のフォースが決まったという通知がコンソールへと届いたアヤノたちは、いつも通りにフォースネストへと集合して、作戦会議を開いていた。
「ってなわけで、今回当たるフォースは『ヴァイスウルブズ』……ファースランク的には中堅ってとこだけど、アタシが調べた限り、全員が全員シルヴァ・バレト……ってかドーベン・ウルフ系の機体に乗ってるってとこかな」
「白狼なのにGバウンサーや高機動型ザクではないのね」
「うん、まあその辺は機体の名前優先したんじゃない? あとは単純に原作の強キャラロールするのって中々勇気いるからね」
ヴァイスウルブズ、という名前にアヤノは聞き覚えがなかったものの、白狼であったり「白い狼」という二つ名を持つキャラクターの機体ではなく、あえてドーベン・ウルフ系の機体で構成を統一するという姿勢には、何かこだわりのようなものを感じるところもある。
おそらく映像作品「機動戦士ガンダムZZ」の「スペース・ウルフ隊」を原型としているのだろうか、と、アヤノが茫洋とそんなことを考えていた時だった。
「えっと、メグさん!」
「なになに? どったのユーナちゃん?」
「シルヴァ……? じゃなかった、ドーベン・ウルフってどんなガンプラなんですか?」
ユーナが目を輝かせながら手を挙げて、そんなことを問いかける姿にメグはがたり、と椅子から転げ落ちそうになるが、よくよく考えればユーナはビルドの技術こそ高くても、ガンダムに詳しいといった話は聞いたことがなければ、そんな雰囲気を醸し出しているわけでもない。
ドーベン・ウルフ。そしてそこから派生したシルヴァ・バレト。
アヤノは茫洋とその機体に想いを馳せる。
一言で表すのであれば、ドーベン・ウルフという機体は火力と手数の化け物といった具合の、第一次ネオ・ジオン戦争期を象徴するような恐竜的進化を遂げたモビルスーツだ。
代名詞でもあるメガランチャーに、そしてメガ粒子砲やビームキャノン、対艦ミサイルにインコム・ユニット。
さながらフリーダムガンダムのように多彩でかつどれも火力が高い武器を持った機体でメンバーが統一されているなら、いかにABCマントやビーム・シールドがあるとはいえ、自分も警戒しておかなければならない。
それに、派生形を扱うということは、もしかしたら、その原型となった【ガンダムMk-Ⅴ】が出てくる可能性も考えられるだろう。
どんな戦いでも変わらないものの、気を抜いていて勝てる相手ではなさそうだと、アヤノはぴしゃりと自らの頬を叩いて気を引き締める。
「ドーベン・ウルフっていうのは……んー、なんかこう、すっごい火力でドカーンってしたり、インコムって武器で後ろからちくちくやってきたり……まあ、火力が高くて色んなことできる機体だから、特に格闘戦特化のユーナちゃんとカグヤは気をつけた方がいいかなって感じ」
「色々できる……はい! ありがとうございますっ、わたし、気をつけて頑張ります、メグさん!」
「その意気や良しです、ユーナさん。拙もビームくらいは斬れますが……出力が高い武器やオールレンジ攻撃を持っているとなると、少しばかり分が悪いですから、気を引き締めねば」
果たしてユーナがどんな機体を想像しているかはともかくとして、気を引き締めねばならないとカグヤが言ったように、アヤノが心の中で思い浮かべたように、今回の戦いは、今までとは事情が大きく違う。
それはバトランダム・ミッションの仕様が何か悪さをしているだとか、そういう話ではない。
メグも気付いているんでしょう、とばかりに片目を瞑ってアヤノが視線を向ければ、もちろん、とばかりにメグは親指を立てる。
「ま、今回気をつけなきゃいけないのはアタシたち全員なんだけどね!」
「全員……? えっと、わたし、ドーベン・ウルフについてまだよくわかんないですけど、いつも通り透明になったり、相手のレーダーを妨害できるメグさんなら有利に戦えるんじゃないですか?」
ユーナが困惑と共に投げかけた疑問は、そう的外れなものではない。
ポップさせたウィンドウに表示されている「ヴァイスウルブズ」の前情報と併せて、メグの能動的な偵察はもう始まっているといってもいい上に、実際、ドーベン・ウルフが相手であれば火力面で不安は残るものの、G-フリッパーの方が相性で有利をとっていることは間違いない。
それを踏まえて考えれば、ユーナの着眼点は、ビギナーにしては鋭いものだといえる。
だが、問題の本質はそこではないのだ。
「ユーナ、一昨日、私たちの配信をまとめた動画は見たでしょう?」
「うん! 何十万再生とか行ってて凄かったよねっ!」
「……そう、逆に考えれば私たちは何十万人に、下手をすればそれ以上のダイバーに手の内を見られている、ということなのよ」
フォース「ビルドフラグメンツ」の戦略は極めてシンプルだ。
偵察と斥候を兼ねるメグが情報を集めた上で撹乱し、突撃前衛のカグヤとユーナが火力で押し切り、機動力に優れたアヤノが近接支援としていつでもどちらかの援護ができるような位置に陣取って後詰とする。
その戦略自体はシンプルながらも強力なもので、真正面からぶつかるのであればメグの存在はそれだけで脅威になるし、逆にメグを無視して無理やりアタッカーを抑えようとすれば機動力に優れた近接支援のアヤノをフリーにしてしまう。
だからこそ今回の戦いもその黄金律に従っていれば自然に勝ちを拾える──とはならないのが、GBNというゲームなのだ。
敵を知り、己を知れば百戦危うからず。
その理由は、先人が遺した名言に従うのであれば、そして「智将」ロンメル率いる「第七機甲師団」がフォースランキング二位という輝かしい成績を残していることを鑑みれば、自ずと理解できる。
第七機甲師団には、ユーナやカグヤのように単体の火力と機動力に優れた、自己でその役割を完結させているタイプのアタッカーは所属していない。
強いていうのなら、ロンメル自身の【グリモアレッドベレー】がそれに当たるのだろうが、彼の本質はインファイターとしての部分にあるわけではなく、それはあくまでも「戦略」という強さの本質を補強する手札の一つでしかないのだ。
つまるところ、メグがG-Tuberとして活動している都合上、加えてその人気が爆発的に高まってきた以上、彼女が「ヴァイスウルブズ」の情報を集めたように、敵もまた「ビルドフラグメンツ」の情報を集めている可能性は大いに考えられる。
それに、何より。
「……ここはGBNよ。相手が原型機をそのまま使用しているとは限らない」
「あっ……」
無論、原型機をそのまま使用することが悪だという訳ではなく、好きなカラーパターンに塗り替えた「自分専用機」というロールを貫くダイバーも珍しくない。
ただ、やろうと思えば無限にカスタマイズパターンを考えられるのがガンプラであり、そしてそのカスタマイズを施した機体を戦場で思う存分暴れさせることができるのが、このGBNという世界なのだ。
だからこそ、メグのジャマーとステルスを組み合わせた、シーカー・アサシン型のビルドとしては鉄板といえる構築に対応するためのカスタマイズや戦術と戦略、それを「ヴァイスウルブズ」が練っている可能性は大いにある──というより、十中八九そうしてくるだろう、というのがアヤノの予想だった。
「ま、アヤノの言う通りだね! アタシたちが警戒されてる分、アタシたちはそれ以上に相手を警戒しなきゃならないってこと!」
してたってどうにもならないことだってあるけどね、と、冗談めかしてメグは笑ってみせるが、正直なところ冗談ではない。
ユーナもぶるり、と背筋を震わせて、脊髄を伝う緊張感に身体をこわばらせる。
「敵を知ること、己を知ること……それこそ、武の道を歩む第一歩。拙もこれまでの勝利に浮かれることなく、存分に死合いたいものです。ところで、メグ」
「なになに、どったのカグヤ?」
「相手のことについてはある程度把握したのですが、バトランダム・ミッションとは何をするのでしょう……?」
ずこー、と、椅子から転がり落ちそうになりながら、メグはカグヤの天然が入ったその言葉に目を丸くするが、よくよく考えてみれば、バトランダム・ミッションの詳細な仕様は、マッチングしてからではないとわからないという具合になっているため、その質問が出てくるのもある意味当然だった。
指先を巧みに滑らせてコンソールを操作すると、メグは画面からマッチング決定のお知らせを再度ウィンドウに呼び出して、カグヤとアヤノ、そしてどこか戦々恐々としているユーナへとそれを提示してみせる。
「ごめんごめん、アタシだけが読んじゃっててすっかり忘れてた! ウケる」
「笑い話じゃないのよ、メグ」
「アヤノってば手厳しいねぇ……まあ、今回のミッションは比較的オーソドックスな防衛、攻略ミッションだね。アタシたちは防衛する側、『ヴァイスウルブズ』は攻撃する側って感じ」
タブを拡大して大写しになった勝利条件には、「敵の全滅」「時間内に月面フォン・ブラウン市を守り切る」という二つが記されていた。
シチュエーションとしてはおおよそ映像作品「機動戦士Zガンダム」の「アポロ作戦」に近いだろうか。
アヤノは細い顎に指をやって、しばらく考え込む。
月面都市フォン・ブラウン。宇宙世紀作品に登場するそれ自体と、防衛条件はともかくとして、問題となってくるのは周囲の地形だろう。
かの「ビルドダイバーズ」が初めて受注したバトランダム・ミッションでは南極基地におけるシャトルの打ち上げ防衛が勝利条件として指定されていたらしいが、起伏に富み、遮蔽物も多い南極基地と違って、フォン・ブラウン市周辺に指定されたバトルフィールドはだだっ広く、身を隠せる起伏が少ないために事実上の総力戦になることが予想できる。
そして敗北条件に「敵機のフォン・ブラウン市到達」が記されている以上、相手はわざわざカグヤとユーナという火力の二枚看板を正面からどうこうするより、確実に都市への到達を勝利へのチャートとして組み込んでくるはずだ。
南極基地がトーチカや砲台などの防衛手段を備えていたのに対し、フォン・ブラウンにはそういったものが存在しない都合上、今回のバトランダム・ミッションで不利を背負っているのは「ビルドフラグメンツ」の方だと見て間違いない。
「……だからといって、負けるつもりはないわ」
どこか自分へと言い聞かせるかのように、アヤノはぼそりとそう呟く。
不利を背負っていようとなんだろうと、遮蔽物がほとんど使えないのならどの道、相手がこちらの全滅を視野に入れていようがいまいが、正面からぶつかり合うことは半ば必然なのだ。
ならばそれより早く、相手を殲滅してしまうなり、いやらしく立ち回ることで足止めして釘付けにするなりしてしまえばいい。
「そうそう、アヤノの言う通り! 負けるためにミッション受けたんじゃないんだから、そこはチームワークで乗り切ってかなきゃね!」
アタシもバリバリサポートするからさ、と、どこか不安げに縮こまっているユーナの肩にぽん、と手を置いて、メグは快活に口角を吊り上げて笑ってみせる。
戦いというのはおおよそ、いざ戦場で銃火を交える前から始まっている。
第七機甲師団のロンメルがそんな言葉を残していたとかいないとかは、ダイバーたちの間で語り種になっているが、はっきりいってしまえばあのモフモフしたオコジョが言っていようと、それとも別な誰かが言ってようとどうでもいい。
大切なのはその内容の方だ。
戦う前から戦いは始まっている。
臆したままに戦えば、その立ち回りは迷いとなって自らの足を引っ張る。
だからこそ、それが空元気だろうが強がりだろうが、「自分たちならやれる」と強く思い込むことで一種のプラシーボ効果を与えるのは、試合前においてはお約束のようなものだった。
「そうですよねっ! わたし、元気なことだけが取り柄なんだから……頑張らないと!」
「そうそう、その意気! 負けたって悔しいだけだしね!」
フォースポイントやダイバーポイントの増減はあれど、基本的にGBNという世界においては何万回敗北しようとも、「もう一回」に賭けて、何度だって挑戦し続けることができる。
無論、バトランダム・ミッションや期間限定のレイドバトルなど、月やシーズンで開催数が限られているミッションにおいてはその限りではないとしても、バトランダム・ミッションで当たった相手とリベンジマッチをすることはできるし、実際に行われている光景を見るのも珍しくない。
だからこそ、ユーナたちはその拳を空高く突き上げて、作戦会議の続きへと臨むのだった。
◇◆◇
「君たちが『ビルドフラグメンツ』か、噂はかねがね聞いている」
「本当ですか!? えへへ、ありがとうございますっ! わたしがリーダーのユーナですっ! えっと……」
「リョースケ。リョースケ・ホクトだ。お互い、いい戦いにしよう」
散切り頭に赤いメッシュが入った大男は、ユーナのテンションにも気圧されることなく、差し伸べられた小さな手を握ってふっ、と微笑んだ。
フォース「ヴァイスウルブズ」。
全員がその背に狼が刺繍されたフライトジャケットを身に纏っていることが特徴的な彼らは、今日の敵にして、「ビルドフラグメンツ」が事前の顔合わせに臨んでいる相手に他ならない。
紳士的だが、どこか寡黙な雰囲気を漂わせるリョースケというダイバーがそうであるように、選抜された「ヴァイスウルブズ」のメンバーは全員が唇を真一文字に引き結んで、眉間にシワを寄せたまま直立している。
威圧的な効果を期待しているというよりは、軍隊色が強いフォースなのだろう。
静かに押し黙っていたとしても、リョースケ率いるフォースのメンバーたちは皆、びりびりと肌で感じられるほどの闘志をその背中から放っている。
それは取りも直さず、彼らが一筋縄ではいかない相手だという証だった。
アヤノもまたその緊張感に飲み込まれないように、閉じた扇子を口元に当てながら、ずらりと並んだ「ヴァイスウルブズ」のメンバーを真っ直ぐに見据えて離さない。
カグヤもまた、アヤノと同じように臆することなく「ヴァイスウルブズ」の視線を受け止めていて、それはまさしく戦う前からの戦いを体現しているかのようだった。
アヤノたちがばちばちと火花を散らす中、お互いの自己紹介を終えたユーナとリョースケは、同時にミッションへのエントリーボタンを押すと、その躯体はブロックノイズ状に解けて、戦場へと繋がるカタパルトまで転送されていく。
アヤノもどこか意識が遠のいていくような、一度バラバラにして再構築し直しているかのようなその感覚に身を委ねて、クロスボーンガンダムXPのコックピットへと転送されていく。
「それじゃ皆、準備オッケー?」
「拙はいつでも構いません、メグ」
「わたしもオッケーです、メグさん!」
「こちらも同意するわ」
立てた作戦──いつも通りといえばいつも通り、メグが先行して撹乱した隙をつき、カグヤとユーナが飛び込んで敵陣を引っ掻き回すといういつものそれを再確認すると、アヤノたちはカタパルトに機体の脚部を固定して、戦場となる月面へと飛び出すために身を屈ませる。
リョースケという人間は確かに実直そうだったが、人柄と作戦が直結しているわけではない以上、最悪の事態は想定するに越したことはない。
先に飛び出していったメグたちを見送りながら、最後衛のディフェンダーという重要なポジションを任されたことによる重圧を誤魔化すように小さく息を吸い込んで、アヤノは赤から青へと変わった誘導灯に従って、機体を走らせる。
「アヤノは、クロスボーンガンダムXPで出撃するわ!」
それを叫ぶことに大した意味はない。
ただのお約束で、ロールプレイに過ぎないとしても、出撃前の前口上というのは、なかなかどうして気分を高揚させてくれる。
アヤノはそんな胸の高鳴りと、胃の辺りを締め付けられるような緊張との間で板挟みになりながらも、スマッシャーモードに変形させた「クジャク」を構えて、戦場へと飛び立っていくのだった。
いざいざ実戦