ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント 作:守次 奏
フォース「ビルドフラグメンツ」を、外から分析するのであれば、戦略的には戦いやすい面があるというのは、紛れもない事実であった。
トランザムによって赤熱化したリボーンズガンダムを、「光の翼」の加速度を乗せたバタフライ・バスター二刀流で斬り捨てると、アヤノは何度目とも知らないフォース戦の依頼がまた一つ終わったのだと、安堵の息をつく。
基本的に、火力と近接戦に偏重している「ビルドフラグメンツ」は、戦略面において対応できる幅は少ないといってもいい。
比較すること自体がお門違いだとはいえ、各種装備や局地戦への対応、そして何よりフォースメンバー自体を己が率いる軍隊の一員とする、という方針を掲げるフォース「第七機甲師団」が、そのリーダーであるオコジョ、「ロンメル」が保持している手札と比べればその柔軟性は遥かに低く、それを無理矢理プレイヤースキルとメグのサポートという戦術面で踏み倒しているのが、「ビルドフラグメンツ」なのである。
だから、倒しやすい相手だと格下に見られている──と、いうことは特にないのだろう。
リボーンズガンダム、ガンダムエピオン、バンシィ・ノルン、マスターガンダムという、見る人が見れば懐かしさを感じるような機体編成で自分たちに挑みかかってきたフォース「EXブースト」は、どこまで本当かはわからないものの、メグのファンになったからとかそんな理由でフォース戦を挑んできたという経緯がある。
無論、それが嘘である可能性は大いにあるものの、相手を疑いだせばキリがない。
ミラージュコロイドとハイパージャマーというステルスとジャミングに対して、「EXブースト」の面々は奇策を弄することなく、単純にレーダーに頼らない有視界戦闘を行えるマスターガンダムをメグにぶつけて、近接戦に偏重したカグヤとユーナには射撃戦が得意なノルンとリボーンズガンダムを、そして後詰のアヤノにはガンダムエピオンが急襲をかけるという脳筋戦術で挑みかかってきたのだが、中々どうしてそれは理に適っていた。
基本的に、メグは連携の分断からの各個撃破という戦術を好んでいるのに対して、最初から連携によって圧殺するのではなく個々の強さをぶつけて、擬似タイマンと呼ばれる状況をむしろ受け入れることでフォースを勝利に導く。
それもまた、メグがアップしている動画を見て、研究した一つの結果だといえよう。
セントラル・ロビーに転送されてふわり、と降り立ったアヤノは、ここ最近の連戦について考えを巡らせながら、物憂げにふっ、と息をついた。
負けが続いているわけではない。
むしろ、挑んできたフォース全てをことごとく返り討ちにする連戦連勝を重ねていたことで、「ビルドフラグメンツ」のフォースランキングは急上昇し、メグがアップロードした動画も、ほぼ編集を加えていない、いわゆる視点動画、そして大幅な編集を加えた解説動画共々、再生数は数十万を割ることなく維持している。
ただ、現状を分析するのであれば、やはりフォース戦に本腰を入れるとなると、厳しい面があることは確かだった。
『ハハハハハ! 俺のスーパーシュペールスペリオルシュプリームスーペルハイペリオンは無敵だぁ!』
『きゃああああっ!』
ちょうどコンソールを操作してG-Tubeを立ち上げたことで、今し方アップロードされたばかりの、数日前に行われたフォース戦の編集動画──「すっごい金ピカ! ビームが効かないって噂のあの人たちに挑戦してみた!」というタイトルが付けられたそれをタップすると、サムネイルから確認できるサンプル動画が画面に出力される。
アヤノは冗談としか思えないようなその金ピカに塗装され、「ヤタノカガミ」加工が施された機体と、そのスーパー以下略ハイペリオンを操るダイバー、「ホッシー」が、「アルテミスの傘」──アルミューレ・リュミエールを球状に展開したまま、ユーナのアリスバーニングを急襲する映像を一瞥した。
それが戦術の常道であるならば、GBNのマナーやルールに則っているのであれば、相手が取った策がある程度卑劣なものであったとしても、基本的にその策を非難する権利はアヤノたちにない。
だが、それにしたってここ最近のフォース戦は、「ビルドフラグメンツ」への研究が進んでいることもあって、非常に険しい、常に敗北と紙一重の勝利ばかりだ。
そして、対策されているのはやはりメグのステルスとジャマーもだが、近接戦に偏っている──と、いうよりは、近接戦以外がほぼできないともいっていいカグヤとユーナだった。
基本的に、アタッカーをフリーにしておくことは戦術としては論外だ。
だからこそ、メグを押さえた上で「ビルドフラグメンツ」が誇る近接火力の二枚看板であるカグヤとユーナを封殺するというその戦術に相手の方針が収束しているのは、ある種当然といってもいい。
だが、矢面に立たされる側としては堪ったものではないのだろう。
どことなく疲れた笑顔でメグと言葉を交わしているカグヤと、今も茫然とした様子で宙を眺めているユーナを横目に、アヤノは考える。
カグヤの方は、必殺技としてモビルドールカグヤへの移行という保険を有しているからまだマシなものの、否応なく弾幕砲火に晒されるユーナは、キツいという言葉では済まされない。
だからこそ直近の、それこそ「EXブースト」とのフォース戦においてはアリスバーニングガンダムは射撃戦で封殺され、劣勢に追い込まれていたのだ。
そして、仮に射撃戦を掻い潜っても、バーニングバーストシステムの無理な発動によって機体が自壊するという展開が非常に多かった。
こういう展開が続けば、疲れの一つや二つ、溜まらない方がおかしいというものだ。
呆然とするユーナの肩にそっと手を置いて、アヤノはやや遠慮気味に、遠回しな言葉はないかと思索を巡らせながら言葉を紡ぐ。
「その……お疲れ様、ユーナ」
「アヤノさん……」
「貴女はよくやってくれているわ。だから、その……」
「……うんっ! 大丈夫! 心配してくれてありがとう、アヤノさん! わたし、元気に頑張るから!」
──それに、溜まってたフォース戦の依頼ももうこれで最後だし。
アヤノの言葉を受けて、ユーナはぱあっと笑顔の花を咲かせると、「ビルドフラグメンツ」宛に届いていたメッセージの一覧をウィンドウに表示させると、その全てに既読がついていることと、同時に開いたスケジュール欄に書き込まれたフォース戦の予定に全てチェックが入っていることを見せつけるかのように指先をスワイプさせる。
「ごめんね、アタシも断っとけば良かったんだけどさ」
「……メグ」
「ううん、大丈夫ですよメグさん! だって断るのって気が引けるし、それに……わたしたち、ちゃんと勝ってきましたから!」
フォース戦を申し込まれて、受けることは別に義務というわけではない。
だが、メグの場合はG-Tuberをやっている以上、ファンからの感情であるとか、評判であるとか、そういったものへ常に気を配らなければならない都合上、理由もなく無下に断るという選択肢はなかったのだろう。
救いがあるとするならば、ユーナが言った通り、全てのフォース戦に敗北を喫することなく、勝利を収めてきたことだろう。
フォース「ビルドフラグメンツ」の弱みが戦略面で融通が利かないことであるとすれば、強みはシンプルながらも対策が難しい、これといったメタを張ることが困難であるということだ。
射撃戦に徹したとしてもカグヤは弾を切り払って突撃するし、集中砲火による被弾やそれに伴うバーニングバーストでの自壊は多いものの、ユーナだってその身のこなしは軽く、安易に射撃戦を選んだところで封殺するのは難しい。
それに──
アヤノは、いざ打ち上げに乗り込もうと、メグと共に何か良さげな会場を探しているユーナを一瞥して、そっと静かに目を伏せる。
あの「ヴァイスウルブズ」戦で見せたような狂乱や暴走とでもいうべきものを、ユーナはあれ以来見せていない。
それはメグとアヤノが密かに采配の打ち合わせをすることで、カグヤに、いつでもユーナをフォローできる立ち位置に陣取ってもらうという作戦を立てていたからなのだが、それでもあの異様な光景は気にかかるというものだ。
いつだってユーナは大丈夫、と、笑ってみせるけれど、本当に「大丈夫」なのだろうか。
親友の言葉を疑ってしまう自分に嫌悪を抱きながらも、しかしアヤノはその考えを振り切る術を持たずに、ただ沈黙し続けることしかできずにいた。
「アヤノ、いつものカラオケ行くこと決まったけど、大丈夫?」
そんな具合に首を捻って考え込んでいたら、いつの間にか話はまとまっていたらしく、メグが目の前で掌を左右に振りながら問いかけてくる。
「ごめんなさい、少し考え事をしていて」
「考え事かぁ……ま、なら仕方ないよね! それより早く行こっか──!?」
あっはは、と小さく笑いながら踵を返し、メグが走り出したその時だった。
どん、と鈍い音を立てて、メグは目の前に突っ立っていた、黒いレザージャケットにレザーパンツという威圧感を放つダイバールックに身を包んだ大柄な男と正面衝突を起こす。
「おっと、済まない。こちらも考え事をしていてな」
「いっつつ……ごめんごめん、アタシも前見てなかったから! そんじゃ──」
「なあ、お前たち──『ビルドフラグメンツ』だろ?」
レザージャケットの男──ダイバーネーム「ヴィラノ・デイヴィッド」が口元に皮肉な笑みを浮かべると、まるで最初からそれを狙っていたかのように、その背に隠れていた三人の、同じような格好をしたレザージャケットのダイバーたちが、アヤノたちを取り囲むように陣取る。
その面々は皆、どこか古強者であるとか、あるいはヴィラノと同じようにどこか威圧的な雰囲気を放っていて、どうやら穏やかにお話し合いがしたいわけではないのだろうと、アヤノもぴりぴりと警戒心を剥き出しにして、皮肉な笑みを浮かべて問いかけるヴィラノを真っ直ぐに睨みつける。
「ええ、私たちは『ビルドフラグメンツ』よ。何か用かしら? これからフォース戦の打ち上げに行く途中だから、急いでいるのだけれど」
「打ち上げ、ねぇ……まずは勝利おめでとうとでも言うべきだったかね?」
「それはどうも。急いでいると言ったでしょう。用件ならリーダーを通して──」
「ビビってんの?」
アヤノたちを取り囲む三人の中で唯一の女性──ヴィラノへとしなだれかかるようにして「ビルドフラグメンツ」を睨め付けていた女性、ダイバーネーム「ムーン」は、どこか挑発的に皮肉な笑みを浮かべながらアヤノへとそう問いかけた。
「ま、別にそれならそうであたしたちは構わないんだけど。別に触れ回ってもいいのよ? 『ビルドフラグメンツ』と人気G-Tuberのメグは尻尾巻いて逃げ出しました、ってね」
「よせ、ムーン。済まんね、俺のフォースは少しばかり気性が荒いんだ」
「……貴方たち……!」
アヤノは、ムーンの言葉によって、ヴィラノが声をかけてきたのが明らかな挑発であることと、そこに隠されていた真意を見抜く。
威圧的な雰囲気を放ち続ける彼らに、カグヤは隙あらば事を構えようとコンソールに指をかけているし、ユーナはただ困惑してアヤノとヴィラノを交互に見つめては狼狽えている。
「やめなってば、アヤノ。それで、ヴィラノだったよね? アンタたちもアタシたちと楽しくカラオケしに行きたいわけじゃないっしょ? そろそろ本題に入りなよ」
あえて挑発に乗って、メグが話に割り込む間を作ったアヤノは、そのまま一歩引き下がった。
そしてどこか剣呑な雰囲気を漂わせたまま、威圧的な態度を崩すことなく、更にこちらを見縊っているような雰囲気を隠すことなく皮肉な笑みを浮かべ続けているヴィラノたちを、非難の意味を込めてきっ、と睨みつけるが、それもどこ吹く風といった様子で効果がない。
「お前が話のわかる奴で助かったよ、あのアヤノとかいう扇子の子はどうも頭が固いらしくてね……俺はこれでもお前のファンだったりするんだぜ、メグ?」
「そりゃどうも、でも、マナーがなってないなら流石のアタシもアヤノみたいに怒るかんね」
「そいつは失礼、まあ早い話……お前ならわかるだろ? フォース戦だよ。俺たち『グランヴォルカ』は『ビルドフラグメンツ』にフォース戦を申し込む。嫌なら断ってくれてもいいぜ?」
流れるようにヴィラノの指先がコンソールを滑り、恐らくは事前に用意していたのであろうフォース戦へのお誘いを提示する。
条件は殲滅戦。そしてバトルフィールドはフォース戦開始までわからないランダム。
そこに何か罠を仕掛ける余地がないほど、「グランヴォルカ」が提示してきた条件は清々しく、わざわざこんなやり方で喧嘩を吹っかけてくるフォースだとは思えなかった。
だが、それは裏を返せば奇策を弄する必要がない、ということなのだろう。
要するに、真正面から「ビルドフラグメンツ」と戦って、そのまま叩き潰す。
何が目的かはわからないものの、ヴィラノのやっていることは、白手袋を叩きつけているのとほぼ同義だ。
アヤノはメグがヴィラノたちへの対応をしている内に、ウィンドウサイズを最小に設定して、「グランヴォルカ」の評判を掲示板やwikiをフル活用することで検索する。
すると、驚くほどにすんなりと彼らの情報はコンソールへと出力された。
フォース「グランヴォルカ」。
SSランクダイバーであるヴィラノを中心としてここ最近結成されたフォースであり、動画などで注目を集めているフォースやダイバーに見境なくフリーバトルを仕掛けて真正面から潰してきたため、「壊し屋」の異名を持つ集団である、というのが、アヤノが調べた限りでわかる彼らの概要だった。
そこに多くの怨嗟の声が伴っていた以上、お世辞にも「グランヴォルカ」の評判はよろしいものではなく、彼らに潰されたことで活動を辞めてしまったバトル配信系G-Tuberも数多いと、恨み辛みを愚痴スレに吐き出しているダイバーは数多い。
名が売れれば、変な相手に絡まれるのはある種の宿命ともいえるものだが、時にこうしてとびきり厄介な連中が釣れてしまうのは、流石にアヤノであろうともメグであろうとも、無論その他の誰であろうとも、どうしようもないことだった。
それが、掌でサイコロを弄びながら、きっと今も唇を三日月形に歪めている乱数の女神様の采配というものなのだから。
肝心要の勝ち目があるかないかについては、残念ながら今調べた限りではわからなかった。
フォース「グランヴォルカ」への怨嗟の声は絶えずとも、彼等がどんな武装を使っているとか、どんな戦術を用いているだとかいった声は少なく、また見つけたとしてもほぼ意見はバラバラで統一感がない。
それに、リーダーであるヴィラノが明らかに自分たちより格上であることから、他でもない当人が言っているように、戦いを避けるのが無難なのだろう。
メグと視線を交わして、アヤノがそう結論付けた時だった。
「──逃げるのか?」
相手も薄々それを察していたらしく、挑発というよりはどこか興醒めだといった様子で、ヴィラノは言葉を投げかけると、やれやれとばかりに肩を竦めてみせる。
「残念だけど、そう──」
「ううん、受けます」
「ユーナ!?」
今までどこか怯えた様子で押し黙っていたはずのユーナが、有無を言わさずとばかりにヴィラノを見据えて、ぷるぷると震えながらも、その眦に涙を浮かべながらも、はっきりとそう言い放つ。
「その代わり! アヤノさんやメグさんへの悪口は撤回してください!」
今まで押し黙っていたからわからなかったものの、どうやら、ヴィラノの挑発的な振る舞いは、ユーナの地雷を的確にぶち抜いていたようだった。
「いいだろう、取り消す。すまなかったな」
怒髪天をつくといった勢いで彼を指差し、そう言い放ったユーナに対し、両肩を竦めたままヴィラノはふっ、と笑うと、いっそ清々しいほどあっさりとそう言い放つ。
「その代わり……俺たちと戦ってもらうぜ、それは取り消すなよ?」
「もちろんですっ! ……絶対に! 後悔させてあげるんですから!」
そう啖呵を切りながらも、アヤノの目には、どこか後悔を抱いているのがユーナの方であるように映っていた。
売り言葉に買い言葉。勢いで受けたものであったとしても、リーダーの発言はある種絶対のようなものだし、ヴィラノが飛ばしてきた申請にユーナが同意を示した以上、それを避けることはもうできない。
突如として降り注いだ災厄。文字通りの当たり屋との事故に、アヤノは少しげんなりとしながらも、ユーナが自分たちを庇ってくれたことに、一抹の嬉しさのようなものを感じていた。
「期日は明日だ。打ち上げの邪魔をして悪かったな」
「微塵も思ってないくせにっ!」
「おいおい、そう邪険にしてくれるなよ。俺たちは今のところ、お前らのファンなんだからな。行くぜ、ムーン、ボーガー、ガラナン」
三人の仲間たちを引き連れて、皮肉と共にヴィラノは去っていく。
残されたものは、視線の刃をぶつけ合った緊張感と、そして。
引き受けたユーナ当人も感じているように、僅かな後悔だけだった。
乗るなユーナ、戻れ!