ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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マヤノでうまぴょいできたので初投稿です。


第四十二話「仕掛けられた逆位置」

「この戦い、不利になるのはアタシたちだよ」

「……残念ながらそのようね」

 

 フォースネストへと帰還したメグは、珍しく緊張感を漂わせながら、スクリーンを指し示して目頭を押さえる。

 普段は強気な姿勢を崩さないアヤノが同意を示したのも、彼女の言葉が間違っていないからであり、ひいてはそれがフォース「グランヴォルカ」の、執拗なまでの秘匿主義に由来していた。

 GBNにおいては、対戦のリプレイなどはある程度までは自動でアーカイブ化してくれるものの、G-Tubeへとアップロードするかどうかに関しては、デフォルトでこそ機能がオンになっているものの、その裁量はダイバーたちに大きく委ねられている。

 つまるところ、手札を知られたくない上位ランカーたちは、チャンピオン、クジョウ・キョウヤのようにG-Tuberも兼ねているとか、公式大会のアーカイブだでなければ基本的に自らの足跡を晒すことはしない。

 一方で、皮肉げにヴィラノが「ファン」などと言い放ったように、メグは配信者であるという性質上、常に自らと仲間の手の内を公衆の面前へと曝け出しているのと同じだ。

 それを責めることこそできないし、今までのフォース戦も事情は同じだったものの、「グランヴォルカ」はリーダーにSSランカーを抱えている都合上、彼らとの戦いはかなり厳しいことになるだろう、というのは口にこそ出していないものの、カグヤもわかっていた。

 

「……ご、ごめんなさい、わたし……」

 

 珍しく消沈しながら、蚊の鳴くような声でそう呟くユーナだったが、確かに挑発に乗ってしまったことこそ悪手であったものの、その動機を考えれば、責められないところも大いにある。

 と、いうよりヴィラノたちの慇懃無礼な態度に、アヤノも大概頭に来ていたわけで、それは恐らくここにいる全員が同じことだ。

 カグヤに至っては一歩間違えれば帯刀しているそれを鞘から引き抜いて突きつけかねないほど、怒りのボルテージを蓄積させていたし、メグだって相手が自分たちを馬鹿にしていることはわかっていた。

 

「しゃーないよ、ユーナちゃん。ユーナちゃんが言ってくれなきゃ、誰かがどうせ言ってたと思うし……だから、ありがとね、リーダー」

「……そ、そんな……わたし……」

「らしくないわよ、ユーナ。今までがそうだったように……多少骨が折れるかもしれないけれど、あいつらを叩きのめせば済む話だわ」

 

 GBNにおけるダイバーランクとは強さの指標であり、それはFからSSSまでの区分がなされ、SSSランクより先はワールドランキングの順位が概ね強さを示す目安となる、という仕組みになっている。

 ヴィラノ以外はダイバーデータにおけるプロフィールを非公開にしていたため、ランクなどはわからなかったものの、SSランクといえばあの「獄炎のオーガ」がGBNを始めて以来、瞬く間に駆け上ってその頭角を現し始めたランク帯だといえば説明もつくだろう。

 つまるところ、今のオーガには敵わないものの、かつてのオーガと同等のダイバーと、まだBランクに上がりたての自分たちが戦えといわれているのだ。

 ユーナが尻込みしてしまうのも無理はないだろう。

 アヤノは宥めるようにそっと彼女の背を撫でて、激励の言葉を放つ。

 とはいえ、「ランクや順位なんて飾りだ」と言い放って猛者たちを蹴散らす在野の英雄もGBNには珍しくないように、指標というのはあくまで指標であって、必ずしも何かを保証してくれるわけではない。

 

「……拙も、ユーナさんのおかげで冷静になることができました。未熟だとは自覚していましたが、これほどとは」

「カグヤ……」

「ですが、アヤノさんの言う通りです、メグ。臆せず立ち向かい、正面から斬る……それが拙にできる全てですから」

 

 カグヤは苦笑混じりに言葉を紡ぐと、腰に提げた刀の感触を確かめるかのように、その柄へと、静かに指を這わせた。

 忘れかけてはいたものの、彼女もかつては「月下の辻斬り」として名を馳せたバトルジャンキーだ。

 苦境を前に尚更燃え上がるのは、ひとえにELダイバーとしての彼女を構成する「侍」の、「剣士」の想いが血潮となっているからだろう。

 

「皆……うんっ、そうだよね……! わたし、元気だけが取り柄なんだから、元気に頑張らないと!」

 

 よーし、やるぞー、と、立ち上がるなりユーナはその拳を天高く突き上げる。

 例えそれが空回りしていても、無理やりにエンジンを噴かして、挫けかけた闘志を燃やしているのだとしても、自分にはそれしかないのだとばかりにユーナは、何度も自分に頑張るぞ、と言い聞かせた。

 元気だけが取り柄、と彼女は謙遜するけれど、そんなことはないことぐらいはアヤノたちにもよくわかっている。

 持ち前の明るさにどれだけ救われてきたことか、どれだけ支えられてきたことか。

 特に、一緒にいた時間が長いアヤノは殊更そう感じる。

 とはいえ、フォース「グランヴォルカ」の評判を調べる限りでは、「潰し屋」という物騒な二つ名がついている辺り、相当に悪辣な手段を仕掛けてくることも考えられる。

 だからこそ負けられない。負けていられない。

 気炎を燃やすように、「ビルドフラグメンツ」の四人は互いにその視線を交わすと、集められた最低限の情報を元に、なんとか「グランヴォルカ」を打ち破るべく、思索を巡らせるのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「へえ、逃げなかったのか。そいつはやるねえ、流石だよ、『ビルドフラグメンツ』。ファンになった甲斐があったってもんだな」

 

 翌日、セントラル・ロビーに指定された場所へと集まってきたアヤノたちを一瞥して、ぱちぱちとわざとらしく手を叩きながら、ヴィラノは皮肉げな笑みを崩すことなく、称賛の言葉を放つ。

 彼の背後に控えているムーンやボーガー、ガラナンと呼ばれたダイバーたちは沈黙を保っているものの、ムーンの表情はヴィラノのそれと酷似していた辺り、やはりというべきか、彼らが真っ当な手段での勝負を挑んでくるという予兆を、アヤノは全く感じなかった。

 

「そりゃどーも、それで、ステージは完全ランダム、お互いのフォースのガンプラが全滅するまで戦うってことでいいんだよね?」

「もちろん、二言はないぜ。互いにメンバーも四対四だ。もっとも、サレンダーしたくなった時はするといいぜ、禁止はしてないからな」

 

 まるで早めにサレンダーしておけとばかりに、勝負を挑みかかってきたにもかかわらず、ヴィラノは両肩を竦めるとそう言い放つ。

 それが単なるマイクパフォーマンス、こちらの神経を逆撫でして冷静な判断力を奪うための盤外戦術であるとわかっていても、彼のねちっこく鼓膜を舐め回すような言い回しはカンに触るというものだし、何かを値踏みしているようなムーンとガラナンの態度もそうだ。

 その中では、ただ腕を組んで瞑目しているボーガーという大男はまだマシなようにも見えるが、あれはただこちらに興味がないだけだ。

 アヤノはそれをよく知っている。

 かつて、剣道部に所属していた中学時代。

 実家が剣術の道場をやっているからと寄せられる期待の視線に対して、アヤノはちょうど今のボーガーがそうしているように、その全てを意識の外側に切り離して、黙々と──熱意なく、淡々と剣を振るっていたことを思い出す。

 

「……む、どうした。吾輩に用でもあるのか」

「いいえ、ないわ。強いていうなら貴方だけ私たちの方を見ていなかったから」

「無論だ。吾輩が求めているのは闘争のみ。貴公らが吾輩を満たさないのであれば、その時間で運命の星にでも祈るといい」

「……訂正するわ、貴方も『潰し屋』ということね」

「……」

 

 アヤノの問いに、ボーガーは黙して答えない。

 それは最早アヤノという人間に対して興味が失せたと言い放っているのと同じことであり、ある意味ではヴィラノ以上に神経を逆撫でする態度だった。

 

「そういうことだ。頭のいい子は嫌いじゃないぜ? アヤノちゃん」

 

 そのやり取りを横目に、愉快そうに手を叩きながらヴィラノはアヤノへと囁きかけるように、さながら子供にご褒美を与える大人のような、どこまでも上から見下ろした声音で言ってのける。

 

「そう、私は貴方が大嫌いよ」

「ははっ、いいねえ、その闘志……潰し甲斐があるってもんだ! 鮮やかに侮蔑を交わし合ったところで始めようじゃねえか、戦いを!」

 

 互いにリスペクトを欠いた状態で戦いを始めれば、それは最早そう呼ぶべきものではない。

 喧嘩、諍い──呼び方こそなんでもいいが、それが士道不覚悟に値するものだと理解していても、アヤノはヴィラノに対しても、その周囲に固まっている彼のフォースメンバーに対しても、およそ敬意といった感情を抱くことができなかった。

 ──未熟だ。

 苛立ち紛れに、声には出さずアヤノは呟く。

 そんなアヤノの青さすら嘲笑うかのように、ヴィラノはコンソールを指先で巧みに操作すると、フォース戦の申請を「ビルドフラグメンツ」のリーダーであるユーナへと叩きつけた。

 

「……わかりました! 皆、頑張ろう!」

「ええ、ユーナ。死力は尽くすわ」

「ま、やるっきゃないってんならやってやろうじゃん!」

「応!」

 

 それまで沈黙を貫いていたユーナは大きく深呼吸をすると、声の調子を整えるように小さく咳払いをしてから「ビルドフラグメンツ」の面々に向けてエールを送る。

 相手がこちらを侮っているのであれば、それは付け入る隙にもなるということだ。

 円陣を組んで手を重ね合わせるユーナたちを嘲笑と共に見送ると、ヴィラノたちは待っていられないとばかりにその躯体を解いて格納庫エリアへと転送されていく。

 そして、その後を追いかけるように、ユーナたちもまたその躯体が解けて、愛機が待つ格納庫へと転移する。

 そこに激戦の予感を残しながら、ひりひりと肌が焼けるような緊張感を抱きながら、「ビルドフラグメンツ」の面々は機体に乗り込むと、格納庫からゲートへと己のガンプラをカタパルトに乗せて、飛び出して行くのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「結局いつもの感じになっちゃうけど……アタシが切り込むから、ユーナとカグヤは絶対に分断されないように立ち回ってね、ムズいと思うけど、アヤノは二人のフォローをお願い」

 

 戦場として選ばれた地球圏・衛星軌道上──無重力の宇宙空間でスラスターを噴かしながら、先行するメグはデータリンクを通じて、ブリーフィングで共有していた戦術を再確認するように言葉を紡ぐ。

 ランダムである都合、蓋を開けてみなければ戦場の様子はわからなかったものの、主だった遮蔽物は会敵すると予想される地点と正反対の方向にあるデブリ帯に集中している。

 順当にぶつかり合うのであれば、戦闘空域は遮蔽物など全くない、僅かにオブジェクトとしてデブリが漂っている地球周辺ということになるだろう。

 この条件が吉と出るか凶と出るかについては、正直なところ作戦を立案したメグにも、アヤノにもわからなかった。

 何せ、フォース「グランヴォルカ」の情報はほとんどないに等しいのだ。

 多くのダイバーから「潰し屋」と呼ばれ、人気が出始めてきたG-Tuberや、掲示板などで話題に上がるようになったフォースに対してフリーバトルを吹っかけて叩きのめし、再起不能にしてきた、という風評はよく見かける。

 とはいえ、彼らがいかなる戦術を用いて数多のフォースを潰してきたのかについては、アーカイブが残っていないことや、何より彼らと対峙したダイバーの多くが引退なり休業なりを選んでしまった以上、誰も語るものがいないのだから仕方ない。

 活動を休止しても、アーカイブを残しているG-Tuberの動画をメグとアヤノは事前に漁ってこそいたものの、よほどひどい負け方をしたのか、対「グランヴォルカ」戦の動画は、全くといっていいほど残っていない始末だった。

 今最も解散してほしいフォース、などと呼ばれる彼らの当たり屋的な行為が何を目的としているのかはわからない。

 だが、「ビルドフラグメンツ」にその毒牙がかけられようとしている以上、隙にはさせないとばかりに、メグはその双眸に決意の炎を灯して、稼働させていた広域レーダーが相手の動きを捉えたことを示すコンソールの通知を一瞥する。

 

「会敵確認、こっちはステルスとジャミングかけるから、あとは手筈通りによろしくね、ユーナちゃん、アヤノ、カグヤ!」

 

 先行するメグのG-フリッパーは、ブリッツガンダムのものに置き換えた両肩からミラージュコロイドを展開すると、スラスターを一度全開にする。

 そして途中でアクセルを踏むのをやめて、慣性移動に切り替えた上で「グランヴォルカ」の四人が進撃してくるのをレーダーに捉え、武装スロットを特殊兵装の欄に切り替えた。

 ミラージュコロイドは確かに機体の姿を隠してくれるものの、スラスターが描く光の軌跡までは覆い隠してくれない。

 だからこそ、透明化のアドバンテージを活かして会敵するなら、慣性移動という少々手間がかかる手段を取らなければならないのだ。

 宇宙の漆黒に溶け込んだG-フリッパーの双眸が妖しく煌めき、無策ともいえる陣形で直進を継続する「グランヴォルカ」の機体を、その影をとうとうその射程に捉える。

 ──だが。

 

「……なんか、おかしくない?」

 

 応答はなくとも、メグはコックピットの中で一人、小首を傾げながらぽつりとそう零した。

 あくまで仮定の話に過ぎないとしても、動画を非公開にしていない以上、「グランヴォルカ」はこちらの戦術を研究しつくしているはずだ。

 そして更に仮定へ仮定を重ねることになるものの、あのヴィラノとかいう男が、「獄炎のオーガ」のように、作戦をそのプレイヤースキルとパワーで強引に打ち砕くようなファイトスタイルを取っているとは思えない。

 だというのにもかかわらず、彼らは無策ともいえるような進撃を続け、その足を止めることをしていない。

 それは何か、ボタンを掛け違えたような──否、そんな話では済まされない致命の傷に通じる予感であるように思えたが、今更戦術を覆して引き返し、正面からぶつかる道を選んだところで、自分たちが不利を背負っているという事実は何も変わらないのだ。

 意を決して、メグは固唾を飲み込むと同時にハイパージャマーを発動させる。

 

『いつものか、お通し料金って風情だな……ファンサービスにしては芸がないね、なあ、ガラナン!』

『おうともよ! 「アルカナム・リバース」!』

 

 一方的に傍受していた通信から漏れ聞こえてきたのは、レーダーが使用不可能になり、モニターにもブロックノイズが走っているという強烈なデバフを受けた状態であるにもかかわらず、余裕を崩した様子など欠片もないヴィラノとガラナンのやり取りだった。

 空域を漂う、恐らくは剥がれ落ちた戦艦の装甲と思しき大きめなデブリに身を隠し、マニュピレータに対戦車ダガーを挟み込んで奇襲を図っていたメグだったが、突如として聞こえてきたアラートに、G-フリッパーを全力で離脱させる。

 半ば本能に突き動かされたような行動だった。

 だがそれは、メグが修羅場を潜ってきたからこそなせる実力の証明であり、例えスラスターの軌跡から居場所を探すにしても、あのまま奇襲を狙って居座っていたのなら、やられていたのは自分の方だ。

 

「嘘でしょ!? ハイパージャマーは起動してるのに、なんで……!」

 

 メグは狼狽し、自らを狙って虚空から襲いくる牙を回避しつつ、作戦の失敗を悟ってラインを下げる。

 その判断はどこまでも冷静だったものの、今目の前で起きている現象が不可解なことには変わりないし、狼狽していることもまた確かだった。

 この前戦った「ヴァイスウルブズ」の時みたいに、ハイパージャマーをピンポイントで撃ち抜かれたというわけではない。

 襲いくる牙の正体──Cファンネルが自身を四方八方から切り刻まんと迫り来るのを、ワルツを踊るようなマニューバで回避しながらも、G-フリッパーの推力ではその全てを振り切れず──否、まるで最初からこちらの動きが見えているかのように、その射線へと巧みに誘導されている。

 

『クク……わかってないようだなお嬢ちゃん。ワシの必殺技はそりゃもう大層地味なもんでなあ……ヴィラノに拾われるまでは、ろくに身を寄せるフォースもありゃしなかった』

「必殺技!? まさか……ッ!」

『クク、気付いたようじゃねえか。ワシの必殺技はな……「デバフをバフに反転させる」、ただそれだけよ!』

 

 真紅のF90Eを駆るガラナンは、ドローンガンから観測機を飛ばしつつ、してやられたとばかりに目を見開くメグを四方八方からその「目」で取り囲む。

 デバフをバフに反転させる。

 それはつまり、ハイパージャマーによってレーダーが使えず、視界が妨害されているのであれば、その状態は反転し、「レーダーが通常以上に強化され、見える視界も同様の補正を受ける」ということに他ならない。

 仕掛けられた第一の牙に自らがまんまと嵌められたことを悔やみつつ、ごめん、とアヤノたちへと伝えると、まずはファンネルの暴力から逃れるべく、メグは全力でブーストを噴かして、後退するのだった。




それは戦いの嚆矢にすぎず
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