ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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物語も終盤に突入したので初投稿です。


第五十二話「再起戦」

 塗装とスミ入れ、デカール貼りを済ませて、つや消しのトップコートを吹き付けたその時の達成感は、何物にも替えがたいものがある。

 綾乃は自宅の庭で持ち手につけたパーツにつや消しクリアーとラベルに書かれたスプレーを吹き付け終えると、暑さから額に滲んだ汗を拭いつつ、縁側に置いていた麦茶に口をつけた。

 夏の暑さの中で結露しているそれは、長い時間放置していたということも手伝ってすっかりぬるくなってしまっていたが、それでも滑り落ちていくかのような喉越しに綾乃は舌鼓を打つようにふぅ、と息をつく。

 クロスボーンガンダムXP改めクロスボーンガンダムXQの作成は、本体であるXPをそのまま使いまわせるから楽だと思っていたものの、実際は関節部分のリビルドや剥がれてしまっていた塗装のリタッチなどで想像以上に手間がかかっていた。

 だが、それでも無事に済んでくれたのは喜ばしいことだ。

 綾乃はパーツを挟んだ持ち手が林立している、猫の爪とぎに似たペイントベースの中心に、重石となるトップコートの缶を乗せると、とりあえずは汗を流そうと、シャワーを浴びるために浴室へと向かおうとしていた。

 だが、その時、スカートのポケットに入れていたスマートフォンがぴこん、と間の抜けた音を立てて踏み出した綾乃の足を止めさせる。

 メッセージの差出人は案の定というべきか優奈で、ダイバーギアの方に連絡を入れても返信が来なかったから、という理由で、わざわざアーカイブ動画に収められた修行の様子を送りつけてきたのだ。

 ダイバーギアには色々と便利な機能がついてはいるものの、ガンプラをスキャンする性質上持ち運びには適しているとは言い難い。

 それを運営も認めているからこそ、ダイバーギアとスマートフォンを紐づけることでGBNへの簡易ログインや、ちょっとした機能の活用などという仕組みを作っているのだ。

 文面からは明るい雰囲気が漂っているものの、どこか不安や焦りを滲ませたような優奈からの連絡に、綾乃は小さく苦笑を浮かべる。

 

「本当に、寂しがりなんだから……」

 

 二年前に、GBNは大規模アップデートによって五感の擬似フィードバックが実装された。

 それに伴って、フォース「虎武龍」が日常的に行っている鍛錬は修行と呼べる領域にまで難易度が跳ね上がっており、「ビルドダイバーズのリク」が世話になったという噂だけを聞きつけて、主であるタイガーウルフへの弟子入りを志願したダイバーたちはその厳しさにたちまち音を上げて、あえなく彼の元を去っていったという。

 だが、優奈は違った。

 拳で砕かれた無数の岩を避け、頭上に乗せられた水を溢すことなく坐禅を組み、それこそ修行僧のように、多くのダイバーが挫折してきたその地獄の特訓をこなしている姿が、動画には映っている。

 

「頑張ってるのね、と……」

 

 フリック入力でメッセージを送信すると、瞬く間に優奈からの返信が届き、その速さに目を丸くしながらも綾乃は、やっぱり構ってもらいたい、寂しさのようなものを埋め合わせたいと願っているのであろう、いじらしい恋人の姿を想像して口元を綻ばせた。

 

「焦らなくていいわ、GBNで会えるから。とりあえずはシャワーを浴びてくるわね、と……」

 

 きっとそんな僅かな時間さえ、優奈にとっては永遠に感じられるのだろうか。

 彼女にとっての世界の中心が自分である、なんて考えを抱くのは傲慢も甚だしいところだが、優奈はどうにも思い切ったら一直線とでもいうべきか、世界が小さく、視野が狭くなってしまうところがある。

 ただそれは、自分もあまり変わらないのかもしれない。

 替えの下着とラフなプリーツスカートに半袖のTシャツという着替えを、風呂場への通りがかりがてら、バスタオルと共に回収すると綾乃は、逆の立場になった自分を想像して考える。

 もし、優奈に送ったメッセージから返信が来なかったら。既読がついているのに、そこからやり取りが続かなくなってしまったら。

 きっとそわそわして、何事も手につかなくなってしまうんだろうな、と、綾乃は今の優奈と全く同じ状態になっているであろう自分が容易に想像できることに、小さく苦笑するのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「なんだか、ここに来るのも久しぶりな気がするわね」

 

 突発的お泊まり会とオフ会を経て、クロスボーンガンダムXQを作り上げるまでかかった日数は指折り数えることができる域に留まっているものの、こうして、ダイバーたちがひしめくGBNのセントラル・ロビーへと降り立ったのは随分前のことだと思えるような懐かしさに、アヤノは思わずそう口走っていた。

 

「そうだね、アヤノさん! えへへ、でもわたしはタイガーウルフさんに修行つけてもらってたんだけど……」

「やっぱり貴女とここで会っていなかったからかしらね、ユーナ」

「うん! また一緒にGBNできて、すっごく嬉しいよ、アヤノさん!」

 

 隣に並び立つユーナは、アヤノの両手を握り締めながら、きっと尻尾が彼女にあったのならばここぞとばかりにぶんぶんと左右へ振り回していたのであろう勢いで、桜色の双眸を輝かせる。

 現実世界では、一足先にガンダムベースシーサイドベース店に向かうために再会を果たしていたものの、こうして二人並んで歩くことができる、現実では叶うことのない願いが実を結ぶこの世界でアヤノと再び会えたということに、ユーナは胸の奥が綿菓子で締め付けられたような思いを抱く。

 湧き起こる感情に任せるまま、ユーナは思わずアヤノの二の腕に抱きついていた。

 だが、そんなユーナを止めることもなく、むしろこのままでいいとばかりに小さく笑みを浮かべると、アヤノはユーナがしがみついている左手を使わずに、右手でコンソールを叩いて、「ビルドフラグメンツ」のフォースネストへの転移を選択しようとした。

 ちょうど、聞き慣れた声が耳朶に触れたのはその時のことだった。

 

「お、アヤノとユーナちゃんじゃん! やほやほー、おひさー」

「お久しぶりです、アヤノさん、ユーナさん」

 

 どうやら自分たちよりもログインするのが遅れていたのか、声がする方に振り返れば、メグとカグヤがぱたぱたと走り寄ってくる姿がある。

 この数日間、メグもメグで何やらGBN内でやることがあるからとログイン自体はしていたものの、こうして人前に姿を表すのは久しぶりだった。

 カグヤもまた、その付き合いや久しくやっていなかった辻斬り稼業を再開してみたりと、各々がバラバラになって活動していた「ビルドフラグメンツ」だったが、役者は揃ったとばかりに、相変わらず現実とはかけ離れたラフなダイバールックをしたメグは、アヤノの手を取って屈託のない笑みを浮かべてみせる。

 

「ここ最近、アヤノのこと見なかったけど……もしかして、もしかしたりしちゃう系?」

「さあ、どうかしらね……貴女もテストの方は順調だったんでしょう?」

「もち! とりあえず首尾は上々ってとこかな!」

 

 復活記念の動画も準備してるしね、と付け加えるメグはいつになく上機嫌といったところで、その半歩後ろに立っているカグヤも、思わずその様子には苦笑を零していたものの、順調であるならそれに越したことはない。

 

「とりあえずアタシの新しいG-フリッパーとか、アヤノの秘密とか、色々積もる話もあるだろうし、フォースネスト行かない?」

「そうね、そのつもりだったし丁度いいわ」

 

 クロスボーンガンダムXQのことについて、流石に往来でぺらぺらと喋ってしまうのは風情がないというより、またあの「グランヴォルカ」のような連中に聞かれていないとも限らないから喋っていなかっただけで、アヤノとしては別にメグやユーナ、カグヤにまで秘匿しておくつもりはない。

 だからこそ、メグの新しいG-フリッパーの件と合わせて、もう一度寄り集まった「ビルドフラグメンツ」としての方針会議をしようと決めたその瞬間だった。

 

「あいや待たれい、そこの女子たち!」

 

 さながら一度あることは二度あるとばかりに、何者かがアヤノたちを呼び止める、威勢の良い声がセントラル・ロビーへと高らかに響く。

 もしやまた「グランヴォルカ」の連中かと、身構えながら四人が声のした方に振り返れば、そこには赤い炎と青い炎をゆるキャラにしたようなダイバールックに身を包んだダイバーが腕を組んで佇んでいる姿があった。

 

「わぁ、可愛い……!」

「……愛嬌は感じるわね。それで、貴方たちはどこの誰で、私たちに何の用があるわけ?」

 

 ゆるキャラ的な三頭身のダイバールックに反して、堂々と腕を組んで背筋を真っ直ぐに伸ばしている二人組から漂ってくる雰囲気は、「グランヴォルカ」とは違うものの、歴戦の強者が纏うそれによく似ていた。

 中学時代、やる気こそなかったものの、剣道の大会で巡り合った強豪とよく似た感じを放つゆるキャラ二人組を警戒しつつ、アヤノはその可愛さに見惚れているユーナを制するように手を伸ばしながら慎重に問いかけた。

 

「うむ、青いの! 俺は状況説明が苦手だから頼んだぞ!」

「承知した、赤いの! こほん! 単刀直入! 我々はフォース『度胸ブラザーズ』と申す! お主らをフォース『ビルドフラグメンツ』と見込んで、フォース戦を申し込みに来たのだ!」

 

 青いの、と呼ばれたゆるキャラは、宣言した通り、呆れるほど単刀直入に用件を告げると、コンソールを叩いてフォース戦の申請を、アヤノたちへと叩きつけてくる。

 どうやら見た目に反して結構血の気が多い武闘派なのだろうと、アヤノはそのテンションの高さにどこか与一の姿を連想しながら、提示されたフォース戦の条件につらつらと目を通す。

 

「どう、メグ?」

「んー……ステージはランタオ島、四対四の殲滅戦で障害物はなし、か……別に条件だけ見ると怪しいところはないっぽい?」

「いかにも! 我々は『度胸ブラザーズ』! 一に度胸、二に度胸、三、四がなくて五に度胸! 強者に真正面から挑みかかることこそ我々のポリシーにして、敬愛する『オノコ』兄貴に対するリスペクトなのだ!」

 

 赤いの、と呼ばれていたゆるキャラは、疑ってかかるアヤノとメグに、怪しいところは何もないとばかりに豪快な笑い声を上げながら、そんなことを宣言してみせる。

 ゆるキャラ的な見た目から飛び出してくる、血の気の多い発言の温度差に風邪を引きそうな感覚に陥りながらも、アヤノはやはりこの「度胸ブラザーズ」と名乗る彼らが、「グランヴォルカ」のように知略と謀略、そして暴力を駆使するタイプではないと見て、全員へと同意を求めるように視線を巡らせていく。

 

「ユーナ、リーダーとして貴女はどう?」

「んー……オッケーだよ、アヤノさん! メグさん、カグヤさん!」

 

 静かに頷くカグヤと、やっちゃえ、とばかりに屈託のない笑みを浮かべているメグの返事は、既に決まっているのにも等しい。

 アヤノがその言葉に小さく頷くと、ユーナは受け取ったフォース戦の申請を受諾して、「度胸ブラザーズ」の宣戦布告を受け取った。

 

「わかりました! えっと……赤いのさん、青いのさん! 良い試合にしましょうねっ!」

「うむ! 流石だ、『ビルドフラグメンツ』! しばらくログインがなかった時は心配していたが……我々が見込んだ通り君たちは『度胸』に溢れている! そうだな、青いの!」

「うむ、赤いの! 実は我々は君たちの復活を密かに待ち望んでいたのだ!」

 

 はっはっは、とよく通る、赤いのと青いのの笑い声が重なり合う。

 正直なところ結構やかましいし、往来の中にも何事かと「度胸ブラザーズ」の二人を一瞥しているダイバーは珍しくない。

 だが、今のアヤノにとってはそれさえもどこか懐かしく感じられて、何よりも前に戦った相手が相手だっただけに、彼等の竹を割ったような性格は、嫌いではなかった。

 

「それじゃあ始めましょう、『度胸ブラザーズ』」

「うむ、『ビルドフラグメンツ』。良いゲームになることを期待しているぞ!」

 

 はっはっは、とよく通る笑い声を上げながら、ゆるキャラ二人組はブロックノイズ状に解けて、格納庫エリアへと転送されていく。

 アヤノたちもその後を追いかけるように、四人で視線を交わすと、再起戦に向けて出撃すべく、愛機の待つ場所へと転移するのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 フォース「度胸ブラザーズ」は、フォース「魂太」をリスペクトして設立されたフォースだった。

 ブリーフィングフェイズで、メグが密かに調べていた事前情報を共有したアヤノは、コックピットの中で、包み隠すことなくその戦闘スタイルや愛機までも堂々と晒している「度胸ブラザーズ」の、名前通りの潔さか、或いは蛮勇かはわからないその姿勢に関心を示す。

 フォース「魂太」とやらが何なのか、このGBNでどれぐらいの立ち位置のフォースなのかについては生憎よくわからなかったものの、どうやら彼等もまた「漢気」を追求する集団であるらしく、「度胸ブラザーズ」がリスペクトするのも頷けるフォースだった。

 

「すー、はー……」

 

 通信ウィンドウにポップしたユーナは、どこか緊張した面持ちで、心臓に手を当てながら深呼吸を何度も繰り返している。

 恐らく通信をオンにしたままだったのだろう。

 そのぴりぴりとした緊張は、アヤノにも伝わってくる。

 ただ、無理もない。突然始まった再起戦で、心の準備をしておけというのも難しいのだから。

 常在戦場、与一から突きつけられた教えを思い返し、アヤノもまた通信ウィンドウを開くと、すっかり緊張した面持ちのユーナへと呼びかける。

 

「大丈夫よ、ユーナ」

「アヤノさん……」

「貴女は今日のため……というには突然だったけど、修行してきたし、アリスバーニングブルームを作り出したのでしょう? なら、信じなさい。貴女のことを。貴女のガンプラを。それがダメなら……その、私がいるから」

 

 ──だから信じて、貴女が大好きなもののことを。

 アヤノの諭すような言葉に、ユーナははっと驚愕に目を見開く。

 その通りだった。ユーナはまた負けるかもしれない、また足を引っ張ってしまうかもしれないという不安に苛まれていたのだ。

 

『古臭ぇ話かもしれねえ、だがな、最後にガンプラバトルを決めるのはな……前も言ったかもしれねえが、折れない心だ、ユーナ』

 

 それを忘れるな、と、全ての修行を終えた時にタイガーウルフから預かっていた言葉が、そして「恋人である自分を信じてほしい」と願うアヤノの言葉が、胸の奥底で震えて蹲っていた心の手を取って、再び立ち上がらせる。

 何のために泣いてきたのか。何のために、捨てようとしたのか。

 それを考えれば、自ずと答えは、伴う覚悟は決まってくる。

 両脚を失ってからずっと、一人ぼっちだった自分を救ってくれたのは紛れもなくアヤノで、だからこそ──だからこそ、アヤノたちに迷惑をかけたくないからと一度はフォースを抜けようとしたものの、それでもGBNに戻ってきたのは、きっと。

 カグヤが、メグが、そして。

 誰よりも大好きな、アヤノがいてくれたからだった。

 操縦桿を握る手が力を取り戻していく。滾る心臓の拍動が、燻っていた闘志の火種を煽るかのように吹き荒ぶ風となって、ユーナを前へ、前へと進むように燃え上がらせていく。

 一人じゃない。誰かが隣にいてくれる。

 そして、こんな自分を好きだと言ってくれたアヤノがいる。

 カウントに合わせて、高鳴る鼓動は、燻っていた闘志は花開く。

 

「ありがとう、アヤノさん! その……帰ったら、いっぱいぎゅーってしていい、かな……?」

「……オープンチャンネルで言わないで、恥ずかしいから。もう……いいわ、好きなだけね。でもその発言、死亡フラグよ」

「あっ……うん、そうだね! じゃあ力づくでへし折りにいこう! ユーナ、アリスバーニングガンダムブルーム、行きます!」

 

 メグとカグヤが戦場へと飛び出していくのに続いて、優奈もまたカタパルトから飛び出して、バトルフィールドであるランタオ島の空に炎の華を鮮やかに咲かせる。

 

「……全く、甘えん坊なんだから……アヤノは、クロスボーンガンダムXQで出撃するわ!」

 

 そんな恋人の姿に苦笑を浮かべながらも、なんだかんだで満更でもない自分もきっと同じくらい優奈から向けられる好意に甘えているのだろう、と自嘲しつつも表情を引き締めて、新たな鎧を身に纏ったクロスボーンガンダムXQは光の翼を広げて、戦場へと飛び出してゆくのだった。




復活のビルドフラグメンツ

Tips:

【度胸ブラザーズ】……フォース「魂太」をリスペクトして設立された、「度胸」をその前面に出した四人組のフォース。炎を思わせる滴型の頭をした三頭身のゆるキャラ的なダイバールックに反してかなりの武闘派であり、勝てない戦いであっても全力で挑みかかることからその姿勢はある程度尊敬を集めているとかいないとか。

【魂太(出典:「ガンダムビルドダイバーズブレイク」】……ダイバー「オノコ」をリーダーとする、「漢気」を追求するフォース。度胸ブラザーズがリスペクトしているフォースだが、その「オノコ」のリアルが可愛らしい女の子ことユメサキ・エモであることはメンバー以外誰も知らない。
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