ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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モンスターコーラをすっかり見かけなくなったので初投稿です。


第五十三話「明日への飛翔」

 フォース「度胸ブラザーズ」の戦法は、その名に恥じず真正面からの力押しが主力となっている。

 メグが僅かな時間で調べ上げた情報を反芻しながら、アヤノは新たに生まれ変わった自らの機体が戦闘空域へと突入したのを確認し、操縦桿を握る力を少しだけ強めた。

 両フォースがランタオ島の競技場に入ったことで周囲はビーム・ロープで封鎖され、逃亡は認めないとばかりに戦いの場が整えられる。

 

「アヤノの新しい装備、クアンタベースなんだ」

「ええ、そういうメグは……G-セルフのパーツを多く組み込んだのね」

 

 メグが呟いた通り、アヤノが作り上げた新装備はフルクロスをベースにしつつも、前後のシェルフ・ノズルを兼ねた積層装甲を機体胸部のもの以外は全てオミットし、代わりにIフィールドジェネレーターが装備されていた部分にダブルオークアンタのバインダーを組み込んだものだった。

 確かに防御性能は単純にフルクロスと比較して劣るものの、可動範囲と機動力の両立と、ツインドライヴの装備による出力上昇を目的として施されたカスタマイズのコンセプトは悪くない。

 それが、メグの見立てだった。

 それだけではなく、防御性能という面で比較しても、二基のバインダーに装備されたGNソードビットはオールレンジ攻撃に使えるだけでもなく、フィールドバリアとして運用できる側面も持っているために、エネルギーこそ消耗するし、パッシブスキルとしてビーム軽減を備えているわけではないにしても、一概に原型装備より劣っているとは言い難い。

 一方でメグのG-フリッパーは、胸部や脚部などのパーツかG-セルフのものに置き換えられて、ステルス・ザックを背負っていた背面のアーマメントには、パーフェクトパックを改造したと思しき装備がアジャストされている。

 

「ふふん、名付けてG-セルフリッパー! 忍びなれども忍ばざる、ってね!」

 

 メグは得意げに親指を立てて、鼻を鳴らす。

 主な改良点として目立つのは二基のトラフィック・フィンがそれぞれ、ハイパージャマーとカメラユニットを装備したビット装備に改造されていることぐらいで、原型機であるG-フリッパーの「忍者」を思わせるロービジカラーや、クナイなどの装備はそのままになっているため、恐らく単体での戦闘能力向上を目的として改良が施されたのだろうとアヤノは推察した。

 例の「グランヴォルカ」戦で判明した、というよりは今まで見えていなかった、見てこなかった部分が浮き彫りになったフォースとしての「ビルドフラグメンツ」の弱点は、メグのジャミングとステルスに頼りきっていることと、そして近接偏重故に有効射程が短いことだった。

 弱点というものは得てして克服できるものとそうでないものにわけられるが、少なくとも「ビルドフラグメンツ」の課題は前者である、というのがメグとアヤノの認識だ。

 だからこそメグは、ステルスとジャミングという役割を維持しながらも単機での戦闘力を強化する方面のカスタマイズを行って、アヤノはソードビットを装備することで有効射程を延長するという強化を施したのである。

 レーダーを見る限り、「度胸ブラザーズ」の面々はその名に恥じることがないように、一列の横並びになってこちらを待ち構えているようだった。

 炎の翼を広げて飛び立つユーナのアリスバーニングブルームと、そして「無銘朧月」という新たな刀を手に入れたカグヤのロードアストレイオルタを一瞥し、アヤノはどうする、とばかりにメグへとその視線を向ける。

 

「はいはい了解、それじゃいつもの行っちゃうか!」

「撹乱は頼んだわ、メグ!」

 

 例え相手がどんなバトルスタイルであったとしても、こちらの手札を使わないまま戦うというのは礼儀に反する行為だ。

 だからこそ、頼り切りであるとはわかっていてもメグは新たに作り上げたフィルムビットとジャミングビットを射出して、相手のレーダーやセンサーを無効化しながら一方的にこちらは相手を観察できる、という状況を、「ビルドフラグメンツ」が作り上げてきた勝利への方程式を展開する。

 だが、「度胸ブラザーズ」も、それを知らないでフォース戦を申し込んだ訳ではない。

 ビット化されたことで有効射程が延長されたハイパージャマーの作動を確認すると、赤いのと呼ばれていたダイバー「アカギ」は、後続に控える同じような三頭身のダイバールックに身を包んだ二人組へと指示を下す。

 

『ジャミングが来たぞ、緑の!』

『うむ! ならば任された、赤いの! こちらも逆位相でのハイパージャマーを展開すれば!』

 

 アカギが指示した通りに、緑の、と呼ばれていたダイバーが操る機体──ガンダムデスサイズとガンダムヘビーアームズを半身ずつミキシングしたようなそのガンプラ、【ガンダムデスアームズ】は、メグが射出した妨害電波を打ち消すようにハイパージャマーを起動して、己の機体にかかったノイズを晴らしていく。

 そして、これで条件は互角だとばかりにメグのG-セルフリッパーへと視線を向けると、緑のと呼ばれたダイバーこと「ズイカク」は、残る半身に詰められた火力を全て叩き込むように、ミサイルやビームガトリングによる弾幕砲火を一斉に放つ。

 

「やっぱそう簡単にはいかないか、でも!」

「メグ、実弾は拙が!」

 

 だが、メグとてそれを想定していなかったはずはない。

 ジャミングが無力化されたのを確認するなり、随伴していたカグヤが前に出ると、「菊一文字」と比べて僅かに重さを増したはずの「無銘朧月」を目にも留まらぬ速さで振るい、直撃弾となるミサイルを叩き落とす。

 しかし、ミサイルはあくまで囮に過ぎない。

 直撃コースに本命として放たれたビームガトリングによる連射は、確かに「ズイカク」の狙い通りにコックピットを捉えていた、そのはずだった。

 

「忍法、水鏡の術……ってね!」

『なんと!』

 

 G-セルフリッパーは待っていましたとばかりに背面に装備したパーフェクトパックをリフレクターモードで展開し、直撃弾であるはずのビームガトリングを突っ切りながら、カグヤと共にズイカクと、その隣に控えていた、アルトロンガンダムとシェンロンガンダムを半身ずつミキシングした機体を操る、黄色い三頭身のダイバー「ショウカク」へと切り掛かっていく。

 

「G-セルフリッパーは、生まれ変わったんだかんね!」

 

 G-セルフの胸部を採用したことで展開が可能となったビームサーベルを逆手に持って、メグはビーム・ワイヤーを牽制として放ちながらそう叫んだ。

 そして、ジャミングが無効化されていたとしてもフィルムビットからデータリンクによってリアルタイムに送られてくる映像が途切れた訳ではない。

 モニターに映る映像を一瞥して、カグヤとメグがそれぞれ「ズイカク」と「ショウカク」を押さえ込んでいるのを確認すると、アヤノはGNソードビットを射出して、大胆不敵にも腕を組んだまま待ち構えている赤いのこと、アカギが操る機体へと急襲をかけた。

 

「ユーナ、青いのは任せたわ!」

「オッケーだよ、アヤノさん! それじゃあ……やるよ、アリスバーニング!」

『フハハハハ! 勢いぞ良し! だがこの阿吽と例えられた赤いのとこの私、青いのこと「カガ」を止められるかな!?』

 

 その通り名に違わず、「アカギ」と「カガ」の機体はそれぞれガンダムAGE-1タイタスとAGE-1スパローを半身ずつミキシングしたものが左右で反転しているという、さながらディキトゥスを思わせるカスタマイズが施されている。

 タイタスとスパローという、真逆の性質を持つウェアを単純にミキシングしたのではなく、敢えてアンバランスになることを想定した上で右半身と左半身で異なるウェアを装備したというのは、そのピーキーな挙動を扱い切るという自信の表れに他ならないだろう。

 アヤノが牽制として放ったソードビットをステップを踏むような動きで華麗に交わすと、アカギとカガはスパロー部分の手を繋いでその場で舞い踊るかのように回転し始める。

 一瞬、何をしているのかアヤノは計りかねたものの、それが攻撃の予備動作であることを悟った本能が電流のように脊髄を駆け抜けて、警告を促す。

 

「ユーナ、何かが来るわ、備えて!」

「はい、アヤノさん!」

『ハハハハハ! 気付いたか、だが防ぎ切れるかな!? 往くぞ青いの!』

『応とも、赤いの!』

『『必殺、阿吽ラリアット!!!』』

 

 スパローの半身を利用した機動力で旋回を繰り返し、遠心力を乗せて飛び出すことで、タイタスの半身が備えるビームラリアットの威力を最大限まで高めるその技こそが、「度胸ブラザーズ」の代名詞であり、そして必殺技でもあった。

 当たれば痛いで済まない阿吽の呼吸による連携は、分断を図っていたアヤノの牽制をものともせず、逆にユーナとアヤノの二人に向かってビームラリアットを展開したその二機──【ガンダムAGE-1ハーフタイタス】と【ガンダムAGE-1ハーフスパロー】はその牙を剥いて襲い掛かる。

 ──だが。

 

「悪いけれど……その攻撃は通じない! トランザム!」

 

 アヤノは超高速で突っ込んでくるハーフタイタスを一瞥すると、音声入力によって、クロスボーンガンダムXQ──クロス・クアンタムの意を持たせた愛機に備えられた新たなる力を解放した。

 赤熱化したかのような真紅に染まったクロスボーンガンダムXQは僅かな残影をその場に残し、最小限の動きでハーフタイタスの阿吽ラリアットを回避すると、無防備な後隙を晒したその背中に、バタフライ・バスターBによる二刀流を容赦なく叩き込む。

 

『なんとぉ……ッ!?』

『赤いの!』

「わたしも……負けない、負けてられない! タイガーウルフ師範に教えてもらったことと、アヤノさんにもらったこと、全部を出し切る! だから応えて、アリスバーニング……ブルーム!」

 

 そして、ユーナもまた決意と共に闘志をその双眸に宿し、バーニングバーストシステム──炎クリスタルを組み込んだことによりエネルギーの増幅と放熱の効率化を果たしたことで別物に進化した、「バーニングバースト・フルブルーム」を展開すると、超高速で迫りくるハーフスパローのビームラリアットを、まさに紙一重といったところで回避して、カウンターの回し蹴りを放った。

 

『なんとッ!?』

「わたしは……もう泣き虫なわたしじゃない、皆の足を引っ張るわたしじゃない!」

 

 ユーナの攻撃をもろに喰らう形となったハーフスパローはその体勢を大きく崩して、後隙を曝け出す。

 猛る炎を背中から放ちながらも、燃えるような輝きを放つ炎クリスタルの作用によってそのエネルギーは機体に逆流することなく外部へと放出されて、アリスバーニングブルームはその名の如く、全身に炎の花弁を纏ったかのような勇姿を、戦場に轟かせていた。

 タイガーウルフとの修行を通じてユーナが体得しようとしていたのは、あくまでも心の強さだけのつもりだった。

 だが、どこまでもひたむきな彼女の姿勢は師範の心をも動かしたのか、ユーナは気付いていないものの、トレーニングメニューにはガンプラバトルに必要な動体視力や反射神経を養うものが含まれていたのだ。

 度胸ブラザーズが誇る大技である阿吽ラリアットを回避したユーナとアヤノは、それぞれがすれ違うように狙う獲物を切り替えて、通信ウィンドウ越しに視線を交わす。

 

「ユーナ、スイッチ!」

「はい、アヤノさん!」

 

 この世界では、仮想の躯体であるとはいえ、五体が思い通りに動く。

 ユーナはロックオンマーカーをハーフタイタスに向けると、拳に炎を纏わせながら機体を加速させる。

 それはダイバーとして、という意味だけではない。

 GBNでは、己の作り上げたガンプラが意のままに動かせる。

 反射神経や操縦技術といった要素は要求されるが、タイガーウルフが語った通りに、最後に試合を決めるのは心の持ち様であり、それは、或いは愛とでも呼ぶべきものなのかもしれない。

 だが、心の持ち様であろうが愛であろうが、そこに共通しているのはイマジネーションの存在だ。

 自分はどこまでだって飛んでいける。自分が、ガンプラが一番好きなんだと、ガンプラバトルが一番上手いんだと、その拳を天高く突き上げるための翼は、背中ではなく心にこそ宿っている。

 赤熱化したクロスボーンガンダムXQと、炎を纏うアリスバーニングガンダムブルームは、それこそ阿吽のように呼吸を合わせ、互いに一撃を叩き込んだ相手にトドメを見舞うべく、己が得物を構え直す。

 

「重撃の型……雲雀剛刃!」

『くっ、赤いの、青いの、すまない!』

 

 その傍らには、ショウカクが操る、フーティエとタウヤーを装備したアルトロンガンダムとシェンロンガンダムのミキシングモデルこと、【ガンダムイーバンナタク】が、カグヤの──新たに打ち直された「無銘朧月」の一撃によってテクスチャの塵へと消えていく姿がある。

 

「セルフリッパー、カラテで行くよぉっ!」

『懐に潜り込まれたか……! すまない、黄色いの!』

 

 そして、カグヤの隣ではガンダムデスサイズとヘビーアームズをミキシングしたズイカクのガンダムデスアームズが、G-セルフリッパーが放った高トルクパンチによってあえなく爆散する姿がある。

 ならば、ここで仕損じたのでは名折れというものだろう。

 トランザムシステムによる加速がフィードバックするGに歯を食いしばりながらも、アヤノはザンバーモードに変形させているバタフライ・バスターBを構え直し、己が学び続けてきた、例え燃え尽き、燻っていたとしても振るうことをやめなかった剣を、青いのことカガが操るハーフスパローのコックピットへと、迷いなく叩きつけた。

 

「これで……終わりよ!」

『フハハハハ! 流石だ、「ビルドフラグメンツ」……! すまぬ、赤いの!』

『青いの! いいや、お前はよくやった! だが我々は「度胸ブラザーズ」! 例え逆境にあろうとも、度胸で乗り切ってみせるぞ!』

 

 アヤノがトランザムの加速力と共に叩きつけたバタフライ・バスターBによる一撃で爆発四散したハーフスパローを一瞥すると、アカギは仲間と書いてソウルブラザーと呼ぶフォースメンバーが己以外全滅したことを認めつつも、最後まで屈することはないとばかりに体勢を立て直し、突撃してくるユーナを真正面から迎え打たんとビームラリアットを構え直す。

 

『往くぞ、「ビルドフラグメンツ」のユーナ! 君の度胸を見せてみろ!』

「わかりました、赤いのさん! わたしの度胸……わたしの勇気! そしてもらったものを少しでも返すために、あなたを今乗り越えます!」

『言ったな! ならば……言葉ではなく行動で示すのだ!』

 

 アカギにもわかっていた。もうこのユーナという少女に迷いはない。

 あの日、偶然とはいえリプライで中継されていた「グランヴォルカ」戦を目の当たりにしていた「度胸ブラザーズ」は、その中でも手ひどく心を折られたユーナに同情を示していた。

 だが、今ではそれが失礼なのだとわかる。

 いくら折れても、彼女は這い上がり、また立ち上がってきた。

 それを度胸と呼ばずしてなんと呼ぶのか。

 

「おおおおっ! 全開、炎、パーンチっ!!!」

『ぬあああああっ! 見事だ……見事な度胸だったぞ、「ビルドフラグメンツ」、そしてユーナ!!!』

 

 自分たちが信念として掲げている「度胸」それそのものを形にしたようなその一撃に、渾身のビームラリアットを打ち砕かれながらも、アカギの心に後悔は何一つなく、むしろ晴れやかに、「ビルドフラグメンツ」が、そしてユーナ新たなる門出を果たしたことを祝いながら、テクスチャの塵へと還ってゆく。

 

【Battle Ended!】

【Winner:ビルドフラグメンツ】

 

 そして、無機質な機械音声が告げたものは、紛れもなくユーナたちの、「ビルドフラグメンツ」の完全勝利であり、常套戦術を破られながらも、誰一人欠けることなく栄光をその手に収めたという証明だった。

 ランタオ島に沈む夕陽が、戦いを終えて戦場に佇む四機のガンプラを照らし出す。

 熱が引くように、クロスボーンガンダムXQは赤熱化していた装甲が元の色を取り戻し、アリスバーニングガンダムブルームが纏っていた炎の花弁は、オレンジに染まった黄昏へと静かに還ってゆく。

 

「やったわね、ユーナ」

「うん、アヤノさん……ぐすっ、わたし……わたし……!」

「ええ、貴女は凄い。立派なファイターよ」

 

 感極まって涙を眦に滲ませるユーナを抱きとめるように、どこまでも優しく、慈しむような声でアヤノは囁きかける。

 メグも、そしてカグヤもそこにあえて口を出すようなことはしなかったが、感じている想いはきっと同じだった。

 ──おかえり。

 そして、嬉しさに涙ぐむユーナを迎えるように、GBNへの帰還と再出発を祝うかのように、ランタオ島に沈む夕陽へと、無数の鳥たちが羽ばたいてゆくのだった。




おかえり、ビルドフラグメンツ
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