ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント 作:守次 奏
シーズンレイドバトルの戦場は、鉄風雷火が吹き荒ぶといった様相を呈していた。
侵攻側ながらも防衛目標を抱えている地球連邦チームはNフィールドに突入した瞬間、空母「ドロワ」を撃墜すべく我先にと戦場へと飛び込む者、そして本丸である「ドロス」と宇宙要塞ア・バオア・クーを制圧すべく、ロンメル率いる「第七機甲師団」が罠を仕掛けていることを警戒してEフィールドへと吶喊する者、そして連邦側のアキレス腱にして本丸である基幹艦隊の防衛に徹する者と、概ね三つの勢力に分けられていた。
『いいか、FOEさんはEフィールドに向かった! つまり「ドロワ」に関しては俺たちでRTAするしかねえ!』
『基幹艦隊に敵の兵力を向かわせるなよ!』
『一番槍は譲るかよ、「リビルドガールズ」に続け!』
騒然とする群衆の波をかき分けるように、アヤノたち「ビルドフラグメンツ」も、敵拠点への侵攻に向かうべく戦列に合流するが、目指す場所は大勢が押し寄せて乱戦状態になっているEフィールドではなく、「第七機甲師団」が罠を仕掛けたであろうことを予想して、多くのダイバーが忌避しているWフィールドだ。
脇目も振らずにWフィールドを目指すアヤノたちを、正気か、と一瞥するダイバーたちは数多いが、一フォースの奇行にいちいち構っていたのでは、シーズンレイドバトルでは命取りだ。
いかに早く敵のレイドボスを討伐し、いかに早く本丸を抑えるかということが求められている上に、勢力全体で事前の打ち合わせがあるわけでもない以上、どう攻めるかについての裁量は個々のフォースに委ねられている部分が大きい。
とはいえ、裏の裏は表だというメグの言葉と同じような考えを抱いているフォースは決して少なくはない。
乱戦を避けて、トラップの突破だけで本丸に到達できるのであれば結果的にそっちの方が早いとばかりに、ウェイブライダー形態に変形したゼータプラスC1型の編隊が、一番槍を務めるかのようにWフィールドへと突撃していく。
「メグ、どうするの?」
「んー……ちょっち悪いけど、あの人たちに先を譲って様子見かな」
別に、シーズンレイドバトルの戦場において一番槍を務めることに、何か名誉があるわけではない。
ただ、迎撃が手薄とはいえ明らかに先行しすぎているゼータプラスの編隊と足並みをそろえるべきかそうでないか、という問いをアヤノはメグへと投げかけたのだが、やはりというか、返ってきた答えは当然ながらも無情なものだった。
一番槍に興味もなければ、トラップが仕掛けられていると予想されている危険地帯に飛び込むのだから、後出しで情報を仕入れるという選択肢は決して責められるものではない。
フィルムビットを射出して、ゼータプラスたちの後続にそれをつけると、メグはNフィールドに吹き荒ぶ弾幕砲火を掻い潜りながら、Wフィールドへと続く道を進んでいく。
アヤノもまた、先行するメグの背中を追うように、バタフライ・バスターBで接近する敵機だけを叩き落としながら、「光の翼」を展開し、強引にジオンチームからの迎撃を振り切って突き進む。
「すごい、機体が思った通りに動く……よーし、アヤノさんたちに負けないように追いつくよ、アリスバーニングブルーム!」
「拙も負けてはいられませんね、推して参ります!」
機体を新調したばかりのユーナは、向上した機動力と反応速度、そして一から作り直したことでそれらに耐えうる強度を確保したフレームが文字通り骨子となって機体を支える、アリスバーニングブルームの挙動にすっかりご満悦だった。
炎の翼を拡げて戦場を飛び回るユーナを撃墜しようと、Nフィールドに陣取る「ドロワ」から出撃した【ヅダ】は対艦ライフルのターゲットスコープに、アリスバーニングブルームの姿を収めようとするが、その一瞬の隙を縫うかのようにすれ違ったカグヤに一刀両断されて、テクスチャの塵へと還っていく。
フルスクラッチで作り上げられた「無銘朧月」の切れ味は、「菊一文字」と比較して向上しているだけではなく、積層による制作を選んだ都合で重量も嵩んでいることから、一撃の重さが段違いなのだ。
『クソ……っ、強いぞあいつら!』
『落ち着け! Wフィールドに突っ込んでいく奴らなんか放っておけばいいんだ! それより俺たちは「ドロワ」を守る!』
『了解した! こちらは基幹艦隊の攻略に回る!』
進撃を続ける「ビルドフラグメンツ」を取り逃がしたことに舌打ちしながらも、「ドロワ」から飛び出してきたジオン系のガンプラで乗機を統一しているフォースは、アヤノたちがわざわざ手の込んだ自殺に等しいWフィールドへの吶喊を選んだということで、そう吐き捨てると共に追撃を諦める。
「追ってはこないのね」
「ってことは、この先何かがありますって白状してるようやもんだけどね」
「隠す必要もない、ということでしょう」
フォース「第七機甲師団」の実力は、ダイバーであれば誰もが知っているところだ。
そんな彼らが直々にトラップを仕掛けたとジオン側チームに触れて回っているのであれば、そこに期待することはあっても心配するようなことは何もない、といったところなのだろう。
事実、Wフィールドは小康状態すら通り越して奇妙なまでの沈黙に包まれており、ゼータプラスの編隊が乗り込んだのに続いて我先にとトランザムを起動して突っ込んでいくGN-XⅣに、マルチランチャーパックを装備したウィンダムを護衛するように、ドッペルホルンを装備したダガーLが四機、陣形を組んで「ビルドフラグメンツ」を追い抜いていく。
「……妙ね、静かすぎる」
アヤノはメグが意図的に侵攻速度を落としているのに合わせる形で、光の翼の展開を止めてその背後へ付かず離れずの距離を保っていたのだが、奇妙なまでに「何か」が起こる気配がない。
どう考えても自爆特攻を覚悟で一番槍を務めたゼータプラス隊の反応が未だにアクティブであることを鑑みても、もしかすればロンメルが「Wフィールドに罠を仕掛けた」ということ自体がブラフなのではないかと疑いたくなる、そんな沈黙が続いたその時だった。
『こちらアルファ1、機雷の敷設を確認した!』
『ロンメルにしてはベタなトラップだが……了解した、爆装している「ピースメーカーズ」は下がってくれ! 我々「GN-XⅣ's」が機雷の処理は引き受けた!』
アヤノたちから大きく距離をとって、既にWフィールドへと侵入していたゼータプラス隊からの通信を受けて、彼らに続いて空域に到達していたGN-XⅣの集団が、所狭しと並べられた機雷に向けて、両手で保持したビームライフルを放つ映像が、メグが仕掛けていたフィルムビットからアヤノたちへと共有される。
確かに、機雷の敷設だけかトラップだとすれば、「智将」の二つ名も地に落ちたものだと一笑に付すことができたのかもしれない。
事実、広域通信で共有された「トラップは機雷」という情報を受けて、今までWフィールドへの突入を躊躇っていたダイバーたちが次々と、アヤノたちを追い抜いて戦闘空域を形成していく。
「どうしますか、メグさん? わたしたちも行っちゃいますか?」
とうとう、ぽつんと戦闘空域と戦闘空域の中間地点で足を止めることになってしまった「ビルドフラグメンツ」を代表して、ユーナが今まで「待て」を繰り返していたメグへと、どことなくそわそわとした調子でそう問いかけた。
「んー……フィルムビットからの映像に特段異常はないけど……なんか、怪しくない?」
「メグ。怪しい、とは?」
「ん……カグヤはさ、なんかこう……呆気なさすぎると思わない?」
ただのフィーリングで悪いんだけどさ、と前置きして、メグは訊き返してきたカグヤへと更に問いを投げ返す。
メグの疑問は至極もっともなものだった。
アヤノも先ほどから、フィルムビットを通して共有されているWフィールドの最前線からの映像を見ているが、機雷源を防衛ラインとして先行したフォースの迎撃に当たっている部隊の攻撃は散漫で、デブリの影に砲台が設置されていたりとトラップらしいトラップは仕掛けられていても、どれも、殺気とでも呼ぶべきものが感じられない。
まるで手当たり次第に効果も考えず罠を敷設してみました、なんてお粗末なことをあの「第七機甲師団」が仕掛けてくるだろうか。
そう考えれば答えは間違いなくノーであるのだが、現状を示す映像は、その答えを否定するかのように散漫で、お粗末な攻撃に終始している。
「確かに……もしや、『第七機甲師団』がトラップを仕掛けたということそのものが嘘だったのでは?」
「そうだったの!? ならわたしたちも急がないと! カグヤさん、メグさん、アヤノさん! Sフィールドで敵のレイドボスを倒さないと──」
雷が轟いたのは、焦りに駆られたユーナが、コンソールに向けてわたわたと身振り手振りを交えながらそんな通信を送った直後のことだった。
宇宙を引き裂くかのようなけたたましい音がフィルムビットを通して聞こえてきたかと思えば、爆発音がさながらパズルゲームのように連鎖して、何が起こっていたのかもわからないダイバーたちの悲鳴が、遅れて広域通信から響き渡る。
『何が起こった!? 状況を報告しろ!』
『わからん、光が押し寄せて──うわああああっ!』
そして、災いを齎す轟雷は波濤となって、宙域付近で自分たちとどうようにまごついていたダイバーたちへと容赦なくその牙を剥く。
「ユーナ、緊急回避!」
「はい、アヤノさん!」
「カグヤ!」
「承知しています、メグ!」
なんとか到達前に散開することで難を逃れることこそできたものの、Wフィールドへと集結していた最前線のフォースはそのことごとくが壊滅しており、初見殺しも何もあったものじゃないと、アヤノはその惨状に思わず溜息をついた。
──初見殺し。
己が呟いていた言葉を反芻するように、半ば反射的にアヤノは再び繰り返す。
確かに、防備が甘いと油断をさせたところに集まった相手に対して何かしらの高エネルギー攻撃を叩き込むのは、奇襲としてこれ以上ないほど有効だろう。
だが、タネがバレてしまえばそれまでの話でもある。
『ハイメガキャノン……違う、ロンメル隊ならビッグガンか!?』
『だが、タネが割れちまえば後は強行突破で何とかなるはずだ! 再チャージにも時間がかかる、今のうちに全力突破を──!?』
奇しくもアヤノが考えていたことと同じ結論に至り、それを行動へと移していたダイバーもいた。
奇跡的に生き残っていた残存戦力を取りまとめ、進撃の号令をかけたガンダム試作1号機フルバーニアンを操るダイバーが、大きく後退したWフィールドの戦線を再び押し上げるべくブーストを噴かした、その瞬間を穿つかのように、「何か」が虚空から飛来し、その背後からコックピットを貫いていく。
「メグ、何が起きてるの!?」
「わかんない! フィルムビットはさっきのでやられちゃったし……でも、ちょっと身体張って偵察してくるから!」
アヤノの問いかけに勇ましくそう答えると、メグはパーフェクトパックの機能をリフレクターモードに切り替えて、同時にミラージュコロイドを展開しながら、禍群の稲妻が降り注ぐWフィールドへと先行する。
『一体何が起きて──ぐあああっ!』
『クソッ、ロンメルの野郎、意地でもWフィールドを抜かせないつもりかよ!? うわあああッ!』
メグはジャマービットからハイパージャマーを起動すると、しばらくは相手のレーダーから逃れられる時間を作り出し、最前線で次々と爆散していくガンプラたちを、注意深く観察する。
おそらくは初撃をBWSのパージで凌いだのであろうリ・ガズィも、その後ろにいたフォースインパルスガンダムも、それぞれ違った方向からの攻撃によってやられていった。
だが、メグの目から見て、それらの攻撃が全く別なものであるとは思えず、むしろ同じ性質を持った弾が何故か別々の方向から飛んできた、と表現した方が正しいという不可思議な事態に、小首を傾げる。
少なくとも、Wフィールドに安全地帯の四文字は存在しないようだ。
後方でまごついていたダイバーもまた、死角からの一撃によって爆散したのを見届けると、メグはすぐさまアヤノたちにその映像を転送して呼びかける。
「気をつけて、アヤノ、カグヤ、ユーナちゃん! そこはもうキリングレンジに入ってる!」
「わかったわ、でも何が飛んで……っ!?」
「わかんない、とにかく速度で振り切るしかない! 足止めたら死ぬかんね!」
ハイパージャマーとミラージュコロイドの残り時間を確認しながらメグはアヤノたちにそう伝えると、飛んできた「全てが違う角度からの弾丸」について思索を巡らせる。
そういう性質の攻撃に関して、メグは心当たりがないというわけではない。
以前に自分のチャンネルで行った、「GBNにおけるギャル系ダイバーによる雑談配信」にゲストとして来てもらったダイバーの中に、超長距離射撃と、そんな「不可視の弾丸」を組み合わせたという常識外れの芸当を行える女性が──フォース「春夏秋冬」の狙撃手にしてマッパーを自称する元ギャルこと「モミジ」がいたことを、メグは思い出す。
その不可視の弾丸の絡繰は何だったのか。必死に頭を捻って、考える。考える。
少なくともそれが到底個人でやれるような芸当ではないにしたって、GBNがゲームであるならどんな攻撃にもタネや仕掛けは必ず存在しているのだ。
理不尽を強いるゲームはただのクソゲーでしかない。
詠み人知らずなそんな格言を脳裏に浮かべながら、思考回路をフル回転させた果てにメグは、ようやく一つの結論に辿り着く。
「──そっか! 跳弾……反射だ! アヤノ、カグヤ、ユーナちゃん! それからこの通信を聞いてる皆! Wフィールド全体にリフレクタービットが仕掛けられてて、多分ビッグガンの出力を絞り込んだヤツを反射してるかもしんない!」
だからどう気をつけて、といえるわけでもないのが、ロンメルが立てた作戦の恐ろしさだった。
メグはとりあえずは生き残った中でもまだWフィールドからSフィールドへの侵入を試みているダイバーたちに向けて全力で警告したものの、この戦域全体が「第七機甲師団」のキリングレンジと化している以上、気をつけられるようなことは何もなく、むしろ自分たちはまんまと誘い出されて鳥籠の中に閉じ込められたのに等しい。
裏の裏は表だが、表通りをガラ空きにしておく者はいない。
メグが狼狽する裏で、その様子を掌握しながらほくそ笑む芦毛のオコジョが獰猛な笑みを口元に浮かべた、そんな気がした。
アヤノはトランザムを起動させると、全周囲を警戒しつつ、まごつき、足を止めている間に撃墜されていくダイバーを尻目にぐいぐいと戦線を押し上げていた。
「そう、安全地帯が存在しないなら、機動力で振り切るしかない──!」
アヤノの言葉は誰に向けたわけでもなく、ただ虚空にぽつりと投げかけられたただの呟きに過ぎなかった。
だが、広域通信を切っている暇もなかった都合上、その言葉は細波のように戦場を伝って、やがて一人の男の元へと辿り着く。
「──そう、よく言ってくれた! そしてよく見破ってくれた、『ビルドフラグメンツ』の諸君! 各機、聞いたな! 足を止めずに……我々『AVALON』はWフィールドをこのまま強行突破する!」
待ちの姿勢に徹していたのは、何もアヤノたちばかりではない。
偵察機を先行させて、同じように「不可視の弾丸」の秘密を探ろうとしていたそのフォース──「第七機甲師団」がランキング第二位であるならば、頂点である第一位に燦然と君臨するフォース「AVALON」を率いる男にして、個人ランキングにおいても第一位の座を不動のものとする男──クジョウ・キョウヤは力強くそう宣言した。
それが進撃の大号令となったかのように、どこから飛んでくるかもわからない不可視の弾丸が狙うWフィールドという鳥籠を打ち破るべく、生き残ったダイバーたちも鬨の声を上げて、全力でブーストを噴かす。
「これが……チャンピオン……」
アヤノは呟いた言葉が届くのを狙ったわけではない。
だが、図らずもクジョウ・キョウヤへと届いたことで彼が打った演説によって、ガタ落ちしていたWフィールドの士気が立て直されていくそのカリスマに、アヤノは驚愕の言葉を呟くのだった。
その男、チャンピオン
Tips:
【モミジ(「二葉ベス」様作「ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ」より)】……マッパーを自称する元ギャルにして13kmスナイプを実現させた、GBNでも指折りの狙撃手の一人。リフレクタービットを利用した跳弾攻撃も得意であり、メグがロンメルの立てた作戦に気付いたのもモミジと以前コラボしたことがあったためである。