ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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ブライダルとときんが引けなかったので初投稿です。


第五十七話「光芒のWフィールド」

『ほう、この絡繰をもう見破るダイバーが出てくるとはね』

 

 Wフィールドに引かれた最終防衛ライン、ビッグガンが戦列を作り上げるその中心に佇んだ赤い頭が目を引くグリモアの改造機──【グリモアレッドベレー】に搭乗するそのオコジョは、関心深そうに呟くと、そっと目を細める。

 トラップというのは、何重にも仕掛けることで本命への意識を散漫にさせ、更に本命はタネがバレていたとしても対処が容易ではないものを用意することで初めて完成するものだ、というのが少なくともロンメルの持論であったし、この、デブリに偽装した巨大リフレクタービットとビッグガンの組み合わせによる「鳥籠の陣」はまさにそれを象徴するかのような作戦だった。

 足を止めれば即座に死角から撃ち抜かれ、更にはリフレクタービットの配置を能動的に変えることで動いている相手に対してもその死角から狙い撃つことが可能になる都合、相当な機動力がなければまず「第七機甲師団」のスナイプを抜けることは叶わない。

 さながら反射衛星砲のように、今もダイバーたちの死角をついて放たれるビッグガンによる精密射撃は、可変機ならばと突撃してきたZガンダムのコックピットを撃ち抜き、射線から位置を割り出し、カウンターの一撃を放とうとしたダインスレイヴ装備のグレイズをテクスチャの塵へと帰せしめる。

 

『さて……強行突破を試みるとはいったが、どう出るか見ものだな、キョウヤ』

 

 宿敵である男の、そしてこのGBNの頂点に君臨するチャンピオンの名を呟いて、ロンメルはリフレクタービットの反射角を調整するように指示を下し、エネルギーチャージが完了したビッグガンから順次発射するように、無言でその手を振り下ろす。

 漫画作品「機動戦士ガンダム サンダーボルト」に登場するその兵器は、エネルギーチャージに莫大な時間がかかるものの、サンダーボルト宙域という特殊な地形に隠れ潜むことで連邦軍に辛酸を舐めさせていたのだが、ロンメルはそれに更なる改良を加え、外付け式のGNドライヴによってエネルギーの供給を更に効率化していた。

 これによって、ビッグガンの欠点である「連射が利かない」というウィークポイントを補いつつ、更に出力を絞り込むことで広域殲滅モードと収束射撃モードへの切り替えを可能とした、GNビッグガンとでも呼ぶべきものは、巨大リフレクタービットと併せて、このWフィールドにおいて絶対的な支配権を確保している。

 だが、何事にも例外というものは存在する。

 

『第一防衛ライン、突破されました! 「AVALON」以下、いくつかのフォースが強行突破を試みているようです!』

『やはり、そう簡単に撃ち抜かれてはくれないか……次弾装填! チャンピオンは私が引き受ける、君たちは引き続き残存戦力への露払いを頼んだぞ』

『サー、イエッサー!』

 

 フォース「ビルドフラグメンツ」のメグが鳥籠の陣の秘密を暴き、チャンピオンが進撃の大号令を発したことによって、連邦軍側の勢力はガタ落ちしていた士気を立て直し、今や「AVALON」を先頭に一つのまとめ上げられた集団としてWフィールドを突破しようと試みている始末だった。

 リフレクタービットの存在を想定よりも早く見破った「メグ」というダイバーのファインプレーもあるのだろうが、「自分たちが切り込む」というその一言だけでガタガタになっていた自軍勢力の気勢を再び取り戻してみせたチャンピオンのカリスマもまた恐るべきものだ。

 

『ビルドフラグメンツか……因果な名前だよ』

 

 ロンメルは先行させたグリモアレッドベレーのコックピットで、かつて辛酸を舐めさせられたフォース……「BUILD DIVERS」とよく似た響きを持つそのフォースの名を誦じて、自嘲するようにふっ、と口元に笑みを湛えた。

 まさか、似たような名前のフォースに二度も辛酸を舐めさせられるのは御免被るといった風情で、追随する何機かの随伴機が鶴翼陣形を乱していないことを確認すると、ロンメルは機体をフェニックスモードに変形させ、相変わらず出鱈目な速度でビッグガンによる狙撃の網を掻い潜るチャンピオンの乗機──【ガンダムAGE IIマグナム】と接敵する。

 

「やってくれたな、大佐!」

『君こそ、あれほど落とした士気を一瞬で立て直すとはね』

 

 ビームサーベルとチェーンソーがぶつかり合い、火花を散らす中で、通信ウィンドウに映ったチャンピオンは額に冷や汗を浮かべながらも、決して動揺することなく、グリモアレッドベレーによる攻撃をいなし、更にはその隙をついて放たれたビッグガンによる狙撃をも、舞い踊るように回避してみせる。

 正直なところ、全方位から飛んでくるかもしれない狙撃を避けることで精一杯だったアヤノにとって、チャンピオンの挙動はまさしく「わけがわからないもの」としか言いようがなかった。

 クロスボーンガンダムXQの機動力で、デブリに偽装したリフレクタービットからの跳弾を回避すると、バタフライ・バスターBをザンバーモードに切り替えて、綾乃はリフレクタービットの一つを両断する。

 

「これじゃあ、焼け石に水ね……!」

 

 とはいえ、何基戦場に設置されたのかわかったものではないリフレクタービットを一基潰しただけでは、呟いた通り焼け石に水、ほとんど無駄だといってもいいだろう。

 だが、それでもやらないよりはいい。

 やった方が遥かにマシだとばかりに、ウイングガンダムゼロ炎から移設したウイングバインダーから炎の翼を噴き出して戦場を駆け抜ける、ユーナのアリスバーニングも、カグヤのロードアストレイオルタもまた、あちこちに敷設されたリフレクタービットを破壊して回る。

 

『リフレクタービット、損耗率三割を超えました!』

『落ち着きたまえ、十二番、十八番、三十二番連動。ビッグガン隊は「ビルドフラグメンツ」に標的を定めて各個撃破せよ』

『はっ!』

 

 最後のトラップとした前線に飛び出したロンメルに代わる形で、濃紺に染め上げられた指揮官用ギラ・ドーガを駆るダイバー……「第七機甲師団」の副官にあたる「クルト」は手短に指示を下すと、「AVALON」をある種囮にする形で、侵攻の道中に、その手土産だとばかりにリフレクタービットを破壊していくアヤノたちを睨みつけた。

 事前に調べていた情報では、人気のG-Tuberが所属する新興のフォースだということぐらいしかわからなかったものの、こうして対峙してみれば、彼女たちはただの配信者ではなく、それなりに鉄火場を潜ってきたのだということがわかる。

 防衛ラインを踏み越えて、ビッグガン隊の元に到達しようと先行していたアヤノとクロスボーンガンダムXQに対して、クルトはビームアックスを展開すると、その真下という死角からの近接戦を試みた。

 

「……殺気!?」

 

 だが、紙一重で上回っていたのはアヤノの方だった。

 武芸者として鍛え上げられた危機感知能力が、あるいは防衛反応がとっさに機体を動かしたことで真下から斬り上げてくるその一撃を躱してみせると、アヤノは両肩のバインダーからソードビットを射出し、クルトに対してのカウンターを試みる。

 しかし、相手はフォースランキング第二位という栄冠を手にしたフォースの副官だ。

 そう簡単に事が運んでくれるなど、最初から思っていなかったが、老獪な動きでソードビットの嵐を回避し、最低限、直撃コースで飛んでくるビットだけをシールドで防いだクルトは、残った部下たちに招集をかけて、ユーナとカグヤをも取り囲むように陣形を立て直し、常に二対一を作り上げるように指示を下す。

 

『良いか、ツーマンセルを崩してはならない。相手は格闘戦に偏重している、常に引き撃ちを心がけておけ』

『サー、イエッサー!』

「……やっぱり、そう簡単には通らせてくれないのね、でも!」

 

 戦場全体を俯瞰してみれば、この戦いで劣勢なのはどう考えても連邦軍チームの方であることに疑いはない。

 ビッグガン隊がリフレクタービットを利用して今も後続のグスタフ・カールやジェガンD型といった機体を撃ち抜き続けている以上、あれを止めなければ勝ち目はないのだが、肝心要の「AVALON」とクジョウ・キョウヤに関してはロンメルが直々に抑えている。

 副官である「エミリア」と「カルナ」も奮闘こそしているものの、「第七機甲師団」が総力で足止めにかかっていることでそのポテンシャルを発揮しているとは言い切れず、それを示すかのように、ビッグガン隊は今も欠けることなく全機揃っての鶴瓶撃ちを続けている始末だった。

 だが、切り札を切っていないのはこちらも同じことだ。

 そろそろだろう、と判断したアヤノはクルトと鍔迫り合いを続けながらもオープンチャンネルを切って、プライベート回線によって、ミラージュコロイドとハイパージャマーで姿を隠し続けていたメグへと通信を送る。

 

「メグ、もう十分でしょう?」

「オッケーだよ、アヤノ! さてさて……それじゃ行っちゃいますか! 忍法、フォトン撒菱の術ってね!」

 

 ちょうどミラージュコロイドとハイパージャマーがタイムリミットを迎えたことで、テクスチャが剥がれるように戦場へと姿を表したメグのG-セルフリッパーは、パーフェクトパックの天面をビッグガン隊に向けると、そこから光の粒とでも呼ぶべきものを射出した。

 ──フォトン・トルピード。

 メグは撒菱などと呼んでいたが、実態はそんなに可愛らしいものではなく、GBNにおいてはゲームバランスの都合上威力がかなり抑えられているものの、原作ではかなり絞り込んだ出力であったとしても、掠めただけで機体が蜂の巣になるような威力を持った武器の名前だ。

 そんな武装のキリングレンジに入っていたことこそが、ビッグガン隊にとっての不幸だったのだろう。

 ふわり、と展開された光の粒は、機体の撃破には至らずとも、ビッグガンの砲身へ、対消滅によって穴を空けることでそのことごとくを無力化してみせる。

 

『なんと……やってくれたな、キョウヤ!』

「いいや、僕は何もしていない。彼女たちが……「ビルドフラグメンツ」が奮闘したからこそ、この結果はもたらされている!」

『まさかこうも……ええい、打ち所が悪いとこんなものか……!』

 

 チャンピオンと、彼が率いるフォースである「AVALON」を警戒することは決して間違っていない。

 ロンメルは忌々しげに奥歯を噛み合わせるが、後悔は先に立つことはなく、そして対峙するクジョウ・キョウヤという男がそう簡単に退いてくれるはずがあるだろうか。

 あるはずがない。少なくとも、鳥籠の陣の絡繰が見破られた時点で、警戒を優先すべきはチャンピオンではなく、あのメグという少女──そして彼女たちが所属する「ビルドフラグメンツ」だったということなのだろう。

 ビッグガン隊が無力化されてしまえば、いかに「第七機甲師団」といえども、その瞬間にWフィールドは連邦軍チームにとっての通り道と化す。

 だが、フォトン・トルピードを防ぐ手立てがビッグガン隊には存在しないのだから、これは戦術レベルでのミスだと認め、ロンメルは膝部のシザークローを展開してキョウヤのAGEⅡマグナムを排除しようと試みるも、それが既に泥縄であることは彼にもわかっていた。

 

「ユーナ、このまま一気にSフィールドまで抜けるわよ! カグヤの手を掴んで!」

「わかりました、アヤノさん!」

 

 ビッグガン隊が無力化されたことを確認すると、アヤノは即座にWフィールドを離脱すべく、チャンピオンがロンメルを押さえている間に、クルトを振り切ってSフィールドへと侵入することを試みる。

 

『こちらとて意地がある……! ここは通さんぞ!』

「ならば、押し通る! トランザム!」

 

 音声認証によってアヤノはトランザムを起動させると、向上した出力と膂力に任せて強引に鍔迫り合いを解き、合流したメグの右手を掴み取って、超高速でWフィールドの最終防衛線を踏み越えていく。

 ビッグガンがもはや使い物にならないと悟った狙撃部隊も慌てて携行火器を装備してアヤノの追撃に当たろうとするが、トランザムと光の翼という爆発的な加速力の前には、放たれた弾丸も追いつくことなど敵わず、クロスボーンガンダムXQは悠々とG-セルフリッパーの手を掴んだ状態で、Sフィールドへと一気に駆け抜けていった。

 

『抜かれたか……この私が判断を誤るとは、認めたくないものだな』

「ふっ……僕を囮に使ったか、だが、悪い気はしないな!」

『ここまで来れば死なば諸共! 君の侵攻だけは阻止させてもらうぞ、キョウヤ!』

「受けて立つ、ロンメル!」

 

 アヤノに続く形で、バーニングバースト・フルブルームを起動したアリスバーニングブルームが、ロードアストレイオルタの手を引いてSフィールドへと侵入していくのを一瞥すると、ロンメルは自嘲するように笑って、キョウヤが操るAGEⅡマグナムに怒涛の攻撃を繰り出していく。

 Sフィールドにはレイドボス「ドロス」と、そしてレイドボス級の強さを持つNPDであるジオングが配置されているため、突破されたとしても攻略にはそこそこ手間がかかるようになっているのだが、それでも所詮NPDはNPDだ。

 AIの中に、ダイバーのそれと違って機械的で予測しやすい「隙」が差し込まれる以上、落とされるのはもはや時間の問題だといってもいい。

 偵察隊からの情報によれば、Eフィールドにおいてはまだ乱戦が続いているものの、もう既に何人かのダイバーたちは戦線を突破してSフィールドに到達した、という報告をロンメルは受け取っており、やはり己の判断ミスが招いた事態だと、溜め息混じりに自嘲した。

 だが、ミスを悔やむ暇があったならば、戦場で今できることを全力で探すのが兵士としての最大の任務だ。

 ジオン側の敗北条件である、「ドロワ」と「ドロス」の轟沈及び宇宙要塞ア・バオア・クーの攻略。

 それを満たさせないために今自分が打てる最善の手は、このクジョウ・キョウヤをWフィールドに押し留めて、どんな手を使ってでもSフィールドへと行かせないことに他ならない。

 シザークローによる奇襲も見抜いたとばかりに最小限の動きで回避運動を取るAGEⅡマグナムが、カウンターとして放ってきたシグルシールドによる斬撃をプラズマナイフで受け止めながら、ロンメルはこめかみにじわり、と脂汗を滲ませる。

 偵察隊からの報告では、Nフィールドは既に陥落寸前であり、「ドロワ」が落ちるのも時間の問題だった。

 そして、ビッグガン隊による反射狙撃がなくなったと知るや否や、Eフィールドという鉄火場を避けて通りたいダイバーたちが次々と、怒涛の勢いでWフィールドへと押し寄せてくる。

 

『聞いたか!? Wフィールドのトラップが破られたってよ!』

『さすがはチャンプだぜ! 悪いけどタダ乗りさせてもらうからな!』

『サンキュー、チャンプ! フォーエバー、キョウヤ!』

 

 原作通りに配置されたNPDも少なく、防衛の主力を「第七機甲師団」に依存していたこともあって、押し寄せてくる無数のダイバーたちを止めることはもはや不可能だといってもよかった。

 残存するビッグガンとリフレクタービットを駆使して、生き残ったビッグガン隊が反射弾による狙撃を試みるが、あれは数があってこそ成立するものであり、メグによってそのほとんどが無力化された今では、雀の涙程度の効力しか残されていない。

 ダイバーたちは口々にチャンプを讃えていたものの、この戦いで真に称賛されるべきは「ビルドフラグメンツ」だろうと、刃を交わし合いながら、キョウヤとロンメルは一様に苦笑を浮かべた。

 だがきっと、彼女たちはそんな名声には興味がないのだろう。

 一直線にSフィールドの攻略に向かい、もはや見えなくなった背中を見送るように、キョウヤは光芒が閃くSフィールドを一瞥した。

 

『よそ見をする余裕があるのかね?』

「これは失礼……僕もチャンピオンとしての意地がある、祭りに乗り遅れるわけにはいかないからね! 押し通る!」

『私とてそれは同じこと! 押し留める!』

 

 さながら、第十四回フォースバトルトーナメントを再現するかのように二人は咆哮し、AGEⅡマグナムとグリモアレッドベレーは、漆黒の宇宙に新たな星座を刻むかのような軌道を描き、激突するのだった。




刃を擦り抜け間隙を突け
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