ガンダムビルドダイバーズ ブレイヴガールフラグメント   作:守次 奏

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例の奴らが再び現れるので初投稿です。


第六十話「因縁、再び」

 シーズンレイドバトルを勝利で締め括ったのは、アヤノたちも所属している地球連邦軍チームだった。

 原作通りに迎えたその結末を受け入れるダイバーもいれば、再起戦を誓うダイバーもいて、十人十色といった風情でセントラル・ロビーはどことなくそわそわと、浮き足立った様子だった。

 中でもチャンピオンであるクジョウ・キョウヤが率いる「AVALON」はWフィールドにおける戦線の立て直しに尽力した立役者として、GBNジャーナルの取材陣に囲まれていたり、あと一歩及ばなかったとはいえ、奇策を用いて数多くのダイバーを屠ったロンメルの元には悔し涙を浮かべる隊員たちが集っていたりと、お祭り騒ぎのような様相を呈している。

 

「レイドバトルって、前に参加したのだと、なんていうか……こんな感じじゃなかったけど、やっぱりシーズンレイドってことは特別なのかなぁ」

 

 ユーナはその様子を茫洋と眺めながら、どこか感心したようにそんなことを呟いた。

 

「そうね、参加人数も桁違いだから」

 

 アヤノもまた、ユーナの言葉に同意を示しつつ、そっと差し伸べられた掌を包み込むように握って、悲喜交々といった様子のロビーを一望する。

 実際、ユーナの言っていることは間違っていない。

 シーズンの締め括りとして企画されたこのPvPレイドはイベントとしては極めて特殊な性質に分類され、ガンダム作品の中でも様々なシチュエーションを再現したものから、GBN全体とはいわずとも、広いエリアで展開されるオリジナルのものまで幅広く取り揃えられているため、復刻のスパンが極めて遠いのだ。

 だからこそ、ほとんど一度きりに近いその戦いにダイバーたちは死力を尽くす。

 勝利陣営などどうでもいいとばかりにいがみ合っている、狼のような獣人タイプのアバターに身を包んだダイバー「タイガーウルフ」と、彼の言葉に対して煽りを交えて皮肉で返す、狐耳と尻尾というダイバールックの「シャフリヤール」が口論をしながら通りすがっていくのを横目に、アヤノはユーナの手を握ったまま、開いた左手でコンソールを操作して、勝利によって手にしたものを確認した。

 

「生存ボーナス、フィニッシャーボーナス、称号、BC……なるほど、実利の面でも大分美味しいイベントなのね」

 

 シーズンレイドにはPvP要素が挟まれていたとしても、基幹的なシステムはレイドバトルのそれに準じており、極論、参加したのがまだまだ始めたての初心者であったとしても、逃げ回って生き残っているだけでダイバーポイントやビルドコインといった副産物が手に入るため、攻略・検証班からも旨味が多いイベントとして、シーズンレイドバトルへの参加は推奨されている。

 称号に関してはプロフィールカードに設定できる、単なるフレーバー要素でしかないものの、それでも何か特殊な条件をアンロックして手に入ったというのは、それだけで魅力的なものなのだ。

 アヤノは自分のストレージに格納されている称号を新着順に並び替えて、「光芒を見届けし者」「長き一年の終わり」「レイドボスキラー」といった各種称号をタップしてはまた格納するということを繰り返す。

 

「アヤノさん、何見てたんですか?」

「ん……獲得した称号とか報酬ね。ユーナも見てみたかしら?」

「称号……おお、本当だ! お金も増えてる! すごい!」

「……なんというか貴女のその明るさは羨ましくなるわね」

 

 アヤノに促されるまま、ストレージを開いて報酬の類を確認していたユーナは、大幅に加算されていたビルドコインと、アヤノが獲得していたのと同じような称号の一覧を見て、きらきらと桜色の瞳を輝かせる。

 

「その様子だと、ユーナちゃんもアヤノもシーズンレイドは初めてな感じ?」

 

 ひーふーみー、とビルドコインの桁を数えているユーナを、アヤノがどこか小動物を見守るような視線で見つめていると、やってきたのはカグヤをその半歩後ろに連れたメグだった。

 

「ええ、まあ。貴女は参加したことがあるの?」

「もち! って言いたいけど、アタシも一回ぐらいだなー、前のシーズンレイドなんか何もできずにやられちゃったし」

 

 やっぱ人間欲張ったらダメだよね、と、過去の失敗を自嘲しながらもあっけらかんと笑い飛ばすメグも、今回の結果には満更ではないらしく、どことなくテンションが上がっているような、地に足がついていないような感じがして、アヤノはリアルで見た彼女の姿との乖離に、目を丸くしてしまいそうになるが、ここはあくまでGBNだ。

 例えリアルがどんな人物であったとしても、GBNで彼女が「メグ」として振る舞い続ける限り、尊重されるべきはこの世界におけるメグの方であり、それとリアルは切り離して考えなければならないのだ。

 

「拙も、得られるものは多かったと心得ています。何よりあれだけ多くの猛者を相手取るとなると、それこそまたヴァルガにでも赴かない限りは不可能でしょうから」

「あっはは、カグヤらしいね」

「もう、からかわないでください、メグ」

 

 愉快げに笑うメグに対して、カグヤはその頬を桜色に染め上げながら小さく唇を尖らせる。

 アヤノたちの突破口を開くために、まさしく獅子奮迅といった風情の活躍を見せていたカグヤだったが、元々「武」を追求するという意味では彼女にとって逆境こそ燃え上がるところがあるのだろう。

 何よりもそれだけの数を相手にしてへし折れることも綻ぶこともなく、多くの敵をなます斬りにしてきた「無銘朧月」の仕上がりもまずは上々なようだった。

 自分たちで作り上げた刀がカグヤにとって良い得物となってくれたというのは、アヤノにとってもユーナにとっても感慨深いものがある。

 積層自体は面倒であっても単純な作業だったのに対して、さながら型抜きのように緻密な掘削をしなければならない鍔の部分を加工していた時のことを思い返しながら、アヤノはふっ、と口元が緩んでいくのを感じる。

 何にせよ、「星一号作戦」を再現したシーズンレイドバトルは泣いても笑ってもこれで終わりであり、次のシーズンを締め括る際にはまた別な舞台が抽選されるのだろう。

 その時までに自分たちは何をして、どれだけ上に行くことができるのか。

 戦いの功労者としてチャンピオンやロンメルからその名前を呼んでもらったことは光栄だとしても、メグがロンメルの作戦を見破れたのは偶然に近く、また、GBNジャーナルが取材に向かった通り、ガタガタになっていたWフィールドの士気を立て直したのはチャンプの大号令があったからこそだ。

 事実、今の「ビルドフラグメンツ」と「第七機甲師団」が正面からぶつかり合ったところで、万に一つも自分たちの勝ち目がないことは、アヤノたちも理解しているところだった。

 

「そんじゃ、何する? とりあえずまた打ち上げにカラオケでも行く?」

「いいですね、メグさん! よーし、それじゃ皆で……」

「俺たちと踊る、ってのはどうだい? ユーナちゃん」

 

 影が差し込んだのは、心機一転、まずはリフレッシュを図ろうとメグが提案したいつもの打ち上げに乗り込もうとしたその瞬間のことだ。

 ユーナの発言を遮るように、神経を逆撫でするような声音が、棘の含まれている挑発めいた言葉が、「ビルドフラグメンツ」の耳朶に触れる。

 声がした方に振り返れば、ファーのついたレザージャケットにレザーパンツという、威圧的な格好をしたダイバーがぱちぱちとやる気なさそうに手を叩きながら、自分たちに冷ややかな視線を向けている姿がある。

 アヤノは小さく舌打ちをした。

 その姿を、銀髪と赤い瞳という出で立ちを忘れろと言われたとしても、忘れることはできないからだ。

 

「久しぶりだねぇ、アヤノちゃん。ユーナちゃん、カグヤ、そしてメグ。まさかGBNに復帰してるなんて思わなかったよ。ファンとしちゃあ感涙ものだな? ハハッ」

 

 ──ヴィラノ・ディヴィッド。

 このGBNでも上位に位置するSSランカーにして、「鏖殺の暴君」という二つ名で呼ばれる彼の本性は、その冷笑に違わず残忍で狡猾なものだ。

 フォース「グランヴォルカ」の三人を従えて自分たちを睨め付けるヴィラノの視線には少なからず驚きや不快感が混じっていたものの、基本的にはどこまでもこちらを見下して嘲笑うものであることに変わりはない。

 

「白々しい! 大体アタシたちに何の用があって来たわけ!?」

 

 それが挑発であるとわかっていたとしても、一方的にファンを辞めた、という趣旨の捨て台詞を残しておきながら、「ファンである」として詰め寄ってくるヴィラノの態度には腹に据えかねるものがあったようで、珍しく語気を強めて、メグは冷笑を浮かべる彼に問いかける。

 

「おいおい、がっつくなよ。思春期か? ハハッ、そういうのは嫌いじゃないぜ、若いってのはいつだっていいことだ。傍目から見てる分にはこれ以上なく面白いからな、ハハハハ!」

「……ふざけてないで、質問に答えなさい」

 

 怒りに駆られたメグを制するように歩み出て、アヤノはその表情にありったけの不快感を滲ませながら、再び、勝手に悦に入っているヴィラノへと答えを促す。

 

「まあ落ち着けよ、アヤノちゃん? 用件なら先に言った通りだぜ?」

「つまり?」

「鈍いねぇ……ま、要するにアレだ、俺たちと再戦してもらいたいんだよ、生憎シーズンレイドじゃ同じチームだったもんでね、そっちとしてもフラストレーション、溜まってるんじゃないか?」

 

 ヴィラノの提案は極めてシンプルなものだ。

 再戦。いつかは「グランヴォルカ」に対してリベンジをしなければなないとはわかっていたものの、こんなにも早くその機会が訪れたことにアヤノは掌で運命の賽を弄ぶ女神様の気紛れを感じながらも、臆することなく彼を見据えて言い放つ。

 

「少なくとも、それは私だけの判断では決めかねるわ。ユーナとカグヤ、メグの三人が同意しなければ」

「おいおい、つれないな? まあそれもそうか、手酷く負けた相手とはまたやり合いたくはないだろうからな?」

「なんとでも言いなさい、とにかく私たちは──」

「なら、俺たちが負けたら──このGBNから出ていくってルールはどうだい、ユーナちゃん?」

 

 頑なな態度を崩さないアヤノでは話にならないと踏んだのか、ヴィラノはあっさりと視線を外すと、両肩を竦めてユーナへとその提案を持ちかけた。

 負けたらGBNから出ていく。

 どこまで本気かはわからないにしても、そんな条件を持ち出す辺り、「潰し屋」としてビルドフラグメンツを潰しきれなかったことが相当腹に据えかねているのだろう。

 ならば、余計にその話に乗ってやる必要はないと、アヤノがその返事を蹴りつけようとした瞬間だった。

 

「その話、本当ですか」

「ユーナ」

「大丈夫、アヤノさん。わたし、怒ってたりするわけじゃないから」

 

 ユーナの凛とした声が、アヤノの耳朶を震わせる。

 前は怒りと焦りに駆られて彼らの挑発に乗ってしまったものの、今は違うとばかりに制止するアヤノを振り切って、ユーナは一歩前に踏み出すと、ヴィラノへと真っ直ぐに視線を向けて確認した。

 

「ああ、本当さ──ただし、このルールを受けてもらうなら、対価もまた同等じゃなきゃいけないけどな?」

「対価……?」

「要するにお互いのフォースの進退をかけてバトルしようじゃないか、ってことさ、ユーナちゃん」

 

 ビルドフラグメンツが勝利すれば、グランヴォルカは約束通りに解散した上でGBNから完全に去って二度とログインしない。

 ただし、ビルドフラグメンツが敗北した場合その構図は逆になる。

 ヴィラノが提案しているのは、つまりはそういうことだった。

 もう二度とGBNが出来なくなる、という可能性を考えれば、卑怯だの臆病だのと罵られようと、はっきりいってこの勝負を引き受けるメリットは皆無に等しい。

 むしろ二度と関わり合いにならないように徹底的に無視を続けることが、この場における正解なのだろう。

 アヤノにもそれはわかっていて、ユーナもまた、突きつけられた敗北条件の理不尽さと重さに思わず固唾を呑んでいたが、そんな二人を嘲笑うかのようにヴィラノは両肩を竦めたまま、見下すような視線を無遠慮に向けていた。

 

「別に俺としちゃ蹴ってくれても構わないんだぜ? その分ちょっとばかり寂しくなっちまうけどな?」

 

 だが、それはこの男を、ヴィラノ・ディヴィッドというダイバーをGBNの中で野放しにしておくことに等しい。

 例えもう自分たちに絡んでくることがなくなったとしても、ヴィラノたちは「潰し屋」稼業を辞めないだろう。

 そして、他人が頑張っている姿を嘲笑い、全力で楽しもうとする姿勢を暴力で踏みにじり、冷笑と侮蔑と共にこの世界に君臨し続ける。

 いってしまえばアヤノたちとグランヴォルカの間に縁が生まれたのは一種の事故のようなもので、関わり合いにならないという選択肢を取ることは決して間違ってはいない。

 それでも──

 ユーナは胸元で拳をきつく握りしめ、視線でアヤノへ、カグヤへ、そしてメグへと問いかける。

 それでも、こいつらを野放しにしていていいのか。

 因縁に精算をつけるだけではない。このまま放っておけば、第二、第三の自分たちが生まれ続けて、その中には心を完全にへし折られて、立ち上がらなくなったダイバーだって出てくるはずだ。

 だからこそユーナは、桜色の瞳に涙を湛えながらも、「ビルドフラグメンツ」のリーダーとして、アヤノたちに言葉はなくともそう問いかけたのだ。

 

「……そうね、ユーナ。貴女が考えている通りだわ」

「拙も……この戦いに異論はありません」

「……ま、ここまで来たらやるしかないっしょ」

 

 例えそれが義務でなくとも、義理がなくとも、ここで「グランヴォルカ」を止めることができる可能性があるなら、それに賭けてしまいたくなるのがユーナの本質とでも呼ぶべきものだ。

 そしてそれは、自分たちも概ね変わっていない。

 見て見ぬ振りをしない、という行為がただ馬鹿を見るだけに終わってしまっても、もう二度とこの世界を歩むことができなくなったとしても、誰かの楽しみを踏みにじり、誰かの努力に唾を吐きかけるような真似をするような連中を野放しにはできない、というのが、ビルドフラグメンツとしての総意だった。

 

「……わかりました、あなたたちとの勝負、もう一回受けます! だけど……だけど、約束してください! わたしたちが勝ったら、もう二度とこんな真似はしないって! 誰かが頑張ってるところを、楽しんでるところを笑ったりしないって!」

 

 ユーナは人差し指を白手袋の代わりに突きつけると、侮蔑が滲むヴィラノの瞳を覗き込んで、毅然とそう言い放つ。

 

「おいおい、心配するなよ。負けたらちゃんと俺たちはGBNから出て行ってやるんだ、いなけりゃそんな心配もないだろ? ハハッ!」

「……わたし、あなたのそういうところが大嫌いです!」

「いいねぇ、侮蔑は鮮やかに交わし合ってこそだ。それじゃあ早速と意気込みたいが、今日はレイドバトルでお疲れだろ? 明日セントラル・ロビーで待ってるぜ、勇気ある子猫ちゃんたち」

 

 ──もっともそれって、人が蛮勇って呼ぶものかもしれないけどな。

 最後まで侮蔑を投げかけることを忘れずに、ヴィラノは一言も発することなく彼の後ろに控えていたムーンたちを引き連れて、雑踏へと消えていく。

 

「……ごめんなさい、アヤノさん、カグヤさん、メグさん。わたし、どうしても放っておけなくて」

「大丈夫よ、ユーナ。私たちも同じだから」

「ええ、その通りです。彼らを野放しにしていれば、理不尽にこの世界を追い出されるかもしれない方が増える……それは避けるべきことです」

「それに、あいつらに勝つため頑張って来たんっしょ? それなら……勝つしかないっしょ、ユーナちゃん」

 

 戦う前から負けることを考えていたら、戦いにはならない。

 再起戦の相手となった「度胸ブラザーズ」がその信条として掲げているように、いつの日かアヤノが与一から受け取った言葉の通りに、最初から絶望しては何も生まれることはないと、アヤノたちは未来の可能性を恐れて震えるユーナを抱きとめるように、激励の言葉をそっと投げかける。

 

「……アヤノさん、皆……うん、そうだよね! わたしたち、絶対に……絶対に、勝つんだから!」

 

 例えそれが復讐のような形になってしまったとしても。誰かのためだと正義を掲げたところで後ろ指を刺されて笑われようとも。

 この戦いは、自分たちが始めたことなのだから。

 拳を固めて意気込みを露わにするユーナに続いて、アヤノも静かに頷くと、来るべき因縁の精算へと向けて、ヴィラノたちが溶け込んでいった雑踏を、静かに一瞥するのだった。




光明は進路にのみ
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